投稿

8月, 2006の投稿を表示しています

【登場人物】ドイツ人少女(German Girl Singer)

  『突撃』のラストシーンで登場する、敵に捕まったドイツの少女。酒場でフランス兵の前で無理矢理歌を歌わされるが、その歌声に心揺さぶられ、次第にフランス兵達が涙ぐんでくる一連のシークエンスは強く印象に残る。演じているのは急遽現地ドイツでキャスティングされたスザンネ・クリスチャン。後にキューブリックの三番目の妻となった。だた、この時すでに24~5歳、しかもバツいちの子持ちだったわけで、「少女」というには若干無理があるのも事実。因に歌っていた歌は『忠実な兵士』。

【登場人物】スパルタカス(Spartacus)

  『スパルタカス』の主人公で反乱奴隷軍のリーダー。「スパルタカスの反乱」は史実であり、紀元前73~71年頃の出来事で、おおまかには映画もそれに拠っている。ただ、スパルタカスの最後がどうなったかは謎のままなので、映画では「アッピア街道に磔されるが、未来を息子に託す」というラストシーンが創作された。また、演じたカーク・ダグラスのイメージと相まって、「清廉潔白で正義感の強い英雄」として描かれているが、この時代の事、イタリア各所で暴動・略奪なども行っている。

【登場人物】ダックス大佐(Col. Dax)

  『突撃』で、理不尽な上層部の命令に断固とした態度をとり続ける第701連隊長。民間では弁護士だった。一般に『突撃』は反戦映画と言われるが、ダックスは理不尽な命令に反対しただけで、戦争そのものは否定していない。むしろ臆病風に吹かれて塹壕を出ようとしない小隊を鼓舞している。まあ、ちょっとでも軍部批判をすればすぐ反戦と結びつける風潮はどこにでもあるもので、キューブリックも「反戦映画」と言われる事に対して異を唱えている。

【関連記事】新ボンド「007」のスタジオで火災 屋根やけ落ちる

  英国のスパイ映画「007」の最新作「カジノ・ロワイヤル」が撮影されたロンドン郊外のセットで30日、火災が発生、建物から煙が噴き上げ、屋根が黒こげになって焼け落ちた。消防車8台が出動、近くの道路が一時封鎖される騒ぎになったが、けが人などはなかった。  バッキンガムシャー州消防隊によると、火災が発生したのはロンドン西郊のパインウッド撮影所。イタリアのベネチアを模した舞台がつくられ、「007」最新作の一部がここで撮影された。   「カジノ・ロワイヤル」は昨年、新ジェームズ・ボンド役に選ばれたばかりの俳優ダニエル・クレイグ初の主演作で、今秋に封切られる予定だ。 (引用:asahi.com/2006年7月31日)  パインウッド撮影所といえば、『アイズ ワイド シャット』で、敷地内にニューヨークのセットを建てた所ですね。スタジオの火事はキューブリックも『シャイニング』で経験していて、セットの再建に250万ドルの費用、スケジュールの大幅な遅れなど、大変な損害を被っています。幸いこの火事でけが人は出ませんでしたが、キューブリックがスタジオで必要のないときまでヘルメットをかぶっていたのは、あながち大袈裟な事じゃないのかも知れません。映画製作にはこういった危険はつきものなんでしょう。

【パロディ】オペレーション・ルーン(Operation Lune)

イメージ
 「1969年の月面着陸はNASAがキューブリックに撮らせたヤラセだった!」という世紀のスクープをフランスのTV局が製作した衝撃のドキュメント。なんと言っても登場する面子がすごい。キューブリック関係者だと妻のクリスティアーヌ、義弟のヤン・ハーラン、政府側ではキッシンジャーにラムズフェルド、ローレンス・イーグルバーガーに、NASAでは宇宙飛行士のジェフリー・ホフマンや月面に降り立った当事者であるバズ・オルドリンまで、リアリティーありありですね・・・ってこれは2003年のエイプリールフールにオンエアされたジョーク番組。最後には月面の映像にキューブリックの写真が映っていた、なんてオチまで用意するなど徹底しています。  キューブリックが生きていたら、絶対実現しなかっただろうこの企画、日本ではダイジェスト版が2003年12月31日放送の「ビートたけしの世界はこうしてダマされた!?」でオンエアされたようですが、TVはあまり見ない方なので残念ながら未見です。フルバージョンでは50分ほどあるようなので、なんとかフルで観てみたい!というのも、番組では関係者として「ジャック・トランス」、「デビット・ボーマン」、「ディミトリ・マフリー」なる人物が出てくるのです。もちろんこれら全部キューブリック作品の登場人物ですね。スタッフ、遊んでます。  このアポロ月面着陸、真顔で信じていないフリをしたり、陰謀説を唱える事で売名行為に走る人も多いせいか、真剣に「捏造」と信じている人も少なくないようです。こういうジョークは分かって楽しむものです。でないと、 こんなムービー も楽しめませんよ。 追記:番組全編の動画がYouTubeにアップされていました(上記)。一応ネタばらしまでしているのですが、恣意的に編集すればいくらでも陰謀論のソースとして悪用できそうです。それにしてもやっかいなものを作ってしまったものです。出演したクリスティアーヌとヤン・ハーランは間違いなく本人ですから、いくらでもその陰謀論の証言者に仕立て上げられてしまえる訳ですからね。 ※『オペレーション・ルーン』を編集し、「ビートたけしの世界はこうしてダマされた!?」でオンエアされたバージョン。尚番組では最後にネタばらししているが、この動画では恣意的にその部分はカットしている。

