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【関連記事】スタンリー・キューブリックが好んだ映画のマスター・リスト(初出版)

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※元記事が更新されましたので新たに翻訳し直しました。 こちら をごらんください。この記事は旧記事になりますが念のため削除せずに掲載したままにいたします。 以下参考にご覧ください。  以前自身の発言としてベスト10ムービーを公表していましたが、それは1963年の話なので近作が含まれるこのリストは貴重です。既知の情報も多いですがけっこう知らない作品もチラホラ。それにファンタジーやコメディなどキューブリックの作風とは異なる作品もチョイスされているのは興味深いです。  ただ 元記事 を当たってみると、リストアップされている作品は気に入ったというレベルから絶賛レベル、そして衝撃を受けたレベルまで、また、製作者の立場だったり視聴者の立場だったりと、評価の基準やスタンスがバラバラです。それなのに単純に元記事から作品名を抜き出し、リストアップしただけの記事にしてしまうと、キューブリック本人や取材に協力したヤン・ハーラン、カタリーナの真意が伝わらないどころか誤解を広める結果になりかねない、と判断し、元記事で関係ない部分を省いた全文を稚拙ながらできる限り訳してみました。その結果記事に起こすのにかなり時間がかかってしまった事をお詫びいたします。  訳は管理人ですので怪しい部分も多々あります。もしお気付きの点がありましたらご指摘ください。また、念のため元記事もご参照ください。あまり知られていない作品などもありましたので、個人的に調べたり、原文で不明瞭な部分は※印で補足しておきました。また アンダーラインの文章 は管理人の記事に対するコメントですので元記事にはありません。  キューブリックを理解する上で、このリストはかなり重要だと思っています。和訳の精度を上げるために今後加筆・修正をする可能性が高いです。それを踏まえた上、記事をご覧下さい。 映画ファンとしてのスタンリー・キューブリック  スタンリー・キューブリックの85回目の誕生日のこの日(※2013年7月26日)、ニック・リグレー(※元記事の筆者)はキューブリックの右腕であるヤン・ハーランの助けを借りて、監督のお気に入りの映画や鑑賞の習慣を探ります。 ~ 略歴と序文は省略 ~ 【初期の頃】  若きキューブリック。毎日プレイしていたチェスの他に、彼が大いに愛した時間はミシェル・シマンの言葉によると「ニューヨーク近代美術館での上映に真面目に出...

【トリビア】ファースト・コンタクト(First Contact)

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 ある文明が異なる他の文明や種族に初めて接した瞬間を指す文化人類学用語。例えばジャングルの未開の種族が初めて先進文明に触れた場合も「ファースト・コンタクト」と定義される。ただSFの場合、主に人類が初めて地球外文明に触れた瞬間を指す。  『2001年宇宙の旅』の場合、モノリスを発見した瞬間がそれに当たり、それによって引き起こされるであろう数々の文化的混乱を「カルチャー・ショック」と呼ぶ。『2001年…』ではそれを回避するためにクラビウス基地に箝口令が敷かれるという描写がなされていた。  このファースト・コンタクトという概念、フィクションの題材にはうってつけなので、数々の小説、映画、アニメのテーマになっている。有名なのはオーソン・ウェルズがラジオドラマで『宇宙戦争』を放送した際の大混乱。本当に火星人が攻めてきたと勘違いした聴衆がパニックを起こしたそうだ・・・と信じていましたが、近年の研究によるとこれはデマで、当時の振興メディア「ラジオ」に対して旧来のメディアの新聞社が起こしたネガティブキャンペーンだったそう。これは知りませんでした。

【関連動画】映画監督 スタンリー・キューブリックの名言『哲学編』『監督編』

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 このブログで記事を書く際、参考文献を読み進める中で気になったキューブリックの言葉をEvernoteに書き留めていましたが、その中から個人的にキューブリック作品を理解するのに有効だと思った言葉を選別、名言集として動画にしてまとめてみました。第一弾の『哲学編』、第二弾の『監督編』です。よろしければご覧ください。

【トリビア】動物園仮説(Zoo Hypothesis)

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 人類以外の知的生命体の存在について、「もし恒星間航行を可能とする宇宙人がいるなら、なぜこの地球にやって来ないのか?」という疑問(フェルミのパラドックス)が提示されており、これに対してはいくつもの解釈が提示されているが、 ・宇宙人は地球人の存在を既に知っているが、地球人に干渉しないために自分たちの存在を隠している ・地球を含む宙域は保護区指定されており、宇宙人が自由に立ち入ることはできなくなっている 等という仮説が存在する。概念自体は古くから存在した説だが、1973年にハーバード大学のボールが発表した論文 “The Zoo Hypothesis” によって「動物園仮説」という名称が定着した。地球は宇宙人から見れば動物園のような観察対象に過ぎないという意味である。 (引用: wikipedia/動物園仮説 )  『2001年宇宙の旅』を理解する上で重要な概念のひとつで、スター・ゲートを抜けた先に突如現れる「白い部屋」がまさにそれを視覚的に表現したもの。キューブリックはこの部屋を「人間動物園のようなもの」と説明している。  『2001年…』の解説を乞われるのがめんどくさい、と思ったら。「アレは動物園仮説を元に、進化の概念を取り入れたファースト・コンタクトものの映画だから」と言って、あとは放置しましょう。本人にその気があれば、あとは勝手に調べてくれるでしょう(笑。

