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  前作『2001年宇宙の旅』から9年後、プロジェクトの責任者だったフロイド博士は責任を追求され、閑職に追いやられていた。そんな中、木星に遺棄されたままのディスカバリー号が木星の衛生、イオに落下する事態が明らかになる。丁度その時、木星探査に出発直前だったソ連(当時)のレオーノフ号に乗らないか、とオファーがフロイドの元に来て・・・というストーリー。

 前作小説版『2001年…』より生き生きと喋り、動き廻るキャラクター(HALも含む)達や、SFのダイナミズムに溢れた本作は小説として完成度はかなり高く、一級のSFエンターテイメント作品として楽しめる。舞台が木星である事から映画版『2001年…』の続編として紹介される事が多いが、個人的には描かれた世界観は完全にクラークのものであったり、ボーマンの最期の言葉「星がいっぱいだ」が採用されている事から小説版『2001年…』の続編と考えている。

 この続編小説、当然のように映画化のオファーがキューブリックの元に届くが、キューブリックはこれを固辞、代わりにキューブリック・フォロワーの一人ピーター・ハイアムズが『2010年』として映画化し、そこそこの成功を収める。ハイアムズには「自分の映画にしてください」と好意的だったが、完成作を観たキューブリックは「あいつら全部説明してしまいやがった!説明した途端に全ての意味は失われるのに!」とご立腹だったそうだ。

 非常に明快に書かれたこの小説によって、あの映画版『2001年…』の謎に一応の回答は得られるが「それが全てではない」とも認識しておくべきだろう。本作の後、この『オデッセイシリーズ』はクラーク独自の展開を見せ『2061年宇宙の旅』そして完結編『3001年終局への旅』と続くが、キューブリックファン的には本作までで十分でないかとは思う。

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