【プロップ】アリエス1B宇宙船(Aries 1-B)

  『2001年宇宙の旅』に出てくる、 地球軌道上の宇宙ステーションと月面基地を結ぶ月着陸船。よく言われている事だけど、何度観ても月面への着陸シーンはよくできている。アポロが実際に月に人間を運んだのは、公開から一年以上経ってからの話だ。

【台詞・言葉】All work and no play makes Jack a dull boy.(仕事ばかりで遊ばない、ジャックは今に気が狂う)

  『シャイニング』で、ジャックが繰り返しタイプする文句。原稿用紙自体アートしているのが更に薄気味悪い。元々は「勉強ばかりさせて遊ばせないと子供はだめになる」ということわざで、「Work」とは勉強を指し、「Jack」は一般的な子供の名前としての意味だが、この場合、「Work」とは原稿執筆、「Play」とはお酒、「Jack」はもちろんジャック・トランス自身を指し、「原稿ばっかり書かせて酒を飲ませてくれないから、俺は気が狂ってしまいそうだ!」という意味になる。また、この一文は紋切型のホラーしか創れない他のホラー作家に対しての皮肉にもなっている。

【関連記事】火星目指すスペースシャトル後継宇宙船、「オリオン」に命名

イメージ
 米航空宇宙局(NASA)は8月22日、新たに計画されている有人宇宙船の名称をオリオン(Orion)と命名した。  オリオンは新世代の探査船で、クルーを載せた月旅行、後には火星探査での仕様が予定されている。NASAが有人宇宙探査に用いる主要宇宙船として、スペースシャトルの後を継ぐことになっており、NASAのConstellation Programで開発されている。  宇宙飛行士が搭乗した最初のミッションとして、ISS(国際宇宙ステーション)への飛行が2014年までに予定されており、2020年までにオリオンを使った月への探査計画が予定されている。  オリオンという名前は、最も明るく、人気があり、見つけやすい星座からつけられた。「オリオン座は新世界を探索するための目印として、数世紀にわたって使われてきた」とプロジェクトマネジャーのスキップ・ハットフィールド氏は説明している  NASAのConstellation Programは2006年6月、アレス(Ares)というロケットの打ち上げに関する発表を行った。オリオンを打ち上げるためロケットはAres Iと呼ばれ、さらに重量のある宇宙船/衛星を打ち上げるためのロケットとしてAres Vが計画されている。  オリオンは最大6人までの乗組員をISSに送り、地球に帰還させる能力を持つ。月へのミッションでは最大4人が乗船可能で、火星へも複数の乗組員の搭乗が可能になる予定。  重量は約25トン。アポロ宇宙船の2.5倍の居住空間を持つ。デザインは過去の宇宙船を踏襲したものだが、コンピュータ、電子技術、ライフサポート、推進力、耐熱性においては最新技術が導入されており、スペースシャトル「コロンビア」事故で問題となった大気圏再突入時の問題は、安全な円すい形デザインにすることで対策が取られているとNASAは説明している。 (引用: ITmedia News/2006年8月23日 )  スペースシャトルを「ディスカバリー」と名付けたNASAが、今度は有人宇宙船を「オリオン」と名付けましたか。『2001年宇宙の旅』ではスペースシャトルが「オリオン」で有人宇宙船が<「ディスカバリー」だったので丁度逆になりましたね。まあ、直接『2001年…』から引用した訳ではないので、ただの偶然なんでしょうけど、クラーク先生は多分大喜びでしょうね。

【関連書籍】キューブリックの世界と2001年宇宙の旅/横山 正 訳

  1978年のリバイバルに合わせて配給元の東宝が出版したグラビア誌。『2001年宇宙の旅』だけでなく、『恐怖と欲望』から『バリー・リンドン』まで、さらっとだが触れられている。写真も荒く情報も少ないので今となっては価値はないが、当時はこれと小説版『2001年…』(旧版)ぐらいしか情報源がなかった。その意味でも個人的には思い入れは強い。

