【考察・検証】『時計じかけのオレンジ』と酷似した物語構造を持つ『アイズ ワイド シャット』
『アイズ ワイド シャット』と『時計じかけのオレンジ』。かたや駄作、かたや傑作との評価が一般的なようですが本当にそうでしょうか。実は『アイズ…』と『時計…』は恐ろしいほどに物語構造が酷似しています。それを検証しながらいかに『アイズ…』が傑作であるかを証明したいと思います。
(1)オープニング・シークエンス
まず『アイズ…』ではビルとアリス、『時計…』ではアレックスと仲間たちが紹介されます。
(2)第1のイベント
続けて『アイズ…』ではクリスマスパーティーが、『時計…』では一連の暴力シーンが続きます。
(3)第1のイベントを受けての転換
『アイズ…』ではマリファナを吸いながら夫婦の間で口論が始まってしまいます。『時計…』ではアレックスが第九を邪魔された事に怒って仲間割れが始まってしまいます。
(4)上記によって主人公にトラブル発生
『アイズ…』では夜の街をビルが彷徨います。『時計…』ではアレックスが仲間に裏切られて警察に捕まってしまいます。
(5)物語のキーポイントになる第2イベントの発生
『アイズ…』では乱交パーティーに潜入し、正体がバレて命の危険が迫ります。『時計…』ではアレックスがルドビコ療法の被験者になり、無害な若者になります。
(6)上記の結果、前半の体験を追体験
『アイズ…』では(4)を、『時計…』では(2)を全く逆の立場で追体験します。
(7)自業自得な報いを受ける
その結果『アイズ…』ではジーグラーに真実を告げられ茫然自失、『時計…』では反政府活動家によって自殺へと追い込まれます。
(8)打ちひしがれて安全な場所に逃げ込む
『アイズ…』では妻の元へ、『時計…』では入院し内務大臣の保護下に入ります。
(9)最後に一言で終わる
『アイズ…』では「ファック」、『時計…』では「完全に治ったね」で物語終了。
いかがでしょうか、ここまで酷似しているのです。これは偶然と言っていい筈はありません。キューブリックは意図的に『アイズ…』を『時計…』の物語構造に似せて、この二つは同じ意図を持っているのだと暗に示しているのです。その意図とは「本質を暴く」という事でしょう。『時計…』でキューブリックは暴力の本質を暴きだしました。では『アイズ…』では何を暴きだそうとしたのでしょうか?
それは「夢」だと思います。夢の持つ意味、夢がもたらす影響、夢にすがる、夢に逃げる、夢に溺れる、夢で満足する、夢の中で安穏とする・・・そういった夢の持つ負の魔力を暴いているのです。だから最後の台詞が「ファック」なのです。それは完全に『時計…』の「完全に治ったね」と全く同じ響きを、同じ重さを持っているのです。
『アイズ…』のメッセージは「Fuck」と明快でシンプルです。駄作だと糾弾する人も、奥歯に物の挟まったような賛辞しか送れない人も実は何も気付いていないのです。キューブリックは小説『時計じかけのオレンジ』をこう評してこう言っています。
「小説の答えはすべて小説の中にある。それを見いだせないとするならば、それは単なる怠慢だ」
それを『アイズ…』に置き換えればこうなるでしょう。
「この映画の答えはすべて映画の中にある。それを見いだせないとするならば、それは単なる怠慢だ」