【関連記事】デヴィド・クローネンバーグは「キューブリックはホラーを理解していないし『シャイニング』は偉大な映画ではない」と語った。
デヴィッド・クローネンバーグ「スタンリー・キューブリックはホラーを理解していなかった」
クローネンバーグ監督は『シャイニング』を酷評し「私はキューブリックよりも親密で個人的な映画製作者だ」と語る
監督のデヴィッド・クローネンバーグによると、スタンリー・キューブリックは「商業志向」の映画製作者であり、スティーブン・キングのカルト的名作『シャイニング』を映画化した際にホラーの本質を理解できなかったという。
先週、トロント映画祭で自身の作品を振り返るイベントでスピーチをしたカナダのボディホラーの先駆者であるキングは、20世紀で最も背筋が凍るようなスリラー映画の一つとしての『シャイニング』の地位に異議を唱える最新の著名人となった。キング自身も最近、 1977年の自身の著書の続編となる新作小説『ドクター・スリープ』の宣伝活動中に、1980年の映画に対する否定的な立場を改めて表明した。
「私はキューブリックよりも親密で個人的な映画製作者だと思っている」とクローネンバーグはトロント・スター紙に語った。「だから『シャイニング』は素晴らしい映画ではないと思う。彼はホラーというジャンルを理解していなかったのだろう。自分が何をやっているのか理解していなかったのだと。原作には印象的なイメージがいくつかあり、彼はそれを理解していたが、それを本当に感じていなかったと思う」
クローネンバーグ監督はこう付け加えた。「奇妙なことに、彼は高水準の映画芸術家として尊敬されているが、もっと商業志向で、ヒットし、資金を得られる作品を探していたと思う。彼はそのことに非常に執着していたと思う。私ほどではないが」
〈以下略〉
カナダの映画監督デヴィッド・クローネンバーグのキューブリック批判記事ですが、クローネンバーグならそう言うだろうな、という内容です。批判の文脈はほぼスティーブン・キングと一致しますね。「原作にはいくつか印象的なイメージがあったが、キューブリックはそれを感じ取れていない」なんてキングやかつてのキングファンと同じ事言っています。また、「彼はハイレベルな映画アーティストとして尊敬を集めているが、彼は遥かに商業志向であり、きっちり資金のチャンスを得られる題材を探していたと思う」とも。
『シャイニング』は今までのホラーの概念を覆すべく野心を持って製作された映画です。旧来の恐怖映画をリスペクトし、それに準じて映画を作ってきたクローネンバーグがそう感じるのは無理もありません。『スター・ウォーズ』のような王道SFこそSFだと考える人たちが『2001年宇宙の旅』を「意味が分からない」と批判するのと同じですね。そのキューブリックの「野心」が『2001年…』ほど達成されたとは言えないかもしれませんが、現在の『シャイニング』の高評価を見る限り、それはある程度は浸透したと判断してもよさそうです。
商業志向についてはこのブログでも度々触れている通りです。キューブリックはハリウッドのメジャーシーンという商業主義の権化のような場所に作家性を持ち込み、成功したほぼ唯一の監督です。インディーズやローカルシーンでの地味でマニアックな評価など一顧だにしませんでした。キューブリックは処女作『恐怖と欲望』で挫折してすぐ商業志向へと舵を切ります。それは映画製作の絶対的自由をハリウッドで獲得するための手段でした。カルト映画ばかり作っていたクローネンバーグとは映画製作に対するスタンス、アプローチが最初から全く違います。
クローネンバーグは好きな監督ですがジョン・カーペンターと同じで、基本的にはひとつの事しかできないのが難点です。つまり「引き出しがひとつしかない」のです。その引き出しは確かに優れたものでしたが、評価も興行成績も後に続いていかないのはそれが原因でしょう。(最近は少し持ち直したようですが)そんなクローネンバーグが「優れた引き出しをいくつも持っていた」キューブリックに何を言ったところで説得力なんてあろうはずがありません。指摘は的を得ている面もありますが、だからといって「あなたが言ってもね・・・」というのが正直な感想ですね。