【オマージュ】『スター・ウォーズ エピソードI ファントム・メナス』

  ジョージ・ルーカスが『2001年宇宙の旅』に影響を受けているのは明白なんだけど、直接的にオマージュしているのは、この『ファントム・メナス』のジャンク屋のシーンだけでは?スペース・ポッドがなにげに置いてあります。まあ、このエピソードのメインが「ポッド」レースなのだから、さもありなん、という所でしょうか?  この『スター・ウォーズ』シリーズ(サーガ)の1作目(エピソード4)の大ヒットがSF映画ブームを呼び、『2001年…』のリバイバル、そして続編『2010年』の製作&公開・・・という流れになったので、あんまりルーカスを悪くは言いたくないのですが、制作者としてはともかく、監督としてはあまりね・・・なんか、軽いんですよ、作りが。お話も、映像も、編集も。全てが薄っぺらいというか。個人的にルーカス監督の最高傑作はデビュー作の『THX1138』だと思うのですが、これも見方によっては「薄い」映画ですからねぇ。  まあ、『スター・ウォーズ』も完結した事だし、もう監督は止めにしてプロデュース業に専念してもらいたいものです。くれぐれも・・・新作『インディ・ジョーンズ』の監督はやらないでください、お願いします。

【登場人物】ジョニー・クレイ(Johnny Clay)

  『現金に体を張れ』の主人公で、競馬場襲撃計画の首謀者。緻密な計算で計画を主導するが、些細なほころびからやがて破綻する。寡黙でクールでやたらカッコ良く、ラストもじたばたせず潔いキャラクターだが、後に同じ役者が『博士の異常な愛情』で強烈な人格破綻者を演じてそのギャップに驚く。

【俳優】スターリング・ヘイドン(Sterling Hayden)

  『現金に体を張れ』では主人公のジョニー役を演じているが、何と言っても印象的なのは、『博士の異常な愛情』でのリッパー将軍役。笑わせてくれます。他には『アスファルト・ジャングル』('50)、『第七機動部隊』('52)、『カンサス大平原』('53)、『三人の狙撃者』('54)、『アラモの砦』('55)、『西部の裏切者』('57)、『殺人美学』('69)、『ゴッドファーザー』('72)、『9時から5時まで』('80)など。  1916年3月26日アメリカ・ニュージャージー州生まれ、1986年5月23日死去、享年70歳。

【登場人物】グロリア・プライス(Gloria Price)

  『非情の罠』のヒロインで、場末のダンスホールのダンサー。そのダンスホールのオーナーでマフィアのボス、ラパロの愛人。ボクサーのデイヴィに恋をするが、その心理描写が明確でなく、演技もあまり上手くないので印象はイマイチ。決して美人でもないし。結局この映画で一番印象に残るキャラが悪役のラパロなわけで、この頃からキューブリックは悪役を描く方が上手い、って事なんでしょう。

【俳優】アイリーン・ケーン(Irene Kane)

 『非情の罠』のヒロイン、グロリア役。ケーンは高校卒業後、映画雑誌『モダンスクリーン』でモデルをしていた際にカメラマンのバート・スターンに見いだされ、ファッション雑誌の『ヴォーグ』のモデルになり、そのバート・スターンによってキューブリックに紹介され、『非情…』に出演した。  その『非情…』では、キューブリックが当人に内緒で監禁脱出後にデイビィとグロリアのラヴシーンをセットしていたが、ケーンの激しい抵抗に合いあえなく断念。また、アフレコではキューブリックの不慣れもあって厳しい待遇に途中降板、結局声はラジオ女優のペギー・ロッビンが担当した。  1962年6月3日にテレビプロデューサーのマイケル・チェイス(ピューリツァー獲得の脚本家メアリー・チェイスの息子)と結婚し、クリス・チェイスの名前で売れっ子のコラムニスト・伝記作家・ジャーナリストとして活躍、女優のロザリンド・ラッセル、コメディアンのアラン・キング、フォード大統領妻のベティ・フォードの自叙伝を共同執筆した。写真は1977年のクリス・チェイスことアイリーン・ケーン。  他の出演作は『オール・ザット・ジャズ』('79)など。1924年1月12日ニューヨーク生まれ。本名はアイリーン・グリーンガード。実弟はノーベル賞受賞者であるポール・グリーンガード。  1924年1月12日ニューヨーク出身、2013年10月31日膵臓がんで死去。享年90歳。

【パロディ】『アルマゲドン』

 まあ、監督がマイケル・ベイですし、主演がブルース・ウイルス、ベン・アフレックとくれば、まあこんなものかと。2時間のエアロスミスPVとして観ればそこそこ楽しめるのでは?タイラー親子の競演もあることですし。すでにDVDも叩き売り状態のこの映画ですが、キューブリックファンの見所としては唯一ブシューミが核爆弾に跨がって「博士の異常な愛情ごっこ」とふざける所だけ。前作の『ザ・ロック』は地味にパロってましたからねぇ・・・。『博士…』が大好きなのはよく分かったんで、今後はもっとまともな作品をお願いしたいものです。 