【関連記事】もう少しだった『2001年宇宙の旅』のエイリアン

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ジャコメッティのような宇宙人のスケッチ 『2001年宇宙の旅』もう少しだったエイリアン 1. 初期の構想  『2001年宇宙の旅』のような映画では、地球外生命体の存在の可能性を調査するという明確な目的から始まったプロジェクトなので、キューブリックが制作の早い段階で地球外生命体そのものを実際にどのように描写するかという問題に取り組むことを決めたのは当然のことです。  キューブリックとアーサー・C・クラークが初めて会ったのは1964年4月でした。その年の最後の数か月までに、監督はすでにチームを結成し、地球外生命体の可能性に関する何百もの絵を描いていました。キューブリックは、キューブリックの映画製作に携わることになった。妻のクリスティアーヌも参加し、準備段階の絵を描いていた。そして1965年後半、若く最近雇われた協力者のアンソニー・フリューインがチームに加わり、現代彫刻、ドイツ人アーティストのマックス・エルンストの絵画、そして現代アート全般を研究して、さまざまなアイデアを試しました。(フリューインによる映画への出演とキューブリックのエルンストへの愛着についての説明はこちら。30年後、キューブリックのプロジェクトがスピルバーグの『A.I.』へと発展した経緯についてイアン・ワトソンが行ったインタビューで、エルンストについて再び言及されている)。  これらの不気味な異星の風景の一部は、2007年に発売された『2001年…』のDVD版の「特典映像」で見ることができる(そして、これら3つの素晴らしいウェブサイトのスクリーンショットや動画でキャプチャされている)。こちらにその資料の例と、エルンストの有名な絵画との比較がある。 〈以下略〉 (引用: 2001italia/2013年10月17日 )  例の「ジャコメッティの彫刻のような」エイリアンを始め、ここまで色々アイデアを試していたんですね。「月を見るもの」を演じたダン・リクターに残ってもらって、水玉衣装でエイリアンを表現しようとしていたのには驚きました。『トロン』のようなイメージを想定していたんでしょうか?  このブログ、他にもエアリーズ号の機長や、宇宙ステーションのアテンダントを演じた女性のインタビューとか、クラークの失言「中華レストランに似ている」事件、キューブリックに送ったというスカイラブ(宇宙実験室)のビデオなど、『200...

【関連記事】キューブリック、「博士の異常な愛情」続編をT・ギリアムに撮らせたがっていた

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Terry Gilliam(IMDb)  故スタンリー・キューブリック監督が生前、傑作「博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか」(1964)の続編の構想を温めており、そのメガホンをテリー・ギリアム監督にとってほしいと考えていたことが明らかになった。  ギリアム監督が米Twitchとのインタビューで明かした。ギリアムは、「キューブリックの死後、彼と交渉のあった人物から聞いた話だが、キューブリックは『博士の異常な愛情』の続編を私に監督させたいと考えていたらしい。彼の死後に初めて知った話だが、それはぜひともやりたかったよ」と話した。  事実、同作の脚本をキューブリックとともに手がけたテリー・サザーンは、1995年に死去する以前に「Son of Strangelove」と題された続編の脚本に着手していたという。続編では、オリジナル版でピーター・セラーズが演じたストレンジラブ博士が、自分以外は女ばかりという地下シェルターにいるという設定だった。残念ながら、ギリアム以外はキューブリック、サザーン、セラーズ全員が故人となっている。  「博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか」は、東西冷戦時代を背景に、戦争が世界の破滅を導くことをシニカルに描いたブラックコメディ。ストレンジラブ博士、米大統領、英国空軍大佐の3役を演じたセラーズの主演男優賞ほか、作品賞、監督賞、脚色賞の4部門でアカデミー賞にノミネートされた。 (引用: アメーバーニュース/2013年10月20日 17時30分 )  続編?・・・いやこれはちょっとマユツバですね。ソースがキューブリック本人や家族ではなく「交渉のあった人物」というのがどうもね。それにあれだけ自作を大切にするキューブリックが続編を望むというのもありえない。あの『2001年宇宙の旅』の続編『2010年』も「あいつら全部説明してしまいやがった!説明した途端に全ての意味は失われるのに!」と、たいそうご立腹だったというのに。  でも、そんな伝聞でも「ぜひやりたかった」と語るギリアムはよっぽどキューブリックが好きなんでしょうね。

【考察・検証】「ロリータ」になれなかったロリータたち ~『ロリータ』のキャスティングを検証する

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『ロリータ』のロリータ役に実際に名前の挙がった候補4人。左からジョーイ・ヘザートン、ジル・ハワース、チューズデイ・ウェルド、ヘイリー・ミルズ  ロリコンに寛容(二次元だけ?)な日本とは違い、当時も今もアメリカは少女との性愛関係には非常に否定的でタブー視、危険視されています。さらに時代はまだ1960年代始め。映画の性や暴力の表現には厳しい規制、つまり悪名高きヘイズ・コード(検閲コード)がありました。そしてそれを遵守させようとMPPDA(アメリカ映画製作者配給者協会)とその下部組織PCA(映画製作倫理規定管理局)、さらには矯風軍(カトリック矯風団)といった団体も口うるさく映画製作の現場に介入していた時代でした。キューブリックは小説『ロリータ』を映画化すれば、当然こういった団体の圧力や世論の拒否反応は予想していて、その圧力から逃れる為にハリウッドではなくロンドンで撮影したほどです。 TVショーでブレンダ・リーとデュエットするジョーイ・ヘザートン(右側:1960年)  そんなキューブリックとナボコフの最大の懸案は「ロリータ役に誰をキャスティングするか?」でした。このロリータ役に抜擢した女優次第で、上記の理由からせっかく製作した映画も公開できなくなる可能性があったからです。キューブリックは当初、テレビで活躍していたジョーイ・ヘザートン(1944年9月14日生まれ)の起用を望んでいました。ところが彼女の父親は「盛りのついた子猫」とのイメージがつくのを恐れ、これを断ります。 TVドラマ『枢機卿』に出演中のジル・ハワース(1963年)  ジル・ハワース(1945年8月15日生まれ)も候補に上がりました。しかし彼女と契約していたオットー・プレミンジャーに断られます。するとキューブリックは「新たなセックス・シンボル」としてその名を馳せていたチューズデイ・ウェルド(1943年8月27日生まれ)はどうかとナボコフに提案します。 幼さとセクシーさが同居するチューズデイ・ウェルドが出演した『独身アパート』(1962年)  上記映像をご覧になればその幼い容姿とコケティッシュな魅力はすぐに理解できるかと思います。まさに「リトル・マリリン・モンロー」といった雰囲気を醸し出しています。私見ですが、ナボコフのロリータのイメージにはスー・リオンよりウェルドの方が近い気がします。またエイドリアン・ライン監...

