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【考察・検証】『アイズ ワイド シャット』の儀式・乱交シーンについてのスタッフの証言集[その3]撮影しながら性行為の振り付けをする・R指定騒動

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トム・クルーズの窮地を救った謎の美女。演じたのはアビゲイル・グッドというモデルの女性で、声はケイト・ブランシェットが担当した 謎の美女の声を担当したケイト・ブランシェット。キャステングはキューブリックの逝去後だったため、レオン・ヴィタリが行った アメリカではR指定を得るためにデジタル修正された乱交シーン。日本ではオリジナルのままで公開された ●撮影しながら性行為の振り付けをする レオン・ヴィタリ (キューブリックのアシスタント) : 乱交シーンでスタンリーはあることをしたかった。『時計じかけのオレンジ』へのオマージュのようなことをだ。男が手と膝をついて、女が男の背中にいて、後ろからさらに別の男にファックされているというものだ。撮影中に振り付けした。スタンリーが突然思いついたからだ。簡単なものではなかった。誰もポルノ俳優じゃない。彼らはモデルとダンサーだ。そして根性があった。 ジュリエンヌ・デイビス(マンディ役) : スタッフが来てこう言ったんです。「計画の変更があった」って。これからはTバックを身に付けないこと、そして男たちは股間の上のカップを除いて完全に裸になること。私ともう一人の女性は参加しないことにしました。他の女の人たちに「もしこれをやるなら、完全に話は違ってくるわよ。私があなたならギャラの増額を要求するわ」と言いました。 アビゲイル・グッド(謎の美女役) :スタッフはこう言うだけです。「そう。腰をかがめて。あれみたいに。そこに寝て。そうあれみたいに。」って。仮面を付けてるから誰にも自分のことはわからないし、匿名性は保たれ、友達家族に言わなければ、誰にも自分がしたことはバレないけど、簡単なことではなかったわね。 ヨランデ・スナイス (振付師) :乱交シーンの振り付けを始めた時には、会社の仕事もあったの。最初はそこまで振り付けが必要とは思わなかったけど、それは間違いだった。シーンを見てみたら、スタジオでのリハーサルがシーンの撮影に影響されていることがわかりました。カウチ、ベッド、アームチェアー、私たちが家具の周りでした2、3、4人組の振り付けの全てがそこにありました。エロチックだけれど、本物の性交は行われていません。 レオン・ヴィタリ :冒涜的であり優美なことだと思う。テーブルの上で優美なポーズをする、そして同時に不快なことも起こっているという。スタンリーは限...

【ブログ記事】スー・リオンが『ロリータ』撮影後の1963年10月28日にキューブリックに宛てた手紙

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1963年10月28日 ミスマロヤ 親愛なるスタンリー  あなたのことを気にしているということを伝えたくて、この手紙を書きました。あまりに長い時が経って、まるでもうお互い会わないことにしたみたい。でも言わせて。あなたは一年に一本の映画を作るのだから、ぜひぜひ次の映画に出させてください。  今、私演技の勉強をしてるの。知っていた?どうか反対なさらないで。ハリウッドでエリック・モリスという演技指導の中でも特に有名な人の元で、とても楽しく学んでいます。私がジョン・ヒューストンと映画を作っているのはすでにご存じでしょう。もちろん『ロリータ』の時みたいな撮影とは違うけれど、みんな親切で撮影は順調です。『博士の異常な愛情』を見るのを躊躇してます。どうかあなたの住所を送ってください。私、あなたの住所知らないの。この手紙を読んだら、ぜひ送ってね。  クリスティアーヌさんとお子さんたちの健康を祈って。アメリカに帰る予定はあるかしら?お返事お待ちしています。 愛をこめて、スー  実に少女らしい手紙ですが、それもそのはず、この時スーは17歳でした。文章中にある「ジョン・ヒューストンの映画」とは1964年の映画『イグアナの夜』(メキシコのミスマロヤでロケが行われた)のことですが、撮影に母親とボーイフレンド(後に結婚するハンプトン・ファンチャー)と同伴していたため、手紙の内容とは裏腹に共演者とはトラブルが絶えなかったそうです。それに比べれば『ロリータ』の撮影は(彼女にとっては)順調だったのでしょう。そんな理由から「ぜひ次の映画に出させてください」などという殊勝な手紙を書いたのかも知れませんね。  スーの詳しい経歴は こちらの記事 に譲るとして、後のインタビューでスーは「私の人格崩壊はこの映画(『ロリータ』)から始まった」と語っています。しかしその後『ロリータ』のビデオ化で大金が舞い込んだのか、1994年に再び感謝の手紙をキューブリックに送っています。おそらくこの頃のラドマン氏との結婚生活が一番充実していたのではないでしょうか。ですがそれも2002年になって破局、結局独り身のまま健康悪化により2019年12月26日に死去してしまいました。  スーの不幸な生い立ちを考えれば、彼女の「破滅型人生」は避けられなかったのかも知れません。しかもショー・ビジネスの世界がそれを更に加速させてしまった面はある...

