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【考察・検証】1996年発売の『2001年宇宙の旅』ターナー盤のボーナストラックに収録されている、エルネスト・ブール指揮の『ツァラトゥストラはかく語りき』って何?・・・だから検証してみた

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1996年に発売された 『2001年宇宙の旅』ターナー盤サントラCD(Amazon) ボーナストラックに収録されている『ツアラ…』のクレジットは「Ernest Bour Conducting The Sudwesfunk Orchestra」となっている  1968年に公開された『2001年宇宙の旅』で実質的にテーマ曲扱いだったリヒャルト・シュトラウスの『ツァラトゥストラはかく語りき』。映画で使用されたのはカラヤン指揮、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団、サントラに収録されたのはカラヤン版の権利を持つデッカが拒否したため、カール・ベーム指揮、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団が収録された、というのはファンなら常識レベルの知識です。  ところが1996年にやっとカラヤン指揮版が収録され、決定版としてリリースされた ターナー盤サントラCD のボーナストラックとして収録されている『ツァラ』のクレジットを見ると、表記は「エルネスト・ブール指揮、南西ドイツ放送交響楽団」となっていて、ご丁寧に「オリジナルMGM盤サントラに収録。映画では使用されていない」という注意書きまで添えられています。えっ?オリジナルMGM盤はブール指揮じゃなくてベーム指揮じゃないの? そもそもブール指揮版ってどこから湧いて出てきたの??  なんでこんなややこしいことになってしまったのか。客観的に検証するために演奏の聴き比べだけではなく、波形で比較することにしました。その結果は以下の通り。 「Karl Bohm Conducting the Berlin Philharmonic Orchestra」とクレジットされたCD音源 「Ernest Bour Conducting The Sudwesfunk Orchestra」とクレジットされたターナー盤CD音源  波形の大きさは多少違いますが、全体的な形は同じ。すなわち「同じ音源」です。結論は 「ターナー盤CDのクレジットは誤植で、10曲目のボーナストラックとして収録されている『ツァラトゥストラはかく語りき』は正しくはカール・ベーム指揮、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団」 ということで落ち着きました。長年モヤモヤしていた方、これでスッキリしたでしょうか?私はスッキリしました(笑。  下記の動画で聴き比べると、ベーム版とカラヤン版で大きく違うのはフェードアウ...

【企画作品】キューブリックが遺した『ナポレオン』のプロダクション・ノート

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『ナポレオン』で試作された衣装。左はカタリーナ、右はアンヤ(?)  『ナポレオン』プロダクション・ノート 1968年11月22日 ●上映時間 180分 ●撮影 1日平均1.3分 ●スケジュール 150日(移動のため10日間のロスがあります) ●開始日 1969年7月1日~9月1日の間 ●スケジュール 日数/制作の種類/国 30日/戦闘・行軍/ユーゴスラビア 40日/ロケーション・エクステリア/ユーゴスラビア 40日/ロケーション・インテリア/イタリア 30日/フロントプロジェクション/ユーゴスラビア 10日/移動日 合計150日 ●トリートメント  15シークエンスで、1シークエンスあたり平均約12分となります。最終的に180分になります。 ●費用  スペクタクル映画の最大の割合を表すコストの4つの主要なカテゴリは次のとおりです。 1. 大量のエキストラ 2. 大量の軍服 3. 大量の高価なセット 4. 高額な映画スター  『ナポレオン』では、この4つのカテゴリーを経済的に有利な方法で処理することで、予算を大幅に削減し、クオリティや規模、内容を損なうことなく、当初の想定よりもはるかに低いコストで映画を制作することが可能になると考えています。 ●エキストラ  イギリスでの衣装を着たエキストラの1日あたりの費用は19.20ドル、スペインでは14.28ドル、イタリアでは24ドル、フランスでは24.30ドルです。  ルーマニアから1人あたり2ドルで最大30,000人の軍隊を提供するように入札されましたが、最大でも1日15,000人を超えることはありません。  また、ユーゴスラビアから、1人あたり5ドルで同じ数まで提供するという入札を受けました。どちらの価格もより少ない金額に適用されます。  私は個人的に両国の代表者と会いましたが、彼らは皆、主に自国で重要な映画が作られることを非常に切望しています。  彼らはまたドルを手に入れることに非常に非常に興味があり、彼らが自国の通貨で支払うことができるサービスと人的資源に対し、非常に寛大な取引を私たちに与えることができるので、彼らが受け取るドル相当額とはほとんど関係がありません。この点で彼らは独占的にお金をドルに交換する場合とほぼ同じような取引の自由を持っています。  これに関する彼らのパフォーマンスの効果的な保証、または社会...

