【プロップ】『2001年宇宙の旅』でフロイド博士がオリオン号で観ていた映像に登場したGMのコンセプトカー「Runabout」

判別しにくいが、車のシルエットがRunaboutであることがわかる。車の外観のロングショットはデトロイトで撮影された。

GM(ゼネラル・モータース社)が1964年に発表したコンセプトカー「Runabout」

カップル(夫婦?)が語り合うシーン。この映像はロンドンで撮影された。

上記のシーンの撮影風景。椅子はセットで運転席や外の風景はリアプロジェクションのように見える。

Runaboutのフロントパネル。上記の映像と酷似している。

Runaboutのリアに大判カメラ(バイテン?)を突っ込んで撮影中のスタッフ。『ザ・スタンリー・キューブリック・アーカイブ』より

キューブリック邸にあった資料を保管しているロンドン芸術大学の「スタンリー・キューブリック・アーカイブ」で展示された『2001年…』の資料にも、「Runabout」の写真が残されている。

Another 3-wheeled concept car by GM is the “Runabout”. The vehicle had a front wheel that could turn 180 degrees to allow parking in the tightest of spots and the rear end of the car contained two detachable shopping trolleys with wheels that would fold away when the trolley was parked in the vehicle. The Runabout had space for 2 adults in the front and 3 children in the rear. The vehicle was first presented at the General Motors Futurama Exhibit in 1964 at the New York World’s Fair.

 GMのもう一つの3輪コンセプトカーは「Runabout」です。車両には180度回転可能な前輪があり、車後部には停車したときに折り畳まれる車輪付きの取り外し可能な2つのショッピングカートが収納されていました。Runaboutには、前部座席に2人の大人、後部座席背面に3人の子供用座席がありました。この車は1964年ニューヨーク万国博覧会のGeneral Motors Futurama Exhibitで初めて発表されました。

(引用元:3wheelers.com/General Motors)※削除済



 1964年といえばキューブリックはニューヨークに居住し『2001年…』の制作準備を着々と進めていた頃です。このニューヨーク万国博覧会には後に『2001年…』の制作に参加するダグラス・トランブルが『To the Moon and Beyond』を出品、それを観たキューブリックがトランブルを引き抜いたという経緯があります。キューブリックがこのRunaboutが展示されていたGMのパビリオンまで足を運んだかは不明ですが、資料をごっそり持ち帰ったか、かき集めたであろうことは確実でしょう。

 このTVの車の外観映像はGMのお膝元であるデトロイトで撮影されました。ロンドンで『2001年…』の制作に勤しんでいた頃、第二班に指示して撮影させたのです。キューブリックは『2001年…』の制作中はロンドンを離れず、「人類の夜明け」の背景写真やスターゲート・シークエンスのソラリゼーション用の空撮などは第二班に詳細な指示を出し、撮影させていました。車のロングショットは走っているように見えますが、単にズームしているだけのようです。というのも、このRunaboutは駆動系がないモックアップだったそうなので、走るはずがないからです。ニューヨーク万国博覧会は1965年10月17日までですので、閉会後にデトロイトのGMに戻され、それをキューブリックが撮影させたのでしょう。ちなみに『2001年…』の宇宙船のセット撮影は1966年1月~7月頃が最盛期でした。

 カップルのシーンは俳優を車に模した座席に座らせ、ロンドンで撮影したものだそうですが、車の内装や風景はどうやら写真のようです。『ザ・スタンリー・キューブリック・アーカイブ』には車のリア部分に大判カメラを突っ込んで撮影している写真が掲載されているので、座席だけを制作してそれに俳優を座らせ、その正面にリアプロジェクションで運転席の画像を投影しながら撮影したのではないかと推測しています。上記4枚目と5枚目の写真の一致具合からそう判断しました。それらの映像をまとめてTV映像として完成させ、リアプロジェクションでオリオン号の座席のモニターに表示しながら、オリオン号の座席シーンを撮影したのだと思われます。おそらく合成なしの一発撮影でしょう。理由は映像がアウトフォーカスされ、そのボケた映像の前をペンが横切るからです。デジタル技術のない当時の特撮でこの合成は不可能だと思います。

 いずれにしても「『2001年…』唯一の地上屋外シーン」がたったこれだけであったのは、『2001年…』が今に至っても普遍性を獲得し続けている大きな要因になっています。なぜなら地上の屋外シーンにはどうしてもその時代の「空気」が映り込んでしまうからです。地上シーンがかなりの割合を占めていた『2010年』を観ればその事実をヒシヒシと感じるでしょう。キューブリックがそれを意図していたかどうかはわかりませんが、1965年当時に2001年の地球上の風景の極力正確な未来予測なんて難しかったでしょうし、「いや、そのカメラを外に向けるだけだよ(実はそんなに変化はなかった)」と言ったところで誰も(キューブリック本人でさえ)信じなかったでしょう。いわゆる「レトロフューチャー」を感じさせる要素が少ないのも、『2001年…』が畏敬を込めて「Oパーツ」と言われている所以なのでしょうね。

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