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【関連記事】抽象的で理解の難しい『2001年宇宙の旅』が世に残り続ける理由

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2001: A Space Odyssey(IMDb) <1968年に公開され、世界を驚愕させたキューブリック監督の『2001年宇宙の旅』。説明が足りないからこそ宇宙への畏怖を僕は実感した> 3カ月ほど前からChatGPTを使い始めた。遅い。自分でも思う。いつもこうだ。人より遅れる。鈍いのだ。気付けばみんなはずっと前を走っている。 でも周回遅れで集団から離れるからこそ、見えたり発見できたりすることがある。 〈以下略〉 (引用: ニューズウィーク日本版/2025年08月21日 )  映画監督の森達也氏によるコラムです。論に特に目新しいものはありませんし、さんざん語り尽くされてきたことを繰り返しているだけに思えますが、それでも公開から半世紀以上経た現在もなおこうしてこうして語り継がれ、記事にされるということは素晴らしいことです。ですが、やたら特撮だったり未来予想だったり、難解(説明不足な)ラストシーンについての話題ばかりで、肝心のテーマについては今も昔も(一般層に)理解が進んでいないな、と感じるのは私だけではないでしょう。それは記事にある通り、 キューブリックは、人間の最大の問いをラストに提示した。われわれはどこから来たのか。何者なのか。どこへ行くのか。 という「人類のレゾンデートル(存在意義)への問いかけ」だったのですが、それを「神(宇宙)視点で描いた」点にこの作品の偉大さがあるのです(ちなみにクラークは小説版を「人類視点」で描いている)。  そういう意味で本作品は「永遠に越えられないSF映画の金字塔」と言われているのですが、それが必ずしも「特撮」や「未来予想」を指しているわけではない(もちろんそれはそれで素晴らしいのですが)、という事実をもっと多くの人に知ってほしいですね。

【原作小説】Amazon Kindleにサッカレーの小説『バリー・リンドン』が新訳で登場。しかも398円の超破格値!

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バリー・リンドン: アイルランド落ちぶれ貴族の波乱万丈の生涯 (Amazon)  状態にもよりますが、当時460円の角川文庫版・深町眞理子訳の小説『バリー・リンドン』が4000円程度からとプレミア化している現在、なんとAmazon Kindleに19世紀堂書店より『バリー・リンドン: アイルランド落ちぶれ貴族の波乱万丈の生涯』として登場しています。しかも読み放題のkindle unlimited加入なら無料、購入でも398円と破格の安さ!  では、その新訳のデキはどうなのかというと、比較は以下の通り。 第1章 我が家系と家族優しき情熱の影響を受ける 情熱  アダムの時代以来、この世で起こった災厄のほとんどには、 必ずと言っていいほど女性が関わっている。 我 がバリー家が家系として存在し始めた時(それはアダムの時代にほぼ近いほど古く、 誰もが知るように高貴で由緒ある家柄である)から、 女性たちは我が一族の運命に多大な影響を与えてきた。  ヨーロッパ中で、 アイルランド王国のバリー・オブ・バリューグ家の名を知らぬ紳士はいないだろう。 グウィリムやドジエの記録にもこれほど有名な家名は見当たらない。 世慣れた者として、私は靴磨きの下僕同然の系図しか持たない成り上がり者たちの高貴な血統主張を心底軽蔑し、 アイルランドの王族の末裔だと吹聴する同胞たちの自慢話を嘲笑するが、 真実を述べるなら、 我が家系はこの島で最も高貴であり、おそらく全世界でもそうであった。 戦争、裏切り、 時の流れ、 祖先の浪費、 古い信仰と君主への忠誠によって、今は 取るに足らないほど縮小した我が家の所領も、かつては驚くほど広大で、アイルランドが現在よりはるかに繁栄していた時代には多くの州を包含していた。 私は紋章にアイルランド王冠を掲げたいところだが、それを称し陳腐化させている愚かな詐称者があまりにも多い。  女性の過ちがなければ、 今頃私はその王冠を戴いていたかもしれない。 あなたは疑いの目を向けるだろう。 なぜ不可能だと言える?もしリチャード2世に膝を屈した腰抜けどもではなく、勇敢な指導者が我が同胞を率いていたなら、 彼らは自由の身となっていたかもしれない。 残忍なならず者オリバー・クロムウェルに対抗する決然たる指導者がいたなら、 我々は永遠にイギリスの軛を振り払えたはずだ。 しかし僭称者に対抗するバ...

【ブログ記事】キューブリックの三女ヴィヴィアン、CIA職員が「スタンリー・キューブリックを殺したのは私だ」とのTPVショーンのポストに「卑猥な嘘をでっち上げ」と大激怒!

