【関連作品】『スティーブン・キング シャイニング』(原題:Stephen King's The Shining)
「豪華な高級車だがエンジンはついていない」とか、「頭でっかちで、感受性に乏しい」など、キューブリック版に不満たらたらだったキングが、映画から17年後にTVシリーズとして 自ら製作・脚本を手がけ、リメイクした正真正銘の『シャイニング』。
さすがに原作者が製作に深く関わっているために、ほぼ原作に忠実に映像化され、さぞかしキングも溜飲を下げたことだろう。また、先行していた映画版を微妙に避けるため、ホラーとして恐怖感を煽るより、悪霊VS家族愛という視点を強調して脚色した点も功を奏している。キング自身認めているが、映画版の「映像による閉塞的な恐怖感」は素晴らしく、それを超えることは容易でない。そのせいか、映画版とは打って変わり、魅力的な登場人物(幽霊も含む)により、ホラーというより、人間味の溢れる、心温まる感動物語として堪能することができる。
これはこれでありだと思うし、映画版と別物として考えれば、全く違和感なく楽しむことができる。とはいえ、キューブリックファンの性として、どうしても映画版との描写の違いに目が行ってしまう。映画版とTV版で共通する描写として、217号室の女性の霊や、バーテンダーとジャックの絡み、仮面舞踏会などのシークエンスなどが挙げられるが、これはどう見ても映画版に軍配が上がる。それに、キューブリックが拒否した様々な恐怖の描写の映像化(動く生け垣、消火器のホース、スズメバチの巣、ポスターガイスト現象など)に至っては、陳腐以外の何物でもない。
小説家という職業柄なのか、映像に関しては「自分の頭の中に描いている画」に固執しすぎるのだろう。実は、このTV版『シャイニング』を観ながら思い出していたのは映画版『シャイニング』ではなく、なんと『2010年』だった。丁度『2001年…』と『2010年』の肌合いが、そのままこの映画版とTV版にスライドしたとように思えてならなかったからだ。(映画『2010年』は、原作者自身の手による映画『2001年…』のリメイク、と言えなくもない)自らのビジョンにこだわる小説家と、そのビジョンをことごとく破壊し、再構築して傑作を創り上げてしまうキューブリック。キューブリックが小説家に嫌われる理由も良く分かろうというものだ。
尚、ラストは原作とも映画版とも異なっている。これは映画版ラストが不満だったキングが、キューブリックに対して「どうせ変えるなら、この位のことはして欲しかった」という返礼のようにも受けとれる。どれが好みかは意見が分かれるだろうが、映画版の後味の悪さが気に入っている人にとっては、このTV版は物足りないかもしれない。だが、原作ファンにとっては少なくとも映画版より納得がいくだろう。