【作品論】恐怖と欲望(Fear and Desire)



Fear and Desire(IMDb)

 キューブリック初の劇場用長編映画『恐怖と欲望』。若干25歳のキューブリックが作り上げたこの作品にははっきりとキューブリックの強い意志が込められている。それは通常の劇映画ではあまり試みられてこなかった「映像で語る」という手法だ。短く挿入されるインサート・カットやヴォイス・オーバーの多用、凝ったカメラアングルや画面構成、影を巧みに使った演出など、後にキューブリックのスタイルを象徴する手法が頻出している。キューブリックは最初から「演劇的映画」との決別を考えていたのだ。

 だがそれは後年の洗練さとはかけ離れた、いかにも青臭く、気取りだけが鼻につく稚拙なものだった。加えていかにも低予算ありきで作られた雑な脚本、敵と味方が同一の役者で演じられるという苦し紛れのキャスティング、飛行機や敵基地等、必要な大道具やセットを用意できなかった為であろう安っぽい映像・・・。キューブリックが後年封印したがるのも無理のない低質な完成度だった。

 斬新な映像表現にたいする自信と意欲、その反面求めたクオリティには到底及ばない様々な現実。キューブリックは次作『非情…』からはあえて「演劇的映画」へと舵を切り、まずは興行的成功と知名度のアップを目指すようになる。時折「映像で語る」という手法をチラつかせつつも、それは『ロリータ』まで約10年我慢しなければならなかった。

 本作で着目すべきは、若干25歳にしてはっきりと自身の目指す映像表現のアイデアに確固たる自信と確信を持っていた、という事実だ。それを確認できるだけでもファンにとっては価値ある映像だろう。キューブリックが封印したという事実に鑑み、鑑賞を自粛する考えもあるようだが、未公開映像ならともかく、いったんオフィシャルに上映された以上それを取り消す事はできない。それはどのジャンルのアーティストも同じだ。これについてはキューブリックに諦めてもらうしかなさそうだ。

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