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  時折未熟で青臭い作品も混ざってはいるが、なにせキューブリックはこの頃まだ17歳から22歳の若者、それでこのクオリティなのだ。当時関係者に「天才少年」と言われただけの事はある。撮影技術はすこし拙い部分もあるが、その後のキューブリック作品に通低している冷徹でシニカルな観察眼の原点は、すでにここで完成していると見ていいだろう。

 女優や俳優の取材写真など、やらせ系の作品にはあまり感心しないが、それでも構図やアングルなど「キューブリックらしさ」を見て取れる。だが、キューブリックの心髄はやはりドキュメンタリーだろう。シカゴ・シリーズやポルトガル取材、地下鉄、動物園やサーカス、競馬場、公園に集う人々の見るキューブリックの観察眼は決して暖かくない。欲望と落胆、悲哀や悲痛、苦しみ、無常観、疑心暗鬼、不信など、キューブリックは常に人間の「負の側面」にスポットを当てている。有名な猿の檻の向こう側に痴呆的な顔をして並ぶ人間達のショットはもちろん、遊園地にあるハンマーゲームのショットは、手前の力強くハンマーを振り下ろそうとする男の力強さと、得点の柱の上部をトリミングする事による頂点への遠さの対比により、人間の飽くなき欲望の深さを象徴する印象的な作品だ。

 また、その後の映画作品に登場したモチーフが見られるのも本作の特徴だろう。ボクシングの取材が『拳闘試合…』『非情…』として結実したのは周知の事実だが、それ以外でも競馬場(『現金…』)、ピエロ(『時計…』)、猿と人間(『2001年…』)、強大なサイクロトロン装置と科学者(『博士…』)、そして扉に口紅で「I HATE LOVE」と書きなぐった女性の写真はそのまま『シャイニング』の「REDRUM」となった。

 優れた写真とは、その撮影者の視点なりアングルなりの切り口が優れている、という事だ。観光地などで、同じ場所に大量に発生するカメラの砲列に「優れた写真」など写りようもない。キューブリックの原点を確認したいファンにお薦めなのはもちろんだが、画になる被写体を、画になるアングルから撮って、「画になる写真ができた」と喜ぶ浅はかな自称「写真家」達に、刮目して観ていただきたい書としてお薦めしたい。

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