【関連記事】オランダ人デザイナー、空中に浮くベッドを製作

イメージ
  オランダの建築家、Janjaap Ruijssenaarsさんは磁気力で空中に浮かぶベッドを製作した。販売価格は120万ユーロ(約1億7700万円)。  完成まで6年かかったというこのベッドは、床とベッドにそれぞれ内蔵された磁石の反発によって浮遊する仕組みで、細いスチールケーブルでつなぎとめる。ダイニングテーブルや台座としても使用できるという。  Ruijssenaarsさんは「すべての建築物は重力の影響を受けている。重力以外の力がイメージを支配する物体や建築物、家具が作れるかどうか試したかった」と語った。  1968年に公開されたスタンリー・キューブリック監督のSF映画「2001年宇宙の旅」に登場する謎の物体「モノリス」からインスピレーションを受けたという。 (ロイター/2006年8月5日)  完成予想図(?)を見た限りでは、とても実用になるとは思えませんが・・・。これにマットレスと枕と掛け布団だとサマになんないでしょうね。それにこれだけ大きな磁場って身体に悪そうだし。約1億8千万円也・・・面白いけど誰も買わないでしょうね。

【俳優】ダグラス・レイン(Douglas Rain)

 『2001年宇宙の旅』のディスカバリー号に搭載されたコンピュータ、HAL9000の声。 元々ナレーターとしてキューブリックに雇われたが、ナレーションは入れないことにしたため、急遽HALの声に抜擢された。キューブリックは「今度レインに台詞のない役で出演してもらおう、そうすれば辻褄が合う」なんて言ってるが、監督はキューブリックではないものの、結局『2010年』('84)でもHALの声を担当させられた。他の出演作は『スリーパー』('73)など。  1928年3月13日、カナダ・マニトバ州生まれ。

【考察・検証】キューブリックが選ぶ映画ベスト10

イメージ
Stanley Kubrick(IMDb) 『青春群像』(1953年/監督:フェデリコ・フェリーニ) 『野いちご』(1957年/監督:イングマール・ベルイマン) 『市民ケーン』(1941年/監督・主演:オーソン・ウェルズ) 『黄金』(1948年/監督:ジョン・ヒューストン /主演:ハンフリー・ボガード) 『街の灯』(1931年/監督・主演:チャールズ・チャップリン) 『ヘンリー五世』(1945年/監督・主演:ローレンス・オリヴィエ) 『夜』(1961年/監督:ミケランジェロ・アントニオーニ) 『バンク・ディック』(1940年/監督:エドワード・クライン) 『ロキシー・ハート』(1942年/監督:ウィリアム・ウェルマン) 『地獄の天使』(1931年/監督:ハワード・ヒューズ)  キューブリックが1963年にアメリカの映画雑誌「シネマ」誌上で公表したベスト10。以降、この手のランキングは発表されていないので非常に貴重な証言と言える。その時代のものから過去の名作、フェリーニやチャップリン、アントニオーニなどの巨匠まで、ジャンルも多岐に渡り、バランス良く選択さえれいる。  1963年といえば、『博士の異常な愛情』の製作中か公開中の頃なので、それを踏まえて判断しなければならないが、各作品については追々論評していきたい。

【トリビア】パイ投げ合戦(Pie Fight)

イメージ
 『博士の異常な愛情』で、ストレンジラブ博士が「総統!私は歩けます!」からヴェラ・リンの曲が始まるまでの間にあったパイ投げ合戦のシークエンスのこと。2週間もかけて撮影したのに「これは笑劇(ファース)であって風刺(サタイア)ではない」とまるまるカットしてしまった。タージドソン将軍を演じたジョージ・C・スコットによると「ケネディ暗殺で全てが変更になった」そうだ。まあこの判断は正しかったかと思う。これを残してたら今の高評価があったかどうか・・・。

【パロディ】モノリス大明神

  2001年に幕張メッセで行われた第40回SF大会では、その開催年にちなんで、ちゃんと3辺の比率が1:4:9のモノリスが飾られたのですが、なんでもかんでもありがたがる日本人のいい意味での「無宗教感覚」と、SFファンによる「悪ノリ」によって、いつしか「モノリス大明神」と呼ばれるようになり、名刺を絵馬代わりにお供えするわ、お神酒や注連縄が据え付けられるは、お賽銭を投げ込むわ、柏手を打ってお参りするわ、会場で配っていた銀色の風船を周りに浮かべるわで、いつの間にやらこんな姿になってしまいました(笑)。 ただ、主催者によると「触ってはダメ」だったそうで、その理由も進化するから・・・ではなく、手が黒く汚れるからだそうです。

【関連書籍】スタンリー・キューブリック全作品/ポール・ダンカン 著

TASCHEN スタンリー キューブリック 全作品 ポール・ダンカン(Amazon)  ポール・ダンカンによるキューブリック全作品解説書。グラビアが豊富で解説もダイジェストなので、分厚い「全書」や「評伝」に尻込みしがちな初心者向きだろう。手っ取り早くキューブリックを知るには適切な書だ。『突撃』『スパルタカス』『博士…』などのモノクロ時代の撮影現場を写したカラースチールは貴重。ただ、巻末のフィルモグラフィをもっと充実させるなど、もう少し資料性が高ければ良かったのだが・・・。

