【関連作品】『1984』(Nineteen Eighty-Four)
ジョージ・オーウェルの傑作小説の二度目の映画化。(映像化は三度目。初の映像化は1954年にピーター・カッシング主演でTVシリーズ)文字通り1984年に公開され話題になった。キューブリックとの関連は本作のロケがベクトン・ガス工場跡地で行われた事。廃墟などのシーンをよく見ると『フルメタル…』との共通の建物や瓦礫を見つける事ができる。因にロケはこの『1984』の方が先だった。
この原作の影響力は凄まじく、ディストピア系作品にはことごとく影響を与えている。それは文学だけに留まらず、音楽、映像、CM、ゲームまで幅広い。もちろんバージェスの『時計じかけのオレンジ』も例外ではない。20世紀に書かれた小説で、傑作を挙げるとするならば必ず名前が挙がる小説であるし、そういった意味でも原作は必読に値する。
映画化の一度目は1956年の白黒作品で、アメリカ公開版では原作を改竄し、スミスがビッグ・ブラザーに抵抗の意志を示して終わる。これについてオーウェルの遺族は批判している(オリジナルの英国版が最近DVD化されている)。二度目の映画化の本作ではかなり原作に忠実で、世界観も丁寧に映像化されている。ただし、原作のボリュームに対して尺が足らず、駆け足な上にかなりのエピソードが省かれている。そのため映画だけでは権力者が純粋に権力を行使し、維持するシステムを理解するには至らない。そういう意味では原作未読の視聴者にはかなりハンデがあるだろう。
主役はこういった悲惨な役にはこの人しかいない、と断言できるジョン・ハート。監督は本作がデビュー作となるマイケル・ラドフォード。党の高級官僚オブライエンを演じたリチャード・バートンにとって、本作が遺作となった。
ここには絶望しかない。いや、そんな生易しいものでなく、絶望に希望を見いだして終わるという圧倒的に絶望が勝利する世界が描かれる。そのあまりにも救いのないストーリーのためか、日本では未だにDVD/BD化されていない。これだけ世界的に影響力がある小説の映画化作品なのに、鑑賞するには中古のVHSをどこかしらから入手しなければならないという状況は異常と言わざるを得ない。関係各位には早急なDVD/BD化を望む。