【関連動画】アーサー・リプセット『ベリーナイス、ベリーナイス』

 キューブリックが賞賛し、影響を受けたカナダ人の映像作家アーサー・リプセット。カナダ国立映画製作庁が製作、リプセット監督して第34回(1961年)アカデミー賞短編映画賞にノミネートされた作品がこの『ベリーナイス、ベリーナイス』です。

 ファンだったキューブリックはリプセットに『博士の異常な愛情』の予告編製作をオファー。しかしリプセットはそれを断ります。それならばとキューブリックはパブロ・フェロに予告編の製作を依頼しますが、上記の動画と比べてみれば一目瞭然、リプセットの影響は明白ですね。

 時代は1960年代初頭。こういった見るものの神経を刺戟する斬新な映像はやがてドラッグと結びつき、「サイケデリック・カルチャー」として60年代後半に全盛期を迎えるのですが、その中心には「映像と音楽の融合」という「トレンド」がありました。キューブリックはそのキャリアの初めからセリフに頼らない斬新な映像表現を劇映画に持ち込もうと悪戦苦闘していたので、キューブリックの志向とトレンドが合致したのがこの時代、ということになります。

 以前ここで『薔薇の葬列』が『時計じかけのオレンジ』に影響を与えたかどうか微妙だ、という記事を書きましたが、『博士の異常な愛情』にしても『2001年宇宙の旅』にしても『時計…』にしても当時の最先端トレンドであるサイケデリック・カルチャーを抜きには語れません。それを無視して「似ている・似ていない論」を展開しても何の説得力もないのは当然と言えます。影響を受けつ、与えつしていたキューブリック、リプセット、パブロ・フェロはその当時のトレンドリーダーだったのですから。

TOP 10 POSTS(WEEK)

【台詞・言葉】ハートマン先任軍曹による新兵罵倒シーン全セリフ

【考察・検証】キューブリック版『シャイニング』でオーバールック・ホテルに巣食う悪霊の正体とは

【台詞・言葉】『時計じかけのオレンジ』に登場したナッドサット言葉をまとめた「ナッドサット言葉辞典」

【関連記事】1972年1月30日、ザ・ニューヨーク・タイムス紙に掲載されたキューブリックのインタビュー

【関連記事】音楽を怖がってください。『シャイニング』『2001年宇宙の旅』『アイズ・ワイド・シャット』・・・巨匠キューブリックが愛した恐怖クラシック

【考察・検証】『2001年宇宙の旅』に登場する予定だった宇宙人のデザイン案を検証する

【関連動画・関連記事】1980年10月24日、矢追純一氏によるキューブリックへのインタビューとその裏話

【インスパイア】『時計じかけのオレンジ』と「アイドル」に親和性?『時計じかけのオレンジ』にインスパイアされた女性アイドルのPVやMVのまとめ

【関連記事】早川書房社長の早川浩氏、アーサー・C・クラークと一緒に『2001年宇宙の旅』を鑑賞した思い出を語る

【パロディ】『時計じかけのオレンジ』のルドヴィコ療法の被験者にさせられたアニメキャラのみなさまのまとめ