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CIA職員、臨終の告白「スタンリー・キューブリックを殺したのは私だ」  スタンリー・キューブリックは映画を作っただけでなく、真実を暴いた。彼の遺作となった『アイズ ワイド シャット』は、エリート層の儀式の仮面を剥ぎ取り、編集版を提出してからわずか数日後に彼は亡くなった。  公式には心臓発作によるものとされたが、あるCIA職員は臨終の場で、上層部の命令による暗殺だったと告白した。  彼は、私たちが見た『アイズ ワイド シャット』はキューブリックの構想を歪めたバージョンだったと明かした。ナレーションは切り取られ、シーンは丸ごと削除され、エリート層の小児性愛ネットワークを暴くぞっとするようなサブプロットは編集室の床に埋もれていたのだ。 (引用: X@tpvsean/2024年8月19日 ) 父の死について、人々が狂気じみた嘘をでっち上げるのを止める術はない  @TPVSean の「報道」と、その生々しい「臨終の告白」を、私は無理やり最後まで見届けた。そこに真実があるのか​​どうか疑ったからではない―真実などない―ただ、反応する価値があるかどうか判断しなければならなかったからだ。  そこで、残酷なセンセーショナリズムよりも真実を重視する皆さんへ、私の反応を述べる。  父の死に関する何かを見るのは、いつも奇妙で非現実的で不安な体験だ。私自身も、父の死を悼み、深く悲しみ、苦しむ記憶を心に刻み、26年経った今でも涙を流す。そして、その場に居合わせたわけでもなく、父を知らず、何の繋がりもない、堕落した人々が、父の死因について卑猥な嘘をでっち上げている。  まるでマルウェアのように、父の死の真相に紛れ込んでいる。  ショーンが投稿した記事は、父の死に関する長年の陰謀論であり、全く真実ではない。しかし、そこに、人間によるマルウェアとしか言いようのない、忌まわしい例が付け加えられている。歪んだスリルを求める者が、父の人生に紛れ込もうとする、実にグロテスクな試みで名声を得ようとしているのだ。  見知らぬ男が留守番電話に、あなたの父を残酷に殴り、惨殺し、心臓を引き裂いたと告白する。嘘だと分かっていながら、それでもあなたはその残酷さとサディスティックな意図を受け止めざるを得ない。この臨終の懺悔者は、死者を搾取し、同時に悪意に満ちた嘘で生きている者を苦しめることを知りながら、堕落した自慰行為を行...

【関連記事】リドリー・スコット「『2001年宇宙の旅』以降、SFは死んだ」

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Ridley Scott(IMDb)   2007年のベネチア国際映画祭で、彼の代表作であるノワール・スリラー映画「ブレードランナー」の特別上映会でのスピーチで、 「エイリアン」の伝説的監督、リドリー・スコット卿は、SFというジャンルは西部劇と同じ道を辿り、すでに死んでいると考えている、と発表した。  スコットは、デイリー・ギャラクシーの私たちと同様に、映画『マトリックス』『インデペンデンス・デイ』 『宇宙戦争』といった大作の派手な特殊効果は興行収入では売れるかもしれないが、スタンリー・キューブリック監督の1968年の忘れがたい大作『2001年宇宙の旅』に勝るものはないと考えている。この映画は、公開当時と同じくらい新鮮で(そしておそらくより現代的でもある)、今日でもなお健在だ。 〈中略〉  「独創的なものは何もありません。私たちはこれまで全てを見てきました。そこに行き、やり遂げてきました」とスコットは言った。  アメリカとソ連の「宇宙開発競争」が最高潮に達した時期に制作された『2001年宇宙の旅』は、悪意あるコンピューターと日常的な宇宙旅行が蔓延する世界を予見していました。キューブリックは細部にまでこだわり、宇宙船の設計にはNASAの専門家を起用しました。  リドリー卿は、『2001年宇宙の旅』は照明、特殊効果、そして雰囲気の使い方において「最高傑作」だと述べ、それ以降のSF映画はすべてこの作品を模倣、あるいは参考にしてきたと付け加えた。「現代のSF映画は特殊効果への過度の依存と、ストーリー展開の弱さが見られます」と彼は述べた。 〈以下略〉 (引用: THE DAILY GALAXY/2009年7月10日 )  かなり古い記事ですが、リドリー・スコットが刺激的なことを言っていたのでご紹介。この発言は2007年のベネチア国際映画祭のものですが、2025年現在、この発言を覆すほどの傑作SF映画が誕生したかと言えば・・・やはりそうとは思えません。リドリーが言うように「特殊効果への過度の依存と、ストーリー展開の弱さ」の問題は解決していないように見受けられます。もちろんそれなりの「良作」は頭の中にいくつか浮かびますが、それらが『2001年…』に並ぶ、もしくは超えるものなのかと問われば・・・やはりイエスとは言えないと思います。無論そんな現状をわれわれ映画ファン...

【ブログ記事】スケジュールも予算も守れず、際限なくテイクを繰り返すキューブリックは「無能監督」か?

