【考察・検証】枕元の仮面のカット割りが持つ意味

  『アイズ ワイド シャット』のラスト近く、アリスの枕元に仮面が置いてあるシークエンスで、一連のカットが(1)ビル深夜の帰宅。(2)アリスの枕元に仮面。(3)ビル寝室に入り、仮面に気付く。の流れになっていた事に対し、「先に仮面を見せたらインパクトが弱い」「カット割りが素人くさい、ミスでは?」等の批判か少なからずありました。ちょっと待って下さい。「何よりも編集作業を好む」、「映画とは編集が全てといっても言い過ぎでは無い」と言っていた編集大好きのキューブリックがそんな初歩的なミスなんかをする筈なんかありません。これは、計算されてやっています。

 理由は(1)『シャイニング』のタイプライターのシーンを想起させる。(2)ここで余りにもショッキングな演出を施すとラストシーンのインパクトが薄れる。の2つではないかと考えます。

 実際、『シャニング』ではウェンディがタイプ用紙を見つめるシーンを粘って見せ、緊張感が最高潮に達したところで「タイプされた文字」を見せる事によって最高の恐怖感を演出しています。この方法論を使う事だってできた筈です。

 でも、実際に採用したのは「先に仮面を見せる」でした。原作では、このあと全てを妻に告白し、寝室で新しい一日の夜明けを迎えたところで終わっていますが、キューブリックはおもちゃ屋のシークエンスを付け加え、ラストを「捨てセリフ一発」で終わらせています。このラストシーンのインパクトを弱めない為にも、あえて前のシークエンスでは、衝撃度を弱める編集をしたのではないでしょうか。

TOP 10 POSTS(WEEK)

【台詞・言葉】ハートマン先任軍曹による新兵罵倒シーン全セリフ

【考察・検証】キューブリック版『シャイニング』でオーバールック・ホテルに巣食う悪霊の正体とは

【台詞・言葉】『時計じかけのオレンジ』に登場したナッドサット言葉をまとめた「ナッドサット言葉辞典」

【関連記事】1972年1月30日、ザ・ニューヨーク・タイムス紙に掲載されたキューブリックのインタビュー

【関連記事】音楽を怖がってください。『シャイニング』『2001年宇宙の旅』『アイズ・ワイド・シャット』・・・巨匠キューブリックが愛した恐怖クラシック

【考察・検証】『2001年宇宙の旅』に登場する予定だった宇宙人のデザイン案を検証する

【インスパイア】『時計じかけのオレンジ』と「アイドル」に親和性?『時計じかけのオレンジ』にインスパイアされた女性アイドルのPVやMVのまとめ

【関連動画・関連記事】1980年10月24日、矢追純一氏によるキューブリックへのインタビューとその裏話

【関連記事】早川書房社長の早川浩氏、アーサー・C・クラークと一緒に『2001年宇宙の旅』を鑑賞した思い出を語る

【パロディ】『時計じかけのオレンジ』のルドヴィコ療法の被験者にさせられたアニメキャラのみなさまのまとめ