【作品論】『空飛ぶ牧師』(原題:Flying Padre)
ネットは今や動画が当たり前となり、こんな貴重な映像が手軽に観られるようになったのは、大変喜ばしい事ではあるのだが、著作権的には限りなくクロに近いグレーなので心情的にはちょっと微妙。まあ、その是非はともかく、観れるものなら観たいのがファンというもの。アップした方に感謝しつつ、堪能させて頂きました。
内容は、ニューメキシコ州のフレッド・スタットミュラー牧師が、軽飛行機に乗って教区を飛び回る活躍をレポートしたもので、当時、映画館で流れていたニュースフイルムとして一般的な作り。キューブリックが監督したものでなければ、今となっては全く価値のないフィルムだっただろう。後に飛行機嫌いになるキューブリックだが、'51年当時はまだ飛行機に夢中で、恐らく牧師の飛行機に同乗してカメラを回したのではないだろうか。
短いフィルムだが、キューブリックらしさを感じるシークエンスはある。まず、子供が病気になるという緊急事態での離陸で、操縦する牧師の横顔にスロットルを操作する映像がインサートされるシーン。こういう編集はキューブリックの得意とする所で、その場の緊張感がよく表現されている。
また、ラストシーンの、救急車の中から親子の目線で離れて行く牧師を撮影し、それにエンドマークをかぶせるというセンス。通常なら牧師と飛行機を手前に配し、その奥に向かって救急車が走り去り、牧師が親子の無事を願って見送る・・・とする所を、あえて母親の目線で撮影する事によって、より牧師のヒーロー像を強調している。まあ、キューブリックが単にあまのじゃくなだけかも知れないが。
全般的にはヤラセ感ありありで時代を感じさせるものではあるが、大変貴重なフィルムなのは間違いない。ニーズはあると思うので、然るべき所が、然るべき手順で、然るべきメディアで発売して欲しい。もちろん、残りの未公開フィルム『拳闘試合の日』、『海の旅人たち』、『恐怖と欲望』も併せてお願いしたい。