【考察・検証】『シャイニング』とジョン・レノンの『インスタント・カーマ』

 キューブリックの映画版では単なる超能力、テレパシー程度の描写しかなく、あまり重要視されなかった『シャイニング』という概念について主に原作の観点から考察してみました。

 スティーブン・キング自身が公言しているように、この「シャイニング」という言葉はジョン・レノンの『インスタント・カーマ』の歌詞「Well we all shine on Like the moon and the stars and the sun(そうさ私たちは輝けるさ、月のように、星のように、そして太陽のように)」が着想源です。「カーマ」はサンスクリット語で「業」を意味しますが、業の概念が分からないキリスト教圏の人間であるキングは、このカルマという言葉を「因果」と解釈しています。つまり小説『シャイニング』で語られる、オーバールック・ホテルに集う人間たちが積み重ねて行った悪行、「負の因果の繰り返し」の事です。そのカルマ(負の因果)に対抗できる唯一の(キリスト教的な)聖なる光がダニーの持つ「シャイニング」だとキングは理解し、小説のアイデアの中心に据えたのです。

 この『インスタント・カーマ』の歌詞を、なるべく『シャイニング』の世界観に準じ、ダニーの視点で訳してみました。

お手軽な因果がパパを狙っている
パパの頭の中に入り込もうとしてる
よくよく自分自身を見つめないと
すぐに死はやってくるよ

いったい何を考えているの
愛を笑いとばして
いったいどういうつもりなの
それはパパ次第なんだ

お手軽な因果がパパを狙っている
パパの顔をじっくりとのぞき込んでる
愛する人のことをよく考えて
人類に生まれたことを楽しんで

世界には色々あるんだってことを知って
バカみたいだと笑ってもいいから
いったいどういうつもりなの
そうだよ、パパは確かに
スーパースターだよ

そうさ、ボクたちは輝けるんだ
月のように、星のように、そして太陽のように
そうさ、みんなが輝ける
さあ、みんな!

お手軽な因果がパパを狙っている
パパを完全に打ちのめす
みんな仲間だってことに気がついて
僕たちはどうしてここに存在しているんだろう

苦痛や恐れで生きているんじゃないんだ
パパならどこにでも行けるのに
どうしてそんなところにいるの
こっちに来て、みんなで分かち合おうよ

そうさ、ボクたちは輝けるんだ
月のように、星のように、そして太陽のように
そうさ、みんなが輝ける
さあ、みんな!

※管理人訳(誤訳はご了承下さい)

 かなり意訳を含んでいますが、雰囲気は伝わると思います。こうしてみると、この『インスタント・カーマ』という曲が、小説『シャイニング』のプロットに大きな影響を与えているのか良くわかります。そしてこのパワフルでオールド・ロックンロールな曲調が、いかにキューブリック版『シャイニング』の世界観と違うかも分かります。これはまさに小説版&TVドラマ版『シャイニング』の世界観です。

 無神論者であるキューブリックは、キングが小説版の中核に据えたこの「悪魔(ホテル)VS神聖(ダニー)」というアイデアに興味を示めさず完全に排除し、原作に登場するポップミュージックやロックという音楽趣味も、自身の好きなクラッシックへと改変しました。さらに悪いことに、キングが自分自身の分身として登場させた、アルコール依存症から立ち直り、良き父親であろうと奮闘する「作家ジャック・トランス」を、「狂った父親」と単なるアイコン化してしまったのです。キングがキューブリック版に否定的な理由がこの事からもはっきりと理解できるかと思います。

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