【関連作品】海を見た少年(Le Garcon sauvage)

 

『恐怖と欲望』のポスターでポルノ男優のように扱われたフランク・ヴィラール(右)

 全く稼がなかったキューブリックの劇場用映画第一弾『恐怖と欲望』と、二本立てで公開された『THE MALE BRUTE(野生の男)』ですが、LACMAで展示されたこのポスターでは「A Story of SIN,SEX and PASSION!(罪とセックスと情熱の物語)」とまるでポルノのように扱われています。ところが別の広告によると「The Story of a FRENCH PROSTITUTE ... and(フランスの売春婦の物語、そして・・・)」となっていますので、どうやらフランス映画のようです。

LACMAで展示されたポスター

「The Story of a FRENCH PROSTITUTE ... and」の表記

出演はMadeleine RobinsonとFrank Villardとある

 調べてみると出演俳優はMadeleine RobinsonとFrank Villardであった事が判明、ここまで来るとあとは簡単です。IMDdに情報がありました。を見つける事ができました。フランスでの原題は1951年公開の『Le garcon sauvage』、日本では『海を見た少年』としてVHS化された(劇場未公開)名匠ジャン・ドラノワ監督の作品です。

 ストーリーは「シモンは母親マリー(売春婦)に引きとられてマルセイユに戻ったが、キザな男ポールと、母の気ままな生活ぶりに反抗し・・・海の生活にあこがれる、多感な少年の姿を生き生きと撮った名匠ドラノアの作品」と、全くポルノではありません。原題を訳せば「野生児」となり、英題の『野生の男』は間違いじゃありませんが、「男」とはポールを指すのではなくシモン少年を指しているのであれば、『恐怖…』と同様、完全にプロモータ側のポルノへのミスリード戦略である事がわかります。

 この作品も『恐怖…』と同様、ジョゼフ・バースティン社が配給しています。つまり、当時キューブリックの後見人的役割を果たしていたジョゼフ・バースティンが、思うように稼がなかった『恐怖…』と『海を見た…』を抱き合わせ、映画には登場しないリースの半裸をビジュアルにした広告を制作、両作品をほとんどポルノとして上映し、なんとか出資金を回収しようとしたという経緯が想像できます。

 当時25歳のキューブリックは自作のこの末路をどう感じたんでしょう。このような屈辱的な経験をしたキューブリックが、自作の権利を頑なに守ったり、自作の広告の出稿状態を常にチェックしたりする姿を我々は異常だ、偏執狂だと笑えるでしょうか?そういう無知や無理解に一切反論しなかったキューブリック。せめてファンを名乗る我々くらいその心中を察し、理解してあげたいものです。


TOP 10 POSTS(WEEK)

【台詞・言葉】ハートマン先任軍曹による新兵罵倒シーン全セリフ

【考察・検証】キューブリック版『シャイニング』でオーバールック・ホテルに巣食う悪霊の正体とは

【台詞・言葉】『時計じかけのオレンジ』に登場したナッドサット言葉をまとめた「ナッドサット言葉辞典」

【関連記事】1972年1月30日、ザ・ニューヨーク・タイムス紙に掲載されたキューブリックのインタビュー

【関連記事】音楽を怖がってください。『シャイニング』『2001年宇宙の旅』『アイズ・ワイド・シャット』・・・巨匠キューブリックが愛した恐怖クラシック

【考察・検証】『2001年宇宙の旅』に登場する予定だった宇宙人のデザイン案を検証する

【関連動画・関連記事】1980年10月24日、矢追純一氏によるキューブリックへのインタビューとその裏話

【インスパイア】『時計じかけのオレンジ』と「アイドル」に親和性?『時計じかけのオレンジ』にインスパイアされた女性アイドルのPVやMVのまとめ

【関連記事】早川書房社長の早川浩氏、アーサー・C・クラークと一緒に『2001年宇宙の旅』を鑑賞した思い出を語る

【パロディ】『時計じかけのオレンジ』のルドヴィコ療法の被験者にさせられたアニメキャラのみなさまのまとめ