【台詞・言葉】私のクイーンを取るの?(You're going take my queen?)

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 『ロリータ』でハンバートとヘイズ婦人がチェスをしながら交わす会話。「私のクイーンを取るの?」と訊ねるヘイズ婦人にハンバードが「そのつもりですが」と応えます。それは「私の女王様(ロリータ)を取るの?」という問いかけに対し、そのつもりだというハンバートの本音を表しています。そこにロリータが現れるのはその意味を強調するために登場させたのでしょう。そしてハンバートは「それは利口じゃない」と言いながら結局クイーンを奪ってしまいますが、これも「利口じゃない」事件でロリータをハンバートに奪われてしまうヘイズ婦人のその後を暗示しています。  こういった暗喩や皮肉(そのほとんどは性的なもの)が数多く『ロリータ』には存在しますが、これはヘイズ・コード(検閲)を避けるためのキューブリックの苦肉の策でした。そういう事に気を付けながら『ロリータ』鑑賞すれば、より一層面白く感じられる筈です。(・・・というか、あまりにも気づかれていない)それもないまま低評価をされてしまっているというのであれば甚だ残念と言うほかありません。

【関連動画】TV朝日【AMAZING BANG FRONT】#23 スタンリー・キューブリックの間違いを指摘する

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 上記動画のペンが浮かんでいるシーンの説明「ガラスに挟んだペンをナイロンの糸に這わせ、回転させる事で」・・・って意味、分かりますか?私には全く意味が分かりません。ちゃんと調べましたか?電通さん、日本語になっていない説明をドヤ顔でされても視聴者は困惑するばかりですよ?  正しくは「ナイロンの糸で吊るしたり、ガラスにくっつけたペンをガラスごと回転させる事で」です。『メイキング・オブ・2001年宇宙の旅』にもしっかりとその記述があります。上記動画でスチュワーデスがペンを取る際、ガラスにくっついていたのがよく分かります。ガラスは直径8フィート(2.4m)の円形をしたもので、それにペンをくっつけてゆっくり回転させながら撮影しました。また、単純にペンが浮いているだけのカットはナイロンの糸で吊るしています。つまり、そのカットに適した方法でペンを浮かせ、それを繋ぐことでペンが浮いているように見せかけているのです。  しかも最初の字幕に「1986年公開」とありますが、これは明らかな間違いで正しくは「1968年公開」です。校正はしましたか?ちゃんと調べて裏を取りましたか?安い制作費で下請けに丸投げしてあとは知らんぷりですか?でも、最後に堂々とロゴを掲げているのは電通さんですから、恥をかくのはあなた方ですよ?こんな短い番組でミス連発なんて痛い事をしているから「電痛」呼ばわりされているのにいい加減気づきましょうよ。

【パロディ】ファミコン化された『シャイニング』の動画

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 映画を8ビット化するCinefixの「8Bit Cinema」シリーズに『シャイニング』が登場しました。細かい所も凝ってあって、ファミコン世代には懐かしく思えるのではないでしょうか。若干映画との矛盾はありますが、ゲームの感じを出すためにあえて変えてあるのでしょう。なかなかの労作です。チープな感じもいいですね。

【インスパイア】『火の鳥2772 愛のコスモゾーン』のオープニングシーンに「スターチャイルド」登場?

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  いきなりのスターチャイルドの登場で(実写?)、その影響を隠しもしない手塚治虫の1980年のアニメ映画『火の鳥2772 愛のコスモゾーン』。作画は丁寧ですがストーリーは退屈で凡庸な作品という印象。手塚作品ってマンガで読むと抜群に面白いのにアニメにするとどれもイマイチ。なぜなんでしょうね?

【BD】恐怖と欲望 限定版スペシャルBlu-ray BOXのパッケージとTシャツのデザイン

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恐怖と欲望 限定版スペシャルBlu-ray BOX 【1000セット完全初回限定生産】(Amazon)  どうやら オフィシャルサイト のフォントやデザインを踏襲したもののようです。ただ、外箱がオリジナルなだけで中に入っているBDのパッケージがどうなっているかは不明です。Tシャツは・・・いらないですね、正直。

【撮影・技術】タイトルバック(Title Background)

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キューブリック作品のタイトルバックを集めた動画  タイトルバックとは、映画やテレビドラマなどの映像作品において、オープニングやエンディングなどで、タイトルの題字やスタッフクレジットが入っている部分のこと。  キューブリックはこのタイトルバックについて、あまりこだわりはなかったようで、  「メインタイトル(タイトルバック)のことは全然気にかけていない。とても凝っていて感心したものもあるが、凝ったメインタイトル製作費の無駄遣いに過ぎず、その映画を損なうものだと思う。私の見方は非常に単純だ。映画の最初のショットは観客が席についてから最も興味深いものであるべきだということだ。タイトルと比べて映画の中身がつまらなく見えることに加えて、凝ったタイトルというのは、アニメーション、特殊効果、オプティカル処理、それに大抵、非常に高いデザイナーを意味する。これはつまり相当多くの経費がかかるということだ。私ならその費用を映画自体にかける方を選ぶ」(引用:イメージフォーラム増刊 キューブリック) と明言している。  実際、キューブリック作品には凝ったタイトルバックの作品は皆無で、シンプルなものばかり。それも大抵は黒バックに白抜き文字が多く、例外的に『時計じかけのオレンジ』がカラフル仕様になっている程度。それでも『2001年宇宙の旅』は言うに及ばず、『時計…』『フルメタル・ジャケット』『博士の異常な愛情』『ロリータ』(最後の2作品は発想が似ている)など、最低限の映像で最大級の効果を上げていている。