【台詞・言葉】平和こそ我等の職務(Peace is Our Profession)

  『博士の異常な愛情』で、パーブルソン基地に掲げられている標語。この看板の前で、「味方同士」による激しい戦闘が繰り広げられる。ロケ地は『博士…』を撮影していたシェパートンスタジオの外観が使用された。

【登場人物】コング少佐(Maj. T.J. 'King' Kong)

  『博士の異常な愛情』で、核爆弾でロデオするB-52の機長。名前の由来はもちろん「キング・コング」から。緊急キットの点検の際の台詞、「これだけあればヴェガスでたっぷり遊べるぞ!」は、本来「ダラス」だったが、公開直前にダラスでケネディ大統領が暗殺されたため急遽「ヴェガス」に変更になった。  あちこちでパロディにされた「爆弾に跨がってロデオ」の元ネタで有名なこの役は、本来ピーターセラーズが4人目として演じるはずだった。だが、テキサス訛り丸出しのこの役をセラーズが気に入らず、怪我を理由に降板したのだが、ピケンズの素晴らしい演技を見た後、演じなかった事を後悔したという。

【俳優】スリム・ピケンズ(Slim Pickens)

  『博士の異常な愛情』で、核爆弾でロデオする B-52機長を演じた。他の出演作は、キューブリックが脚本作りで途中まで協力した『片目のジャック』('60)、『ゲッタウェイ』('72)、『1941』('79)、 『ハウリング』('81)などがある。  1919年6月29日アメリカ・カリフォルニア州生まれ、 1983年12月8日死去、享年64歳。

【登場人物】警官トム(Det. Const. Tom)

  『時計…』でアレックスをぶん殴る警官。実はここの暴力シーンが一番本気っぽく見えます。なのでちょっとアレックスが可哀想に見えてしまう弊害が・・・。腕っぷしも太いですしね。

【俳優】スティーブン・バーコフ(Steven Berkoff)

  『時計じかけのオレンジ』の警官と、『バリー・リンドン』のラッド卿役。主な出演作は『アウトランド』('81)、『007/オクトバシー』('83)、『ビバリーヒルズ・コップ』('84)、『ランボー/怒りの脱出』('85)、『プリンス/アンダー・ザ・チェリームーン』('86)、『ビギナーズ』('86)、『バロン』('89)、『フェア・ゲーム』('95)、『トリコロールに燃えて』('04)など。  1937年8月3日イギリス・ロンドン出身。

【関連書籍】メイキング・オブ・2001年宇宙の旅/ジェローム・アジェル 著

  1970年に出版され、『2001年…』の貴重な資料、証言集として名著の名を欲しいままにしていた『THE MAKING OF KUBRICK 2001』が、38年(!)の時を経て、やっと邦訳されたのが本書だ。「全訳ではない」とか、「時期が遅すぎる」との批判はあるが、当時の資料、図版、写真、証言、論評はやはり貴重で、名著であるのは今も変わりない。

【登場人物】シェヴァリエ・デ・バリバリー(Chevalier de Balibari)

  『バリー・リンドン』に登場するイカサマポーカーの賭博師。バリーと共謀して大金を稼ぎだす。演じたのは『時計じかけのオレンジ』で小説家のアレキサンダー氏を演じたパトリック・マギー。この頃からキューブリックはオーディションのプロセスを嫌うようになったらしく、過去の出演者の中から再びキャスティングするという方法を取り始めた。特に『バリー・リンドン』と『シャイニング』にその傾向が顕著だ。

【登場人物】アレックス(Alex)

  『時計じかけのオレンジ』の主人公で語り部。本名は、アレキサンダー・デ・ラージ。刑務所内では「655321」と呼ばれていた。原作では15歳の設定だが、映画化する際に検閲の事も考えて、もう少し年上(恐らく18歳程度)に設定。 全編ナッドサット(ティーンエイジャー) 言葉でしゃべっているが、これは、ロシア語と古いジプシーの言葉が混ざったものと説明されていて、一例を挙げてみると「ドルーグ(仲間)」、「ミリセント(警察)」、「デボチカ(女)」、「マルチック(男)」、「ベック(野郎)」、「スロボ(言葉)」、「カッター(お金)」、「トルチック(殴る)」、「ブリトバ(カミソリ)」、「ノズ(ナイフ)」、「ヤーブル(睾丸)」など。また性行為は、「インアウト」なんて言っている。このキャラの魅力がすなわちこの映画の魅力と考えてさしつかえなく、アレックスに共感するか嫌悪するかで好悪が別れるきらいがある。尤も、この作品の本質はもっと深い所にあるのだが、生理的嫌悪だけで思考に蓋をする人間には何を言っても無駄だろう。

【オマージュ】ミューズ/ブリス(Muse - Bliss)

