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【関連記事】1972年1月30日、ザ・ニューヨーク・タイムス紙に掲載されたキューブリックのインタビュー

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A Clockwork Orange(IMDb) ブロンクスの素敵な男の子? クレイグ・マクレガー ロンドン発―では、スタンリー・キューブリックのようなブロンクス出身のユダヤ人の好青年が、『時計じかけのオレンジ』のような奇抜な映画を撮っているのはなぜだろう? まあ、誰でも最初はどこかの好青年から始まるもんだ、とスタンリーは言う。彼は微笑む。ユーモアのセンスもある。レストランでオヒョウを食べ、いつもの地味なオリーブ色の防弾チョッキを着て、陰気な髭面は、次回作の主人公となるナポレオンにそっくりだ。天才には見えないし、黙示録的な光輪も頭上には見えない。柔らかなニューヨーク訛りで、まるでブロンクスのあの伝説の好青年のようでもある。  しかし、43歳になり、年間最優秀監督賞を受賞し、カルト的な人気を得る頃になると、あなたは変わった。高い壁に囲まれた大きな屋敷に住み、メルセデスを乗り回し、無線電話でコミュニケーションを取り、現実世界で目にするものは往々にして気に入らないものだ。そして数年後、ついに『時計じかけのオレンジ』のような映画を作ることになる。レイプ、暴力、性的サディズム、残虐行為、そして人間の永遠の野蛮さを主題とする、不気味で単純、そして身の毛もよだつほど悲観的な映画だ。  「人間は高貴な野蛮人ではなく、卑劣な野蛮人だ」とキューブリックは氷水に手を伸ばしながら言う。「人間は非理性的で、残忍で、弱く、愚かで、自分の利益に関わることに関しては何事にも客観的になれない。それが人間の本質を言い表している。私が人間の残忍で暴力的な性質に興味を持つのは、それが人間の真の姿だからだ。そして、人間の本質についての誤った見解に基づいて社会制度を作ろうとする試みは、おそらく失敗する運命にある。」  例えば、どんなことですか?「そうだな、リベラル神話の多くの側面が今、破綻しつつある。しかし、私は例を挙げたくはない。そうするとウィリアム・バックリー(アメリカの保守思想家)のように聞こえてしまうからだ…」  キューブリックの社会観も同様に暗い。社会は人間を本来の姿よりもさらに悪くしてしまう可能性がある。「社会的な制約がすべて悪いという考えは、ユートピア的で非現実的な人間観に基づいている」と彼は言う。「しかし、この映画では、社会制度が少し暴走した例が描かれている。法と秩序の問題に直面した社会制度は...

【関連動画・関連記事】1980年10月24日、矢追純一氏によるキューブリックへのインタビューとその裏話

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JY=矢追純一 SK=スタンリー・キューブリック JS=ジュリアン・シニア JS  –ええ、ミッシェルです。やあスタンリー、探したよ。今ちょっと話せるかい?ミスター矢追と今一緒に立っている。 SK – 準備できているかい? JS  –できているよ、ちょっと待って。 JY –はじめまして。私の名前は矢追純一です。いくつか質問してもよろしいでしょうか? SK – はい、もちろんです。 JY – 最新作にホラーを選んだのはなぜですか? SK – まず、直接お話しできないことをお詫びします。ジュリアンが説明したと思いますが、私はラボやサウンドスタジオを駆け回っていて、実は今は電話ボックスからあなたに電話しています(注:キューブリックはカメラ嫌いなので避けている) JY – はい、分かりました。 SK – ホラーストーリーを選んだのはなぜですか・・・うーん、私がこれまでに制作したすべての映画について同じ質問をされたとしても、答えるのは難しいでしょう。私はたくさん本を読み、もちろん常に映画のストーリーを探しています。それはなぜ奥さんに恋をしたのかと聞かれるようなものなのです。好きなストーリーを読むと、映画の可能性が示唆されることがあります。このプロットはそのジャンルで最も巧妙で、最も興味深いものだと思いました。そして、それを読んだとき、私はこれを映画にしたいと思ったのです。 JY – なるほど。超能力についてはどう思いますか? SK – つまり、本当にどう思っているのかということですか? JY – はい。 SK – わかりませんが、オカルト体験をした人々の興味深い話や報告はたくさんあると思います。有名な天文学者が宇宙、つまり世界と宇宙における生命について語り、「私は宇宙に生命があると思うが、いずれにしてもそのような考えは驚異的だ」と言ったのと少し似ています。生命があったとしても、なかったとしても、ある意味驚異だと思います。 JY – ええと、何か超能力みたいなものをお持ちですか? SK – もう一度言ってください。 JY - あなたには超能力がありますか? SK – いいえ、あればいいのですが。 JY – (笑)あなたは未来を予測したり、役者の心を読んだり、異次元からイメージを考えたりする能力があるはずだとみんな言っていました SK – そうですね、私には超能...

【関連記事】早川書房社長の早川浩氏、アーサー・C・クラークと一緒に『2001年宇宙の旅』を鑑賞した思い出を語る

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『2001年宇宙の旅』(1968年) 〈前略〉   あるとき「ヒロシ、スタンリーのあの映画は見たか?」と聞かれた。クラークの小説をスタンリー・キューブリック監督が映画化した「2001年宇宙の旅」である。まだ見ていないと答えると「じゃあ一緒に見よう」と2人で映画館に入った。見終わった後、「自分で切符を買ってこの映画を見るのは実は初めてだ。実にいい作品に仕上がっている」と珍しく笑顔を見せていたのを覚えている。 〈以下略〉 (引用: 日本経済新聞『私の履歴書』(16)巨人の面影/2025年6月17日 )  クラークの著作を数多く翻訳・出版している早川書房の社長、早川浩氏がアーサー・C・クラークと一緒に『2001年宇宙の旅』を鑑賞した話を日本経済新聞の『私の履歴書』で語っていたのでご紹介。  ずいぶんとご機嫌なクラークの姿が目に浮かぶようですが、試写会時や公開当初は映画『2001年…』を気に入っていないどころか、失望すらしていたとは思えないほどの厚遇ぶりですね。鑑賞した日時は不明ですが、文章の内容から評価が酷評から激賞に変化した1968年夏以降だと思われます。ちょうどその頃に小説版が発売され、その邦訳版の出版契約か何かで渡米された時のエピソードではないでしょうか。  上記記事は有料とありますが、無料会員登録すれば月1回まで有料記事が無料で読めます。全文が気になる方はぜひ登録を。 情報提供:Kさま