【考察・検証】見えざる影響を及ぼし合う、キューブリックとコッポラ

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『シャイニング』撮影時のキューブリックと『地獄の黙示録』撮影時のコッポラ  キューブリックがロンドンで『シャイニング』を制作していた頃、フィリピンである巨匠監督の大作が破綻寸前まで追い込まれていました。そうフランシス・フォード・コッポラ監督の『地獄の黙示録』です。キューブリックとコッポラ、直接交流があったかどうかは証言が残されていないので分かりませんが、キューブリックはコッポラの『ゴッドファーザー』を高く評価し、嫉妬さえしていました。そんな「意識している」コッポラの最新作『地獄の黙示録』の製作現場がまさに「地獄」と化していたその状況が、キューブリックの耳に届いていたとしても不思議ではありません。  『ゴッドファーザーPART1/2』で名声を確たるものにし、巨匠として名高いコッポラでさえ思い通りに映画を作れない・・・巨額の制作費、キャスティングの変更や俳優の病気、わがまま放題のマーロン・ブランドやデニス・ホッパー、台風によるセットの破壊、やがて製作は完全に行き詰まり、ヒットどころか公開まで危ぶまれる事態に、『バリー・リンドン』のアイルランドロケで同じような(テロリストを名乗る何者かに脅迫された)経験をしていたキューブリックはとても他人事だとは思えなかったでしょう。  結局1979年に『地獄…』は公開され大ヒット、無事制作費は回収され、カンヌ映画祭でグランプリを獲得するのですが、それまでの苦労と苦悩を考えれば、コッポラはこの快挙を手放しでは喜べなかったでしょう。しかも完成した作品は当初の予定とは似ても似つかないものになってしまっていたのですから。  1979年といえば『シャイニング』は丁度ポストプロダクションに入った頃です。前作『バリー…』で興行的に失敗していたキューブリックは、この度こそヒットさせなければなりませんでした。あれだけトラブっていると聞き及んでいた『地獄…』がヒットした事もプレッシャーに感じていたのかもしれません。いったん公開され、のちに削除された明らかに説明的すぎる 病院シーンのラストシーン も、その迷いのひとつの証左のように思えます。  その後、ロケに懲りたコッポラはその『シャイニング』を参考にしたのか、次作『ワン・フロム・ザ・ハート』で全編セットでの撮影を敢行します。でもそれが裏目に出て興行的に大失敗、個人のスタジオを手放してしまいます。一方のキュー...

【撮影・技術】シネラマ(Cinerama)

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史上初のシネラマ映画『これがシネラマだ』の予告編。スクリーンに映像のつなぎ目が見える。  三台カメラを使って35mmフィルムで撮影し、三台の映写機で180度に湾曲したスクリーンに1:2.88という超ワイドの映像を映し出す方式。音響も多チャンネルを使用し、映像と音響で観客を包み込むという画期的な上映システムだったが、専門の上映館が必要なためコストがかさみ、現在は廃れてしまった。  混同されがちだが『2001年宇宙の旅』のシネラマは正確には「スーパーシネラマ方式」といい、撮影や上映が煩雑になるシネラマ方式を改良し、70mmのフィルムを特殊レンズを使って一台の映写機で湾曲スクリーンに投影する方式。この方法だと三台の映写機を使う際に問題となるつなぎ目の不自然さが解消される。  『2001年…』はシネラマ上映を前提に制作されたが、シネラマ館のみで上映されたわけではなく、当然通常の映画館での上映もされている。しかしキューブリックの意図を最大限汲み取ろうとするならシネラマでの鑑賞がベストなのは間違いない。そういう意味では70mm版や35mm版でしか観ていない人は厳密な意味では「『2001年…』を観た」とは言えないかも知れないが、シネラマで観る方法がない以上、それを云々するのは詮無いだけだ。仮設の屋外劇場でも良いからいつかどこかで『2001年…』の「完全再現上映」が行われる事を切に希望してやまない。

【関連動画】アラン・ギルバート指揮のニューヨーク・フィルと『2001年宇宙の旅』が共演

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 2013年9月20日~21日にニューヨーク・リンカーンセンターのエイブリー・フィッシャー・ホールで、アラン・ギルバート指揮、ニューヨーク・フィルハーモニー・オーケストラによる『2001年宇宙の旅』の映像を使用したコンサートを開いたようです。  曲目はニューヨーク・フィルのサイトによると、リゲティ『序曲 アトモスフィア』、R・シュトラウス 『ツァラトゥストラはかく語りき』、リゲティ『 レクイエムからキリエ』、J・シュトラウスII 『美しく青きドナウ』、リゲティ『ルクス・エテルナ』、ハチャトゥリアン『ガイーヌよりアダージョ』リゲティ『アバンチュール』と公表されていますが、上記の動画を見ると、アンコールで『ツァラトゥストラ…』が再演されたようです。  でもこの動画の演奏、映像付きなのでいつもと勝手が違うのか24秒あたりでホーン系が音外してますね。こういうイレギュラーな形でのコンサートは聴いている方は楽しいのですが、演奏する方は映像も気にしなければならないので思ったより大変なのかもしれません。  日本でもこういう企画、やって欲しいのですが無理でしょうね。しょうがないんで年末の第九を勝手に脳内変換して聴くしかなさそうです。でも第九の最終楽章が終わった瞬間ついつい「I'm singing in the rain ♪」と歌いだしてしまう人はたぶん重症です(笑。お互い気をつけましょう。

【パロディ】『ティンバーラインの殺人』ショーとディナーを楽しみませんか?

