【考察・検証】「フィクション」を「ドキュメント」するカメラマンの眼


  ハイスクール時代からカメラに親しみ、その写真を写真報道誌『ルック』に採用されるほどの実力を持っていたキューブリックは、その後その『ルック』に入社、報道カメラマンとして全米各地や時には海外まで出かけ、やがてドキュメンタリー映画を手掛ける事になる。

 その「ドキュメンタリー作家」としての感性は、映画監督になってからも如何なく発揮され、作品内の何処にも、また誰にも自己投影せず、答えを描ききったり、詳しい説明も避け、明解な意図も、意志も提示しない…といったキューブリック独特の、一種超然とした視点から語られる物語は「ドキュメンタリー作家」ならではのもの、と言えるのではないだろうか。

 つまりキューブリックは結局のところ、根っからのカメラマンであり、ジャーナリストなのだ。狂った世界を、歪んだテクノロジーを、人間の醜悪さを暴きだすために、自らが創りだした「世界(フィクション)」を、自らのカメラで「報道(ドキュメント)」する。それが例え、一般的な観客を置き去りにしてしまうことになったとしても、劇的な興奮が欠落していても、だ。

 キューブリックが描き出し、切り取った映像に意味や意図を見出すのは、観客である我々の仕事なのだ。ただ漫然とスクリーンを眺めているだけでは、その真意は全く伝わらない。キューブリックと真剣に対峙するつもりのない観客に、キューブリック作品を批評する資格などないのだ。

TOP 10 POSTS(WEEK)

【ブログ記事】1999年3月7日スタンリー・キューブリック監督の逝去に当たり、当ブログ(当時個人ホームページ)に寄せられたファンの追悼メッセージ集

【台詞・言葉】ハートマン先任軍曹による新兵罵倒シーン全セリフ

【考察・検証】『フルメタル・ジャケット』の幻のシーン「生首サッカー」は真実か?を検証する

【TV放映情報】NHK BSプレミアムシネマで2月26日(水)午前0:05より『フルメタル・ジャケット』オンエア決定

【上映情報】「午前十時の映画祭15」で『2001年宇宙の旅』『時計じかけのオレンジ』上映決定!!

【関連記事】スタンリー・キューブリックが好んだ映画のマスター・リスト(2019年11月22日更新)

【関連記事】『2001年宇宙の旅』1968年公開、スタンリー・キューブリック監督の叙事詩的SF。その先見性に驚く

【ブログ記事】11人の映画監督がスタンリー・キューブリックを語る

【インタビュー】『バリー・リンドン』の撮影監督だったジョン・オルコットのインタビュー[その1:ロケーション撮影、フィルター、照明、ネガフィルムについて]