【スペシャルレポート】シネ・リーブル池袋にてNTLive『博士の異常な愛情』を鑑賞してきました
以前こちらで告知したNTLive(ナショナル・シアター・ライブ)『博士の異常な愛情』をシネ・リーブル池袋にて鑑賞してきましたのでその感想を記してみたいと思います。
まず「演劇を映像に収録してそれを世界各国の映画館で上映する」(詳細はこちら)というアイデア。その場で演じられるライブ感を楽しみたいコアな演劇ファンはどう思っているかはわかりませんが、個人的には好意的に思いました。なにしろ海外で上演された演劇を日本でそのまま観る方法はほぼなく、日本人俳優によるローカライズがせいぜいです。それに演劇鑑賞は鑑賞者にある種の緊張感を強いてきます。もちろんそれが好きという方もいらっしゃるとは思いますが、映画ファンにとって敷居が高いのも事実。そういった「懸念」を全く感じさせることもなく、本国で上演された演劇をそのまま映画館で気軽に鑑賞できるという意味では、非常に有意義な試みだと思いました。
さて、肝心の本編ですが、もちろんあのキューブリックの名作を演劇に落とし込む際、様々な制約があったことは理解できます。さらにこの作品は主演のスティーブ・クーガンが、ピーター・セラーズが演じたストレンジラブ博士、マフリー大統領、マンドレイク大佐に加え、ピーターが演じるはずだったコング機長まで演じています。それによってもたらされた制限・制約は非常に多く、それを回避するために採られた方法に100%同意できるかといえば、やはりもっとやりようがあったのではないか?と感じてしまいました。つまり、テンポの悪さが気になったのです。また、リッパー将軍やタージドソン将軍の演技に「狂気成分」が足らないな、とも感じました。もちろん現代におけるコンプライアンス的な問題があったのかもしれませんが、映画版のスターリング・ヘイドンやジョージ・C・スコットのキレッキレの演技を見慣れている目にはそう映ったのも事実です。
ですが、全体的には非常に満足できました。確かに映画版のような狂気成分は薄めですが、コメディ要素を増やした分、何度も声を上げて笑うことができました。映画版は狂いすぎてて「笑うに笑えない」ですからね。それに付け加えられた昨今の国際情勢ネタ、特に「おそロシア」ネタには大爆笑。ラストシーンも「こうくるか・・・笑」と謎の感動があり、おおいに楽しませていただきました。
そして何よりもキューブリック・リスペクトが嬉しかったです。名シーン、名セリフ、登場曲は全て網羅されていたと思います。おそらく俳優もスタッフもこの作品が大好きなんでしょう。決して舞台向きとは言えない(特にB-52のシーン)内容ですが、半ば力技で解決したのも「この作品を作りたい、演じたい」という熱意の賜物。それ故の原作リスペクトなのだろうと思います。キューブリックの関係者では、宣伝用スチールを撮影したマニュエル・ハーラン(キューブリックの義理の甥、義弟ヤン・ハーランの息子)しか参加していませんが、マニュエルを招聘したのも制作者サイドのキューブリック・リスペクトあってのことだろうと思います。
気になるのは入場料金が一般的な映画鑑賞よりお高めな点。ですが、その価格に見合うだけの面白さはあると思います。ただし、映画版を履修済みであることが絶対条件でしょう。もちろんこのブログをご覧になっている方にはいらぬ心配ですが、もし同伴者が履修していないのなら、まず履修することをお勧めいたします。有償ですがアマプラにありますし、無料ならU-NEXTの31日間無料トライアルを使う方法があります。パンフレットはありましたが、内容は薄めです。1,100円の価値があるかどうかは微妙ですが、記念に買っておくのはありでしょう。私は買いました。
最後にNTLiveの今後について期待を込めて語っておきましょう。キューブリック作品では『時計じかけのオレンジ』『シャイニング』が既に舞台化済みですが、映像に収録されているかどうかは不明です。特に『時計…』は人気作品で過去に何度か舞台化されています。『シャイニング』も評判は良かったようですし、今後NTLiveの取り組みが広がれば「海外(英国)でキューブリック作品が上演された=日本の映画館で観れるかも」という期待が膨らみます。それにはこの『博士…』の成功が興行主に対して大いなる刺激となるでしょう。そういう意味でも、このNTLive『博士の異常な愛情』を大プッシュさせていただきます。ぜひ、この機会を逃さず劇場でお楽しみください!!