【作品論】『メイキング・ザ・シャイニング』(原題:Making The Shining)

  キューブリックの三女、ビビアン・キューブリックが父親から贈られたカメラで撮影した、『シャイニング』製作の裏側。イギリスのTVシリーズ「アリーナ」の一編として、1980年に放映された。一時はレア・アイテムとして入手・鑑賞は困難だったが、現在はDVDやBDの特典映像として容易に観る事ができる。

 あまり舞台裏を明かさないキューブリックが、身内だからこそ許せたであろう、『シャイニング』のメイキング・フィルム。ジャック・ニコルソンやダニー・ロイド、スキャットマン・クローザースのインタビューや、撮影現場の裏舞台、演出や撮影に細かく指示を出すキューブリックの姿など、貴重な映像は多々あるが、特にウェンディ役のシェリー・デュバルをとことん追い込んで行く演技指導は圧巻だ。手慣れた役者らしい演技を嫌うキューブリックにとって、シェリーの演技はわざとらしくとしか映らなかったのだろうが、この徹底ぶりには少々驚かされる。揚げ句、プレッシャーに堪えかねたシェリーは、撮影中に倒れてしまうのだから、実際はもっとすごかっただろうと容易に想像できる。

 それでも殊勝にインタビューに応えるシェリーに、痛々しさを感じずにはいられないが、彼女はキューブリックの求める理想の役者像とは違うと思われるので、仕方ないことかも知れない。キューブリックは、自分で自分を追い込める役者(ピーター・セラーズ、マルコム・マクドウェル、ジャック・ニコルソン等)には、比較的自由に演技をやらせているが、それが出来ない役者には、徹底して高圧的になっているようだ。だが、そのことで誰もキューブリックを責めることは出来ないだろう。何故なら、この撮影現場で一番強大なプレッシャーを受けているのは他ならぬキューブリック自身だからだ。




TOP 10 POSTS(WEEK)

【ブログ記事】1999年3月7日スタンリー・キューブリック監督の逝去に当たり、当ブログ(当時個人ホームページ)に寄せられたファンの追悼メッセージ集

【台詞・言葉】ハートマン先任軍曹による新兵罵倒シーン全セリフ

【考察・検証】『フルメタル・ジャケット』の幻のシーン「生首サッカー」は真実か?を検証する

【TV放映情報】NHK BSプレミアムシネマで2月26日(水)午前0:05より『フルメタル・ジャケット』オンエア決定

【上映情報】「午前十時の映画祭15」で『2001年宇宙の旅』『時計じかけのオレンジ』上映決定!!

【関連記事】スタンリー・キューブリックが好んだ映画のマスター・リスト(2019年11月22日更新)

【関連記事】『2001年宇宙の旅』1968年公開、スタンリー・キューブリック監督の叙事詩的SF。その先見性に驚く

【ブログ記事】11人の映画監督がスタンリー・キューブリックを語る

【インタビュー】『バリー・リンドン』の撮影監督だったジョン・オルコットのインタビュー[その1:ロケーション撮影、フィルター、照明、ネガフィルムについて]

【考察・検証】「フィクション」を「ドキュメント」するカメラマンの眼