イメージ
 以前紹介したイギリスのロックバンド「ミューズ」ですが、セカンドアルバム『オリジン・オブ・シンメトリー』からのこの曲では、地味にこんなところでオマージュしてたんですねぇ。こういうさりげなさって好きです。『Time is~』は露骨すぎましたんで。これからどんなオマージュを仕込んでくるか、彼らのプロモはチェックの必要がありそうです。

【小説家】ウラジーミル・ナボコフ(Vladimir Nabokov)

  『ロリータ』の原作者。ロシアのサンクト・ペテルスブルグ出身で、フランス、ドイツ、アメリカと各国を転々とする。『ロリータ』は、1954年に脱稿し、アメリカの4つの出版社に持ち込んだが、 内容が内容だけに、見事に出版を断られている。 翌55年になって、 パリのオリンピア・プレスによってやっと出版され、ベストセラーとなった。  『ロリータ』の映画化権をキューブリックが獲得した際、ナボコフは脚本のオファーを受けたが、過去に脚本で苦い経験をしているナボコフはそれを断った。だが、周りの薦めもあり結局オファーを受ける事に。ナボコフが最初に脱稿した脚本は、キューブリックから「このまま映画化すると7時間の映画になるから短くしてくれ」といわれ書き直しになり、それから半年後にやっと脚本が完成する。だが、キューブリックはちゃっかりその脚本にも手直しを加えた。  キューブリックが脚本にクレジットされていないのは本作と『スパルタカス』だけ。『スパルタカス』はともかく、本作にクレジットしなかったのは、これだけ社会的に大問題になった小説の映画化だけに、各方面から批判を浴びるのは容易に想像されたので、脚本でクレジットされるのはナボコフだけで充分、という計算があったためだと言われている。  公開当時は映画を褒めちぎっていたナボコフだが、後になって「いくつかの本質的な部分とは関係ない箇所(卓球台のシークエンスや浴槽でスコッチを飲むハンバート)は楽しいが、その他は痛々しい限りだ」と批判している。  他の作品は、『青白い炎』、『アーダ』など。1899年4月23日生まれ、1977年7月2日スイスのローザンヌで死去した。

【登場人物】レディ・リンドン(Lady Lyndon)

  『バリー…』で、バリーと結婚する美しい伯爵夫人。その優美な立ち姿とは裏腹な物憂げな表情は、台詞の少なさも相まって非常に印象に残る。そしてラストシーン、小切手にサインするその表情に、その本心の全てが現れているような気がする。愛してたんですね、彼を。

【俳優】マリサ・ベレンソン(Marisa Berenson)

  『バリー・リンドン』の、レディ・リンドン役。キューブリックから直接出演をオファーされ、即引き受けた。その際告げられたのは、物語が18世紀の古典であることと、日焼けしないように指示されただけだったそうだ。主な出演作は『キャバレー』('71)、『ベニスに死す』('71)、『キラー・フィッシュ』('78)、『ホワイトハンター ブラックハート』('90)、『裸足のトンカ』('97)など。実妹のベリーは911テロの際アメリカン航空11便に乗っていため、亡くしている。  1947年2月15日、アメリカ・ニューヨーク州生まれ。

【名曲】ミッキーマウス・マーチ(Micky Mouse Club March)

イメージ
 『フルメタル…』のラストシークエンスで、このミッキーマウス行進曲を兵士達が行軍しながらこの歌を口ずさみますが、それをキューブリックによるブラックなオリジナルアイデアと受け取った人が多いようです。実は原作には、夜の兵舎での暇つぶしにとナイフや靴でネズミをベトコンに見立てて退治し、その屍骸を埋める時に弔意を込めて兵士達がこの歌を歌うシーンがあります。つまり、ベトナムで兵士達は日常的にこの歌を口ずさんでいたんですね。また全編に渡って敵兵や自分たちの事を「ネズミ」と呼んでいます。  この兵舎でのネズミ退治シーンをカットした真意はわかりませんが、原作の該当部分はとてもユーモラスで、ある種の生活感が感じられるので、映画に人間性を持ち込みたくなかったキューブリックが採用しなかったのでしょう。ただし、「戦場」と言う非日常な空間で「ディズニー」という真逆の非日常性の歌を歌っていたという事実が気に入ったキューブリックが、歌だけを行軍のシーンで採用した、と考えられます。  本当はオリジナルのミッキーマウス・マーチにつなげ、そのままエンドロール、という予定だったのにディズニーから使用許可が下りなかった。だから代わりにストーンズの『黒く塗れ!』を採用した、という経過も考えられます。まあ、これはあくまで想像ですが。  当然ながらこの曲はサントラには未収録。それは仕方ないにしても『黒く塗れ!』まで未収録なのは何故?レーベルの問題でしょうか?

