【企画作品】アーリアン・ペーパーズ(Aryan Papers)

ターニャの衣装合わせをするヨハンナ・テア・ステーゲ

 ルイス・ベグニーの『五十年間の嘘』を原作にキューブリックが映画化を構想し、ポストプロダクションまで進んだが、中止された企画。主人公マチェックには『ジュラシック・パーク』のジョゼフ・マゼロ、叔母のターニャにはヨハンナ・テア・ステーゲがキャスティングされ、テスト撮影や衣装製作、ロケハンなどが進められていた。

 しかし、1993年に『シンドラーのリスト』公開され、それと内容が似ていたため、またキューブリック自身がホロコーストを正確に描写できるかどうか疑問だと感じたため、この企画は中止された。

 キューブリックは原作の原題『戦時下の嘘(Wartime Lieys)』を『アーリア人証明書(Aryan Papers)』に変更した。その理由ははっきりとわからないが、原作では二人が決定的な危機から逃れる場面でこの証明書は登場しない。この事からいろいろと推察はできそうだが、今のところ情報があまりにも少なすぎるので現時点ではそれは控えたい。

 とにかく、どうしてこの小説にキューブリックが惹かれたのか、それはホロコーストのありのままの姿がこの小説には描かれているからに他ならない。それは殺戮としてのホロコーストだけではなく、その原因と本質だ。キューブリックは企画中止の理由に「ホロコーストを正確に描写できるかどうか疑問」と発表している。それはこの問題の根深さと複雑さを表していると言えるだろう。

TOP 10 POSTS(WEEK)

【インスパイア】『2001年宇宙の旅』のHAL9000に影響されたと思われる、手塚治虫『ブラック・ジャック』のエピソード『U-18は知っていた』

【関連記事】キューブリックは『時計じかけのオレンジ』のサントラにピンク・フロイドの『原子心母』の使用を求めたがロジャー・ウォーターズが拒否した話をニック・メイソンが認める

【関連記事】撮影監督ギルバート・テイラーが『博士の異常な愛情』の撮影秘話を語る

【関連記事】英誌『Time Out』が選ぶ「映画史上最高のベストセッ●スシーン50」に、『アイズ ワイド シャット』がランクイン

【関連記事】抽象的で理解の難しい『2001年宇宙の旅』が世に残り続ける理由

【台詞・言葉】ハートマン先任軍曹による新兵罵倒シーン全セリフ

【オマージュ】キューブリックの孫、KUBRICKの『MANNEQUIN』のMVがとっても『時計じかけのオレンジ』だった件

【台詞・言葉】『フルメタル・ジャケット』でのハートマン軍曹の名言「ダイヤのクソをひねり出せ!」のダイヤとは「●ィファニーのカフスボタン」だった件

【関連記事】2021年9月30日に開館したアカデミー映画博物館の紹介記事と、『2001年宇宙の旅』の撮影プロップ展示の画像

【インスパイア?】「白いモノリス」らしき物体が登場するピンク・フロイド『ようこそマシーンへ(Welcome to the Machine)』の公式MV