【関連記事】まるで『2001年宇宙の旅』のモノリスに集う猿人 ザ・フーの名盤『フーズ・ネクスト(Who's Next)』のジャケ写制作の裏話

『Who's Next』のジャケ写のアウトテイク。まさに『2001年宇宙の旅』

〈前略〉

『フーズ・ネクスト』の象徴的なアルバム・ジャケット

 5月7日に新曲のテストと改良のため、小規模な会場で公開ライヴの第一弾を行なった。 5月23日、小規模なライヴの最終日が行われた。 スコットランドのダンディーにある二千人収容のケアード・ホールでライヴを行なった。  会場の近くで一夜を過ごした後、バンドは霧雨の降る灰色の月曜日の朝、ロンドンに戻った。

 4台のキャラバンを率いるピート・タウンゼントがハンドルを握り、制限速度を大幅にオーバーして運転し、後部座席にはアメリカ人写真家のイーサン・ラッセルが横たわっていた。 バンドはラッセルがザ・ローリング・ストーンズの『ロックンロール・サーカス』を撮影した際に一緒に過ごしたことがあった。 当時26歳だったラッセルは、ローリング・ストーンズとの仕事と、ビートルズのアルバム『レット・イット・ビー』のジャケットとなる写真を撮影し、すでに名声を博していた。 

 バンドはしばらくの間、アルバム・ジャケットのアイデアを練っていた。 キース・ムーンが女装したり、SMグッズを身につけたり、裸の大柄な女性の下半身をメンバーの写真に置き換えたものなどがボツになったアイデアだ。 ラッセルが撮影した写真もあり、ムーンがいろいろな服を着ている写真もあった(引用元参照)。特にタウンゼントは、これまでのアイデアに満足しておらず、もっと芸術的な選択肢のアイデア出しをしたいと望んでいた。

 ラッセルはこう語る。

 「アイデアを得るために、私はイングランド中部で行われたギグに同行した。ピート・タウンゼントの運転が怖くて、後部座席に寝そべったんだ。パニックになったよ。帰り道、ピートはまた高速で運転していた。僕はあのコンクリート製のものを3つか4つ見たけど、それが何なのか分からなかった。彼はロータリーでスピードを落とし、何かアイデアはないかと聞いてきたので、あの形状のことを話したんだ」

 タウンゼントは、おそらくA19号線を走行中、イージントン村の近くを通過していたのでしょう。 高速道路を降りて海岸に向かい、100年にわたる石炭生産で大きな影響を受けた地域の海岸沿いの町、イージングトン炭鉱にたどり着いた。 そこでは廃棄物の先端がなだらかな丘のような風景に変わっていた。 そのなだらかな丘にコンクリート製の杭が何本も埋め込まれていた。バンドは車から降り、ラッセルはポラロイドカメラでテスト撮影を始めた。

 「テスト用のポラロイドを撮っていて、ふと見ると・・・ピートがおしっこをしていたんだ。OK!と思った。8枚くらい撮った。 ピート以外の 「尿 」は、コンクリートに流した水だった。彼らはパフォーマンスすることができなかったんだ!まったくもって自然発生的なものなんだ。アイデア出しはしたけれど、こんなことはできないよ」

 ラッセルは、即興の写真撮影についてこう語る。

 「私はカメラを持って、みんなで廃棄物の暗い山の上に出た。空はまだ灰色で、時折雨粒が落ちてくる。最初は、キューブリック監督の『2001年…』で猿や宇宙飛行士が平板に反応するように、慎重に近づき、腕を上げ、平板に触れそうになるように指示しました」

 「黒い尖塔の周りに猿が集まってくるという『2001年宇宙の旅』のアイデアに基づくものなど、さまざまなポーズを撮りました。それからピートが小便をかけ始めたので、私はその流れに身を任せた。他のメンバーもピートと同じようにしようとしたが、実際にはできなかった。全てはとっさのことだった」

 杭に尿がかかったように見せるため、ラッセルは杭に雨水をかけ、さらに何枚か写真を撮った。 最終的に数十枚の写真を撮ったが、日の目を見たのは数枚だけだった。 現存するネガの中には、大きな傷などのダメージを受けているものもある。 

 最終的なアルバム・ジャケットは、ラッセルが初期の写真撮影時に撮影した空を合成したものだ。 

 多くの人がこのアルバム・ジャケットを象徴的なステートメントとして捉えている一方で、ピート・タウンゼントは声高に批判している。

 「これはクソみたいな作品だ・・・。大嫌いだ。ひどいもんだよ。本当にひどい。もちろん好きではない。何の芸術的効果もない。音楽との関連もない。意味がないんだ。4人の男が車を停め、コンクリートの塊に向かって小便をしている。イーサン・ラッセルという非常に優れた写真家が撮影したんだが、彼はとても気に入っていて『四重人格』でも再び起用したよ。『2001年宇宙の旅』はその時最高の映画であり、俺たちはこの『2001年宇宙の旅』の一枚岩に小便をかけているのだ、というアイデアがあるんだろう。そこには皮肉もなければ、真実もないんだよ。とにかく、進歩すべきだ」

〈以下略〉

(引用:Trippingly Peak Experiences/2018年7月1日



 ロックの歴史的名盤、ザ・フーの『フーズ・ネクスト(Who's Next)』(1971)のジャケット写真は『2001年宇宙の旅』のパロディだと昔からさんざん言われてきましたが、その関係者のインタビュー記事がありましたのでご紹介。

 この頃のロック・アーティストにありがちな「その場での適当なノリ」で作られた、というのがいかにもなエピソードです。あのコンクリート柱くらい用意したものかと思っていたのですが、その場にあったもの(用途不明)なんですね。小便をしたのもポーズも成り行きまかせだったのも驚きです。そしてピート・タウンゼントは「クソみたいな作品」と嫌っていることも・・・(笑。

 しかし、こういう話を聞くたびに思うのですが「名盤はすなわち名ジャケでもある」という法則なのか、それとも「名盤だから名ジャケに見えるだけ」なのかという問題です。もしこの『フーズ・ネクスト』が現在のジャケ写ではなく、引用記事中にあるキース・ムーンの女装姿だったら・・・現在においても歴史的名盤であるという扱いになっていたでしょうか? やはり音楽とビジュアル面には密接な関連性があるような気がしますね。


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