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 「殺人ミステリーディナー」30年前にトランス一家がここで体験したぞっとさせる出来事の追体験にあなたを招待します!斧や殺人、スペシャルディナーに参加しましょう!予約必要。  2013年10月19日  ティンバーラインの殺人  素晴らしい料理はもちろんのこと、冒険と対話の夜、心理的スリル、身の毛のよだつ悲鳴、そしてハラハラドキドキの手がかりでいっぱい ー そのため死ぬことになります・・・  ディナー用メニューに関してはここをクリックしてください。  料金はお一人様101ドルとお手頃です!  ティンバーライン・ロッジでの忘れがたい夜のために今すぐ予約してください! そして幸運なら、あなたは生きて外へ出られるかもしれません。  ディナー・ショーのみの予約は電話番号XXX-XXX-XXXXへ。 宿泊およびディナー・ショーの予約は電話XX-XXX-XXXXへ。 (※念のため電話番号は伏せます)  午後6時30分にディナーとショーがスタート。開場は6時です。 (引用: ティンバーライン・ロッジ公式サイト )  ・・・あの、「怖がられて217号室には誰も泊まりたがらなくなるから、部屋番号を実在しない237号室に変えてくれ」と言っていたのはどちらのホテルでしたっけ?  スティーブン・キングの『シャイニング』の続編『ドクター・スリープ』の刊行に合わせて、原作とTVシリーズの舞台となったスタンリー・ホテルが宿泊パッケージを募集していましたが、今度は映画版の外観に使用されたティンバーライン・ロッジが、スペシャルディナーとショーを企画し、予約を受け付けているようです。  しかし、URLの末尾がだとか、フォントがこれだったりとか、けっこう気合いを感じますがジャック・ニコルソンの顔は許可をもらっているんでしょうか?しかもそのスペシャルメニュー>の下には例の一文が・・・。  でもまあ面白いからこういう企画はどんどんやって欲しいです。でもほんとなら内装をまるまるパクられた、と言っていいアワニー・ホテルでやって欲しいですね。この雰囲気でやられると、リアル過ぎますが(笑。

【オマージュ】デュワーズ・ウイスキーのCMに登場した『シャイニング』のバー

 日本でウイスキーと言えば全部ひとくくりにされがちですが、スコッチとバーボンは全く別ものです。スコッチはその名の通りスコットランドで製造された大麦ベースのウイスキー、バーボンはケンタッキー州で製造されたトウモロコシベースのウイスキー。それぞれスコッチ、バーボンと名乗れるのはその土地で製造されたものでなければならないという規定があるので、デュワーズはアメリカのブランドですが、製造はスコットランドですのでスコッチ・ウイスキーと、ジャック・ダニエルはバーボンに近いですが製造がテネシー州なのでテネシー・ウイスキーと呼称しているのです。  バーボンはアメリカそのものと、そのフロンティア・スピリッツ(ネイティブ・アメリカンにとっては侵略・略奪)を象徴する酒であるので、『シャイニング』でバーボンが登場するのはそれなりに意味があるのです。まあ、そんな細かい事は気にしなくって、素直にオマージュを楽しんでいればいいんですけどね。 ※動画は削除済み

【キューブリック展】サンパウロで開催中のスタンリー・キューブリック展を紹介したニュース動画

  かなりLACMAとは展示方法が違うようです。『シャイニング』の廊下の再現とタイプライターの展示方法にはずいぶんと気合いが入っているようですが、人が殺到したらさばききれるんでしょうか?ちょっと余計な心配をしてしまいます。  サンパウロ国際映画祭のオフィシャルサイトにはオープニング・レセプションの様子とクリスティアーヌ、ヤン・ハーラン姉弟のインタビュー動画、それに会場の様子を写した写真がいくつかアップされています。会期は2013年10月11日から2014年1月12日まで。是非成功して欲しいですね。 2013年10月16日追記:別のニュース番組での紹介動画です。例の双子の少女の衣装の展示方法は上記のタイプライターと同じ廊下なんですね。これはちょっと見てみたい! 2016年10月12日追記:動画は削除されました。

【関連動画】スー・リオン/ターン・オフ・ザ・ムーン(Sue Lyon - Turn Off The Moon)

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スー・リオンによるオリジナルの『ターン・オフ・ザ・ムーン』。邦題は『お月さま、あっちを向いて』 プリミティブズによるカバーの『ターン・オフ・ザ・ムーン』  1962年に『ロリータ』のロリータ役でブレイクしたスー・リオンですが、勢い余ってこんな曲をリリースしています。当時シングルで発売された映画のテーマ曲『ロリータ・ヤ・ヤ』のB面に収録されたこの曲(映画では使用されていない)、アメリカン・ポップス風味に単調なメロの繰り返し、しかもどうあがいても歌唱力があるとは言えない、微妙なボーカルが絡むなんとも味わい深い楽曲に仕上がっています。  公開当時15歳だったリオン嬢を想いつつ、ニンマリしながら楽しむべきなのでしょうが、2012年になって、80年代後半に活躍したイギリスのギター・ポップ・バンド、プリミティブズがカバーしたのにはびっくり。しかもシングルカットまで。こっちはビート感あるポップ・ロックになっていてなかなか。しかしトレイシー・トレイシー、年取りましたね。21年ぶりのフルアルバムだそうですから無理もないですけどね。

【名曲】ジョニー・ライト/ハロー・ベトナム(Hello Vietnam - Johnny Wright)

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Kiss, me goodbye and write me while I'm gone   Good, bye, my sweetheart, Hello Viet, nam. America has heard the bugle, call And you know it involves us, one an all I don't suppose that war will ever  end There's fighting that will break us up again. Good bye, my darling, Hello Viet nam A hill to take, a battle to be won Kiss me goodbye and write me while I'm gone Good bye, my sweetheart, Hello Viet nam. A ship is waiting for us at the dock America has trouble to be stopped We must stop Communism in that land Or freedom will start slipping through our hands.    I hope and pray someday the world will learn That fires we don't put out, will bigger burn We must save freedom now, at any cost Or someday, our own freedom will be lost. Kiss me goodbye and write me while I'm gone Good bye, my sweetheart, Hello Viet nam. さようならのキスをしておくれ、手紙を書くよ さようなら恋人、こんにちはベトナム アメリカは進軍ラッパ聞いた それは私たちのすべてを巻き込むのです 戦争は終わることはないでしょう また私たちを別つ戦争です さようなら最愛の人、こんにちはベトナム 戦いに勝つために丘を占領します さようならのキスをしておくれ、...

