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NHK BSプレミアム 2012年2月12日(日)  11時00分~12時00分(放送済)

 「2001年宇宙の旅」で知られる映画界の鬼才、スタンリー・キューブリック。人見知りの激しい少年が1台のカメラを手にし、“映像の魔術”を獲得した瞬間を見つめる。

 番組内容巨匠たちの無名時代「青の時代」にスポットを当て、飛躍のドラマを描くシリーズ。今回は、「2001年宇宙の旅」などで知られる映画界の鬼才スタンリー・キューブリックを取り上げる。映像の魔術師の原点は、16歳のとき。街角で撮ったルーズベルト大統領の死を憂う男の写真にあった。人見知りの少年が世界と向き合い、己を表現する“武器”を手にした瞬間である。雌伏の時代に隠されたキューブリックの映像の秘密に迫る。

出演者語り:礒野佑子

出演:クリスティアーヌ・キューブリック、ジェームズ・B・ハリス、アレクサンダー・シンガー、ギャレット・ブラウンほか

(引用:NHKアーカイブス



 キューブリックのカメラマン時代に焦点を当て、キューブリックの移動撮影に対するこだわりの原点を紐解いていくという試みは、なかなか興味深かったです。ただ番組の構成上仕方ないのかもしれませんが、キューブリックのカメラに対する捉え方を「隠れ蓑が武器になった」とするくだりは、ちょっと紋切り型過ぎないか、と感じました。

 確かにキューブリックは社交的な性格ではなかったため、カメラは隠れ蓑だったと捉える理由は分かるのですが、カメラを手にしたばかりの中学生時代は、近所の友達とつるんで写真を撮りまくっていたし、ハイスクール時代にはすでに一端のカメラマンを気取って「俺はお前たちとは違うんだ」という気概に満ちていたといいます。キューブリックはカメラを手にする事によって過剰なまでの自意識を育んでいったのであって、あまり「他人とのコミュニケートを避けるための逃げ場所」や「その場にいるための方便」としての意識はなかったのではないでしょうか。そうでないと、他人に嫌われようがどうしようが己の主張を貫き通すという唯我独尊ぶりや、そのためには手段を選ばないという強烈なエゴの持ち主だった事の説明がつきません。

 幼い頃のキューブリックは、そんな強い自我を吐き出す方法を知らなかったため、他人と上手く接する事ができずに登校拒否になっていたのではないでしょうか。そんなキューブリックにとってカメラとは、それを手にした瞬間から自己の強烈な自意識を発揮できる、最初から「武器」だったような気がします。

 写真に限らず、絵画、イラスト、小説、音楽、何でもそうですが、その人の創作活動の第一義が「他人とのコミュニケートのため」だとすれば、そこに生み出される物は底の浅いものばかりになってしまいます。真のアーティスト(表現者)の第一義は表現であり、コミュニケートなんて二の次、三の次です。だからこそキューブリックは数少ない理解者と、数多い誤解に晒されたのだと思います。

 キューブリックのブロンクス時代を知らないクリスティアーヌの証言より、それを知っているアレックス・シンガーの証言の方がより実像に近いのではないか、そんな感想を持ちました。

 さて、この番組、どうせ海外制作のドキュメンタリーを翻訳しただけだろう、と思っていましたが制作はNHKエンタープライズさんでしたね。その丁寧な取材力と調査力には感服いたしました。もっと早く観ればよかったです。ご覧になれなかった方も多いと思いますので、DVD・BD化やネット配信など、何らかの形でオフィシャルに観れる環境をお願いしたいです。

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