【考察・検証】『時計じかけのオレンジ』と『原子心母』

背面のレコード棚の右上にある牛のジャケ写が『原子心母』

 言わずと知れた1960年代後半から70年代前半にかけて起こったサイケデリック~プログレッシブ・ロックムーブメントを代表する名盤中の名盤、ピンクフロイドの『原子心母』。キューブリックはこのアルバムの『原子心母(組曲)』を気に入り、『時計じかけのオレンジ』のサントラとして使いたいとのオファーをフロイド側に出しましたが、その時の条件が「無制限の使用ライセンス」。つまり編集や加工を自在にさせて欲しい、というものです。当然のようにフロイド側はこれを拒絶、この話は流れてしまいます。

 キューブリックにしてみれば、『2001年宇宙の旅』のリゲティ</a>でやったように音源をそのシークエンスに合わせて自在に加工したかったのでしょうが、すでにメジャー・バンドの仲間入りを果たしていたフロイド側がそれを許すはずがありません。劇中のレコード店のシークエンスでこれみよがしに『原子心母』が置いてありますが、キューブリックは他のアーティストの作品を自作品に提供してもらう際「映画内で取り上げれば良い宣伝になるから」と口説いていたそうです。このシークエンスはその名残でしょう。

 キューブリックが『2001年…』の音楽監督をフロイドにオファーしたという話はマユツバだと思っていますが(フロイド側からの証言がない)、実はこの『時計…』の話と混同しているんじゃないかと思っています。ではキューブリックはどこでこの「ピンクフロイド」の名前を知ったかという事になりますが、キューブリックは自身のトップ10ムービーでミケランジェロ・アントニオーニの『夜』を第7位に挙げているのです。ここまで書けばカンの良い方ならピン!とくるはず。そう、そのアントニオーニの当時の最新作『砂丘』のサントラを手がけていたのがピンクフロイドなのです。シド・バレット時代からキューブリックがフロイドに興味を持っていた、という話より遥かにこちらの方が説得力があります。

 でも今度はロジャー・ウォーターズがソロアルバム『死滅遊戯』のために『2001年…』の音源使用をキューブリックにオファーを出したりするんですよね。それをキューブリックが断る・・・なんだか最後までこの両者は噛み合なかったみたいです。


TOP 10 POSTS(WEEK)

【インスパイア】『2001年宇宙の旅』のHAL9000に影響されたと思われる、手塚治虫『ブラック・ジャック』のエピソード『U-18は知っていた』

【関連記事】キューブリックは『時計じかけのオレンジ』のサントラにピンク・フロイドの『原子心母』の使用を求めたがロジャー・ウォーターズが拒否した話をニック・メイソンが認める

【関連記事】撮影監督ギルバート・テイラーが『博士の異常な愛情』の撮影秘話を語る

【関連記事】英誌『Time Out』が選ぶ「映画史上最高のベストセッ●スシーン50」に、『アイズ ワイド シャット』がランクイン

【関連記事】抽象的で理解の難しい『2001年宇宙の旅』が世に残り続ける理由

【台詞・言葉】ハートマン先任軍曹による新兵罵倒シーン全セリフ

【オマージュ】キューブリックの孫、KUBRICKの『MANNEQUIN』のMVがとっても『時計じかけのオレンジ』だった件

【台詞・言葉】『フルメタル・ジャケット』でのハートマン軍曹の名言「ダイヤのクソをひねり出せ!」のダイヤとは「●ィファニーのカフスボタン」だった件

【関連記事】2021年9月30日に開館したアカデミー映画博物館の紹介記事と、『2001年宇宙の旅』の撮影プロップ展示の画像

【インスパイア?】「白いモノリス」らしき物体が登場するピンク・フロイド『ようこそマシーンへ(Welcome to the Machine)』の公式MV