【関連動画】1970年のアメリカ海兵隊新兵訓練基地パリス・アイランドを紹介した貴重な動画『これがパリス・アイランドだ!(This is Parris Island)』

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  アメリカ海兵隊制作の新兵勧誘広報映画『これがパリス・アイランドだ!(This is Parris Island)』がYouTubeにありましたのでご紹介。  『フルメタル・ジャケット』は1968年のテト攻勢が描かれていますので、パリス・アイランドでの訓練シーンはそれより前の1967年頃の設定だと思います。ですので、この動画とは3年のズレがありますが、だいたい同じような雰囲気だったのではないでしょうか。  キューブリックがこの広報映画を観たか否かは証言がありませんので不明ですが、訓練シーンなどは映画で描かれた風景とそっくりです。特に4:17からのバリカンで頭を刈るシーンは印象的ですので、『フルメタル・ジャケット』のオープニング・シークエンスはこれにインスパイアされたもの(原作には登場せず)かもしれませんね。

【考察・検証】『アイズ ワイド シャット』の儀式・乱交シーンについてのスタッフの証言集[その2]さらに本物に近くなる乱交シーン

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映画で使用された仮面はベネチアで調達された 舞踏会や儀式のシーンが撮影された「エルベデン・ホール」 乱交シーンは『ダウントン・アビー』で有名になったハイクレア城の応接室で撮影された ●さらに本物に近くなる乱交シーン ヨランデ・スナイス (振付師) :スタンリーの乱交シーンのビジョンは、後に本当の乱交シーンのようになっていったと思います。問題はそれをするために、さらに追加のお金を払わねばならないことと、何人かはそれをしたくなかったことです。 アビゲイル・グッド(謎の美女役) :レオンはある時カーマ・スートラからの挿絵をたくさん持って来て、「スタンリー、この絵からインスピレーション得られるかい?」って聞いていたの。私たちは「こんなことのためにこの仕事を受けたわけじゃない」と思うようになっていました。でもその頃にはお互いのことをよく知ってたから、どんどん性的になっていくのも驚かなくなっていたわ。 ヨランデ・スナイス :スタンリーはイタリアの仮面のコレクションを持っていました。「コンメディア・デッラルテ」のマスクです。私を家に呼んで一番印象に残るものを選ばされました。共同作業だけど、 自分が乱交シーンをもっと明確にするのためのスタンリーの美術アシスタントになった感じがしました。数週後には儀式や仮面舞踏会、そして外套を脱ぐ儀式について話てくれました。 いろんな儀式の形態を試した。線、道、歩き、境界や祭壇への行列などなど。ある時点で、スタンリーは円がベストだということに気付きました。それが決まってからは彼とレオン、プロダクション・デザイナーと共に見合ったロケーションを探しました。最終的に巨大な会場を使うことになりました。 レオン・ヴィタリ (キューブリックのアシスタント) :エルベデンはギネス家によって所有されていた家だった。マハラジャによって1800年代に建てられ、廊下には手彫りの大理石が使用されていた。建築した時は建築資材を運び込むのに線路を作った。戦争中は秘密の司令部として使われた。何とも奇抜な建物だった。別に使用した家はツタンカーメンの墓を発見した男が所有していた。大規模な美術館がその地下にあった。 トッド・フィールド (ニック・ナイチンゲール役) :  仮面舞踏会のシーンはエルベデン・ホールで撮影された。最初に入った時、音楽用の機材以外は何もなかった。キーボードの前に...

