【台詞・言葉】クロンカイト(Cronkite)

 『フルメタル・ジャケット』でロックハート中尉がテト攻勢の概略をジョーカー達に説明する台詞で「TVも勝ち目のない戦争と呼ぶ気らしい」とあるが、実際の台詞は「クロンカイトも勝ち目のない戦争と呼ぶ気らしい」だ。

 そのウォルター・クロンカイトとはCBSイブニングニュースの有名なアンカーマンで、この台詞は実話に基づいてる。

 ケネディ政権時代の1960年代前半にアメリカが本格介入したベトナム戦争に対して当初は客観的な立場からの報道を続けていたものの、南ベトナム解放民族戦線による南ベトナムへの攻撃「テト攻勢」が行われた直後の1968年2月に「民主主義を擁護すべき立場にある『名誉あるアメリカ軍』には、これ以上の攻勢ではなく、むしろ交渉を求めるものであります」と厳しい口調で発言して戦争の継続に反対を表明、アメリカの世論に大きな衝撃と影響を与えた。これを知らされた当時の大統領ジョンソンは、「クロンカイト(の支持)を失うということは、アメリカの中産階級(の支持基盤)を失うということだ(If we've lost Cronkite, we've lost Middle-America)」と嘆いたという。その後保守派の多くもベトナム戦争の継続に懐疑的になり、この直後にジョンソンは2期目の大統領選への出馬断念を発表するに至った。

(引用:wikipedia/ウォルター・クロンカイト

 つまりキューブリックは有名なこの「クロンカイト・リポート」に言及する事により、戦争がいかにメディアによって左右されるものなのかを暗に示しているのだ。それを単に「TV」と訳したのはクロンカイトを知らない日本人に配慮したものだと想像できるが、そういった「配慮」がこの『フルメタル・ジャケット』という作品のテーマ、コンセプトを見えにくくしているのもまた事実だ。

 「メディアを操る者が思想を語れば、それはすなわちプロパガンダである」報道カメラマン出身のキューブリックはそれを身を以て知っていた。「映画」というメディアを操るキューブリックは、戦争を淡々と描写する事に終始し、反戦・好戦など一切の思想性を拒絶している。そして「戦争とはマクロ的には権力者(マスコミや一般大衆も含む)の欺瞞であり、ミクロ的には銃弾のごとく浪費される人命である」とシンプル且つ冷徹に告発するのみにとどめ、そこから先の「思想」は受け手である我々に委ねようとしているのだ。

 さて、その「我々」は『フルメタル・ジャケット』を観て何を思うのか?何を信じ、何を信じないのか。キューブリックの問いかけはあまりにも深く、重く、現在の「テロの時代」を生きる我々に伸し掛かったままだ。

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