【インスパイア】『2001年宇宙の旅』のHAL9000に影響されたと思われる、手塚治虫『ブラック・ジャック』のエピソード『U-18は知っていた』


あらすじ

 コンピュータが診察し、コンピュータが手術をする。そんな巨大ハイテク病院を制御するメイン・コンピュータ《ブレイン》がある日突然、入院患者を人質にとって反乱を起こした。「ワタシハビョウキデス」というコンピュータに呼ばれて駆け付けたB・Jは、コンピュータの手術をはじめる。

(引用元:手塚治虫ブラック・ジャック40周年記念ページ『【107】U-18は知っていた』




 手塚治虫の漫画作品の中でも、常に人気上位にランキングされる『ブラック・ジャック』。その中に明らかに『2001年宇宙の旅』に登場したコンピュータ、HAL9000に影響されたと思われるエピソードがあります。それが『U-18は知っていた』です。

 人間の外科医であるブラック・ジャックがコンピュータを手術するという荒唐無稽な話ですが、そこには「機械であれ人間であれ、命あるものは平等に扱うべき」という手塚の思想が見え隠れします。手塚は戦中派で空襲も経験していることから「命の尊さ」に対して特別な思い入れがあり、それを生涯のテーマにしていた・・・というのはよく語られる話ですが、個人的にはそんな単純な人ではなかったのではないかと思っています。というのも、その「命」を時には残酷に、時には杜撰に扱った作品も数多く存在するからで、そこには手塚の「まずはストーリーありき」「そのためなら命に限らず、あらゆる要素を劇的な効果を求めて躊躇なく利用する」というストーリーメーカーとしての「本性」が見え隠れしているからです。

 キューブリックはストーリーメーカーとしての自分の才能には懐疑的でしたが、ストーリーテラーとしての才能にはある程度自信を持っていたでしょう。それは手塚と同じく「ストーリーのためなら、あらゆる要素を劇的な効果を求めて躊躇なく利用する」という映画制作の姿勢に現れています。キューブリックの場合、それは斬新な撮影技術や映像効果、これぞと思うアイデアに行き当たるまで繰り返されるアドリブ(テイク)の要求であったりしました。

 キューブリックが『2001年宇宙の旅』の制作にあたり、手塚治虫に美術監督のオファーの手紙を出したのはよく知られた話ですが、この時点ではキューブリックは手塚の「未来デザイン力」に期待を寄せていたのでしょう。しかし、手塚の本分は美術デザインでも画力でもなく「キャラの魅力」と「ストーリー」にありました。よく「手塚治虫が『2001年…』に参加していればどうなったか?」という仮定が話題にのぼりますが、『2001:キューブリック、クラーク』を読めばわかるように、そこに美術監督としての手塚の居場所はありません。おそらく圧倒的支配力でダメ出しを出しまくるキューブリックに嫌気がさして、数ヶ月で喧嘩別れしていたことでしょう。

 手塚がキューブリックのオファーを忙しすぎて仕方なく断ったのは、両者にとって幸運だったと思っています。そのおかげで手塚はキューブリックに対して生涯好意的でいられたのですから。それはこの『U-18は知っていた』に限らず、キューブリックネタをいくつか作品内に登場させている事実からも類推できます(注:『時計仕掛けのりんご』は手塚の漫画が映画より先なので、単なる偶然)。手塚はロスに滞在中、同行していた永井豪に「絶対いい映画だから行こう」と『シャイニング』を観に誘ったというエピソードもそれを裏付けています。

 「手塚の本分はストーリーにある」と前述しましたが、手塚が晩年の大作『アドルフに告ぐ』で描き出したシオニズムの正体は、キューブリックが映画化を進めていた『五十年間の嘘』(『アーリアン・ペーパーズ』)でも触れられていました。『2001年…』制作時の美術監督へのオファー、『時計…』で同じ原作に触手を伸ばすなどを考えると、キューブリックと手塚は「相寄る魂」「類は友を呼ぶ」関係であったのは間違いないでしょう。同じくワーカーホリック、同じくクラッシック好き、同じくフィルム好き、同じく生涯を自己表現に捧げた人生、同じく1928年生まれ・・・。手塚はキューブリックに会いたくてアメリカに行くたびに会おうとしていたらしいですが、当のキューブリックはイギリスに本拠を移してしまいました。そして二人とも故人となった現在、天国で「神様」は「巨匠」に会えたでしょうか? そして何を語り合っているでしょうか? くれぐれも「共同作業」だけはしないでいて欲しいですね(笑。

情報提供:U-813さま

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