【作品論】モッズムーブメントと『時計じかけのオレンジ』

 1991年にVHSビデオソフト(16,800円!)として発売される以前は、『時計じかけのオレンジ』を観るためには名画座でのリバイバル上映を待つしかなかったのですが、幸運にも1985年頃大阪(今は亡き大毎地下)で観る事ができました。(ボカシつきのやつですね)それまではアンソニー・バージェスの原作で我慢するしかなかく、何度も何度も読み返していたものですから、キューブリックの映画版を初めて見た時は結構醒めていて「なんじゃこのカラフルさ加減」とか「目がチカチカする」とか「いちいちエロいな」とか思いながら観ていたのを憶えています。それもそのはず、原作はモノトーンでくすんだイメージがあったものですから、そのあまりの違いに違和感があったのでしょう。キューブリックの映画版が自分の中での『時計…』になってましってからは、すっかりその事を忘れてしまっていたのですが、

 「バージェスは、デディ・ボーイズやモッズやロッカーズなど、イギリスの不良集団を目撃したことがあった」

(引用:『映画監督 スタンリーキューブリック』)

との一文を読んで、当時自分が持った印象は間違っていなかったんだ、と再認識したのです。

 モッズムーブメントについては今更説明するまでもなく、上記の映画『さらば青春の光』</a>を観れば一発です。そうなんです、この陰鬱とした、鬱屈したモノトーンのイメージがバージェスの『時計じかけのオレンジ』なのです。R&Bやロカビリーをベートーヴェンに、ヴェスパをディランゴ95に置き換えればバージェスが描いていた世界そのままです。主人公のジミーが湯船につかりながらキンクスの『You Really Got Me』を歌ったりしてますしね。モッズの聖典と化しているこの映画を、映像化されなかったバージェス版『時計じかけのオレンジ』と思って観るのは We are the MODSな人たちに怒られそうですが、参考にはなりそうです。もちろん名作ですから未見の方も純粋に映画としても楽しめます。『時計…』が好きなら気に入る可能性大。おすすめです。

追記:この『さらば青春の光』で主人公ジミーを演じたフィル・ダニエルズはバージェスが改訂した舞台版『時計じかけのオレンジ2004』でアレックスを演じたそうです。

TOP 10 POSTS(WEEK)

【インスパイア】『2001年宇宙の旅』のHAL9000に影響されたと思われる、手塚治虫『ブラック・ジャック』のエピソード『U-18は知っていた』

【関連記事】キューブリックは『時計じかけのオレンジ』のサントラにピンク・フロイドの『原子心母』の使用を求めたがロジャー・ウォーターズが拒否した話をニック・メイソンが認める

【関連記事】撮影監督ギルバート・テイラーが『博士の異常な愛情』の撮影秘話を語る

【関連記事】英誌『Time Out』が選ぶ「映画史上最高のベストセッ●スシーン50」に、『アイズ ワイド シャット』がランクイン

【関連記事】抽象的で理解の難しい『2001年宇宙の旅』が世に残り続ける理由

【台詞・言葉】ハートマン先任軍曹による新兵罵倒シーン全セリフ

【オマージュ】キューブリックの孫、KUBRICKの『MANNEQUIN』のMVがとっても『時計じかけのオレンジ』だった件

【台詞・言葉】『フルメタル・ジャケット』でのハートマン軍曹の名言「ダイヤのクソをひねり出せ!」のダイヤとは「●ィファニーのカフスボタン」だった件

【関連記事】2021年9月30日に開館したアカデミー映画博物館の紹介記事と、『2001年宇宙の旅』の撮影プロップ展示の画像

【インスパイア?】「白いモノリス」らしき物体が登場するピンク・フロイド『ようこそマシーンへ(Welcome to the Machine)』の公式MV