【考察・検証】「シャイニング・カーペット」の柄の意味を考察する

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ダニーを取り囲むように蜂の巣のデザインが施された「シャイニング・カーペット」 次のカットではセットで撮影されていて、明らかにカーペットのサイズや向きが違う。キューブリックはこのカットの矛盾を承知の上で上記映像をわざわざ別の場所で撮影している。  『シャイニング』の舞台であるオーバールック・ホテルの内装はマジェスティック・ヨセミテホテル(旧アワニー・ホテル)を参考にデザインされましたが、必ずしも「完全コピー」ではありませんでした。その最たるものが廊下に敷き詰められた、一般的に「シャイニング・カーペット」と呼ばれる六角形の柄をあしらったカーペットです。これはオリジナルデザインではなく、インテリアデザイナー、デービッド・ヒックスがデザインした「ヒックス・ヘキサゴン」という柄を無断でコピー(剽窃)したものであることは この記事 でご説明しましたが、このようにキューブリックが意図的に改変したものは、何がしかの意味や意図を込めたのでは?と疑ってみるのがキューブリック作品を考察する上での常道と言っていいでしょう。  ではまず、なぜ六角形なのか?という点ですが、これはご紹介した上記記事では、以下のような指摘がなされています。 ・色彩が幻想的で鮮やかな印象のため、何かの前兆の印象を与えるから ・このグラフィックパターンは、キューブリックが用いる「シンメトリーな一点透視」に効果的で、ドラマチックな視覚感覚と廊下の延長効果をもたらすから ・ヘックス(六角形)の意味は「呪いまたは悪意のある願い」であり、したがってホテル内の邪悪を象徴するから ・カーペットの六角形をキューブリックが好むチェスと戦争ボードゲームのマス目に結びつけることができるから ・六角形の「六」が「シャイン(輝き)」という第六感を象徴するため どれもありそうな指摘ですが、管理人はどの指摘も見逃している重要な点があると考えます。それは「色」です。この赤やオレンジや茶色を配したカラーリングは、ベースになったヒックス・ヘキサゴンにはありません。これはキューブリックが指示してこのカラーリングにしたと考えるべきです。  そして、この黄色・オレンジ・茶色の配色と六角形のパターンを見ていて気づくことがあります。それは原作小説に登場する「蜂の巣」です。屋根裏からジャックが見つけた蜂の巣をダニーに見せたところ、死んでいるはずの蜂がなぜか生き返...

【考察・検証】『アイズ ワイド シャット』の儀式・乱交シーンについてのスタッフの証言集[その1]儀式シーンのリサーチについて

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「イルミナティ」「フリーメイソン」など何かと陰謀論の的になる『アイズ ワイド シャット』の儀式シーン。  ●儀式シーンのリサーチについて ブライアン・クック(助監督) :私はスタンリーによく言ったんだ。「エイドリアン・ラインかトニー・スコット監督を呼んでこのシーンを撮るべきだ。彼らなら撮り方を知ってるよ、スタンリー。でも君は違う!」ってね。それでよく笑いあったものさ。でもね、乱交シーンの撮影日は押しに押したんだ。スタンリーは全然撮ろうという意欲がなかったんだ。ここだけの話、彼の得意分野じゃなかった。複雑で、撮る場所を決めるのも難しかった。しかし、そのためにたくさんのリサーチをした。 アンソニー・フリューイン (キューブリックのアシスタント) :G・レグマンという南フランスに住む友人がいた。彼は我々にシュニッツラーの頃のウィーンの秘密結社と性の慣行について多くの情報をくれた。秘密結社の儀式と黒ミサについてのイラストも送ってくれたね、主に19世紀のものを。沢山の儀式のイラストを集めた。現代のものから古代のものまで。レグマンはフェリシアン・ロップスというとても有名ないろんな種類の春画に長けたアーティストを推薦してくれた。 ブライアン・クック :ニコールが海兵といちゃつくシーンでは、焼き増しの写真を使って、彼女にシーンに何を望んでいるか聞いたんだ。「どういう風にしたい?」って。 彼女は(訳者注:写真を見ながら)「いいえ。絶対だめ。これなら。そう。ダメ。それならOK。」 て答えてくれた。 レオン・ヴィタリ (キューブリックのアシスタント) :私たちは超えることのできない障害を探してたんだ。ソフトコア・ポルノや『レッド・シューズ・ダイアリー』を見た。どれだけのものを映画で見せられるかを知るためにね。そしてもちろん、シーンに喜んで出てくれる人を探さなきゃならなかった。全てのモデル事務所とダンス教室を当たったよ。問題は彼らが完全に自然でなければならなかったことだ。ボトックス(注射)、豊胸手術は絶対ダメ。これは全ての事務所に明確に伝えた。でも何回か事務所に豊胸手術を受けさせることに同意したこともあった。 ヨランデ・スナイスのダンス会社にも連絡をとった。彼らを何ヶ月も週に1、2回呼んでビデオに撮り、いろんなことを試した。 ヨランデ・スナイス (振付師) :モデルたちと多くの時間...

