【考察・検証】手塚治虫、スタンリー・キューブリックをかく語りき

同じ1928年(昭和3年)生まれの二人

 キューブリックと手塚治虫、有名な『2001年宇宙の旅』における美術監督オファーの件はこちらで紹介済みですが、その手塚がキューブリックをどう評したか、手元にある「季刊映画宝庫 SF少年の夢」の座談会から抜粋してみましょう。

 「『スター・ウォーズ』と『未知との遭遇』はもっと『2001年』が向こう(アメリカ)で受けていたら、ぼくはキューブリックがつくった映画じゃないかって気がする。ぼくは『スター・ウォーズ』はともかく『未知との遭遇』的なものはキューブリックが狙っていたのではないかという気がする

 「つまりキューブリックもある意味では一つのカリスマというか、哲学的な思考を持っているでしょう。そういうものをずっとつきつめていくと宇宙心理みたいなものに走っていく。ただキューブリックの映画が受けなかったのは(で)、僕は(スピルバーグが)それを引き継いでかたきをとったという、そんな気がする」

 「ただ『スター・ウォーズ』にしても『未知との遭遇』にしてもぼくはクラシックになる恐れがあると思う。『2001年』はクラシックにならない気がする。何か新しいとか古いを超越しているような・・・キューブリックのものは何を見てもそんな感じがする。『時計じかけのオレンジ』を見てもそうだしね」

 「つまりルーカスもスピルバーグも完成されすぎているんですね〈中略〉ところがキューブリックは未知数なんですね。おそらくキューブリックは最後まで未知数の男で、受けるのか受けないのか、本当に名人なのか、素人なのかわからないという感じで、それが、ぼくはやはり未知の面白さみたいな感じだと思う」

 いかがでしょうか、なかなか鋭い観察眼ですね。今から35年も前の発言とはとても思えません。合いよる魂とでも言いましょうか、手塚はキューブリックの中に自分と似たものを感じ取っていたのかもしれませんね。

 ・・・と、ここまで書いておいてなんなのですが、個人的には手塚はクラークの方がより近いイメージがあります。多作家だったりとか、シニカルではありながらもやっぱりオプチミストだったりとか、その強力なエゴやプライドの持ち方とか、やたらマスコミに出て喋りまくる姿とか。ちょっとロマンチストなところも両者共通してますね。一方のキューブリックにはロマンチストの印象はないですし、マスコミ嫌いで有名、徹底してシニカルな印象があります。

 どちらにしてもこの三者に共通しているのは、陳腐な表現で申し訳ないですが「天才」ってことですね。それは『2001年…』制作当時、広報担当だったロジャー・カラスのこの言葉に如実に現れていると思います。

 「彼らは怪物を抱えて生きている。彼らの前頭葉だ。その怪物に常に食料を与えなければならない。退屈な状態は耐えられない。だから、もっと理解しようとするのだ」

(引用:『映画監督スタンリー・キューブリック』より)

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