【関連書籍】2001年宇宙の旅/アーサー・C・クラーク 著

  通常キューブリック作品は、ちゃんとした原作があり、それを脚色、映画化するというスタンスを取っているのだが、この『2001年宇宙の旅』に限っては多少事情が異なり、「原作」としては『前哨』を含む何編かのクラークの短編小説がそれに当たるだろう。では、この小説『2001年…』は何かといえば、キューブリックと共同で生みだした全く新しい物語を、クラークが小説に書き下ろしたもの、と言うことができる。現に、クラークは「映画と小説は相互にフィードバックが行われ」、「ラッシュフィルムを観てから小説を書くという、少々贅沢な創作方法をとっている」と言っている。

 だが、前代未聞のこの映画を創るに当たっての、クラークの苦労は並大抵の物ではなく、圧倒的な支配力でダメ出しをし続ける、キューブリックの飽くなき追求に疲労困ぱいだったらしく、完成した(クラークにとって)小説の小説の出版を、キューブリックが「まだ読むヒマがない」として差し止めるに至り、相当なプレッシャー(クラークはこの時点でかなりの借金をし、また、「ポリオ症候群」という原因不明の病気にも蝕まれていた)を抱え込んでいた。結果的には映画も小説も大成功・・・となるわけだが、これ以降、クラークは決してキューブリックと一緒に仕事しようとしなかった。

 そんなキューブリックの強大な干渉の影響もあってか、クラークの他の著作に比べて、この『2001年…』は、明らかに肌合いが異なっており、通常なら人間味タップリに魅力的に描写される筈の登場人物が、妙にサバサバした印象を与えるものになっていたり、出来事を淡々と描写するそのドライな筆致など、キューブリックのフレーバーがそこここに感じられるものになっている。

 どちらにしても、この二人のコラボレーションなくしては、この傑作は産まれることはなかった訳であるし、映画の謎をクラーク側から解説する書としても重要なので、必読に値するのは間違いないだろう。

TOP 10 POSTS(WEEK)

【台詞・言葉】ハートマン先任軍曹による新兵罵倒シーン全セリフ

【考察・検証】キューブリック版『シャイニング』でオーバールック・ホテルに巣食う悪霊の正体とは

【台詞・言葉】『時計じかけのオレンジ』に登場したナッドサット言葉をまとめた「ナッドサット言葉辞典」

【関連記事】1972年1月30日、ザ・ニューヨーク・タイムス紙に掲載されたキューブリックのインタビュー

【関連記事】音楽を怖がってください。『シャイニング』『2001年宇宙の旅』『アイズ・ワイド・シャット』・・・巨匠キューブリックが愛した恐怖クラシック

【考察・検証】『2001年宇宙の旅』に登場する予定だった宇宙人のデザイン案を検証する

【インスパイア】『時計じかけのオレンジ』と「アイドル」に親和性?『時計じかけのオレンジ』にインスパイアされた女性アイドルのPVやMVのまとめ

【関連動画・関連記事】1980年10月24日、矢追純一氏によるキューブリックへのインタビューとその裏話

【関連記事】早川書房社長の早川浩氏、アーサー・C・クラークと一緒に『2001年宇宙の旅』を鑑賞した思い出を語る

【パロディ】『時計じかけのオレンジ』のルドヴィコ療法の被験者にさせられたアニメキャラのみなさまのまとめ