【関連記事】IMDbのユーザー投票によるキューブリック作品ベスト10

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The Shining(IMDb)   映画ファンにはおなじみ、映画のデーターベースサイト「IMDb(インターネット・ムービー・データベース)」のユーザー投票機能(10点満点)による結果でランクづけした、キューブリック作品のベスト10です。 10位:ロリータ(7.6) 9位:スパルタカス(7.7) 8位:現金に体を張れ(8.0) 7位:バリー・リンドン(8.1) 6位:2001年宇宙の旅(8.3) 5位:フルメタル・ジャケット(8.3) 4位:時計じかけのオレンジ(8.3) 3位:突撃(8.4) 2位:博士の異常な愛情(8.4) 1位:シャイニング(8.4) (引用元: SCREEN RANT/2019年11月6日 )  記事によると1位の『シャイニング』は、『博士…』と『突撃』を合わせた投票数よりも多くてこのポイントなので、キューブリック作品でダントツ1位と言っていいそうです。海外での『突撃』の評価は相変わらず高いですが、投票数が少ないので高めに出ている気がしますね。日本人的には『2001年…』が低すぎると思いますが、『博士…』『時計…』『フルメタル…』『2001年…』まで0.1ポイント差なので誤差の範疇と言っていいのかも知れません。『突撃』以外の上位5作が人気作と言っていいでしょう。  ところでこのIMDb、ずいぶん昔からあるなぁと思って調べて見たら設立は1990年なんですね。世界でもっとも古参のネットサービスになるのではないでしょうか。管理人が知ったのはこのブログの前身のホームページ時代で、おそらく1998年だったと思います。その頃はまだwikipediaもgoogleも存在していなかったので、貴重な情報源として活用させていただいていた記憶があります。まさかその一年後にキューブリックが亡くなるとは思ってもいませんでしたが。  同様の記事で以前、ロッテントマトのトマトメーターを元にランクづけした記事も こちら ご紹介しましたので合わせてどうぞ。

【考察・検証】『シャイニング』の小説から映画版への改変部分を検証し、キューブリックとスティーブン・キングのストーリーメイクに対する考え方の違いを考察する

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テキストは1986年発刊、深町眞里子訳の文藝春秋版を使用 第一部 その日まで [1-1]雇用面接 小説:ジャックがアルマンの面接を受ける 映画:アルマンのキャラを改変し採用 [1-2]ボールダー 小説:自宅でジャックの面接の結果を待つウェンディとダニー 映画:エピソードをカットしつつも採用 [1-3]ワトスン 小説:ワトスンがホテルの地下室にあるボイラーなどの設備をジャックに説明 映画:カット [1-4]影の国 小説:ジャックが帰宅。ダニーがホテルに不気味な影を予感する 映画:トイレでのトニーとの会話シーンでその予感を少し触れるだけ [1-5]電話ボックス 小説:ジャックに管理人の仕事を斡旋した後見人のアルに電話 映画:アルに関する部分は全てカット [1-6]夜の断層 小説:ウェンディとジャックの過去と二人の間にある秘められた確執 映画:過去のトラウマや二人の間の確執は全てカット [1-7]別の寝室で 小説:ダニーがトニーの夢を見て、トニーがホテルについて警告する 映画:カット 第二部 ホテルへ [2-1]景観荘のながめ 小説:家族3人で車でホテルへ向かう 映画:エピソードをカットしつつも採用 [2-2]チェックアウト 小説:ホテル閉館の日の描写 映画:エピソードをカットしつつも採用 [2-3]ハローラン 小説:ハローランがキッチンを案内 映画:エピソードをカットしつつも採用 [2-4]かがやき 小説:ハローランがダニーに「シャイニング」の話をする 映画:エピソードをカットしつつも採用 [2-5]大巡遊旅行 小説:アルマンが一家を引き連れてホテルを説明、途中ダニーが消火器のホースの化け物を見る 映画:エピソードをカットしつつも採用、ダニーが見るのは双子の少女の幽霊に変更 [2-7]ポーチにて 小説:アルマンやハローランがホテルを去り、それを一家がポーチで見送る 映画:カット 第三部 すずめばちの巣 [3-1] 屋根の上で 小説:ジャックが屋根を修理中にすずめばちの巣を見つける 映画:蜂に関する部分は全てカット(カーペットの柄にその名残があるだけ) [3-2] 前庭で 小説:ジャックがすずめばちの巣をダニーに見せる 映画:カット [3-3] ダニー 小説:ダニーがトランス状態になり、蜂に刺される 映画:ダニーがトランス状態のみ採用、他はカット [3-4] 診察室 小説...

【関連商品】Noodleより『シャイニング』の双子Tシャツ、ブラウス、スウェットが発売予定。ただいま予約受付中

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 以前 きゃりーぱみゅぱみゅさんがツイート していましたが、Noodleより『シャイニング』のTシャツ、シャツ、スウェットが発売になります。Tシャツやスウェットは珍しくないですが、Yシャツは珍しいですね。  発売は2020年2月上旬予定。ご予約は以下のZOZOでどうぞ。(注:リンク切れ) シャイニング グラフィックTシャツ(Noodle×THE SHiNiNG graphicT) カラー:ブラック、ホワイト サイズ:L、XL 13,200円(税込) シャイニング シャツ(Noodle×THE SHiNiNG shirt) カラー:ブラック、ホワイト サイズ:FREE 30,800円(税込) シャイニング ユニセックススウェット(Noodle×THE SHiNiNG unisex sweat) カラー:ブラック、ホワイト、ブルー サイズ:L、XL 16,500円(税込)

