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  通常キューブリック作品は、ちゃんとした原作があり、それを脚色、映画化するというスタンスを取っているのだが、この『2001年宇宙の旅』に限っては多少事情が異なり、「原作」としては『前哨』を含む何編かのクラークの短編小説がそれに当たるだろう。では、この小説『2001年…』は何かといえば、キューブリックと共同で生みだした全く新しい物語を、クラークが小説に書き下ろしたもの、と言うことができる。現に、クラークは「映画と小説は相互にフィードバックが行われ」、「ラッシュフィルムを観てから小説を書くという、少々贅沢な創作方法をとっている」と言っている。

 だが、前代未聞のこの映画を創るに当たっての、クラークの苦労は並大抵の物ではなく、圧倒的な支配力でダメ出しをし続ける、キューブリックの飽くなき追求に疲労困ぱいだったらしく、完成した(クラークにとって)小説の小説の出版を、キューブリックが「まだ読むヒマがない」として差し止めるに至り、相当なプレッシャー(クラークはこの時点でかなりの借金をし、また、「ポリオ症候群」という原因不明の病気にも蝕まれていた)を抱え込んでいた。結果的には映画も小説も大成功・・・となるわけだが、これ以降、クラークは決してキューブリックと一緒に仕事しようとしなかった。

 そんなキューブリックの強大な干渉の影響もあってか、クラークの他の著作に比べて、この『2001年…』は、明らかに肌合いが異なっており、通常なら人間味タップリに魅力的に描写される筈の登場人物が、妙にサバサバした印象を与えるものになっていたり、出来事を淡々と描写するそのドライな筆致など、キューブリックのフレーバーがそこここに感じられるものになっている。

 どちらにしても、この二人のコラボレーションなくしては、この傑作は産まれることはなかった訳であるし、映画の謎をクラーク側から解説する書としても重要なので、必読に値するのは間違いないだろう。

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