【俳優】ジェームズ・メイソン(James Mason)

 『ロリータ』で、ロリータに恋をする中年男、ハンバート・ハンバートを演じた。原作のファンでもあったメイソンは、最初のオファーの際、すでに舞台出演の契約をしていたために一旦は断ったが、妻や友人の説得により引き受ける事にした。『シャイニング』の撮影中のキューブリックをメイソンが訪ねる映像がメイキング・ザ・シャイニング』に残されている。  主な出演作は『無敵艦隊』(1937)、『灰色の男 』(1943)、『あるスパイの末路 』(1944)、『第七のヴェール』(1945)、『激情』(1945)、『妖婦 』(1945)、『邪魔者は殺せ』(1947)、『霧の夜の戦慄』(1947)、『魅せられて』(1949)、『ボヴァリー夫人』(1949)、『無謀な瞬間』(1949)、『砂漠の鬼将軍』(1951)、『パンドラ』(1951)、『ゼンダ城の虜』(1952)、『五本の指』(1952)、『イエロースカイの対決』(1952)、『流刑の大陸』(1953)、『三つの恋の物語』(1953)、『二つの世界の男』(1953)、『砂漠の鼠 』(1953)、『ジュリアス・シーザー』(1953)、『炎と剣』(1954)、『スタア誕生 』(1954)、『海底二万哩』(1954)、『黒の報酬 』(1956)、『日のあたる島』(1957)、『針なき時計』(1958)、『美女と詐欺師』(1959)、『地底探険』(1959)、『北北西に進路を取れ』(1959)、『野性の太陽』(1962)、『ザーレンからの脱出』(1962)、『潜水艦ベターソン』(1963)、『ローマ帝国の滅亡』(1964)、『女が愛情に渇くとき』(1964)、『太陽が目にしみる』(1965)、『ジンギス・カン』(1965)、『ロード・ジム』(1965)、『ジョージー・ガール 』(1966)、『恐怖との遭遇』(1966)、『ブルー・マックス』(1966)、『太陽を盗め』(1968)、『うたかたの恋』(1968)、『としごろ』(1969)、『夜の訪問者』(1970)、『殺し』(1971)、『無頼プロフェッショナル』(1971)、『真説フランケンシュタイン/北極に消えた怪奇人間! 』(1973)、『マッキントッシュの男 』(1973)、『シーラ号の謎』(1973)、『マルセイユ特急』(1974)、『新・おしゃれ泥棒』(1974)、『プリンセスの自叙伝 』...

【台詞・言葉】ゲーム(Game)

 『ロリータ』で、モーテルに泊まった朝、ロリータがハンバートにもちかける「ゲーム」。もちろん意味は「セックス」なのだが、当時の検閲ではこれが精一杯の表現。

【オマージュ】ロウワー・クラス・バッツ/ジャスト・ライク・クロックワーク(Lower Class Brats - Just Like ClockWork)

イメージ
   『時計じかけのオレンジ』が70年代のロンドンパンク・シーンに少なからず影響を与えていたのは、よく知られているけど、アメリカのこのバンドについては全く知りませんでした。で、調べてみたところ「1995年、テキサスのオースチンで活動を始め、今までに7インチシングルを8枚、12インチシングルを2枚、フルアルバムを4枚リリースしている。内容は全て『時計…』に関するもので、歌詞はナッドサット言葉を用いていている」だそうです。  で、歌詞はナッドサット言葉はないようですが・・・あまり頭の良さそうな歌詞じゃないですね。しかし相変わらず固定ファンがいるんですねOiって。スラッシュとかハードコアとかOiとかはニッチなニーズがあるんでしょう、ずーっとありますもんね。  ところでこのプロモ、面白いのは『時計…』でも予告編の方をオマージュしているところ。これはちょっと新鮮。でも『時計…』だけにこだわっていたらネタ続くのかな?と余計な心配をしたくなりますが、現在も活動しているかどうかは・・・知りません。笑

【スタッフ】ルシアン・バラード(Lucien Ballard)

  『現金に体を張れ』で、撮影を担当したカメラマン。この頃すでにベテランで、ハリウッドでは名の知れた名カメラマンだった。そんな自分が、まだデビューしたばかりの若い新人監督にあれこれ指示をされるのが嫌だったのか、それとも若造のキューブリックをナメていたのか、「この方が慣れているから」と言って、キューブリックの指示とは違うレンズで違う位置から撮影しようとした。それに対してキューブリックは「指示通りにするか、セットから立ち去るかどちらかだ」と静かに言い放ったという。それからバラードとキューブリックの間にもめ事は起こらなかったそうだ。  参加作品は『昼下りの決斗』('62)、『ボーイング・ボーイング』('65)、『ネバダ・スミス』('66)、『墓石と決闘』('67)、『勇気ある追跡』('69)、『エルビス オン・ステージ』('70)、『ゲッタウェイ』('72)、『ブレイクアウト』('75)、『セント・アイブス』('76)、『正午から3時まで』('76)など。1908年5月6日マイアミ生まれ、1988年10月1日没。

【作品紹介】『突撃』(原題:Paths of Glory)