【考察・検証】なぜキューブリックは小説『シャイニング』のオーバールック・ホテルを改変したか?を検証する[その2]

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  キングが執筆時に滞在し、原作とTV版の舞台にもなった「スタンリー・ホテル」 キューブリックが映画化の際に外観に使用された「ティンバーライン・ロッジ」 キューブリック版の内装のモデルになった「アワニー・ホテル」  『シャイニング』の舞台であるオーバールックホテル。小説版とスティーブン・キングが製作したTVドラマ版では実際にキングが投宿して小説を書き上げたスタンリー・ホテル、キューブリックの映画版では内装はマジェスティック・ヨセミテ・ホテル(旧アワニー・ホテル)、外観はティンバーライン・ロッジをモチーフにしたことはこの記事で説明しました。そして、なぜキューブリックは原作の「瀟洒な西洋風リゾートホテル」から「西部開拓時代の山小屋ロッジ風ホテル」にデザイン変更したのかは、この記事で説明しました。しかし、今回の記事では今まで誰も指摘してこなかった点を考察したいと思います。それは「キューブリックが撮りたい映像を撮るために障害となる、技術的問題を解消するためにホテルを改変した」という考察です。  以下の動画はステディカム開発者であるギャレット・ブラウンのデモフィルムです。このデモフィルムは1974年に制作され、キューブリックも視聴したものです。1974年といえば『バリー・リンドン』を制作中。まだ次作は未定だったはずです。 キューブリックはこのステディカムの革新性に注目、いや夢中になったと言っても過言ではありません。その証拠にギャレット・ブラウンに装置の秘密が映ったネタバレ箇所をカットするように助言しています。このステディカムの特性を存分に発揮できる作品を撮りたい!とキューブリックが考えるのは自然の成り行きだと思います。  さて、スティーブン・キングが書いた小説『シャイニング』はワーナーが映画化権を獲得しました。通常、キューブリック作品はキューブリックが映画化に値する小説を見つけ、それを自ら交渉(キューブリックは相手がキューブリックと知ったら値を釣り上げると考え、偽名を使うなどして作家にオファーしていた)に乗り出して獲得するのが常でした。しかし『シャイニング』の場合、1975年にワーナーが出版前のゲラをキューブリックに送ったのがきっかけで、それに興味を持ったキューブリックが映画化を決めた、という時系列になります。実は全13作品あるキューブリック作品のなかで、こういった経...

【関連動画】『シャイニング』のバスルームの美女ことリア・ベルダムのインタビュー動画

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 美容系のお仕事、ボディー・ローションなどの宣伝のためにヌードになることがよくありましたから。それで私の本の裏にヌード写真があり、彼らは私をヌード専門女優と思ったみたいです。 ──それでは撮影前にどんなシーンになるか契約前にわかっていたのですか?  いいえ、全く。ヌードになることは知っていました。問題もありませんでした。よく美容系の仕事のためにヌードになっていましたから。ただ、面白いのは、私はどんなシーンなのか1ミリも知らなかったのです。ジャック・ニコルソンがどんな人かということしか知りませんでした(笑。 スタンリー・キューブリックや他のスタッフのことなども何も知りませんでした。とても新鮮でした。何もわからなかったので、よく「脚本を読ませてくれませんか?」と聞いていたんですよ。そうしたら「君には脚本はいらないよ。ただ〈幽霊〉になってさえくれればいい」と言われました。それでよかったのです(笑。 ──バスタブのシーンがこの数十年間の映画の歴史の中で一番恐ろしいシーンだと言われていることについてどう思われますか? オーケー。あとで他のゲストにも聞くことになりますが、ファンとの間で、今までで一番奇妙だったことは?  一番奇妙だったこと? ──例えば、歩いていたら道でファンが向かってきたことなど。  すいません、ないんです。フェイスブックで私を気に入ってくれたり、崇拝してくれたりもしています。私は「こんなおばあちゃんなのに。まだ彼らをあの時のように美女だと思っているの?気をつけてね、私は歳をたくさんとっているのよ」と驚いています。それだけで、ファンとの奇妙な経験といのはないですね。  2019年8月にアメリカ・バージニア州ウィリアムズバーグで開催された「Scares That Care Charity Weekend 6, August 2019」というイベントに、ゲストとして来場した『シャイニング』のバスルームの美女ことリア・ベルダムのインタビュー動画です。  以前 このインタビュー記事 で、リアはスイス出身のモデルであること、ヌードのポートフォリオを見たキューブリックによって幽霊役に抜擢されたことを語っていました。それにしても『シャイニング』から約40年経ったというのに、今でも相変わらずお綺麗です。 翻訳協力:Shinさま