【関連記事】『アイズ ワイド シャット』で当初ジーグラー役にキャスティングされていたハーヴェイ・カイテルが降板した本当の理由

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Harvey Keitel(wikipedia) スタンリー・キューブリックの遺作となった『アイズ ワイド シャット』をめぐる神話を否定する 〈中略〉 1. 神話:ハーヴェイ・カイテルはスケジュールの都合でこの映画から去った ハーヴェイ・カイテルは当初、トム・クルーズ演じる主人公の友人役で出演していたが、撮影の途中で彼の役が変更され、裕福で謎めいたヴィクター・ジーグラーをシドニー・ポラックが演じることが発表された。公式にはキューブリック監督はいくつかのシーンを撮り直す必要があり、カイテルは他の撮影の都合で参加できなかったため、役を変更してすべてのシーンを新たに撮影することに決めたとされている。 真実:カイテルの降板はスケジュールの都合ではなく、実はキューブリック監督自身との個人的な確執の結果だった。撮影中に俳優と監督が仲違いし、キューブリック監督は結局、彼をプロジェクトから完全に外すことになった。2016年のアンドリュー・マーとのテレビインタビューで、カイテルはキューブリックが自分を解雇したことを認め、撮影現場で監督から無礼な扱いを受けたと感じたという。 〈以下略〉 (引用: AnOther/2019年7月30日 )  どうせそんなことだろうと当時から言われていて、結局はその通りだったわけですが、キューブリックの「前もってシーンを決めず、テイクを重ねながらより良いシーンを作っていく」というやり方は、時間もかかるし俳優に負担を強いるものでもあるので、カイテルのような奔放系(?)な役者とはソリが合わなさそうな感じがあります。まあ、キューブリックもその奔放さから現場で「新しい何か」が出てくることを期待してキャスティングしたのかも知れませんが、「これでどうだ!」と言わんばかりの演技をして、冷静に「もう一回」などと言われて「なんて無礼な奴め!」と険悪なムードになった・・・のかも知れませんね。  ただ、カイテルのジーグラーだとタフ過ぎてラスボス感が強すぎるような気がします。シドニー・ポラックの小物悪党感が、終始緊張感にあふれるこの作品にいい「癒し」になっているので、個人的にはポラックで良かったと思っています。

【ロケーション】『アイズ ワイド シャット』でビルに色目をつかうクラークが務めるホテルの外観モデルになった『ワシントン・スクエア・ホテル』

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  ワシントン・スクエア・ホテルで映画の歴史にチェックイン 〈前略〉  おそらく、ワシントン・スクエア・ホテルと関係のある最新の興味深い映画の1つは『アイズ ワイド シャット』(1999)です。映画界の伝説的人物スタンリー・キューブリック(『2001年宇宙の旅』(1968年)『時計じかけのオレンジ』(1971年)『フルメタル・ジャケット』(1987年))が製作と共同脚本を担当したこの映画は、実際でもセクシーな俳優カップル、トム・クルーズとニコール・キッドマンが主演しましたが、2年後に離婚することが広く報じられました。エロティック・ミステリーや心理的なドラマとして説明されているこの映画には、架空の「ホテル・ジェイソン」が登場します。Wikipediaによると、ホテルの外観やその他のグリニッチ・ビレッジの風景は、キューブリックの完璧主義者の基準により英国のロンドンのパインウッド・スタジオでリアルに再現されました。ワシントン・スクエア・ホテルにインスパイアされたキューブリックは、実際にマンハッタンにクルーを派遣して道の幅を測り、自動販売機の場所をメモして正確にシーンを再現しました。悲しいことに、キューブリックはワーナー・ブラザースに最後のカットを提出してからわずか6日後に亡くなり、これが彼の最後の映画になりました。 〈以下略〉 (引用元: ワシントン・スクエア・ホテル公式ホームページ )  『アイズ ワイド シャット』でビルに色目をつかうクラーク(アラン・カミング)が勤めているホテルは劇中では「HOTEL JASON」となっていますが、実は「ワシントン・スクエア・ホテル」を外観モチーフとして建てたセットです。キューブリックは実在するものをコピーしてセットを組むことが多いのですが、それは「まるっきりの空想で作ったものは説得力がない」という信念に基づくからです。キューブリックは乱雑に本が積まれたベッドサイトテーブルの資料写真を見て、「どんな美術スタッフでもこんな風には作れない」と語っています。  そのモチーフになったワシントン・スクエア・ホテルですが、キューブリックが若い頃、チェスで日銭を稼いでいたワシントン・スクエアの角にあります。ひょっとしたらキューブリックはこのホテルの存在をすでに知っていて、第二班に資料写真を撮らせに向かわせたのかもしれませんね。そしてそれは、...