【関連記事】ギャレット・ブラウン講演会~カメラを人間の目の感覚に近づけ続けてきた人生
10月6日、ナックイメージテクノロジーにおいて、ステディカムの開発者であり、オペレーターであるギャレット・ブラウン氏の講演会が開催された。ギャレット・ブラウン氏の来日は39年ぶりとのこと。このたび日本でステディカム・ゴールド・ワークショップが開催され(レポートはこちら)、それに合わせての来日になる。ステディカムの登場は映像史に残るエポックメイキングな出来事であり、その証言を聞こうと多数の来場者が詰めかけけた。聴衆は大半が映画やテレビのカメラマンなど映像撮影関係者だった。(主催:銀一)
〈中略〉
「ロッキー」から「シャイニング」そして100以上の映画につながっていく
「ロッキー」は60万ドルの低予算映画で、スタローンは自分で書いた脚本で、自分が役者としても入りたかったから、役者代ももらわなかったほどだった。
もちろんこの「ロッキー」は大成功をおさめるのだが、その2年後の「シャイニング」は、ギャレットさんは「私にとってのマスタークラス」だったという(もちろん、彼一流のジョークが半分)。つまり、スタンリー・キューブリックは映像へのこだわりが半端ではなく、1つのテイクで40も50も繰り返すので、まさにワークショップのような撮影になってしまったというのである。体力的には大変そうに思えるが、実は3分のテイクで3分のプレイバック、そして3分の口論の時間があり(笑)、ちゃんと休む時間があったから楽だったという。
「シャイニング」で庭にある巨大迷路のなかでダニー(子供)を追いかけるシーン。実は雪のシーンだが、実際は1000Wのライトが照らされた40度のセットで、木についているのは雪ではなく発泡スチロール、地面は塩、ミストはオイルスモーク。迷路のシーンを撮るのに3か月もかかったという。本当の迷路なので、この中でセットが火事になったら焼け死ぬ可能性もあったと振り返った。
「シャイニング」は一年のプロジェクトだった。
〈以下略〉
(引用:VIDEO SALON/2018年10月23日)
『シャイニング』で印象的に使用されたカメラ・スタビライザー(安定装置)「ステディカム」の開発者、ギャレット・ブラウンが来日して講演したそうなのですが、その内容の記事がありましたのでご紹介。
講演の内容は主にステディカムの開発経緯と最新機種の紹介ですが、専門的な知識がなくてもなんとなく仕組みは理解はできます。当初は16mm用だったのですね。確かに映画製作で使用するなら35mm用のものが必要ですが、それには苦労があった(パナビジョンが横取りしようとした)ようです。よく間違われるのですが、ステディカムが最初に使われた映画は記事にある通り『ウディ・ガスリー/わが心のふるさと』です。事実はそうなのですが、ステディカムの可能性を最大限に発揮させたのはやはりキューブリックでしたね。
上記記事で『シャイニング』はギャレット・ブラウンの「私にとってのマスタークラス」という表現を「半分ジョーク」と片付けています。もちろんジョークでもなんでもなくギャレット・ブラウンにとってキューブリックはまさに「マスター」で、制作中に飛び出す様々な要望やアイデアを試しては、それを撮影へと反映させていったのです。
現在ではステディカム(スタビライザー)はスマホ用のものまで発売され、カメラマンや動画制作者にとって身近な機材となりました。昨今はドローンにややお株を奪われた感はありますが、それでもスポーツ中継ではよく目にします。その開発者であるギャレット・ブラウンにはアカデミー科学技術賞ほか数多くの賞が贈られています。講演には多くの業界関係者が詰めかけたそうですが、そのことが氏の影響力の大きさを物語っていますね。
情報提供:伊藤雅彦さま