【関連記事】アメリカ最大の映画レビューサイト、ロッテン・トマトの「トマトメーター」ではかるキューブリック作品のトップ10

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Dr.Strangelove(IMDb)  アメリカ最大の映画レビューサイト、「ロッテントマト」(腐ったトマト)の肯定的レビューのパーセンテージ「トマトメーター」でキューブリック作品をトップ10ランキングした記事からの引用です。 wiki よるとロッテン・トマトとは、  サイト内には直近で公開された約270本の映画レビューのログが残され、肯定的なレビューの割合が一覧化されている。肯定的レビューが60%以上の場合は「レビュアーの大多数がその映画を推奨した」ものとして"fresh(新鮮)"、60%未満の場合は "rotten(腐敗)" の格付けがされる。加えてロジャー・イーバート、デッソン・トムソン、スティーヴン・ハンター、リサ・シュワルツバウムなどの著名映画レビュアーによるレビューは、"Top Critics(トップ批評家)"と呼ばれる別リストへ載せられ、別途一覧化されている(批評は全体レーティングにも影響する)。レビューが数値集計の可能な量に達すると、各レビュアーによる意見を整理するため、総意としてのまとめ記事が掲載される。年末にはその年の最高得点を得た映画が "Golden Tomato(ゴールデン・トマト賞)"を獲得するシステムとなる。  と、一般的なユーザーレビューサイトとは異なり、著名な評論家が参加していることから、一見公平性が担保されている様に思われますが、実際は問題もあり、  2010年1月、ニューヨーク映画批評家協会会長のアーモンド・ホワイト(英語版)は会の75周年に際し、「レビュアーを一箇所に押し込め、それぞれのレビューに見せかけのお気に入り得点を取ってつける。あれはインターネットが如何に個人の表現に復讐しうるかの例である。ああしたサイトは、評論の代用として大勢の総意を提示しているにすぎない」と、特に当サイトを名指しして映画レビュー集サイト全般を批判した。 とあります。  まあ優劣を点数で決めるスポーツではなく、主観で良し悪しを決める「映画」や「グルメ」などは抽象的な評価に頼らざるを得ず、それを数値化したりランク付けすること自体にどこかしら偏りや無理が生じるもので、こういったレビューサイトやランキングは参考程度か、「にぎやかし」程度に思っておけばいいと思っています。ですが...

【ブログ記事】キューブリック、『時計じかけのオレンジ』について「かく語りき」

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A Clockwork Orange(IMDb)  キューブリックはあまり自作について語りたがらない印象がありますが、少なくとも『時計じかけのオレンジ』の頃までは饒舌に語っています(この後、『時計…』が暴力的だとマスコミに糾弾され、露出を避けるようになります)。以下は評伝『映画監督スタンリー・キューブリック』からの抜粋です。理解している方にとっては蛇足でしかありませんが、とまどった方には参考になるかと思い、一部を掲載したいと思います。  小説は二部構成になっている。それは、ある個人を監禁し、その自由や自由意志を奪って時計じかけのオレンジ、つまりロボットのような人間に作り変えることが道徳的に許されるのかという社会学的な問いかけだ。そしてこの話の魅力はアレックスの性格にある。リチャード三世もそうだが、アレックスはその賢さと回転の速さと素直さで、どういうわけか観客を自分の味方に引き入れてしまう。彼が象徴するものはイドだ。それは我々の中にある抑圧された残酷な側面、罪にならないけど、レイプを楽しむのと同じようなものをもっている側面なのだ。  みんな偽善的な態度を取るけれど、みんな暴力に惹かれているというのが実情だ。何と言っても、この地球上でもっとも無慈悲な殺し屋は人類なのだ。私たちの暴力に対する関心は、潜在的なレベルでは遠い祖先と大差ないことを示唆している。  アレックスが受けるルドヴィコ療法は、社会的規範と自分自身の間の葛藤に由来する神経症と見ることができる。だからこそわれわれは、アレックスが『矯正』された最後のシーンを愉快に思う。仮に映画を『白日夢』と捉えるならば、この幻想のような象徴的なメッセージは、見る者を左右する強力な要因だ。夢は意識化されないものを見せるものだと考えると、映画も夢と同じような作用を持っていると言える。  そしてキューブリックは書籍『キューブリック』でのミシェル・シマンとのインタビューで、この問題を以下の様に総括しています。  今日私たちが確実に直面している最も挑戦的で困難な課題の一つとは、国家が抑圧的にならないで、如何に社会を制御するのに必要な節度を保つことが出来るのかということだ。それに、合法的で政治的な解決が遅すぎると考え始めているせっかちな有権者に対峙しながら、国家は如何にしてそれを達成できるかだ。国家はテロリズムや無秩序の向こうに亡霊がぼん...

