【関連記事】『バリー・リンドン』のライアン・オニール、伝説的映画監督スタンリー・キューブリックについて語る

1970年頃のライアン・オニール(wikipedia - Ryan O'Neal

 〈前略〉

—『バリー・リンドン』を何度も見直すのは楽しいですか?

 私はいつも再見しているわけではないよ!。でも、みんなが覚えていてくれるのは嬉しいね。

—どのように覚えているのですか?

 試練としてだね!まだ誰にも言われたことがないのか?自分を彼に委ね、いつか彼が自分を解放してくれることを願ってたね。1年半(の仕事)かかったよ。

—その若さで、このような偉大な監督のもとで働けたことは良かったのではありませんか?

 ああ、私は持続性があったからね。演じることができたんだ。彼はたくさんのテイクを撮ったよ。代役を立てないんだ。照明に時間がかかるんだ。だから、彼が火をつけるまでに、新しい仕事のリズムを学ぶことができたんだ。

—キューブリック監督はたくさんの蝋燭の明かりを光源として使っていました。その分、火をつけるのは簡単だったのでしょうか、それとももっと複雑だったのでしょうか?

 そうだな、時には蝋燭が全部溶けて100本必要になったこともあったよ。テイクが取れないと新しい蝋燭から始めなければならなかったんだ。キャンドルは芯が3本あるので、吹き消すのが大変だった。私は全部消えるまで吹き消すのを手伝ったもんだよ。

—誰かが『バリー・リンドン』を「ほとんど何も起こらない映画」と評しましたが、それは正確には正しくありません。戦闘シーンやケンカはありました。何もない映画だと思いましたか?

 そうだな、それは鋭い質問だね。私にとっては平穏ではなかったよ。彼らは私を削り取っていったよ。彼(キューブリック)が何をするつもりなのか分からなかった。私は1年間、映画を観なかった。観るに耐えない状態だったんだ。そして、自分が何を観たのかよくわからなくなった。とてもユニークな作品だ。スタンリーは愛すべき男で、みんな彼を愛してたよ。私たちは彼に夢中だった。彼が望むことは何でもやってみようとした。俳優だけでなく、みんながそうだった。彼は私たちの神様だったんだよ。

—彼はあなたに多くのことを期待したと言われていますが、彼自身はそれ以上に多くのことを期待していました。

 まずは音響の仕事、そして演出と手一杯だったよ。彼は逝ってしまった。彼が死ぬとは思っていなかった。彼は永遠に生き続けると思っていたんだ。

—何年も経ってからこの映画を振り返ったとき、あの試練を乗り越えてよかったと思いますか?

 ああ、そうだね。私はここにいないだろうからね!

—あなたは時代劇映画を何本も撮っていますね。そのような映画で好きなことは何ですか?

 ああ、その時代を知らなくても大丈夫だ。衣装を着ると、突然「わかった!」となるんだ。『ペーパームーン』では、ジョージ・ラフトのスーツを着ていたんだ。ジョージ・ラフトがどんな奴かわかるんだ。私はいくつかの時代劇をやったことがあるよ。

—スタンリー・キューブリックは、シーンとシーンの間にメモを書き、その後脚本を何度も変更したと言われています。それは本当ですか?

 私の母と一緒に橋の上で作業していたのを覚えているよ。セリフがうまくいっているかどうかわからないところがあったんだ。サッカレーの『バリー・リンドン』の原作本を手にしていた。彼はその本を開いて、私たちが撮影していたものの正確なページを開き、「私が開いたのは正しいページだから、ここにあるものを撮影しよう」と言ったんだ。彼は偶然に希望を抱いていたんだよ。

—『バリー・リンドン』以外に、スタンリー・キューブリックの映画で好きなものはありますか?

 今朝『ロリータ』を観たよ。あれは面白いものがあったね。時代を先取りしていたね。今でもそうでだ。彼のモノクロ映画はどれも良かったよ。

—映画製作から学んだ最も価値あることは何だと思いますか?

 いい給料をもらったよ!私の契約は約18週間だったけど、18週間後に(脚本が)4ページほどしか完成していなかった。残業になりそうだった。彼は私に「お前はいくら稼いでいるんだ?トラックの荷下ろししなくていいのか」って。私は「えっ! こんな格好で?」

—では、撮影はどのくらいだったのでしょうか?

 350日くらいかな。実際にそこに滞在したんだ。実は、IRAのメンバーから電話で脅されて、アイルランドから追い出されたんだ。早く出られるなら、何ヶ月も前に自分で電話して脅しをかけていたよ!