【関連記事】音楽を怖がってください。『シャイニング』『2001年宇宙の旅』『アイズ・ワイド・シャット』・・・巨匠キューブリックが愛した恐怖クラシック

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左からバルトーク、リゲティ、ペンデレツキ  「別に怖い音楽を書いたわけじゃないんだけどね?」という作曲家たちの声が聞こえてきそう。なぜか、ホラー映画御用達の現代音楽。巨匠キューブリックは、バルトークやリゲティ、ペンデレツキといった作曲家を愛し、偏執的に映画の中で用いました。とっつきにくいと思われがちな現代音楽、こうなったら「怖がる」楽しみ方はいかがですか⁉  キューブリック・ファンに嬉しいプレイリスト付きでご紹介します。 〈以下略〉 (引用: ONTOMO/2018年8月13日 )  少し古い記事ですが、目に留まったのでご紹介。キューブリックがバルトーク、リゲティ、ペンデレツキを使ったのは「無調音楽」の匿名性、つまり主役のメロディがあってないような音楽なので、BGMではなく効果音的な使い方ができるということもあったかと思います。逆にメロディがどっしり主役を張る音楽は、特定のシーンに意図的に使うことで、ある種のメッセージを伝えようとする場合が多いです。(こう書くと特定の曲が思い浮かぶ方も多いはず)  キューブリックの自宅には図書館ほどの膨大なレコード・ライブラリーがあり「これほどたくさんの曲があるんだから、いろいろと使ってみないといけない」と語っていたそうです。使用する音楽は撮影中に思いついたりすることもあったようですが、やはり編集中にあれこれ試しては最適な曲を選び出していたようで(もちろん選んだ曲が100%使えるわけではない。使用許可が下りない場合もある)、それはそれは「楽しい作業」だったのだと思います。(キューブリックは編集作業が大好き)  記事では『2001年宇宙の旅』でのリゲティの「無許可使用」にも触れていますが、キューブリックがリゲティの使用を決めたのは公開直前のことで、その時はリゲティと連絡が取れなかったそうです。やむなく無許可で使用したところ(キューブリックはそれだけどうしてもリゲティを使いたかったのでしょう)、後でそれを知ったリゲティは「私の曲をハリウッド映画に使うなんて!』と大激怒!(当時は映画音楽は低く見られていた)無許可使用も相まって訴訟問題に発展するのですが、『2001年…』が画期的な傑作と評価されるようになると態度も軟化、後に無事に印税も支払われ、後のインタビューではキューブリックやその作品について好意的に語っています。(記事にはここ...

【関連記事】スタンリー・キューブリックが『シャイニング』の制作中に住んでいた英国の邸宅が900万ドルで売りに出される

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キューブリック一家が居住していた当時のアボッツ・ミード  まさにセントラルキャスティングから出てきた物件です。  スタンリー・キューブリックがかつて住んでいたハートフォードシャーの邸宅―彼が『シャイニング』『2001年宇宙の旅』『時計じかけのオレンジ』などの作品を制作した場所―が、約900万ドル(12億円)という破格の価格で売りに出された。  アボッツ・ミードとして知られる8ベッドルームの英国邸宅は、ロンドン郊外エルストリーのバーネット・レーンに位置している。金曜日に送られた不動産会社からのリリースによると、サヴィルズが販売している。   ニューヨーク生まれの故キューブリックは1965年にこの土地を購入し、14年間をそこで精力的に制作活動に費やしました。そして1999年に亡くなりました。  エルストリー・スタジオのすぐ近くにあるおかげで、この隠遁生活を好む映画監督は、緑豊かな2エーカーの敷地を離れることなく、制作や編集から特殊効果の開拓まで、あらゆる作業を管理することができました。  「豊かで多様な歴史を持つ素晴らしい住宅を数多く販売できることは、私たちにとって大変幸運なことです。しかし、映画撮影のロケ地として使われた場合を除き、これほど映画制作と直接的なつながりを持つ物件は稀です」と、サヴィルズ・リックマンスワースのオフィス責任者、スティーブン・スペンサー氏は声明で述べています。   スペンサー氏はさらに、「エルストリー・スタジオに近いことがキューブリック氏とその家族にとって完璧な拠点となりましたが、キューブリック氏は自宅で多くの仕事をし、スタジオ内で彼の並外れた作品群のうち4本の映画のあらゆる側面を注意深く管理していました」と付け加えました。 (引用: THE NEW YORK POST/2025年5月23日 )  キューブリックが『2001年宇宙の旅』〜『シャイニング』の制作中に住んでいた英国の邸宅「アボッツ・ミード」が900万ドル(約12億円)で売りに出されているそうです。内装は当時と変わっていると思いますが、記事には室内写真がいくつか。それに当時はプールはなかったはず。  キューブリックはそれまでたびたび映画製作のためロンドンは訪れていましたが、あくまで拠点は自身の出身地であるニューヨークでした。(ハリウッドが嫌で舞い戻ってきていた)。で...