【関連書籍】スクリーン アーカイブス『スタンリー・キューブリック監督復刻号』がTOHOシネマズ日本橋・新宿、スクリーン・オンラインで発売

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 公開時のスクリーン誌の復刻記事を集めた特集号『スクリーンアーカイブズ スタンリー・キューブリック監督 復刻号』がTOHOシネマズ日本橋・新宿のほか、スクリーン・オンラインで限定販売中です(TOHOシネマズ新宿は10月18日より販売開始)。  掲載作品は『スパルタカス』『ロリータ』『2001年宇宙の旅』『時計じかけのオレンジ』『バリー・リンドン』『シャイニング』『フルメタル・ジャケット』『アイズ ワイド シャット』。内容は作品解説が主なので、特に目を引く記事はありません。ただ、故荻昌弘氏の解説は「映画愛」に溢れていて読んでいて嬉しくなりますね。  あとは例の星新一氏による『2001年…』に対する「勘違い批判」ですが(詳細は ここ で)、これは星氏に限らず、当時の多くの「大人たち」がこういった反応を示したそうです。「映像志向」の作品を「言語志向」で批判しても的外れ以外の何ものでもないのですが、公開当時の「空気」を知るにはいい資料と言えるでしょう。  当事者のインタビューは『アイズ…』のトム・クルーズとニコール・キッドマンだけですが、残念ながら内容はあまりありません。ただ、キッドマンが語る「彼(キューブリック)は最初から夫婦の俳優を使うと決めていた」は、この作品を読み解くのに役立ちそうです。  本書に頻出する「クーブリック」という表記ですが、小説『2001年宇宙の旅』の翻訳者である伊藤典夫氏を中心に、「発音はクーブリックなのでそう表記すべし」としてSFファンを中心に一部に広まりました。しかし一般に定着するまでは至らず、当の伊藤氏も「本人も亡くなったのでこれからはキューブリックで」と白旗を上げたので、現在は「キューブリック」で統一されています。  対面販売はTOHOシネマズ日本橋・新宿だけですので、ネットで購入するのが現実的かと思います。A4版48ページで1,800円(税別)という価格は割高感を覚えますが、掲載号数が書いてありますので古本を漁る際に目安になりそうです。スクリーン・オンラインのキューブリックページは こちら からどうぞ。 2025年8月11日追記:現在本誌は Amazonで入手可 。

【考察・検証】『時計じかけのオレンジ』のラストシーン「レイプ・ファンタジー」を考察し、解説を試みる

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※一部画像加工済  『時計じかけのオレンジ』のラストシーン、アレックスが「完ぺきに治ったね」とつぶやく際に見る夢、いわゆる「レイプ・ファンタジー」ですが、この名称はコールシート(撮影予定表)で便宜上そう名付けられていたものです。実はこのシーン、当初は「全裸の女性をアレックスが追いかける」カットが存在し、その後削除された(おそらく検閲の問題)のですが、その件につきましては以前記事にしました。  その「レイプ・ファンタジー」、原作小説では「カミソリで地球を切り裂く」という暴力夢でしたが、キューブリックは性夢に変更してしまいました。どんな夢であれ、登場人物が見る夢を映像化する際には「現実離れ」した映像でないと、そのシークエンスが「夢」であることを表現できません。逆に言えば「現実離れした(性夢の)映像ならなんでもいい」ということになり、結局はキューブリックのセンス次第、となってしまいます。そんなキューブリックのセンス(感覚)で作られたこの「レイプ・ファンタジー」を、キューブリックの頭の中を覗くなど到底不可能だということを承知の上で考察してみたいと思います。 (1)19世紀風の衣装に身を包んだ紳士淑女たち  どうして「19世紀風」と言えるのかというと、男性全員がシルクハットを被っているからです。シルクハットの流行は19世紀前半が最盛期でした。そして19世紀前半といえばベートーベンが活躍した時代です。つまりこのシーンは自分(アレックス)がベートーベンと同時代の19世紀に存在している夢を見ている設定なのです。 (2)スタンディング・オベーション  その19世紀の紳士淑女たちは、全裸で性行為をするアレックスをスタンディング・オベーションで讃えています。これで思い出されるのは「第九」の最終楽章が終わった瞬間、観客がスタンディング・オベーションで指揮者や楽団を讃えるということが定番化しているという事実です。つまり、聴衆(一般民衆)もアレックスの暴力性や性衝動の復活を第九のスタンディング・オベーションという形で「讃えて」いる(と少なくともアレックスは思っている)のです。 結論:(1)(2)の観点から、アレックスが病院のベッドの上で、ベートーベンの第九を浴びながら見ている夢は、性行為(レイプ)をしているという喜びを、自身はおろか聴衆(一般民衆)でさえ讃えているということであり、それは自身の...

