【ブログ記事】手塚治虫、キューブリックを語る

 『スター・ウォーズ』と『未知との遭遇』はもっと『2001年』が向こう(アメリカ)で受けていたら、ぼくはキューブリックがつくった映画じゃないかって気がする。ぼくは『スター・ウォーズ』はともかく『未知との遭遇』的なものはキューブリックが狙っていたのではないかという気がする

 つまりキューブリックもある意味では一つのカリスマというか、哲学的な思考を持っているでしょう。そういうものをずっとつきつめていくと宇宙心理みたいなものに走っていく。ただキューブリックの映画が受けなかったのは(で)、僕は(スピルバーグが)それを引き継いでかたきをとったという、そんな気がする

 ただ『スター・ウォーズ』にしても『未知との遭遇』にしてもぼくはクラシックになる恐れがあると思う。『2001年』はクラシックにならない気がする。何か新しいとか古いを超越しているような・・・キューブリックのものは何を見てもそんな感じがする。『時計じかけのオレンジ』を見てもそうだしね

 つまりルーカスもスピルバーグも完成されすぎているんですね〈中略〉ところがキューブリックは未知数なんですね。おそらくキューブリックは最後まで未知数の男で、受けるのか受けないのか、本当に名人なのか、素人なのかわからないという感じで、それが、ぼくはやはり未知の面白さみたいな感じだと思う

(引用:季刊映画宝庫 SF少年の夢)



 手塚治虫はキューブリックのファンで、自作の漫画やアニメにもその影響はそこかしこに感じられます。また本人の弁として「キューブリックにどうしても会いたくて、ニューヨークに何回か行ったんだけれど、いつでもいなかったですね。いなかったのは当然で、撮影であちらこちら飛び回っていたのでしょうね(手塚はキューブリックが旅行嫌いでイギリスに定住したことを知らない)」と語っています。一部では逆にキューブリックが手塚治虫のファンだった、という言説が流されていますが(その元凶は事もあろうか手塚眞氏)、そういった事実はいっさい確認されていません。キューブリックの興味は常に映画にあり、アニメはその対象外でした。ではなぜ『鉄腕アトム』を観ていたのか?ということですが、キューブリックは自宅マンションで子供が観ていたのをたまたま見かけて「これは・・・」と思ってNBCに連絡先を聞いたのだと思います。常にアンテナを張っていたキューブリックのことですから、手紙を出したのは手塚だけとは限りません。ある程度のストーリーが固まった1964年末、優秀なスタッフ探しに奔走していたのだと思います。

 上記のコメントで「『未知との遭遇』的なものはキューブリックが狙っていたのではないかという気がする」という指摘は鋭いですね。キューブリックはスピルバーグの才能を高く評価し、『未知との遭遇』『E.T.』を「好んだ映画のリスト」に入れています(一方の『スター・ウォーズ』は入っていない)。そのスピルバーグに『A.I.』の監督を任せようとした話は有名で(キューブリックはプロデューサー)、結局キューブリックの死後、『A.I.』はスピルバーグ監督作品として完成・公開されたのは周知の通りです。

 手塚治虫とスタンリー・キューブリック、20世紀に世界の東西で活躍した天才アーティストの二人は、手塚の一方的な「片思い」だったのかもしれません。ですが、アニメ・漫画ブームがもう少し早く世界に伝播していれば、キューブリックも手塚治虫の才能に触れていた可能性があります。特に手塚晩年の傑作『アドルフに告ぐ』をもしキューブリックが手にしていたとしたら・・・。『アーリアン・ペーパーズ』の企画を進めていたキューブリックに何某かのインスピレーションを与えていたかもしれませんね。

TOP 10 POSTS(WEEK)

【ブログ記事】1999年3月7日スタンリー・キューブリック監督の逝去に当たり、当ブログ(当時個人ホームページ)に寄せられたファンの追悼メッセージ集

【台詞・言葉】ハートマン先任軍曹による新兵罵倒シーン全セリフ

【考察・検証】『フルメタル・ジャケット』の幻のシーン「生首サッカー」は真実か?を検証する

【TV放映情報】NHK BSプレミアムシネマで2月26日(水)午前0:05より『フルメタル・ジャケット』オンエア決定

【関連記事】『2001年宇宙の旅』1968年公開、スタンリー・キューブリック監督の叙事詩的SF。その先見性に驚く

【上映情報】「午前十時の映画祭15」で『2001年宇宙の旅』『時計じかけのオレンジ』上映決定!!

【関連記事】スタンリー・キューブリックが好んだ映画のマスター・リスト(2019年11月22日更新)

【ブログ記事】11人の映画監督がスタンリー・キューブリックを語る

【インタビュー】『バリー・リンドン』の撮影監督だったジョン・オルコットのインタビュー[その1:ロケーション撮影、フィルター、照明、ネガフィルムについて]

【考察・検証】「フィクション」を「ドキュメント」するカメラマンの眼