【撮影・技術】ドルビー・システム(Dolby System)

『時計…』のエンドクレジットに記載された「DOLBY LABORATORIES INC.」の文字  いかにこの「ドルビー・システム」が画期的だったか!現在のデジタル音源に慣れてしまってすっかりこの事を忘れていました。ある年代以上の方でないと、この記事は面白くないかもしれません。  このドルビー・システム、当時標準だった音声記録媒体の磁気テープ(オープンリールやカセットテープなど)ではどうしても問題となったヒスノイズ(サーというテープ走行音)を低減する画期的なシステムでした。一般的にはドルビーBとドルビーCが知られていて、レコードからカセットテープにダビング時、それを使う事によってヒスノイズが低減されるため、ウォークマンでのヘッドホンで音楽を聴く事が一般的だったこの時代、ドルビーがあるとないとでは音質に大きな差があったのです。でもドルビーをかけると音が「こもり気味」になるので、それを嫌った人はあえてドルビーを切って聴いたりしてました。(管理人もその派で特にドルビーCは嫌いでした)  何故突然ドルビーの話を持ち出したかというと、このドルビー・システムが映画で初めて使用されたのが『時計じかけのオレンジ』だからです。(録音時のみ)キューブリックは当時レコーディング・スタジオで普及しつつあったドルビー・システムのノイズ低減効果に着目、マスターレコーディングの際に業務用のAタイプを使用ました。その後1970年代の中頃になると、『スター・ウォーズ』や『未知との遭遇』で本格的に用いられた事をきっかけに、劇場の音質向上に多大な貢献をしたそうです。  現在ではデジタル録音・再生が当たり前になったため、業務用はともかく、一般レベルでは全くその名を聞かなくなりました。現在に例えるなら、MP3のコーデックで音質を云々するノリに近いと思っていれば間違いないと思います。

【関連動画】映画『アレクサンドル・ネフスキー』の『氷上の戦い(The Battle of the Ice)』

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 1938年公開のセルゲイ・エイゼンシュテイン監督のソビエト映画『アレクサンドル・ネフスキー』。高校時代、この映画で使用されたセルゲイ・プロコフィエフ作曲『氷上の戦い(The Battle of the Ice)』という曲をいたく気に入ったキューブリックはサントラLPを購入、それから何度も、何度も、何度も、何度も聴いたものだからついに妹のバーバラが発狂、怒ってキューブリックの頭でこのLPを割ってしまったという、なんともキューブリックらしいエピソードが微笑ましい(?)この曲ですが、映画の該当シーンの動画がYouTubeに上がっていたのでご紹介。  こんな曲を何度も聴かせられれば、バーバラじゃなくったってキレちゃいますよね。その頃キューブリック一家はアパート住まいだったのでこの音楽から逃れようがなかった筈ですし。この動画をリピート再生して当時のバーバラの気持ちを追体験してみるのもいいかも。確かに今で言う「中毒性」がありますね。

【キューブリック展】ブラジルで開催されるスタンリー・キューブリック展がトロントに

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2012年11月からロサンゼルスのLACMAで開催された『スタンリー・キューブリック展』  LACMA(ロサンゼルス・カウンティ美術館)で最近半年以上にわたって開催された、スタンリー・キューブリック監督に捧げた大規模な展覧会は、今週サンパウロ(ブラジル)で開催され、来年トロント(カナダ)に向かうでしょう。 (引用: ロサンゼルス・タイムス/2013年10月9日 )  次はトロントですか。どうやらツアーでヨーロッパだけでなく世界を廻るようですね。トロントでできるなら東京だって不可能じゃないはず。関係各位は開催の実現を!規模はLACMAより小さくなってもかまいませんので、なにとぞ是非! 追記:TIFFに来るそうですが、TIFFとはトロント国際映画祭の事だそうです。東京国際映画祭も略称がTIFFですからややこしいですが、もし来るとすれば来年秋の東京国際映画祭での特別展示という線がありそうです。ただ、東京国際ってアジア重視ですし、そんなにアレですのでできれば別でお願いしたいですね。

【キューブリック展】第37回サンパウロ国際映画祭=18日から各シネマで=国内外350作品以上を上映

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 今月18日から31日までサンパウロ市各地で行われる「第37回サンパウロ国際映画祭」の詳細が5日、シネ・セスキで正式発表され、イベントの実行委員長レナタ・デ・アルメイダさんは、6月の“抗議の波”(マニフェスタソン)に関連づけ、「映画祭では、あらゆる視点のマニフェスタソン(表明)をする」と説明した。  「皆がマニフェストをする権利がある。でも、それを邪魔してはいけない。ファシズム寄りになってしまうから。私たちにもマニフェストをさせてほしい」と続けた。  今回オマージュするのは、ネオレアリズモとイタリア喜劇の流れに社会性を盛り込む作風が特徴のイタリアの映画人エットレ・スコーラ監督(82)。本人は映画祭に出席しないが、50年来の友人だった故フェデリコ・フェリーニ監督に関するドキュメンタリー「Que Estranho Chamar-se Federico」が映画祭の最終日に上映される予定だ。  イビラプエラ公園では、ドイツ映画「賢者ナータン」が26日に無料で公開されるほか、「映像と音の美術館」では「シャイニング」「時計仕掛けのオレンジ」などで有名なスタンリー・キューブリック監督のオマージュ展を開催。その他、韓国人のパク・チャヌク監督を招き、「オールドボーイ」(2003年)が上映される。  映画を上映する場所は20カ所以上で、上映される作品は国内外の350作品以上。サンパウロ市のジュッカ・フェレイラ文化局長は、「長編映画の多さ、一般には出回っていない映画関連の文献に接することができるのが、この映画祭の魅力」とアピールする。  なお、映画祭終了の翌日11月1日にはアニャンガバウーでスペシャルセッションが開催され、チャーリー・チャップリンの作品「サーカス」が野外映画として上映される。バックミュージックは、サンパウロ市立劇場のオーケストラが生演奏する。  チケット販売は12日から開始される。詳細は公式サイト(37.mostra.org/home/)で。(6日付フォーリャ紙より) (引用: ニッケイ新聞/2013年10月8日 )  ブラジル・サンパウロで開催される「第37回サンパウロ国際映画祭」にキューブリックのオマージュ展が開催されるようです。上記は映画祭のトレイラーですが、キューブリックが大々的に取り上げられています。絵はどうやら妻のクリスティアーヌが描いたようです。  オマージ...

