【関連記事】『2001年宇宙の旅』の主演俳優、キア・デュリアの2018年のインタビュー。キューブリックとの仕事を「天国」と語る

2018年のカンヌ映画祭で70mmアンレストア版『2001年宇宙の旅』が記念上映された際に登場した左からキア・デュリア、カタリーナ・キューブリック、ロン・サンダース、ヤン・ハーラン、クリストファー・ノーラン(画像引用:wikipedia - Keir Dullea

 『2001年宇宙の旅』の主演俳優が、50年後に象徴的な映画を語る

〈中略〉

Q:デヴィッド・ボーマンの役をどのように得たのですが?

A:ロンドンでローレンス・オリヴィエとキャロル・リンレイと一緒に『バニー・レークは行方不明』という映画を撮影していたんです。オットー・プレミンジャーの映画でした。楽しい経験ではありませんでした。オリヴィエとの仕事は例外でした。それは素晴らしいことで、彼は私にとても親切にしてくれました。ある日仕事が終わった後、妻が私のエージェントに電話するように言いました。それで電話をかけると、エージェントが 「座ってる?」と聞いてきたんです。私は「いいえ、なぜ?」と答えました。彼は「君にスタンリー・キューブリックの次回作の主役のオファーがあった 」と言ったんです。私は自分が候補に挙がっているなんて全く知りませんでした。その件で誰かに会ったこともありません。まったくの青天の霹靂でした(注:デュリアは『突撃』を観て以来キューブリックのファンだった)。

Q:キューブリック監督との仕事はどんな感じでしたか?

A:昔から虐める人だったプレミンジャーの下で働いていたから、地獄から天国に行くようなものでした。私はキューブリックの下で働くのが好きでした。彼は穏やかで、天才の前にいることを実感させる人でした。彼は完璧主義者だったし、彼の完璧さについては大抵は正しかった。また彼はアイデアに対して非常にオープンでした。必ずしもそれが採用されるとは限りませんが、何かを提案しても見下されるようなことはありませんでした。素晴らしい経験でした。

Q:『2001年…』を初めてご覧になったとき、どのように思われましたか?ロック・ハドソンが試写会から退席したのは有名な話です。

A:2回目のプレミアがニューヨークでありました。その夜、ニューヨークだけで250人がプレミアの終了を待たずに外に出て行きました。評判は最悪でした。60~70%以上のレビューがひどいものでした。ところが、2、3ヵ月後に突然、興行収入1位になったんです。それは、若い世代のおかげだと思います。彼らは、街角に列をなしていたのです。MGM(製作会社)は、その若者たちの多くがドラッグをやっているのではないかと考えたのだと思います。それで広告キャンペーンを変更したんです。2ヵ月後、新しいポスターが出ました。『2001年:究極の旅』です。

Q:有名な曖昧なエンディングについて、好きな解釈はありますか?

A:それに対する本当の答えはありません。ベートーベンの交響曲第5番を言葉でどう表現するのでしょう?それは完全に主観的な経験です。そしてその完璧な例が、映画の中で宇宙船が宇宙ステーションにドッキングしようとするときに使われる、(ヨハン・シュトラウス2世の)「美しく青きドナウ」なのです。『2001年…』を見たことがない人は、おそらくウィーンを思い浮かべるでしょう。しかし『2001年…』を観た人の多くは、宇宙を思い浮かべるでしょう。どちらが正しいのでしょうか?どちらも正しいのです。『2001年…』はある意味、視覚的なシンフォニーなのです。いろいろな可能性があります。あるプレミア上映会で、人生で最も宗教的な体験だったという修道女がいました。無神論者も同様に、この映画を素晴らしい映画だと言っています。どちらが正しいのでしょうか?おそらくどちらも正しいでしょう。

Q:映画の中で好きなシーンはありますか?

A:私がこの映画で好きなのは、『人間の夜明け』のシークエンスです。ひとつは、主人公の猿人が地面に転がった化石の中で偶然骨を振り回してしまい、その骨の使い方を発見する場面です。その動作の中で非常に意図的な方法で欠片が飛び散るのです。私にとってこれは人類が何かを理解したした瞬間であり、動物がより近代的な存在になった瞬間でもあります。もうひとつは、水飲み場で他の猿のグループに勝利した後、猿が勝利のために骨を投げ、それがスローモーションで青空に舞い上がり、宇宙船に変わるする歴史上最高のジャンプカットです。しかし、それはただの宇宙船ではありません。この宇宙船は核兵器であり、地球の周りを常に周回しているのです。つまり、猿が発明した最初の兵器が、最新の兵器に変身するわけです。私の大好きな場面です。