—それで、どうしたんですか?

 娘のテータムを連れてパリに行ったんだ。24時間以上いなかったんだけど、イギリスに拠点を置くから戻ってこいと電話があったんだ。その翌週の月曜日には、イギリスのバースで仕事に戻ったよ。キューブリックも良いプロデューサーだったよ。テイク数を多く撮っていたけどね。

—1つのシーンを何テイクも撮ることについては、どのようにお考えですか?

 (監督の)アーサー・ヒラーとは一緒に仕事をしたが、彼はたくさんのテイクを撮った。でも、スタンリーとは違うんだ! 平均して1ショット30テイクだった。なぜ彼がそのようなことをするのか私は理解できなかったよ。撮っても撮っても2テイク目を使われるんだ!

—キューブリックは撮影現場でとても面白い人だったという話がありますね。

 こういうことだよ。スタンリーは私たちに自分のことを絶対に話さないようにと懇願してきたんだ。彼の控えめな性格なのか、それとも自分のプライバシーをとても大切にしていたのか分からないけど。撮影現場には広報担当者もカメラマンもいなかったんだ。写真が欲しければ、映画のワンシーンを切り取るだけだと言ってたよ。

—この映画から学んだことで、後に他の作品に生かされたことはありますか?

 そうであったことを祈るよ!彼が僕をより良い俳優にしてくれたかどうかは分からない。それ以来、下り坂を転げ落ちるようになったような気がする!

—アーサー・ヒラーやピーター・ボグダノヴィッチなど、多くの優れた監督と仕事をされていますね。偉大な監督には何か共通点があるのでしょうか?

 彼らは非常に知的だ。それには助けられた。直感が鋭い。撮影現場で金髪美女にひっかからないからね!

(引用:Showbiz Junkies/2014年12月1日




 ライアン・オニールの素行の悪さの記事はこちらに譲るとして、やはりあまり性格が良さそうではありませんね。まあそれはドキュメンタリ-で登場した時も感じることではあるんですが。それにキャリアが下り坂になったのは間違いなく自分のせいです。

 苦々しく語りながらもどこか憎めないライアン・オニールですが、まあそれはともかく、撮影に使った蝋燭は芯が3本あったんですね。もちろん輝度を上げて明るくし、蝋燭光だけの撮影をやりやすくするためだったと思うのですが、特注で蝋燭を作らせてまで蝋燭だけの撮影にこだわったのは、やはり広告・宣伝上の理由があったとしか思えないですね。気づかれない程度に補助光を使えばもっと簡単に撮影できたはずですから(その考察はこちら)。

 キューブリックが撮影現場に脚本ではなく原作小説を持ち込んでいた話はよく聞きます。『2001年…』では脚本なしで撮影しようとしていたらしいですが、本人も脚本を「想像力を刺激しないシロモノ」とか言っています。もちろん脚本がないとロケ地選定やセットの建て込み、プロップ制作もままならないので現実的ではないのですが、「脚本は叩き台、撮影は出たとこ勝負」というのはキューブリックを語る上で欠かせない知識です。「紙に書いたものがどうであっても、撮影になるとそれより良いアイデアが浮かぶ」と信じていたキューブリックにとって、相談相手はライアン・オニールの母にまで及ぶのですから、本当に良いアイデアには貪欲だったことが伺えます。

 まあ、そんなやり方をしていたものだから、テイク数は多くなり、撮影期間は延びまくるのですが、そうなると俳優やスタッフはヘトヘトになってしまいます(さすがに長い休憩を取る場合もあったようです)。ですが現場で一番働いていたのはキューブリック本人なんですね。どんな些細なことでもキューブリックは人任せにせず、自分が関わろうとしました。それを周りの人間は知っているからこそ、辛い目に遭いながらもキューブリックに献身的に協力したのです。そしてそれはライアン・オニールがここで語っているように「皆から愛されていた」ということだと思います。

 もちろんそれは撮影だけに限らず、映画製作の全行程においてキューブリックは働きづめでした。そうしたのは、ただキューブリック自身が自作の細かいところまで徹底的にこだわりたかっただけなのですが、「そこまでやるのか・・・」という圧倒的熱量を感じたければ『2001:キューブリック クラーク』をお読みになることをおすすめします。キューブリックの「天才」とは、映画に対する大いなる情熱と、それを突き詰めたいというストイックさがもたらしたものでもある、というのがよく理解できると思います。

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