【関連記事】トム・クルーズ独占インタビュー「ただ映画を作るために映画を作ったことは一度もない。常に映画作りの探求だった」

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〈前略〉 - 『アイズ ワイド シャット』は近年再評価され、多くの批評家から傑作と評されています。あなたは今、この作品についてどう思われますか?  素晴らしい経験でした。とても興奮していました。スタンリーの映画はよく知っていて、シドニー・ポラックを通して彼を知りました。それでスタンリーはシドニーに電話をかけ、私に映画を作ってほしいと言って、ファックスを送ってきたんです。  彼の家まで(ヘリで)飛んで、裏庭に着陸しました。前日に脚本を読んで、一日中それについて話しました。彼の出演作は全部知っていましたし、スコセッシ監督にも彼とシドニー・ポラックについて話しました。だから、彼の仕事ぶりや仕事のやり方は知っていました。それから、彼と私はお互いを知るようになりました。そうしているうちに、私はニコールに(アリスの)役をやってくれないかと提案しました。彼女は明らかに素晴らしい女優ですから。  撮影が長引くことは分かっていました。彼は「いやいや、3、4ヶ月で終わるよ」と言っていましたが、私は「スタンリー、いいかい、君のためにここにいる。どんなことがあっても、やり遂げる」と言いました。この映画はとても興味深いと思い、ぜひそういう経験をしてみたいと思いました。映画を作るときは、実際に依頼する前に綿密な調査を行い、関係者とじっくり時間をかけて話し合います。そうすることで、彼らが何を求めているのか、そして彼らが私のことを理解し、どのように一緒に仕事をすれば特別な作品が作れるのかを理解してもらえます。  とてもユニークな経験でした。クルーはそれほど多くありませんでした。夏に到着して、基本的にはテスト撮影を始めたばかりでした。脚本はまだアイデアの段階でした。映画のトーンを本当に見つけるために、シーンを何度も書き直し、撮影し、そしてまた撮影し直しました。 -映画の夢のようなクオリティを実現するために、キューブリックとどのように協力しましたか?  レンズを操作しながら、構図やシーンのリズムを探っていました。カメラの動かし方。それぞれのシーンに独特のリズムがあって…催眠的で夢のような体験を生み出します。まさに私のキャラクターが経験していたことと同じでした。そして、最終的に彼がたどり着いたのは、ジェルジ・リゲティの作品を使うことでした。彼はリゲティが大好きだったんです。 - プロデューサーのヤン・ハ...

【ブログ記事】カンヌ国際映画祭のカンヌ・クラシックで『バリー・リンドン』が4Kで上映

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 ライアン・オニールとマリサ・ベレンソンが主演を務めるスタンリー・キューブリック監督による、ウィリアム・メイクピース・サッカレーの18世紀の古典小説『バリー・リンドンの回想録』は、繊細で颯爽とした悪党の栄枯盛衰を描いた作品。アイルランドを追われたハンサムな若者レドモンド・バリー(オニール)は、決闘でイギリス軍将校を殺害したためアイルランドを追われ、プロイセンで兵士、スパイ、そしてヨーロッパのエリート層の間でギャンブラーとして一攫千金を夢見る。彼は名前を変え、富を求めて貴族(ベレンソン)と結婚するが、求め続けた成功はついに果たせない。 アカデミー賞4部門受賞:撮影賞、美術賞、衣裳デザイン賞、作曲賞 監督:スタンリー・キューブリック 製作年:1974年 製作国:イギリス、アメリカ 上映時間:184分 (引用: カンヌ映画祭公式サイト )  2025年5月23日、カンヌクラシックスのクロージング作品として上映された『バリー・リンドン』はクライテリオン社による新しい4K修復版で、35mmのオリジナルカメラネガの4Kスキャン、撮影時の正しいアスペクト比1.66:1で上映、サウンドはオリジナルの35mm磁気トラックから作成されたそうです。  上映当日、主演の一人であるマリサ・ベレンソンが登壇。映画はキューブリックとファンにはおなじみの映画評論家ミシェル・シマンに捧げられました。 4K版はクライテリオンから7月に4KUHDでリリースされる ことが決まっていますが、残念ながら日本語字幕はなし。まあなくても内容は知っているし困らないのですが、特典映像はないと困ります。ワーナーは出す気あるのでしょうか?でなければ『午前十時の映画祭』あたりでの上映を期待したいですね。

【ブログ記事】NHK『映像の世紀バタフライエフェクト〜AI未来を夢みたふたりの天才』に『博士の異常な愛情』のストレンジラブ博士が「不適切な引用」として登場

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 2025年5月19日にOAされたNHKの『映像の世紀バタフライエフェクト〜AI未来を夢みたふたりの天才』は、現在のコンピュータの基礎の基礎になったエニグマ解読機の開発者アラン・チューリングと、プルトニウム型原爆の開発に携わったフォン・ノイマンが特集されていました。  番組中、フォン・ノイマンが『博士の異常な愛情』のストレンジラブ博士のモデル「とも言われる」とされていましたが、それを示す資料も証言もありません。あるのは、当時物議を醸したストレンジラブ博士のモデルを巡って、様々な「憶測」や「推論」が飛び交い、その中にはエドワード・テラー、フォン・ノイマン、ヘンリー・キッシンジャー、フォン・ブラウン、ハーマン・カーンといった面々が「取りざたされていた」という事実です。つまりそのように「言われていた」だけの話です。ですので番組中も「とも言われる」とナレーションされたのですが、往往にしてこの「とも言われる」は無視されることが多く、そのまま「ストレンジラブ博士のモデルはフォン・ノイマン」と解釈されがちです。その意味でも不適切だと言わざるを得ません。  ちなみにストレンジラブ博士は原作小説『赤い警報』には登場しませんので、完全にキューブリックサイドの創作になります。ドイツ出身の優秀な科学者というアイデアはフォン・ブラウンなど(当時アメリカの最先端の科学者にはドイツ出身者が多かった)から、核戦争の思想については『熱核戦争論』のハーマン・カーンから、キャラクターそのものは演じたピーター・セラーズのアドリブによるもので、車椅子のアイデアはキューブリック、黒い手袋と勝手に動く右手のアイデアはセラーズ、ドイツ語訛りの口調は写真家のウィージーを参考にしたというところまでは判明しています。  さて、この番組、チューリングとノイマンだけでは尺が余ったのか、後半に「AIの父」と呼ばれるマービン・ミンスキーが登場します。ミンスキーは『2001年宇宙の旅』にアドバイザーとして参加し、その貢献度の高さから「カミンスキー博士」として劇中にも登場しています(冷凍睡眠中にHALに殺されてしまいますが)。AIの話をするならノイマンよりもはるかに重要人物で、『2001年…』でのスペース・ポッドのマニュピレーターやHALのモニタ画面(正方形)の元になった映像が番組内に登場しています。  番組の構成としてはチューリ...

