【考察・検証】キューブリックとロジャー・カラスの間でやりとりされた、HALの殺人に関してIBMへの問い合わせと回答の手紙

1966年8月31日にキューブリックがニューヨークのロジャー・カラスに宛てた手紙

1966年9月13日にロジャー・カラスがロンドンのキューブリックに宛てた手紙

 1966年8月31日、キューブリックはニューヨークの事務所にいるロジャー・カラスに宛てて、「IBMはストーリーのメインテーマが神経症にかかったコンピュータだということを知っているのか?私はトラブルは望まない」と確認の手紙を出しました。1966年9月13日、それに対するロジャー・カラスの返信は、「私はIBMにHALが実際に人を死に至らしめることを説明しましたが、IBMは、IBMの名前でコンピュータの故障に関連づけられていなければ問題ない。映画にクレジットを付与することに意義はないとのことでした」という内容でした。

 この返信の手紙には重要な示唆が含まれていると思います。つまり逆に言えば「IBMの名前でコンピュータの故障に関連づけられていれば問題がある」ということになるからです。まさにこれが「IBM→HAL」問題の本質だと思います。おそらくキューブリックは「IBMより一歩進んだコンピュータ」という意味でそれぞれのアルファベットを「I→H、B→A、M→L」と一文字分進めた「HAL」という名称を考えだしたのでしょう。ですが、このトリックはあっさりとバレる可能性がありました。余計なトラブルを嫌うキューブリックは、その場合に備えてセットからIBMのロゴを外す決断をします。しかしそれは撮影がある程度進んだ段階だったので、撮影済みのフィルムにはいくつかロゴが残ってしまいました。そしてキューブリックやクラークが懸念した通り「I→H、B→A、M→L」のトリックはバレてしまいます。ですが、用心深いキューブリックは、そうなった際にも「腹案」を用意していました。それが例の「HALはHeuristically programmed ALgorithmic computerの略」という説明だったのではないでしょうか。

 もちろん、キューブリックもクラークも故人となった今、これを確認する術はありません。ですが、二人の言う「Heuristically programmed ALgorithmic computer」を略せば通常は「HPAC」もしくは「HAC」となるのが自然です。どう考えても後付けくさいこの説を納得できないというファンは多いのです(もちろん管理人もその内の一人)。この手紙のやりとりは、その「納得できないファンたち」に「納得できる説明」を与えてくれる重要な資料ではないか、と私は思います。

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