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Malcolm McDowell(IMDb)

 映画『時計じかけのオレンジ』の暴力的な主人公、アレックス役で世間に強烈な印象を残した俳優マルコム・マクダウェル。かつては若者の怒りを体現する存在だったが、今ではずいぶん穏やかな雰囲気になった。最新作の撮影裏話から、自身のキャリアや人生、そしてアカデミー賞まで、77歳の今だからこそ語れる本音のインタビューをお届けしよう。

「反抗的な役をずっと演じられるわけじゃないから」

70年代初頭、マルコム・マクダウェルは映画界の小生意気なプリンスだった。かつてリバプールのセールスマンだった彼は、社会の規範をかき乱す存在となった。

リンゼイ・アンダーソン監督の『If もしも…』では、イギリスのパブリックスクールで血の革命を先導する役を演じた。スタンリー・キューブリック監督の『時計じかけのオレンジ』では、コロヴァ・ミルク・バーで仲間とつるみ、夜の計画を思案する主人公のアレックス役だ。

彼の前には、無限の可能性が広がっていた。世界は彼の思うままだ。彼ならどんなことでも達成できるものと思われていた。

〈以下略〉

(引用元:クーリエ・ジャパン/2020年7月31日




 マルコム・マクダウェルは1972年、原作者のアンソニー・バージェスともに『時計じかけのオレンジ』のプロモーションに世界中を飛び回っていました。最初の頃は二人とも映画を支持し、擁護していましたが、マスコミのバッシングが酷くなり、命を脅かす脅迫が自身の身辺まで達するとその態度を急変、一転してキューブリック批判、映画批判を始めます。それをロンドンの自宅で見ていたキューブリックが「裏切り行為」と捉えたであろうことは想像に難くありません。キューブリックは裏切り者には徹底して冷淡な態度を取ります。そうなってしまえばいくらマルコムがキューブリックに親愛の情を感じていたとしていても、無視されるのは当然と言えます。

 もちろん、「自分は安全な場所にいて、自分たちだけ脅迫の危険があるプロモーション活動に従事させている」とマルコムとバージェスが不満に思っていたであろうことも想像できます。しかし脅迫はキューブリックの元にも届いていました。「人間の暴力性を暴いた映画で、人間の暴力性を批判する人たちが、人間の暴力性を露わにして脅迫する」という映画の世界を地でいく現実は、もはや「皮肉」としか言いようがありません。

 マルコムは後年になって『時計…』を再評価し、キューブリックや作品を悪く言うことはなくなりました(撮影でひどい目に遭った、とは語っている)。このインタビューでもそれは伺えるし、キャンペーンやプロモーションでキューブリックの遺族とも顔を合わせています。マルコムはこのインタビューでもわかる通り、ストレートな物言いをする人間です。ここで語った「出演した映画のほとんどは忘れてしまった」とは、「(あまりにもひどいB級映画に出続けたので)思い出したくもない」という、マルコムなりの「ストレートな物言い」だと感じました。

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