【関連記事】トム・クルーズ、『アイズ ワイド シャット』の役にニコール・キッドマンを「推薦した」と語る。「彼女は素晴らしい女優だ」

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クルーズとキッドマンは2001年に離婚するまで11年間結婚生活を送っていた。  トム・クルーズは、離婚から25年近く経った今でも、元妻のニコール・キッドマンを高く評価している。  Sight and Sound(The Independent経由) との最近のインタビューで、俳優は1999年の映画『アイズ ワイド シャット』を振り返り、スタンリー・キューブリック監督のエロティック・スリラーで、ドクター・ビル・ハーフォードの相手役としてアリス・ハーフォード役にキッドマンを推薦したと語った。  「彼の家まで(ヘリで)飛んで、裏庭に着陸したんだ。前日に脚本を読んで、一日中それについて話した。彼の作品は全部知っていたんだ」と彼は回想する。「それから、彼と私はお互いを知るようになった。そうしているうちに、ニコールに(アリスの)役を演じてはどうかと提案したんだ。だって、彼女は素晴らしい女優だからね」  クルーズはこの映画に特に熱心で、撮影が予想よりずっと長引いたにもかかわらず、キューブリックに「(映画を作るために)何が起ころうとも、我々はやるつもりだ」と語った。 〈中略〉  「この映画はとても面白かったので、自分もそういう経験をしてみたかったんだ」と『ミッション:インポッシブル』のスターは振り返る。「映画を作るときは、実際に手がける前に綿密な調査をし、出演者たちとじっくり時間をかけて話し合う。そうすることで、彼らが何を求めているのか、そして彼らが私のことを理解してくれるかを理解し、どうすれば一緒に特別な作品を作ることができるのかを理解できるからだ」  キッドマンは以前、一部の視聴者がスクリーン上の二人の関係と現実の関係を比較したため、クルーズと『アイズ ワイド シャット』で共演したことで、当時の二人の結婚生活について「否定的な感情」が生じたかどうかについて言及していた。 「それは人々が思い描いていた物語には当てはまるけれど、私は絶対にそうは思っていませんでした」と彼女は2020年にニューヨーク・タイムズ紙に語った。「私たちはそういったことを乗り越えて幸せな結婚生活を送っていました」 〈以下略〉 ( The Hollywood Reporter/2025年5月11日 )  実はそのトムのキャスティングもワーナー側からの提案でした。最初ハリウッドスターを起用することを渋っていた(『...

【関連記事】「名監督スタンリー・キューブリックと、19歳の私」『2001年宇宙の旅』の制作に参加したブルース・ローガンのインタビュー記事

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宇宙ステーションVのセットに立つブルース・ローガン  1965年、私はイギリスのボアハムウッドにあるアニメーションスタジオで働いていました。BBCと軍向けの小さなアニメーションプロジェクトを制作していました。ロンドン・サンデー・タイムズ紙の記事で、私の大好きな監督、スタンリー・キューブリックが、通りの向かいにあるMGMスタジオでSF映画を制作するという記事を見つけました。その映画のタイトルは『2001年宇宙の旅』でした。 名監督スタンリー・キューブリックと、19歳の私  それから間もなく、運命の出会いがありました。VFXのパイオニア、ダグラス・トランブルが、この映画のアニメーションアーティストを探しに、私たちの会社にやって来たのです。当時、優良企業で安定した仕事をしていれば、半年ほどフリーランスの仕事に就くことなど考えられませんでした。しかし、私は気まぐれで気ままな性格だったので、面接を受け、そして採用されました。  まさかこの仕事が2年半(この業界での生涯最長の収入源)も続き、私のキャリアの中で最も影響力のある経験になるとは、その時は夢にも思っていませんでした。そして、その後数年間、スタンリー・キューブリックと一緒にテスト上映に座り、作品を批評することになるとは、夢にも思っていませんでした。もし今これをやらなきゃいけないと誰かに言われたら、きっと神経衰弱を起こしてしまうでしょう。でも、当時は19歳で、何も分かっていませんでした。 では、スタンリー・キューブリックとはどんな人だったのでしょうか?  彼との出会いは、深い思いやりと優しさ、そして共感力を持ち、ユーモアのセンスも抜群の人でした。しかし、それが彼の人柄でした。映画監督として、彼は自身のビジョンを形にするために、非常に強い意志と容赦ない精神力を持っていました。私が数日間体調を崩したとき、彼は自宅に電話をかけてきて、救急車を呼んで担架で運び込み、アニメーション撮影をさせると脅すほどでした。  彼には、『博士の異常な愛情』で演じたジャック・D・リッパー将軍によく似た、特異な癖もありました。彼はボトル入りの水しか飲まなかった(60年代のイギリスでは考えられないことだった)。ポケットを空っぽにしておくのが好きで、車のキーを車に置きっぱなしにして、私たちからタバコをせびっていた(注:妻のクリスティアーヌに禁煙を厳命され...

