【名曲】威風堂々(Pomp and Circumstance March)
『時計じかけのオレンジ』では、1番の中間部が内務大臣の刑務所視察の時、4番の中間部がアレックスのルドビコ研究所入所時に使われています。1番の中間部をエルガー自身が『希望と栄光の国』として編曲し、「イギリス第2の国歌」「イギリス愛国歌」と呼ばれる程親しまれているそうです。こういった経緯からこの曲はかなり保守的、愛国的な意味合いが強い事が分かります。キューブリックはそれを承知の上でこの曲を「国家主義の権力の象徴」のようにあえて皮肉っぽく使っているのですね。
そういえばたまにこの『時計…』が描く未来世界を「共産主義国家」と勘違いされている評を見かけます。オーウェルの『1984』と混同されているのかも知れませんが、明らかに「国家主義・全体主義的国家」ですね。そうでないとこの皮肉の意味が失われてしまいます。作家が属するグループが弱者の救済を標榜している点や、作家という職業を考えてみても、こちらが「共産主義者の反体制過激派グループ」でしょう。アレックスが風呂に入っている間に、作家が電話で話している口調が共産主義者っぽくなっているのも皮肉が効いていて笑うところなんですけどね。
キューブリック自身も
「アンソニー・シャープが演じた大臣は、明らかに右翼の人物だ。パトリック・マギーの作家は左翼の狂人だ。「一般人は指導され、制御され、強要されなければならない」と彼は電話に向かって熱弁する。「彼らはより安楽な生活のためにその自由を売り渡すだろう!」
(引用:ミシェル・シマン著『キューブリック』)
と、ミシェル・シマンのインタビューで語っています。
まあでも国家主義も共産主義でも突き詰めて行くと違いが分からなくなる・・・とはよく言われる話ですが。キューブリックはどちらの思想にも与していないので、『博士…』の頃「どちら側からも攻撃された」と愚痴っていました(笑。そのキューブリックが共産主義丸出しの『スパルタカス』を撮ったんですからね、よく我慢したものです。