【関連記事】キューブリックとハリスが『ロリータ』の直後に映画化を検討していた『レッスンC(Passion Flower Hotel)』
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ツインテのナスターシャ・キンスキー。本編シーンか宣材写真なのかは不明。萌える人は萌えるか…も? |
〈前略〉
『ロリータ』の製作が終了して間もなく、キューブリックとハリスは、全寮制女子校の中にある売春宿を描いたロザリンド・アースキンのコミカルな小説『パッション・フラワー・ホテル』の映画化を企画した。この小説は、後にジョン・バリーの音楽で舞台ミュージカルになり、さらに後にナスターシャ・キンスキー主演で映画化された。
「当時、映画を公開するために必要なプロダクション・コードに縛られていたので、性的表現のある映画を撮ろうと真剣に話し合ったんです」とジェームズ・B・ハリスは振り返る。「念のために言っておきますが、すべては仮定の域を出ませんでした。スタンリーの考えは、才能のある俳優を使って、正直で自由なものを撮れば、美しく、真実味があり、さらにはストーリーを語ることができるというものでした」
〈中略〉
「スタンリーが考えていたのはポルノではなく、検閲を超えた何かだった。1950年代半ばの問題はそうだった。そんな映画をどこで見せられるのか。検閲を通らなければ、新聞に広告を出すこともできないし、映画館で合法的に上映することもできない」
〈以下略〉
(全文はリンク先へ:FADE IN/2012年12月26日)
この小説『パッション・フラワー・ホテル』は1978年に『レッスンC』(原題『Passion Flower Hotel』)として映画化されました。主演はナスターシャ・キンスキーです。1974年に官能映画『エマニエル夫人』が世界的に大ヒットして以降、ソフトポルノ映画が制作されるようになり、1970年代後半から1980年代前半にかけて十代の若者の性を描くいわゆる「青春エロ映画」「性のめざめ映画」(『青い珊瑚礁』『初体験/リッジモント・ハイ』『グローイング・アップ』『ポーキーズ』『超能力学園Z』などなど)とうジャンルが大流行しましたので、その流れでこの小説も映画化されたのだと思います。1978年というのはソフトポルノから青春エロ映画への転換点くらいの時期になるでしょう。
キューブリックがこの小説の映画化を検討していたのは1962年ごろだと思いますので、それよりもずいぶんと早い時期です。「性の解放」といわれる時代は1970年代に入ってからですので、約10年以上は早いですね。『ロリータ』はまだまだ保守的な価値観が支配していた時代に制作されましたので、かなり厳しい制約がありました。キューブリックも「こんなに制限が厳しいとは思わなかった。知っていたら映画化しなかった」という趣旨の発言をしています。ハリスも上記記事で「検閲を超えた何か」と発言しています。このことからもキューブリックにとってポルノとは「どこまで何を見せられるか」への挑戦だったことが伺えます。
キューブリックは自主制作だった『恐怖と欲望』『非情の罠』、思い通りにコントロールできなかった『スパルタカス』についてはかなり辛辣に批判していますが、それ以外の作品については概ね満足している旨の発言ばかりです。しかし『ロリータ』については「当時の様々な圧力団体の干渉を受け、ハンバートとロリータのエロティックな関係を充分脚色できなかった」「もし映画を撮り直すことができたら、私はナボコフと同じウェイトをかけて、エロティックな要素を強調するだろう」と語り、かなり悔しい思いが残ったようで、それはこの『パッション・フラワー・ホテル』を『ロリータ』に続けて映画化しようとしたことからも伺えます。キューブリックにとってこの『パッション…』とは、『ロリータ』でやり残したことへの再挑戦、リベンジの意図があったのではないでしょうか。
結局この企画は実現しませんでしたが、キューブリックは1970年代始めには官能小説『ブルー・ムービー』や『夢小説』の映画化を企画、後者は1999年に『アイズ ワイド シャット』として実現しました。その執念たるやなかなかすごいものがありますが、「エロおやじキューブリック」「エロ大好きキューブリック」とファンに言われるほどキューブリック作品にエロ要素が多い理由は、ひょっとしたら『ロリータ』における「不完全燃焼感」にあるのかも知れません。
ところで「性のめざめ映画」といえば『シャイニング』でダニーがTVで観ていた映画『思い出の夏』(1971年公開)も同ジャンルの映画です。このことからもキューブリックは性に関する映画への関心が高かったことが伺えますし、そのリベンジのチャンスを執念深く、虎視眈々と狙っていたんでしょうね。『アイズ…』で当時14歳(ちなみに『ロリータ』のスー・リオンも撮影時14歳)のリーリー・ソビエスキーを下着姿にさせるくらいには(笑。(注:ロリコンって意味ではないので念のため)
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『アイズ ワイド シャット』でのリーリー・ソビエスキー |