【関連記事】手塚治虫が選ぶ「SF映画ベスト10」

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天国への階段 幽霊紐育を歩く メトロポリス 月世界征服 光る眼 原子人間 宇宙戦争 2001年宇宙の旅 地底探検 猿の惑星  SF映画の面白さはSF小説の面白さとは違う。映画は画期的に面白く、ゲテモノでなく、見た目に面白いものがよい。最近では『猿の惑星』が傑作だ。  『時計じかけのオレンジ』は社会風刺としては面白いが入れるのをためらった。そういう意味では『博士の異常な愛情』などはSFというよりもSF番外編としてはトップに入れたいところだ。総体的に原作がある作品にあまり面白いものがなく、オリジナルな映画が面白いというのは、原作にしばられて思うように画像の飛躍ができないからだろう。『日本沈没』は小説は面白いが映画は失敗するだろう。  小松左京氏、筒井康隆氏などにぜひシナリオを書いてもらいたいものだ。マンガ家にもSF映画の発想ぐらいには参画させてほしい。 (引用:『ロードショー』1973年10月号)  手塚治虫が『2001年宇宙の旅』を高く評価しているのは周知の事実ですが、コメントとして『時計じかけのオレンジ』『博士の異常な愛情』にも触れ、結局3つもキューブリック作品を選んでいますね。どんだけキューブリック好きやねん!と思いますが、他はまあ1973年当時としては順当な気がします。ちょっとクラシック寄りな気もしますが。1、2は存じ上げなかったので調べてみましたが、SFというよりファンタジー要素が強そうな作品です。意外なのは『地球が静止する日』『地球最後の日』『禁断の惑星』あたりを挙げていないこと。単に忘れていただけな気もしますけど。  「総体的に原作がある作品にあまり面白いものがなく、オリジナルな映画が面白いというのは、原作にしばられて思うように画像の飛躍ができないからだろう」という指摘は自身もクリエーターである立場からの発言だと思います。実は映画は原作ものばかりですが、権利関係や契約などで映画製作者の創作の自由が縛られてしまうとつまらなくなってしまう、という意味に取っておきましょう。キューブリックはまさにそれを嫌がって契約には白紙委任状態を求め、製作はハリウッドの目が届きにくいロンドンでという判断をしました。  あと、『日本沈没』は興行的には成功しましたね。内容(評価)的に失敗するという意味かも知れないですが。手塚先生はその場の思いつきでぱぱっと言ったりする方なので、こう...

【スペシャルレポート】シネ・リーブル池袋にてNTLive『博士の異常な愛情』を鑑賞してきました

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  以前 こちら で告知したNTLive(ナショナル・シアター・ライブ)『博士の異常な愛情』をシネ・リーブル池袋にて鑑賞してきましたのでその感想を記してみたいと思います。 〜以下、ネタバレ注意〜  まず「演劇を映像に収録してそれを世界各国の映画館で上映する」(詳細は こちら )というアイデア。その場で演じられるライブ感を楽しみたいコアな演劇ファンはどう思っているかはわかりませんが、個人的には好意的に思いました。なにしろ海外で上演された演劇を日本でそのまま観る方法はほぼなく、日本人俳優によるローカライズがせいぜいです。それに演劇鑑賞は鑑賞者にある種の緊張感を強いてきます。もちろんそれが好きという方もいらっしゃるとは思いますが、映画ファンにとって敷居が高いのも事実。そういった「懸念」を全く感じさせることもなく、本国で上演された演劇をそのまま映画館で気軽に鑑賞できるという意味では、非常に有意義な試みだと思いました。  さて、肝心の本編ですが、もちろんあのキューブリックの名作を演劇に落とし込む際、様々な制約があったことは理解できます。さらにこの作品は主演のスティーブ・クーガンが、ピーター・セラーズが演じたストレンジラブ博士、マフリー大統領、マンドレイク大佐に加え、ピーターが演じるはずだったコング機長まで演じています。それによってもたらされた制限・制約は非常に多く、それを回避するために採られた方法に100%同意できるかといえば、やはりもっとやりようがあったのではないか?と感じてしまいました。つまり、テンポの悪さが気になったのです。また、リッパー将軍やタージドソン将軍の演技に「狂気成分」が足らないな、とも感じました。もちろん現代におけるコンプライアンス的な問題があったのかもしれませんが、映画版のスターリング・ヘイドンやジョージ・C・スコットのキレッキレの演技を見慣れている目にはそう映ったのも事実です。  ですが、全体的には非常に満足できました。確かに映画版のような狂気成分は薄めですが、コメディ要素を増やした分、何度も声を上げて笑うことができました。映画版は狂いすぎてて「笑うに笑えない」ですからね。それに付け加えられた昨今の国際情勢ネタ、特に「おそロシア」ネタには大爆笑。ラストシーンも「こうくるか・・・笑」と謎の感動があり、おおいに楽しませていただきました。  そして何よ...

【関連記事】ルック社時代、上司だった著名なフォトジャーナリスト、アーサー・ロスシュタインが撮影した入社したてのキューブリックのポートレート

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アーサー・ロシュタインが撮影した17歳のキューブリック。当時まだ目は悪くなかったはずで、メガネはふざけてかけたものだと思われる 〈前略〉 キューブリックの写真スタイル  ルック誌のカメラマン見習いとして働き始めた最初の6か月間、キューブリックは同誌のより経験豊富なカメラマンから指導を受けた。その指導者の1人がアーサー・ロスシュタインだった。1978年のインタビューでロシュスタインは「年配のカメラマンにとって仕事で得られる最大の満足感は、若いカメラマンが何かを達成するのを手助けすることです。私はキューブリックがルック誌の専属カメラマンだった初期の頃、彼を助けました」と語っている。 フォトエッセイ   ロシュスタイン の著書「フォトジャーナリズム」によると、この雑誌には6段階のフォトエッセイ制作プロセスがあった。写真家は、写真編集者からストーリーを割り当てられると、プロセスの第3段階に参加することになる。写真家はアイデアを提案できるが、通常は自分の能力と好みに基づいてフォトストーリーが割り当てられる。  プロセスの第4段階では、写真家とライターが現場に出向き、記事用の写真を撮影します。  撮影現場に出発する前に、写真家は編集者と撮影内容について話し合い、撮影台本を含む被写体に関する情報を受け取ります。  ルックは、作家が写真家と協力して物語を完全に理解することが重要だと信じていました。作家は視覚的に考えるよう奨励され、脚本を準備する際には、写真家が物語を捉えるのに役立つ主題や設定に関する情報をすべて盛り込むように指示されました。  この雑誌は、写真家たちに、表現力豊かな孤立した写真ではなく、フォトエッセイや物語性のある連続写真の制作を求めていました。原稿から逸脱することが頻繁にあったため、写真家たちは柔軟に対応する必要がありました。  この撮影アプローチは、キューブリックの映画人生を通じて貫かれました。後のインタビューで彼は「最後の瞬間に適応できること」と、たとえ脚本の弱点が露呈することになったとしてもチャンスを活かすことが重要だと語っています。 報道を受ける   ロスシュタイン の本では、撮影範囲の重要性についても触れています。『ルック』は実際の記事よりも写真に重点を置いており、キューブリックを含むスタッフカメラマンは、雑誌の美術部門に記事のレイアウトに幅広い選択肢を...