【俳優】ヨハンナ・テア・ステーゲ(Johanna ter Steege)

 未完成作品『アーリアン・ペーパーズ』でナチから逃れる少年の叔母役にキャスティングされていたオランダの女優。『アーリアン…』が未完に終わった事について  「私は起こった事を後悔していません。私はまだ大変な光栄だと感じています。それは素晴らしい経験だった。終わりはとても辛かった。大いなる未来がありました・・・そしてそれは、突然風船が破裂したように感じました。それはそれとして、先に進まなければなりません。私は人生で初めて、個人的な幸福と成功とは何の関係もないことに気が付きました」(※管理人訳:誤訳はご了承ください) (引用: IMDb/Johanna ter Steege ) と語っている。  主な出演作は『ザ・バニシング-消失-』(1988)、『ゴッホ』(1990)、『ミーティング・ヴィーナス』(1991)、『ギターはもう聞こえない』(1991)、『愛の誕生』(1993)、『不滅の恋/ベートーヴェン』(1994)、『彷徨う心』(1996)、『レンブラントへの贈り物 』(1999)、『静かの海』(2003)、『サージェント・ペッパー ぼくの友だち』(2004)など。  1961年5月10日オランダ・オーファーアイセル州出身。

【撮影・技術】プリプロダクション(Pre-production)

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『アーリアン・ペーパーズ』の衣装のテスト  撮影前の事前準備の事。キューブリックはこのプリプロダクションに1年もしくはそれ以上という、長期間を当てるので有名だった。因にキューブリック作品でプリプロダクションまで進んでいながら実現しなかった企画は、現在判明しているものでは『ナポレオン』『アーリアン・ペーパーズ』『A.I.』の3企画。『A.I.』はスピルバーグが企画を引き継ぎ完成させ、2001年に公開されたのは周知の通り。  上記は残された『アーリアン・ペーパーズ』のプリプロダクションの資料。モデルになっている女優はオランダ人女優のヨハンナ・テア・ステーゲ。

【撮影・技術】アドリブ(Ad lib)

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セラーズの右手を殴るアドリブでソ連大使役のピーター・ブルが思わず笑ってしまっている  キューブリックは撮影現場でのアドリブを「要求する」監督でした。それは数々の証言に裏付けされている厳然たる事実です。しかし「キューブリック アドリブ 許さない」でググればまあ出てくるわ出てくるわ、ソースもなしに「キューブリックはアドリブを許さない」と断定した記述が。一見緻密に創られているキューブリック作品の印象がそうさせるのかも知れませんが、「印象」は印象であってソースにはなり得ません。  『博士の異常な愛情』のピーター・セラーズや『時計じかけのオレンジ』のマルコム・マクダウェル、『フルメタル・ジャケット』のリー・アーメイのアドリブは有名ですが、あの『2001年宇宙の旅』でさえもボーマン役のキア・デュリアが  「撮影中でも、別のシーンの撮影予定があと一週間に迫ると、僕たちはセットにあるスタンリーのトレーラーに行った。すると彼はテープレコーダーを回し始める。僕たちは脚本をもとにアドリブでやって、次の日に新しい脚本をもらった」 (引用:『映画監督スタンリー・キューブリック』) と証言しています。キューブリックにとってアドリブの要求とテイクの繰り返し、それは全て「クリティカル・リハーサル・モーメント(リハーサルの決定的瞬間)」を求めての事なのです。  その反面、プリプロダクション(撮影準備)には1年以上と長い時間をかけていました。これは「撮影現場では何が起こるか分からないので、ありとあらゆる事態を想定して念入りに準備する」という事だと思います。つまり、撮影現場でのアドリブを前提しての措置だという事です。  「シーンのリハーサルをするときには、普通、カメラについて全く考えないのが良い。もし考えると、私の経験ではそのシーンのアイデアを最大限探求することを間違いなく妨げる。撮影するに値することが遂に起こったとき、その時がどう撮るか決めるときだ」 (引用:『イメージフォーラム増刊号 キューブリック』)  つまり、予め構想されていた撮影を予定通りこなす事に興味なく、あくまで現場で「その瞬間」が起こるのを待つ。いかにも報道カメラマン出身のキューブリックの、これこそ「アドリブ指向」を端的に示す言葉ではないでしょうか。

【名曲】威風堂々(Pomp and Circumstance March)

