【企画作品】アーリアン・ペーパーズ(Aryan Papers)
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ターニャの衣装合わせをするヨハンナ・テア・ステーゲ |
ルイス・ベグニーの『五十年間の嘘』を原作にキューブリックが映画化を構想し、ポストプロダクションまで進んだが、中止された企画。主人公マチェックには『ジュラシック・パーク』のジョゼフ・マゼロ、叔母のターニャにはヨハンナ・テア・ステーゲがキャスティングされ、テスト撮影や衣装製作、ロケハンなどが進められていた。
しかし、1993年に『シンドラーのリスト』公開され、それと内容が似ていたため、またキューブリック自身がホロコーストを正確に描写できるかどうか疑問だと感じたため、この企画は中止された。
キューブリックは原作の原題『戦時下の嘘(Wartime Lieys)』を『アーリア人証明書(Aryan Papers)』に変更した。その理由ははっきりとわからないが、原作では二人が決定的な危機から逃れる場面でこの証明書は登場しない。この事からいろいろと推察はできそうだが、今のところ情報があまりにも少なすぎるので現時点ではそれは控えたい。
とにかく、どうしてこの小説にキューブリックが惹かれたのか、それはホロコーストのありのままの姿がこの小説には描かれているからに他ならない。それは殺戮としてのホロコーストだけではなく、その原因と本質だ。キューブリックは企画中止の理由に「ホロコーストを正確に描写できるかどうか疑問」と発表している。それはこの問題の根深さと複雑さを表していると言えるだろう。