【上映情報】昨年秋、ロンドンで上演された舞台版『博士の異常な愛情』が2025年5月9日よりTOHOシネマズ日本橋ほかで映画として上映決定!!

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『博士の異常な愛情』 5/9(金)〜 TOHOシネマズ日本橋ほか あのキューブリックの名作が舞台になって登場! 演出:ショーン・フォーリー(映画『マインドホーン』監督、オリヴィエ賞受賞演出家) 作:スタンリー・キューブリック 脚色:ショーン・フォーリー、アーマンド・イアヌッチ(映画『スターリンの葬送狂騒曲』監督・脚本、映画「どん底の作家に幸せあれ!」監督・脚本、エミーアワード受賞歴あり) 主演:スティーヴン・クーガン(4役) 撮影場所:ノエル・カワード・シアター 上映時間:2時間5分 ポイント:BAFTA賞を7度受賞したスティーヴ・クーガン(『アラン・パートリッジ』『トリップ』)が、スタンリー・キューブリックの傑作コメディ『博士の異常な愛情』の世界初舞台化で4役を演じる。アメリカの悪徳将軍が核攻撃を引き起こしたとき、政府と一人の風変わりな科学者が世界滅亡を回避するために奔走する、シュールな競争が繰り広げられる。 エミー賞受賞のアーマンド・イアヌッチ(『ザ・シック・オブ・イット』、TVドラマ『Veep/ヴィープ』)、オリヴィエ賞受賞のショーン・フォーリー(『The Upstart Crow』、『The Play What I Wrote』)など、世界的に有名なクリエイティブ・チームが率いる、爆発的に面白い風刺劇。 (引用: ナショナル・シアター・ライブ『博士の異常な愛情』公式サイト )  昨年秋、ロンドンのノエル・カワード・シアターで上演された、スティーヴン・クーガン主演(ストレンジラブ博士、マフリー大統領、マンドレイク大佐、コング機長の4役)の舞台版『博士の異常な愛情』が、2025年5月9日よりTOHOシネマズ日本橋ほかで「映画として」上映決定いたしました。ロンドンの上演を観ることができず、悔しい思いをされた方には朗報ですね。  私は一足早く、試写版を視聴させていただきましたが、キューブリック版をかなり忠実に再現していたのには驚きました。舞台である以上、俳優の着替え時間や場面転換などの制約があるのですが、さまざまな工夫を凝らすこと(詳細は語りません。笑)で上手くそれらを回避しています。さらにあの「北の大国」や例の「チョビ髭」も(必要以上に?)コスられていて、お笑いにはシニカルな私もおもわず声を上げて笑ってしまいました。  とにかく、あの名場面もあの台詞もあの曲も登場...

【関連記事】『シャイニング』の不気味な写真に隠された45年間の謎が解明されたか?

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 引退した学者兼ジャーナリストが、古典ホラー映画の悪名高い写真に写っていた男性を特定した。  これは『シャイニング』のラストシーンに重ねて使用されたとされるオリジナル写真です。1921年2月14日、ロンドン、ケンジントンのロイヤル・パレス・ホテル、エンプレス・ルームで開催されたバレンタインデー・ダンスと社交ダンスの大会に出席する観客たちを捉えています。手前中央で両腕を大きく広げているのは、南アフリカ出身の社交ダンス教師、サントス・カザーニ(通称ジョン・ゴールマン)です。( Morey/Topical Press Agency/Hulton Archive/Getty Images )  それはホラー映画の歴史に刻まれた瞬間です。  スタンリー・キューブリック監督の1980年のホラー映画の傑作『シャイニング』で、 カメラはオーバールック・ホテルの廊下に掛けられた白黒写真にズームインする。写真には1921年7月4日の日付が記されている。中央には、ジャック・ニコルソン演じるジャック・トランスが、パーティー参加者の群衆の中で微笑んでいる。    しかし、この写真はエキストラを使って撮影されたものではありません。1920年代の実際の写真で、ニコルソンの顔が誰かの顔に重ねられていました。一体誰の顔だったのでしょうか?  〈以下略〉 (引用: CBC Radio/2025年4月10日 )  『シャイニング』のラストシーンに登場した、ジャック・ニコルソンが写り込んだ古い集合写真は映画のために撮影されたのではなく、既存の古い写真にニコルソンの写真を合成(切り貼りしてその境目をエアブラシで補修)したことは以前 この記事 でお伝えした通りです。そして今回、ついにその「古い写真」の詳細がわかったということでそれは記事にある通りです。  意外だったのが映画の設定年と実際に撮られた年が1921年と一致していたこと。数年のズレはあっても仕方ないだろうと考えていたのですが、どうやらその年のバレンタインデーのパーティーか、独立記念日のパーティーかの違いしかなかったようです。これはラッキーでしたね。  キューブリックは原作小説の「呪われたホテルが焼け落ちる」というラストを早々に「陳腐だ」と廃棄し、代替案をいろいろと考えていたようですが、その一つに病院シーンの後に単にホテルの...

