【考察・検証】レオン・ヴィタリの証言とBD『バリー・リンドン』のアスペクト比問題

ワイドサイズで『バリーリンドン』を編集中のキューブリック

 キューブリック作品のアスペクト比について 、キューブリックの役者兼アシスタントだったレオン・ヴィタリが証言しているインタビュー記事を見つけましたのでご紹介いたします。大体推察通りでしたが新しく知った事実もあります。長文なのでアスペクト比の部分だけポイントをまとめますと、次のようになります。

(1)キューブリックはカメラマン出身なので、撮影時のアスペクト比で上映される事にこだわっていた。しかし、『バリー・リンドン』の際、上映館にヨーロッパビスタでの上映を指示したのに様々な事情からそれが必ずしも厳密に守られていなかった。(『時計じかけのオレンジ』もそうだったようだ)

(2)そのため、『シャイニング』以降はアメリカンビスタでの上映も考慮した撮影をせざる得なかった。(アメリカンビスタのガイドを見ながら撮影)

(3)したがってキューブリックはほとんどの監督がやる逆をやった。つまり構図を決める際、左右カットのテレビサイズを考慮するのではなく、左右プラスのアメリカンビスタを考慮した。

(4)『シャイニング』の頃はキューブリックはまだビデオに関心を持ってなかった。

(5)キューブリックはアメリカンビスタが好きではなかった。(理由は不明ですが、後で検証します)

 つまり『シャイニング』は基本はヨーロッパビスタで構図を決め、アメリカンビスタでの上映を考慮してスタンダードで撮影した。(編集中にアメリカンビスタのマスクをかけていたという証言はこちら)『フルメタル…』以降はアメリカンビスタはもちろん、スタンダードでのテレビ放映やビデオ化に対応できるようにスタンダードで撮影していた姿が想像できます。本人にとっては非常に不本意な事だとは思いますが、『時計…』や『バリー…』の経験からそうせざる得なかったのでしょう。

 問題の『バリー…』はスタンリー・キューブリック・アーカイブによると1:1.77で決定されたようです。またこの記事にははっきりと1:1.77のトリミングサイズを青い線で示した画像が掲載されています。キューブリックの「撮影サイズ=上映サイズ」の原則に従えば1:1.77という数字はワイドTVの【16:9】(1:1.78)とほぼ同じなのでピラーボックスなしでOKという事になります。つまり現行のBDのままです。では、DVDの1:1.66(実測は1:1.58くらい)のアスペクト比はどこから出て来たのか?これについては謎が残ります。なぜなら『バリー…』はオリジナルネガが現存せず、アンサープリント(現像所からの一番プリント)があるのみだという事が判明しているからです。これについては情報がありましたら追記いたします。

 さて、以前のDVDは当時のTV画面の主流がスタンダードだったためスタンダードサイズでリリースされました。そのため我々ファンはノートリミングでフルサイズの映像を見てしまっています。それが現在のBDの不評をかっている原因でもあります。その不満を背景にインタビュアーはレオンに対し「ワイドとスタンダードの両方でリリースするのも可能では?」と質問をしています。しかしレオンは「キューブリックはもういないし、私には判断できない」と答えるに留まっています。レオンはBD化の際、監修を担当しています。そのレオンが満を持してリリースしたBDであるのならば、彼を信頼し、BDのアスペクト比がキューブリックの意思である、と納得するしかないのかも知れません。

 ただ、キューブリックがヨーロッパビスタに拘ったなら、ワイドTVの【16:9】(1:1.78)とヨーロッパビスタの1:1.66の差分をどう考えるか?という問題があります。『ロリータ』と『時計じかけのオレンジ』はピラーボックスで対応済です。『シャイニング』以降はピラーボックスがありませんのでここは判断の別れる部分でしょう。どちらにしても今後スタンダードやフルサイズのBDがリリースされる可能性は、かなり低いと言わざるを得ません。(『博士…』についてはまた別に考察します)

 このインタビューは音響の話、未使用フィルム廃棄の話、ショットが良ければ撮影ミスを許容する姿勢など、他にも貴重な証言が満載です。それもまた改めて検証します。

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