【関連作品】ユダヤ人ジュース(Jew Suss)
キューブリックの妻、クリスティアーヌの伯父であるファイト・ハーランが監督した1940年制作の悪名高きユダヤ人排斥プロパガンダ映画『ユダヤ人ジュース』。そのフルバージョンがYouTubeにアップロードされていたのでご紹介。
映画の内容は勧善懲悪(もちろんユダヤが悪)でここまでくれば笑ってしまう(本当はいけないが)ほどの分かりやすいプロパガンダ。主人公であるジュースことヨーゼフ・ジュース・オッペンハイマーは実在の人物で、一方的に、しかも徹底的に悪人として描かれている。暴利で貴族に金を貸す闇金業で私腹を肥やし、それを元に権力者に取り入り出世し、アーリア人女性に姦通し自殺に追い込むなど悪行を尽くすが、貴族の後ろ盾を失しなって逮捕され処刑されるというストーリーだ。だがそれは大きく事実と異なり、以下のような人物であったことがその生涯をたどった本『消せない烙印 ユート・ジュースことヨーゼフ・ジュース・オッペンハイマーの生涯』の紹介文から伺える。
一八世紀のユダヤ人金融業者、ヨーゼフ・ジュース・オッペンハイマーの生涯をたどる伝記。その才覚によって権力の中枢へ接近していくジュース・オッペンハイマー。ヴュルテンベルク公爵カール・アレクサンダーに見出されたジュースは、この開明的な君主の財務コンサルタントとして活躍、その栄達を極める。しかし、公爵の急死によって事態は一変。公爵死後の権力闘争に巻きこまれるかたちでジュースは投獄され、罪状も明らかでない裁判によって不当に死刑判決を受け、ついには刑死にいたる。その劇的な生涯を、厖大な歴史的資料に基づいて描き出す。
(引用:版権ドットコム)
ユダヤ人の正当性、ナチの非道性、そのどれが正しくどれが正しくないかを詳細に語れるほどの知識はない。ただ国家が一つの意思に凝り固まってしまう事の恐ろしさだけは伝わってくる。キューブリックはファイト・ハーランと合った際、この映画を撮った事について「本当は断りたかったができなかった」と弁明されたそうだ。しかし当のキューブリックはユダヤ人に対して冷ややかな面を持っていた。物事は多面的な側面を持っている。それを善悪の二元論で押し切ってしまうのはそもそも間違いだし、恐ろしくもあり、そしてすこぶる滑稽でもある。キューブリック自身は、そんな二元論プロパガンダであるこの映画も、それを撮ってしまった事を弁明した義理の伯父にも、これといって特別な感情は無かったのではないか、そんな気がする。