【関連記事】キューブリック財団が『2001年宇宙の旅』の衝撃を描くドキュメンタリー制作に着手、レオナルド・ディカプリオ、マイク・メダヴォイらがプロデュース

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独占:スタンリー・キューブリック監督の『2001年宇宙の旅』の影響が、この伝説の映画監督の財団とスタンリー・キューブリック・アーカイブとの提携により制作されるドキュメンタリーで探究される。  映画『モノリス』のプロデューサーは、フェニックス・ピクチャーズのマイク・メダヴォイとマイケル・リー・ピーターソン、キャッチライト・スタジオのジェイソン・クラーク、ショーン・リチャード、そしてアカデミー賞受賞者のレオナルド・ディカプリオとアピアン・ウェイのジェニファー・デイヴィソンです。パートナーズ・イン・カインドとタイム・スタジオが共同出資しています。  2026年の公開が予定されているこのドキュメンタリーは、今月から制作が開始されます。監督は、2015年に公開され高い評価を得たブランドをテーマにしたドキュメンタリー『Listen to be Marlon 』のスティーヴン・ライリーです。  「『2001年宇宙の旅』は究極の時代精神を体現した映画です」とライリーは声明で述べた。「最近、映画監督たちによって史上最高の映画に選ばれましたが、それも当然のことです。この映画は、私たちが今日直面している劇的な技術と社会の変化を予見し、それを物語っています」  キューブリックとアーサー・C・クラーク(クラークの短編小説『前哨』に基づく)が脚本を担当した『2001年宇宙の旅』は1968年に公開され、キア・デュリアとゲイリー・ロックウッドが主演し、ダグラス・レインがスーパーコンピューターHALの不気味な声を演じた。  「『モノリス』は、スタンリー・キューブリック、アーサー・C・クラーク、そして彼らの協力者たちのパートナーシップから生まれた、現代を形作った多くの画期的なアイデアを深く掘り下げています」とリリースには記されています。「このドキュメンタリーでは、キューブリックとクラークの間で交わされた、これまで公開されたことのない個人的な手紙や物語を紹介するほか、現代の先見者や、様々な分野の変革者たちによる洞察に満ちたインタビューも収録されます。彼らは映画からインスピレーションを得て、今日の世界を創造したのです」 〈中略〉  公開から数十年を経ても、『2001年宇宙の旅』の評価は高まるばかりだ(1969年には批評家のポーリン・ケイルが酷評したことで有名だが、これは異端だった)。2013年、キリアン・...

【関連記事】THE NEW YORKER誌に『博士の異常な愛情』のパロディが登場

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バリー・ブリットの「Left to Their Own Devices」 トランプ政権のそれほど機密扱いされていないグループチャット。  2025年4月7日号の表紙で、漫画家のバリー・ブリットはスタンリー・キューブリック監督の1964年映画『博士の異常な愛情 あるいは私は如何にして心配するのをやめ、核爆弾を愛するようになったか』のビジュアルイメージを借用し、最近ニュースを見る誰もが襲われる切迫した破滅感を表現している。そして、シグナルゲート事件を受けて、デイヴィッド・レムニックが書いているように、トランプ政権がその独裁的な意図を隠そうとしなかっただけでなく、「その悪意、報復、そして途方もないスピードという性質が、その指導者たちの無能さを幾分か覆い隠している」ことが明らかになった。  恐怖と安全策に関するその他の記事については、以下を参照してください。 (引用: THE NEW YORKER/2025年4月7日 )  記事にある「シグナルゲート事件」とは、イエメンのフーシ派に対する攻撃情報をこともあろうか「シグナル」というメッセージアプリを使ってやりとりし、それが漏洩(原因は関係者の単純なアプリ操作ミス)したという事件なのですが、それは『博士の異常な愛情』で、核攻撃を止める暗号文を公衆電話で、しかも交換手を通して平文で伝えようとしたシーンを彷彿とさせる話です。  それを受けてのこの表紙イラストだと思うのですが、ロシアによるウクライナに対する軍事侵攻以来、キナ臭い話題には『博士…』がよく引用されます。まあ昔から戦争に関する話題でこのような引用は散見されたのですが、現在は「核攻撃」がシリアスな問題になっていますので、正直笑ってもいられません。だた、『博士…』公開当時のアメリカの切迫感を身近に感じられるという意味では、貴重な「追体験」と言えなくもないですが・・・。せめてこの程度の「追体験」で終わって欲しいと願うばかりです。

【考察・検証】『2001年宇宙の旅』の字幕の珍訳「ハルも木から落ちると言うでしょ」を検証する

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 ファンの間ではある意味有名な「ハルも木から落ちると言うでしょ」という珍訳。これはHALの行動に疑念を抱いたボーマンとプールが、スペースポッドの中でHALの停止を相談するシーンに登場します。まずボーマンが「HALの言う通り、9000型はミスを犯したことがない」と切り出し、それに対してプールが完璧だと思われているものでもミスをすることがある日本の例え「猿も木から落ちる」の「猿」と「HAL」をかけて「ハルも木から落ちると言うでしょ」と言うのです。この字幕は木原たけし氏によるもので、初出は『2001年…』が初めてビデオ化された1980年当時のものだと思われます。  一方、吹替版では「しかし間違いを指摘したのも同じ型のコンピュータですよ?」と、視聴者にHALが異常であることを改めて示す内容になっていて、字幕版とは全くセリフが異なります。この初出は『2001年…』の日曜洋画劇場でのTVオンエア時、つまり この時 ですね。訳は飯嶋永昭氏によるもの。  では、初公開時はどうだったのかというと「だがどうにもそのままには信じ難い」(引用:キネマ旬報社『世界SF大全』)となっていて、訳は田山力哉氏。フロイド博士が娘に買った誕生日プレゼント「ブッシュベビー」を「乱れ髪の赤ちゃん」と誤訳した方です。  さて、肝心の原語はどうなのかと言えば「Unfortunately, that sounds of a little like famous last words」というセリフで、訳すと「残念だが、有名なその言葉はこれで最後になりそうだな(残念だが、それはどうかな。という皮肉)」で、プールはHALが異常であることを確信している内容になっています。実はこのセリフは意味深で、このセリフに怒ったHALが「だったらそう言うお前を最後にしてやる!」と言わんばかりにプールを殺害するからです。  以上のように、セリフひとつ取ってみても訳者が様々な工夫しているのが見て取れるのですが、字幕にも厳しいキューブリックがどこまで詳細にチェックしていたのかは不明です。例えば『フルメタル・ジャケット』ですが、字幕を担当した原田眞人氏によると「最初はチェックされたがある程度まできたら任されていた」と語っています。キューブリック本人も「なにしろ日本語の構文法は、我々には普通じゃない」と半ばお手上げ気味で、そもそも『2001年...

