【考察・検証】キューブリックがマルチアスペクトでの収録を指示した『博士の異常な愛情』クライテリオン版LDと、「核爆弾ロデオ」シーンのマユツバな話

ヨーロッパビスタでの表示。劇場公開時はこのアスペクト比だった

スタンダードでの表示。このアスペクト比で表示されれば、左右カットで再生(放映)されるリスクはない

当該のクライテリオン版レーザーディスク(LD)

  キューブリックがワイドのマスクをNGにし、マルチアスペクトでの表示を指示した『博士の異常な愛情』クライテリオン版LDの詳細がありましたのでご紹介(引用元はこちら)。発売は1992年6月24日です。

 『博士の異常な愛情』のwikiには

この処置で破棄された効果の最たるものは、核爆弾と共にコング少佐が落下して行く場面でビスタサイズの背景に対し1:1.33で撮影された爆弾と少佐がはみ出し、光学合成で人為的に作られたフィクション、あるいはジョークを強く意識させる点である。

とあります。これは「通説」であり、キューブリック本人がそう発言したわけではありません。キューブリックは「1.33:1(正確には1.37)および1.66:1のマルチアスペクトで映像を表示しろ」と指示しただけです。

 この件に関してはこちらの記事で検証した通り、キューブリックが危惧したのは当時のブラウン管テレビ、すなわちスタンダードサイズでの再生時に、ワイド映像の左右カットで再生されてしまうのを恐れていたからではないかと考えます。この頃(1994年)のキューブリックはTVオンエアやビデオ化を睨んで「撮影はスタンダード、劇場上映は上下マスクのワイド(アメリカンビスタ)」というフォーマットで映画製作をしていました。この『博士の異常な愛情』もそれに準じ、スタンダードの映像でビデオ化しておけば、ワイド映像の左右カットで視聴される危険性がないと考えたのではないかと思います。wikiにある指摘、「光学合成で人為的に作られたフィクション、あるいはジョークを強く意識させる点である」は、TVで視聴している時ならともかく、ワイド(この時代はヨーロッパビスタ)で劇場上映された際にはそうなりません。もしキューブリックが通説通り「ジョーク」としてこのシーンを作ったのなら、劇場でもスタンダードで上映しろという指示があるはずです。しかしそういった事実はありません。この点からもこの「通説」は破綻していると私は考えます。ですので、こんな説得力のかけらもない「通説」は誤解を生むので、wikiから削除していただきたいと思っています。

 ところで、上記クライテリオン版のページの書き込みには、「当初はテリー・サザーンの初期脚本が収録されていたが、キューブリックの要請で削除された」とあります。キューブリックの秘密主義やネタバレ嫌いは有名ですので、この指示は非常に納得できるものです。それも含めてキューブリックはこのLD対し、なみなみならぬ「こだわり」を示していますが、それもそのはず、キューブリックは『博士…』のオリジナルネガ紛失(正しくは倉庫火災による焼失)のため、かろうじて使える2本のマスターポジフィルムからカメラで全コマを撮影し、新たにネガを作ったそうです(注:これは間違いで、状態の良いインターボジが発見され、それを元にネガが作成された。詳細はこちら)。そういった苦労を惜しまないからこそのこのこだわりですので、ファンならマルチアスペクト版のDVDは押さえておきたいところですね。

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