【オマージュ】『ゼロ・グラビティ』(Gravity)

 映像作品としてのクオリティが高く、しかも大ヒット。加えてアカデミー賞の7冠(監督賞、視覚効果賞、撮影賞、音響編集賞、録音賞、編集賞、作曲賞)を受賞したこの作品ですが、全編に『2001年宇宙の旅』のオマージュが込められているので有名です。

 まず、サンドラ・ブロックが宇宙空間に放り出されるシーン。これは『2001年…』でフランク・プールがスペース・ポッドに突き飛ばされるシーンにそっくりです。そのサンドラが宇宙服を脱いで体を丸くシーンはスターチャイルドを想起させますし、何よりラスト、サンドラが海岸で立ち上がるシーン。これは極端なローアングルである事から猿人が骨を砕くシーンを意識したようにも思えます。ストーリーを極力シンプルにし、映像に暗喩を込める手法はキューブリックの常套手段でしたが、そういった手法さえもオマージュしています。その意味は色々深読みできそうですが、だからと言って『2001年…』と比較するのはかなり無理があります。

 まず映像としてのインパクトを強めるため、無茶な状況を作り過ぎです。事故の一連のシークエンスなどありえなさ感が酷いです。また、大気圏再突入の手段があまりにも現実離れしていて興醒めです。いくら中国製のカプセルが「優秀」だとしてもこれには失笑しました。

 この作品のシチュエーションが現実世界の延長線上であるなら、ストーリーにリアルな「説得力」なければ、いくら映像がリアルでも「絵空事」にしかなりません。逆に近未来の空想物語を極力リアルに描こうとした『2001年…』方が説得力があります。つまりこの作品が「地球という重力下で如何に人類は存在し得ているか」という深遠なテーマを追求したいなら映画『アポロ13』のような極力リアルな事故の状況を設定しなければ、その意味は薄れてしまうという事です。

 もちろん、エンターテイメントとして観客を退屈させる訳にはいきません。なるべく刺激的な映像をこれでもか!と続けなければたちまち観客は飽きてしまいます。でも、その解消方法に安易に「派手な事故」や「ありえない脱出手段」を用いるのは監督や脚本家の才能の欠如を意味します。他に観客の興味を引き続ける手段はいくらでもあります。映像でここまでできるならもっと徹底的にシチュエーションのリアルさを追求して欲しかった、というのが本音です。

 正直、この作品でテーマ性や哲学を語るにはストーリーや設定、シチュエーションが幼稚すぎます。そうではなく、テーマパークにありがちなシアター型アトラクションだと割り切れば素晴らしい映像体験ができます。ここはテーマや暗喩の考察、『2001年…』との比較云々は忘れて舞浜にでも行ったつもりで1時間30分を楽しめばそれで十分なのではないでしょうか。
 

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