【TV放映情報】NHK BSプレミアムシネマで2月26日(水)午前0:05より『フルメタル・ジャケット』オンエア決定

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 「フルメタル・ジャケット」 鬼才スタンリー・キューブリック監督が、ベトナム戦争を舞台に、殺人兵器へと変貌していく新兵たちと過酷な戦場を痛烈なユーモアと迫力の演出で描く傑作戦争映画。サウスカロライナ州の海兵隊訓練基地で、鬼教官ハートマンの地獄の特訓を受ける新兵たち。人間性をなくすことを求められ、追い詰められていくうち、不器用な劣等生レナードは精神に異常をきたしてしまう。やがて新兵たちはベトナムの戦場へ送り込まれていくが…。 作品情報 放送日時:2月26日(水)午前0:05~午前2:03 内容時間:1時間58分 (原題:FULL METAL JACKET) 〔製作・監督・脚本〕スタンリー・キューブリック 〔原作・脚本〕グスタフ・ハスフォード 〔脚本〕マイケル・ハー 〔撮影〕ダグラス・ミルサム 〔音楽〕アビゲイル・ミード 〔出演〕マシュー・モディン、アダム・ボールドウィン、ヴィンセント・ドノフリオ、R・リー・アーメイ ほか (1987年・アメリカ)〔英語/字幕スーパー/カラー/レターボックス・サイズ〕 (引用: NHK BSプレミアムシネマホームページ )  『フルメタル・ジャケット』は民放のBSやCSの映画番組で割とよくオンエアされていますが、NHK BSでオンエアされることはあまりなかったか、ひょっとしたら初めてかもしれません。少なくともこのブログの記録にはありませんでした。  コンプライアンスが声高に叫ばれる現在、ハートマン軍曹の罵詈雑言や猥褻なセリフがNHKの放送倫理規定にひっかかる可能性がありますが、それと同時に制作者(特に故人)の意思も尊重されるべきという認識も広く定着するに至りました。この二律背反な状況でNHKがどんな判断をするのか非常に興味がありますが、深夜帯ということを考えれば何事もなかったかのようにそのままオンエアするか、「制作者の意図を尊重しそのまま放送いたします」というテロップが表示されてから本編が始まるという対応が一番現実的ではないかと思います。  まさか字幕の一部を伏せ字にするとか、当たり障りのない訳に変更するとかしないとは思いますが、そうなればそうなったで「盛り上がる」ので(苦笑)オンエアを楽しみに待ちたいと思います。 情報提供:崎環さま

【上映情報】「午前十時の映画祭15」で『2001年宇宙の旅』『時計じかけのオレンジ』上映決定!!

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 「午前十時の映画祭15」はリクエスト特集として、2024年8月31日(土)まで特設サイトか郵送で上映作品のリクエストを募集しました。その結果約7万票が集まり、以下の順位になりました。 第1位 バック・トゥ・ザ・フューチャー 第2位 タイタニック 第3位 2001年宇宙の旅 第4位 ニュー・シネマ・パラダイス 第5位 七人の侍 第6位 サウンド・オブ・ミュージック 第7位 レオン 完全版 第8位 アマデウス 第9位 風と共に去りぬ 第10位 E.T. 第11位 時計じかけのオレンジ 第12位 羊たちの沈黙 第13位 エイリアン 第14位 ショーシャンクの空に 第15位 トップガン 第16位 砂の器 第17位 ローマの休日 第18位 シザーハンズ 第19位 パルプ・フィクション 第20位 ターミネーター2 (引用: 午前十時の映画祭/お知らせ ) この結果を踏まえ、上映作品を事務局が選定。そして『2001年宇宙の旅』(4回目)、『時計じかけのオレンジ』(2回目)の上映が決定いたしました!!この2作品は入れ替え制で、『2001年…』はグループAの劇場で2026年1月30日(金)~2月12日(木)、グループBの劇場で2026年2月13日(金)~2月26日(木)、『時計…』はその逆となっています。  『2001年宇宙の旅』は初の4K上映です(IMAXは特別上映だったので例外)。今までは2KでしたがそのDCPは画質や音質などあまり状態が良いとは言いがたく(かなり初期のDCP)、今回も2Kならスルーするつもりでした。ところが今回は4K。ソースはおそらくIMAXと同じ8Kスキャンデータだと思われます。それをビスタサイズに加工し、上下レターボックスで下の黒味に字幕を表示させるのだと思います(違っていたらすいません)。つまりスクリーンサイズが大きければ大きいほど視聴条件が良いということになりますので、上映劇場を選べる首都圏や関西圏の方は上映スクリーンをご確認の上、視聴劇場を決定することをおすすめいたします。なお上映時間はインターミッション(休憩)入りの150分。薄暗い中で流れるリゲティの『アトモスフェール』もお楽しみいただけます。これは期待大ですね。  一方の『時計じかけのオレンジ』は2Kですので前回(2019年)と同じDCPです。人気作品のため休日の回は満員が予想されますの...