【考察・検証】キューブリックの字幕や吹替に対するスタンスを検証する







セリフや声優のキャスティングなど様々な意見はあるかと思いますが、管理人個人としてはリリースしてくれたことに価値があると思っていますので、評価は避けたいと思います。

 幻とされていた『フルメタル・ジャケット』の日本語吹替版BDがリリースされ、話題になっています。『フルメタル…』の日本公開は1988年3月ですが、ちょうどその頃のキューブリックのインタビューがありましたので、ここに一部抜粋して引用してみたいと思います。

 (外国語版は)できる限り最高のメンバーに依頼する。ダビング(吹替)版なら、最高のライター、最高の監督に、最高の俳優。スペイン語版でカルロス・サウラに頼んだこともあるよ。スーパーインポーズ(字幕)版、私はこの方が良いのだが、ダビング(吹替)版主体の国が多いのが現状だ。興行者が主張するから仕方なく作ってはいるが。スーパーインポーズ(字幕)版では、英語の話せる優秀な翻訳者に頼むのが第一。今、ドイツ語版では優秀な翻訳者がいる。ジャーナリストだが。日本ではスーパー主体だね。

〈中略〉

 なにしろ日本語のシンタグム(構文法)は、我々(欧米人)には普通じゃない。


 以上のように、キューブリックは外国語版にもチェックを怠らなかったのですが、ポイントは2つ。

(1)キューブリックは吹替版より字幕版を好んでいた

(2)字幕であれ、吹き替えであれ優秀な翻訳者にオファーする

となるでしょう。

(1)は吹替が当たり前のアメリカ生まれ、アメリカ育ちのキューブリックにしては意外な感じもしますが、それだけセリフに込めた意味を重要視していたのでしょう。

(2)は、コントロールフリーク(原田氏談)のキューブリックらしいこだわりで、自分が認めた優秀な人材であれば専門の翻訳家でなく、映画監督でもジャーナリストでも構わない、ということでしょう。つまり専門家の「誤訳の女王」はキューブリックのお眼鏡には叶わなかったんですね。

 キューブリックの人材登用の特徴は、優秀であれば専門外の人材でも積極的に採用する点です。役者でさえ素人(『2001年…』の地上管制官、『シャイニング』のバスルームの美女、『フルメタル…』の少女狙撃兵など)を採用するくらいです。脚本も専門の脚本家に頼まず、小説家(もしくは小説家兼脚本家)にオファーするのが常でした。理由は「専門家の手慣れた仕事(手抜き)を嫌がった」「素人の新鮮なアイデアに期待した」などいろいろ考えられますが、どちらにしてもその「素人」がそれ相応の才能や技能を持っていないと相手にしなかったようです。そうやって冷徹に人を切り捨てる態度に立腹した俳優やスタッフも数多く、そのことが多数の敵と、彼らが吹聴する悪口が、誤解や偏見を生む土壌になったと言えるでしょう。

 そんな誤訳の女王は『アイズ ワイド シャット』でクルーズとキッドマンが来日した際、二人の間に割って入ってニコニコとカメラマンのフラッシュを浴びておりました(怒。「使えない奴に限って目立ちたがり屋」みなさんの周りにもほら、心当たりがありませんか?(笑。

TOP 10 POSTS(WEEK)

【関連記事】「十代のキューブリックがニューヨークの地下鉄であなたの祖母を密かに撮影したのでしょうか?」キューブリックのルック社時代の写真『地下鉄シリーズ』、新たに18枚のプリントが見つかる

【考察・検証】キューブリックはなぜ『2001年宇宙の旅』の美術デザインを手塚治虫に依頼したか?また、もし参加していればどうなっていたか?を検証する

【考察・検証】作品タイトルを『短期除隊兵(ショート・タイマーズ)』から『完全被甲弾(フルメタル・ジャケット)』に変更したキューブリックの真意とは

【台詞・言葉】ハートマン先任軍曹による新兵罵倒シーン全セリフ

【ブログ記事】スタンリー・キューブリックが遺した約1万6千枚もの写真がネット上に公開中

【考察・検証】キューブリックの死因にまつわる噂について

【考察・検証】『2001年宇宙の旅』に登場したコンピュータ「HAL9000」の変遷と「IBM→HAL説」の真偽を検証する

【関連書籍】戸田奈津子 金子裕子著『KEEP ON DREAMING』で語った、『フルメタル・ジャケット』翻訳家降板事件の戸田氏の言い分

【関連記事】イラストレーター、フィリップ・キャッスル(スタンリー・キューブリック監督作品のポスターデザイナー)へのインタビュー

【考察・検証】『アイズ ワイド シャット』の儀式・乱交シーンについてのスタッフの証言集[その1]儀式シーンのリサーチについて