【関連動画】『岡村洋一のシネマストリート』にゲストで登場した手塚眞氏が語る『手塚治虫とキューブリック』の動画

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手塚眞氏が語る、手塚治虫とキューブリックとのエピソードは5:07から  手塚眞氏は過去に幼い頃に父、手塚治虫に連れられて『2001年宇宙の旅』を観に言ったエピソードを語っていましたが、例の「キューブリック手紙事件」に言及したのを初めて見ました。興味深いのは手塚氏自ら「父は『2001年…』から逆影響を受けた」と語っていること。主に宇宙船のデザインなど未来イメージについてですが、それは手塚治虫だけでなく、日本中、いや世界中のクリエーターが影響を受けまくったのは周知の事実です。  その「キューブリック手紙事件」は、長い間「手塚治虫のホラ話」と疑われていました。と、いうのも時系列が合わなかった(手塚治虫の証言通りならキューブリックはまだ『2001年…』の制作に着手していない)からです。それは「【考察・検証】キューブリックが『2001年宇宙の旅』の美術監督を手塚治虫にオファーしたのは本当か?を検証する」の記事で検証した通り、手塚治虫自身が単に1年勘違いしていただけ、ということを証明してみせました。手紙の中身は焼失してしまいましたが、封筒は現存しているので現在この件を疑う人はもういないでしょう。  このラジオ番組「岡村洋一のシネマストリート」は、かわさきFM(79.1MHz)で毎週月曜日13:00~15:00放送だそうです。興味のある方は聴いてみてはいかがでしょうか。

【関連商品】GUのグラフィックTシャツCLASSIC FILMシリーズより『シャイニング』『時計じかけのオレンジ』が現在発売中

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 GUのグラフィックTシャツ CLASSIC FILMシリーズで『シャイニング』(1種)と『時計じかけのオレンジ』(2種)が発売になっています。色は白と黒、サイズはS、M、L、XL、価格は790円(税別)。一番右の『時計…』のみ背面にもデザインがあります。  本来ならば購入してレポすべきなのですが、うかうかしている間にネットショップでは全品売り切れ、店舗でも「ない!」という悲鳴があちこちでTweetされているようです。  もちろん再販の可能性はあるとは思いますが、CLASSIC FILMシリーズの中でもキューブリック作品のこの3種だけは極端に動きが早く、完売してしまえば入手は(転売以外で)不可能になってしまうので、欲しい方は早めのご購入をお勧めいたします。  なお、公式アプリを利用すれば購入はもちろん、店舗の在庫確認や店舗受け取りができますが、アプリには在庫のない商品は表示されません。ですので、以下のリンクよりウェブからネットショップにアクセスして在庫の有無をご確認ください(リンクは削除)。 情報提供:none様、rainthunders様

【ブログ記事】『シャイニング』のオーバールックホテルの外観モデルになったティンバーラインロッジが、キューブリックに幽霊が出る217号室を変更して欲しい旨を伝える手紙

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 ・・・すでに217号室を見たいとおっしゃる何人かの観光客がいらっしゃいます。映画が公開され、地元で知られるようになると「バスタブの女性」の肥大化した死体に襲われると観光客が恐れてしまう可能性があります。可能であれば「217」を237、247、または257に変更してください。どれもティンバーライン・ロッジには存在しません。  キューブリックファンにはおなじみですが、映画『シャイニング』の舞台であるオーバールック・ホテルの外観として使用されたティンバーライン・ロッジが「宿泊客が怖がって泊まりたがらなくなるので、幽霊が出る部屋を217号室から存在しない237号室に変更して欲しい」と依頼したというエピソードを裏付ける、ティンバーライン・ロッジからキューブリックに宛てた手紙が発見され、現在ロンドンで開催中の『スタンリー・キューブリック展』に展示されているそうです。227号室がないところを見ると、それは存在したんでしょう。結局キューブリックは原作の217号室を237号室に変更することにしましたが、その旨を手紙に書き込んでいます。  そして以下が現在のティンバーライン・ロッジ側の公式コメント。 「キューブリックは、原作に登場する217号室を『シャイニング』に登場させないよう依頼されました。将来ロッジに宿泊する人がそこに泊まることを恐れるかもしれないからです。そこで、映画では実在しない部屋である237号室が代わりに使用されました。しかし、217号室はティンバーラインの他のどの部屋よりも多くのリクエストを受けています。ご安心ください。ティンバーラインには幽霊はいません!」 (引用: ティンバーライン・ロッジ公式サイト/ヒストリーページ )  なんとも因果な話ですね(笑。