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Stanley Kubrick(IMDb)  キューブリックは『時計じかけのオレンジ』以降の作品を全てワーナー・ブラザースの資金提供で製作していますが、それはワーナーが映画の内容と予算とスケジュール管理をキューブリックに一任するという、映画監督としては「破格の条件」を提示していたからで、例えば脚本や撮影中のラッシュフィルムを見せる見せないや、初号試写などもキューブリックの裁量で自由にできました。つまりワーナー側からすれば「キューブリックのやることに一切口出しできない」という、かなり不利な条件を呑んでいたということになります。それは裏を返せば「キューブリック作品は必ず利益を生む」という信頼であり、そしてキューブリックはほとんどの作品でその信頼(利益を出すこと)に応え続けていました(『バリー・リンドン』はかなり厳しかったようですが)。これは現在においてもスタジオ側がこれだけ映画監督に裁量権を与えることはなく、非常に稀有な例と言えるもので、この点を理解しておかないとキューブリックの映画製作のスタンスを完全に見誤ってしまいます。  例えば「テイクを際限なく繰り返すのは監督があらかじめビジョンを確立していないから」「スケジュール管理ができていない監督なんて無能」という批判です。これは、スタジオ側(出資側)に映画製作の権限を握られている場合には当てはまりますが、キューブリックの場合には当てはまりません。なにしろ何をどう撮ってどれだけ時間をかけるかはキューブリックの自由なわけですから、予算とスケジュールに縛られる一般の映画監督とは立場が全く異なるわけです。確かに監督がその作品のビジョンをあらかじめ確立しておき、予算やスケジュール通りに撮るというのは優秀な監督の条件ではありますが、それは予算やスケジュール、もっと言えば出資者側の(映画の内容に立ち入る)横槍にも振り回されるということであり、それはもう作家ではなく単なる専門職ということになってしまいます。つまりその認識だと「優秀な映画監督」とは「優秀な専門職人」であると言っているのと同義です。  もちろんどんな映画監督でも専門職人ではなく「作家」でありたいと努力しているとは思いますが、出資者側の権限が強い映画界では「ただの専門職」に成り下がってしまっているのが現状です。そんな映画界の悪しき常識の範疇でしかキューブリックを語れない(また...

【関連記事】『ロリータ』の暗部。主演の少女女優の処女を奪ったプロデューサーのジェームズ・B・ハリスとその後のスー・リオンの人生

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『ロリータ』のセットでのハリスとスー。この写真を撮ったキューブリックは、この時すでに二人の関係を知っていたのかも知れない ハリスとスーが『ロリータ』で共演した演劇のシーン。画像一番左がハリス スーの最初の夫、ハンプトン・ファンチャー。結婚期間は1963年12月〜1964年12月 『ロリータ』の暗部  スー・リオンがこの映画に出演した時、彼女は14歳だった。プロデューサーはいずれにせよ彼女と寝たのだ。 サラ・ウェインマン著 2020年10月24日   1996年、エイドリアン・ライン監督による新作『ロリータ』の映画化が発表されると、スタンリー・キューブリック監督の1962年作品で主演を務めたスー・リオンが長年の沈黙を破って登場した。当時15歳だった新ロリータ役のドミニク・スウェインより(撮影当時)1歳年下のリオンはこう語った。「私の人間としての破滅は、あの映画に端を発しています。『ロリータ』は、あの年頃の少女が経験すべきではない誘惑に私をさらしました。14歳でセクシーなニンフ役でスターダムに駆け上がった可愛い女の子が、その後も安定した道を歩み続けられるとは到底思えません。」  そして、15歳のリオンは、この「成人向け映画」のロサンゼルスとニューヨークでのプレミア上映への出席を禁じられた。  『ロリータ』はリオンをスターにした。それはまた、ナボコフのニンフ(注:ニンフェット〜妖精的美少女)が経験したような破滅の始まりでもあった。彼女の未来は、数十年にわたる精神的不安定、5度の結婚、最終的に捨て去ることになる子供、そして長引く肉体の衰えと、2019年に73歳で亡くなるという結末を迎えた。リオンは自身の「破滅」の原因は初期のスターダムにあったと主張したが、撮影中に起こり、そして彼女を破滅させたのは、プロデューサーのジェームズ・B・ハリスとの性的関係だったという噂が長く囁かれていた。もしリオンの破滅が『ロリータ』から始まったとしたら、たった一人の人間がこれほどのダメージを与えた可能性はあるのだろうか? 『ロリータ』以前のリオン  リオンは『ロリータ』のオーディションを受けるつもりはなかった。幼なじみの親友ミシェル・ギリアム(後にママス&パパスのフィリップスとなる)とモノポリーに興じている最中、フィリップスの記憶によれば、リオンの母親が真新しいドレスと靴下を持って飛び込...