イメージ
Paths of Glory(IMDb) 邦題/突撃 原題/Paths of Glory 公開日/1957年12月25日(86分、モノクロ) 日本公開/1958年2月19日 製作会社/ハリス=キューブリック・プロダクション 製作/ジェームズ・B・ハリス 監督/スタンリー・キューブリック 原作/ハンフリー・コッブ「栄光の小径」 脚本/スタンリー・キューブリック、カルダー・ウィリンガー 撮影/ジョージ・クラウス 編集/エヴァ・クロール 音楽/ジェラルド・フリード 美術/ルードウィッヒ・レイバー 出演/カーク・ダグラス(ダックス大佐)、ラルフ・ミーカー(パリス伍長)、アドルフ・マンジュー(ブルラール将軍)、ジョージ・マクレディ(ミロー将軍)、ウェイン・モリス(ロジェ中尉)、リチャード・アンダーソン(サントーバン少佐)、ジョセフ・ターケル(アーノー二等兵)、ティモシー・キャレイ(フェロル二等兵)ほか 配給/ユナイテッド・アーティスツ ●ストーリー  1916年、第一次世界大戦中のフランス軍。ブルーラード将軍はドイツ軍の難攻不落な陣地「蟻塚」を攻め落とそうと、ミロー将軍に明後日までに占領せよとの命令を出す。現状では不可能と主張するミローは昇進をほのめかされたため承諾する。前線を視察したミロー将軍から命令を聞かされた、701歩兵連隊長で元弁護士のダックス大佐は攻撃は無謀だと抗議するが、解任を示唆され止むなく受け入れる。  その夜、3名が蟻塚偵察に向かうがロジェ中尉は敵前逃亡し、その際ルジューンを手榴弾で殺害する。それに気付いたパリス伍長はロジェを激しく非難した。明け方作戦が開始されると、ダックス大佐はピストルを持って連帯を鼓舞し、兵士とともに戦うが激しい砲撃と機銃掃射で連隊は途中で前進を阻まれる。だがB隊は壕にこもって攻撃をしようとしなかった。しびれをきらしたミロー将軍は味方の陣地を砲撃しろと命令するが砲兵隊はそれを拒否、そんな中、先発隊も塹壕へ退却し始める始末だった。  ミロー将軍は命令を実行しなかったとして3中隊から1名ずつ、合計3名を選び軍法会議にかけることにした。ダックス大佐は弁護を志願したが、それを思いとどまるようミローはダックスに圧力をかけた。選ばれた兵士は気に入らないからと選ばれたフェロル二等兵、くじ引きで選ばれたアーノー二等兵、ロジェ中尉のルジューン殺害を告発し...

【小説家】アンソニー・バージェス(Anthony Burgess)

  『時計じかけのオレンジ』の原作者で小説家。『時計…』(1963)は、バージェスが脳腫瘍で余命1年と診断されたため(結局誤診だった)『ひとつの解答への権利』(1961)、『ある国の悪魔』(1962)、『見込みのない種子』(1963)と同時期に短期間で書かれた小説のひとつ。第二次世界大戦中のロンドンで妻がアメリカの脱走兵にレイプされるという事件が起こり、その苦しみ抱えつつ脱稿した。後にバージェスはこの小説を「アル中状態で書いたクズ本」と酷評している。1917年2月15日イギリス・マンチェスター出身、1993年11月22日死去。  本来の小説版は最終章の第21章で、アレックスが暴力に魅力を感じなくなっている自分に気が付き、成長したと自覚するところで終わっている。ところがアメリカの編集者は第21章が追加されたいない原稿をそのまま印刷してしまった。(現在は第21章で終わっている修正版を出版済)、そのアメリカ版を読んだキューブリックはそれに気付かず、気付いた後になっても「これまでの調子と合わないから」と採用しなかった。小説家の思い入れには全く組みしないキューブリックらしいエピソードだ。

【名曲】ベートーヴェン:交響曲第9番(Ludwig van Beethoven:Symphonie No.9)

 『時計…』では、『雨に唄えば』と同様、ストーリーの重要なキー・ポイントとしてベートヴェンの『第九交響曲』が使われています。原作によるとアレックスはベートーヴェンばかり聴いていた訳ではないのですが、映画化する際にキューブリックはより単純化・様式化し、アレックスの部屋にはベートーヴェンのポスターが、刑務所の部屋には胸像が、猫おばさんの武器もベートーヴェンの胸像(前者と同じ物?)だし、ミルクバーで歌手が突然歌った歌も『第九』、作家の家の呼び鈴は『運命』だったりと、作品中ベートーヴェンだらけにしてしまいました。  第九のコンサートでは最終楽章が終わったと同時に「ブラボー!」と立ち上がって拍手を送るのが定番になっていますが、最後のアレックスの性夢はまさにそのイメージですね。理解していない人も多い様ですが。映画で使用されたのは、アレックスが自室で聞いていたシーンでマイクロカセットになっていた、フリッチャイ指揮・ベルリンフィルによる『第九』。アマゾンのレビューによるとかなり評価が高いようです。