【関連記事】1980年12月14日、『シャイニング』公開直後のシェリー・デュバルのインタビュー(抜粋)
The Shining(IMDb)
〈前略〉
キューブリックとの仕事はどうだった?と私は尋ねた。「ほとんど耐えられないくらい」と彼女はあっけらかんと言った。「でも、他の見方をすれば、本当にとても素晴らしいことだと思います」。
〈中略〉
「キューブリックと一緒に仕事をするチャンスが来たんです」彼女は紅茶を一口飲んだ。「毎日毎日、耐えがたい仕事をこなす。ほとんど耐えられないくらいにね。ジャック・ニコルソンの役は、常にクレイジーで怒っていなければならなかった。私の役は1日12時間、1日中、最後の9カ月間はずっと、週に5日か6日、泣き続けなければなりませんでした。1年1ヶ月間そこにいましたが、プライマル・スクリーム療法には何か意味があるのでしょう、1日が終わって12時間泣いた後、私はとても満足して家に帰りました。とても落ち着いた気持ちになることができました。日中の私は、絶対に惨めだったでしょう」。
〈以下略〉
(引用:Roger Ebert.com:Interview with Shelley Duvall/1980年12月14日)
シェリー・デュバルにとって『シャイニング』の撮影は非常に苦労が多かったのは事実で、このインタビューでも「ほとんど耐えられないくらい」と語っています。しかし同時に「とても素晴らしいこと」と発言しており、これは他のインタビュー(例えばドニュメンタリー『ライフ・イン・ピクチャー』)でも同様です。
このインタビューで『シャイニング』に触れたのは抜粋した部分のみですが、『シャイニング』の後、テリー・ギリアムの『バンデッドQ』の撮影に参加しあやうく大怪我をしそうになったり、『ポパイ』のオリーブ役は肉体的な試練だったと語ったりしています。その後もシェリーは映画界・TV業界で活躍し続けたのですから、彼女にとって『シャイニング』への出演は「大変だったけど(キャリアアップできたことについては)素晴らしいこと」だったというのが本音でしょう。
そして、シェリーは「本当は科学者になりたかった」と語っています。パーティーでロバート・アルトマンに見出され、ためらいながらも女優としてのキャリアをスタートさせるのですが、彼女は本来とても明るいキャラクターでした。つまり演じたウェンディ・トランスの性格とは真逆だったのです。そうであるがために、シェリーがウェンディ役にコミットするのが難しかったのは『メイキング・オブ・シャイニング』でも見て取れます。
話題になっているグッチの『Exquisite Gucci』のキャンペーンで『シャイニング』も引用されていますが、ウェンディも登場していることからシェリーの肖像権使用の許可が必要でした。その際シェリーはこのキャンペーンにとても興味津々になっていたそうなので、過去も現在もシェリーにとって『シャイニング』の撮影がトラウマになっているなどというのは全くありません。彼女の現在の精神疾患と『シャイニング』を結びつける証拠は何もないのです。そもそもドキュメンタリー『ライフ・イン・ピクチャー』(2001年)で『シャイニング』について元気に語っているのですから、的外れもいいところ。世の中には何でもかんでも他人を糾弾しなければ、自分の精神的安定を得られないという人は一定数存在します。であれば、他人の病気の原因をどうのこうのいう前に、ご自身がすべきことがあると思いますね。