Q:この映画は、科学者、SFファン、一般の映画ファンなど、長年にわたって多くの人々にインスピレーションを与えてきました。

A:私はこれまで何人もの宇宙飛行士に会ってきましたが、若い頃『2001年』からインスピレーションを受けて宇宙飛行士になったという人が何人もいます。この映画は、CGによる特殊効果がひとつもないという点でユニークな映画です。この映画で見るものはすべて、物理的な実体で撮影されました。素晴らしいことです。そしてこの映画が象徴的な作品となり、長く続いたがゆえに、解説されすぎてしまったと思うのです。すべての世代、すべての個人がそうであるように、その登場人物から知見が得られます。この映画は冷戦時代に作られました。25年後に冷戦は終わり、人々はこの映画の中に別のものを見るでしょう。それは常に、あらゆるものへの可能性が開かれていることに変わりはないでしょう。

(引用元:BOSTON.com/2018年6月21日




 2018年、クリストファー・ノーラン監修によるアンレストア版70mm『2001年宇宙の旅』が公開された頃の、キア・デュリアのインタビューです。それにしてもオットー・プレミンジャーは評判悪いですね。キア・デュリアは『2001年…』でも危険なスタントをするなどしているのですが、それでも「天国」と語っています。『2001年…』で気に入っているシーンは自分が出ていない『人類の夜明け』のシークエンスっていうのもいいですね。デュリアの控えめな性格がかい間見えるようです。

 上記のインタビューでははっきりと説明していませんが、ディリアはラストの『白い部屋』のシークエンスでグラスを落とし、ベッドに横たわる老いた自分に気づくというアイデアを出し、採用されています。キューブリックはそうした俳優との対等な関係によるコラボレーションによる映画製作を好みました。この方法は確かに映画をより良くすることに貢献しましたが、撮影時にそんなことをしていれば撮影期間も長期化し、テイクも際限なく多くなります。それにいつも上手くいくとは限りません。マルコム・マクダウェルの時のように産みの苦しみで悩み続け、何日もリハーサルだけの日々が続いたり、シェリー・デュバルのように実は恐怖の表現が苦手だった、という問題にもぶち当たりました。ですが、現在伝説的に語られてれるシーンのほぼ全てが、そうした「俳優とのコラボレーション(アイデアの出し合い)」によってもたらされたのは紛れもない事実です。もし『時計じかけのオレンジ』で『雨に唄えば』のアイデアが存在せず、ただ悪党が家に押し入って暴れまわるだけのシーンだったらどうなっていたでしょう?もちろんエンドロールの『雨に…』もありません。デュリアはアイデアにより作品がより良くなっていく瞬間や過程を体験したからこそ、キューブリックとのコラボレーションを「天国」と表現しているのだと思います。

 つまり、キューブリックのリテイクとは「NG、もう一回」ではなく「OK、もう一回」(キューブリックは実際に現場でそう言っている)という、より良いシーンを追求するためのリテイクということなのです。そうなると「リテイク」というより「テイクを重ねる(シーンを発展させる)」という表現の方が正しいでしょう。これはキューブリックの独自の演出方法として、キューブリックを語るなら知っておかなければならない最低限の知識です。ですが、残念ながら「キューブリックにリテイクが多いのは、カメラマン出身のため演技に関しては素人だったから」とか「完璧主義者のキューブリックは自分の思い通りの画が撮れるまで偏執的にリテイクを繰り返した」といった根本的な間違いを堂々と語り、知ったかぶりを発揮する方々が後を絶ちません(日本の某監督と同列で語るなど見当違いも甚だしい)。このことは関連書籍や出演俳優のインタビュー等を読めば全部書いてあるのですが、ネットで言われていることが全て正しい思う方々には何を言っても無駄でしょう。ですので、今後もこうして当ブログでは正しい情報をやソースを積極的に発信して行きたいと思います。

TOP 10 POSTS(WEEK)

【考察・検証】『アイズ ワイド シャット』は、なぜクリスマスシーズンの物語なのか?を検証する

【関連動画】『2001年宇宙の旅』の未公開シーンとセット画像を集めた動画と、クラビウス基地で登場したハンディカメラをニコンがデザインしたという説明の信憑性について

【オマージュ】King Gnu(キング・ヌー)の新曲『一途』のMVがとっても『2001年宇宙の旅』だった件

【ブログ記事】NHK『映像の世紀~バタフライエフェクト~映像プロパガンダ戦 嘘と嘘の激突』で紹介されたプロパガンダ映画『ユダヤ人ジュース』とキューブリックとの「接点」

【インスパイア】とっても『2001年宇宙の旅』な、旧ソ連謹製SF映画『モスクワ-カシオペア(Москва – Кассиопея)』

【パロディ】映画版『バービー』の予告編がまるっきり『2001年宇宙の旅』でどう反応して良いのやら(汗

【関連記事】映画ファンが「こんな世界絶対嫌だ…」と絶望する!オススメの「ディストピア映画」10選

【関連書籍】忘れ去られた『2001年宇宙の旅』のもうひとつの原典、アーサー・C・クラーク『地球への遠征』

【オマージュ】MV全編がまるっきり『時計じかけのオレンジ』な、コットンマウス・キングス『Stomp』のMV

【パロディ】まるっきり『時計じかけのオレンジ』のアレックスのファッションをしたマーク・パンサーが登場するglobeの『genesis of next』