【ブログ記事】1991年10月4日にやっと発売された『時計じかけのオレンジ』のビデオソフトについてと、それまでは非合法な方法で非合法なブツとともに摂取されていたという「裏事情」

肌色のボカシで修正された『時計じかけのオレンジ』の修正版ビデオソフト

 当時多くのキューブリックファンが待ち望んだ『時計じかけのオレンジ』のビデオ化ですが、日本でそれが実現したのは1991年10月4日でした。価格は16,000円(税抜)。安い買い物ではなかったですが、発売開始と同時に買いに走ったファンも多かったと思います。訳は当時キューブリックの信頼を得ていた原田眞人氏が担当。ただ、残念ながら当時の社会情勢から無修正というわけにはいかず、肌色のボカシと一部モザイク処理がされていました。そして1997年になって、やっとニューマスターの「無修正版」が発売になり、これ以降DVD、BD、UHDまでこのフォーマットで定着しています。

 当時の「性表現事情」を知らないとなかなか理解できないのですが、wikiの「ヘアヌード」の項目によると1991年頃に事実上の「ヘア(陰毛)解禁」となりましたが、それが社会的に認知され、定着するのはインターネットの普及が始まった1995年頃だそうです。これは管理人の記憶とも一致しますね。ですので1997年に無修正版がリリースされたというのはごく自然な流れだと言えると思います。

 劇場で『時計じかけのオレンジ』が公開されたのは1972年4月29日、リバイバル公開が1979年8月11日。その後名画座などで公開(管理人は1985年頃に大阪の大毎地下劇場で鑑賞)されましたが、その機会を逃すと観賞できませんでした。アメリカではビデオソフト(もちろん無修正)が1980年に発売になっていますので、それを輸入するという方法もあったのですが、当時、無修正は税関で没収の対象でした。ですので、ケースは別の映画で中のテープは『時計…』という方法で税関逃れをする、ということもあったそうです。

 それから、これはあまり褒められた話ではないのですが、事実として申し上げますと(もう時効だと思いますので)、当時一部の若者の間で『時計…』はドラッグ(主にマリファナ)を摂取しながら観る映画という認識がありました(同様の映画にピンクフロイドの『ザ・ウォール』、ビートルズの『イエローサブマリン』など)。管理人が実際にその現場を知っているか否かはご想像にお任せいたしますが、入手が難しかった海賊版『時計…』は特にその対象になりやすく、「アレが手に入ったから今度あそこで鑑賞会があるみたいよ」という話がアングラ界隈で交わされていたのは事実です。つまり「お天道様の下でおおっぴらに語ってはいけない映画」であった時期が存在したんですね。

 こういった経緯で、『時計じかけのオレンジ』はアングラ映画、カルト映画として語られるようになったのですが、アングラやカルトというのは大きいくくりで言えば「サブカルチャー」です。その意味では、現在よく言われる「『時計…』はサブカル御用達映画」というレッテルは間違いではないのですが、それは前述した通り、ビデオが爆発的に普及した1980~90年の10年間、合法的に『時計…』を観賞する方法が名画座にかかるのを待つ以外になかったことと、非合法に入手したビデオを、非合法な薬物と一緒に摂取していたという裏事情があったからです。ですので、『時計…』を劇場で「普通に」観賞した者にとって、『時計…』=アングラ、カルトという図式はなかなか受け入れがたいものがあるのですが、作品全体に漂う何かヤバそうな雰囲気や、マンガやアニメなどに与えた影響(詳しくはこちらで)を考えれば、当時の特殊な事情を知らない現在の若者世代が、そう感じるのも無理はないと思いますので、今ではその考えも理解するようにしています。

 でも・・・やっぱり『時計じかけのオレンジ』は、あの『2001年宇宙の旅』の巨匠スタンリー・キューブリック作品で、ハリウッドメジャーのワーナーが資金を出し、配給し、そして何よりもアカデミー作品賞にノミネートまでされた作品です。その事実を考えると「アングラ」「カルト」「サブカル」のくくりで語ってしまうにはやはり問題があるのではないでしょうか。丁寧に説明するならば、「『時計じかけのオレンジ』は、巨匠スタンリー・キューブリックが製作・監督したハリウッドメジャー作品だが、その内容や観賞のされ方ゆえにアングラ・カルト映画扱いされてしまった」というのが、実際を一番的確に表現しているのではないかと考えています。


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