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威風堂々 1番 威風堂々 4番  『時計じかけのオレンジ』では、1番の中間部が内務大臣の刑務所視察の時、4番の中間部がアレックスのルドビコ研究所入所時に使われています。1番の中間部をエルガー自身が『希望と栄光の国』として編曲し、「イギリス第2の国歌」「イギリス愛国歌」と呼ばれる程親しまれているそうです。こういった経緯からこの曲はかなり保守的、愛国的な意味合いが強い事が分かります。キューブリックはそれを承知の上でこの曲を「国家主義の権力の象徴」のようにあえて皮肉っぽく使っているのですね。  そういえばたまにこの『時計…』が描く未来世界を「共産主義国家」と勘違いされている評を見かけます。オーウェルの『1984』と混同されているのかも知れませんが、明らかに「国家主義・全体主義的国家」ですね。そうでないとこの皮肉の意味が失われてしまいます。作家が属するグループが弱者の救済を標榜している点や、作家という職業を考えてみても、こちらが「共産主義者の反体制過激派グループ」でしょう。アレックスが風呂に入っている間に、作家が電話で話している口調が共産主義者っぽくなっているのも皮肉が効いていて笑うところなんですけどね。  キューブリック自身も 「アンソニー・シャープが演じた大臣は、明らかに右翼の人物だ。パトリック・マギーの作家は左翼の狂人だ。「一般人は指導され、制御され、強要されなければならない」と彼は電話に向かって熱弁する。「彼らはより安楽な生活のためにその自由を売り渡すだろう!」 (引用:ミシェル・シマン著『キューブリック』) と、ミシェル・シマンのインタビューで語っています。  まあでも国家主義も共産主義でも突き詰めて行くと違いが分からなくなる・・・とはよく言われる話ですが。キューブリックはどちらの思想にも与していないので、『博士…』の頃「どちら側からも攻撃された」と愚痴っていました(笑。そのキューブリックが共産主義丸出しの『スパルタカス』を撮ったんですからね、よく我慢したものです。

【インスパイア】ケイティ・ビー/5 AM(Katy B - 5 AM)

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 Katy B(ケイティ・ビー)とはイギリスのサウスロンドン、ペッカム出身のダブステップ~ガラージ~R&Bポップ・シンガー/ソングライターで1989年5月8日生まれの24歳。その彼女の最新シングルのPVがモロに・・・『アイズ ワイド シャット』ですね。  タイトルは『5 AM』。午前5時という妖しい時間なので、まさに『アイズ…』の例の危険なパーティーシーンのイメージはうってつけだったのでしょう。本人はキューブリック死去の際10歳だったので全く知らなかったでしょうから、PVの監督から「新曲のPV、このイメージでいくから観といて」とか言われて『アイズ…』のBDを渡されたりしたんでしょうか。  死後10年以上たったというのに愛されてますね、監督!こうやって確実に影響が未来に継承されてゆく様を見るのも悪くないですね。

【関連動画】『シャイニング』の118分間を120分割して1分にした動画

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 なんというカオス!(笑。11×11=121マスですが、右下のマスのみ使っていないみたいですので120分割ですね。映画はコンチネンタル版でランニングタイムは118分38秒=7118秒ですから1マス当たり59.316秒、つまり約1分。動画作成の際には前後に若干余裕を持たせるんで、YouTubeの表示は1:01になっているんでしょう。  それにしても、やたらウェンデイの悲鳴が耳に入ってきます。あと不協和音のように不快なサウンドトラックや乾いた打楽器の音も・・・発想の勝利ですね。

【関連動画】アーサー・リプセット『ベリーナイス、ベリーナイス』

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 キューブリックが賞賛し、影響を受けたカナダ人の映像作家アーサー・リプセット。カナダ国立映画製作庁が製作、リプセット監督して第34回(1961年)アカデミー賞短編映画賞にノミネートされた作品がこの『ベリーナイス、ベリーナイス』です。  ファンだったキューブリックはリプセットに『博士の異常な愛情』の予告編製作をオファー。しかしリプセットはそれを断ります。それならばとキューブリックはパブロ・フェロに予告編の製作を依頼しますが、上記の動画と比べてみれば一目瞭然、リプセットの影響は明白ですね。  時代は1960年代初頭。こういった見るものの神経を刺戟する斬新な映像はやがてドラッグと結びつき、「サイケデリック・カルチャー」として60年代後半に全盛期を迎えるのですが、その中心には「映像と音楽の融合」という「トレンド」がありました。キューブリックはそのキャリアの初めからセリフに頼らない斬新な映像表現を劇映画に持ち込もうと悪戦苦闘していたので、キューブリックの志向とトレンドが合致したのがこの時代、ということになります。  以前 ここ で『薔薇の葬列』が『時計じかけのオレンジ』に影響を与えたかどうか微妙だ、という記事を書きましたが、『博士の異常な愛情』にしても『2001年宇宙の旅』にしても『時計…』にしても当時の最先端トレンドであるサイケデリック・カルチャーを抜きには語れません。それを無視して「似ている・似ていない論」を展開しても何の説得力もないのは当然と言えます。影響を受けつ、与えつしていたキューブリック、リプセット、パブロ・フェロはその当時のトレンドリーダーだったのですから。

【関連記事】サン誌に掲載されたダン(ダニー)・ロイドのインタビューの要約

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 幼いダニー・トランスを演じたダン・ロイドは、最近『シャイニング』における彼の経験について、サン誌のインタビューに応えた。  彼は1978年の撮影の思い出について「怖い映画だとは知らなかった」と語った。映画は順不同で撮影され、とても恐ろしい映像や流血映像から保護された。 5歳の彼にとって撮影はゲームをしたり、屋内を三輪車で走り回る楽しい機会となった。  ダンは幼なかったため、映画の内容を厳しく制限したバージョンしか見る事ができなかった。16歳の頃、何人かの友人がビデオ店から『シャイニング』を借りてくるまで、彼は完全に映画を見たことがなかった。  現在40歳。ケンタッキー州で生物学を教えるダンは、自分の三人の子供たちが映画をどう思うか訊いてみた。彼によると、子供たちは主にダンのヘアスタイルをからかうのだそうだ。 (管理人訳※誤訳はご了承ください) (引用: THE OVERLOOK HOTEL/2013年9月30日 )  最近スティーブン・キングによる『シャイニング』の続編ドクター・スリープ』が刊行されたせいか『シャイニング』絡みの報道が相次いでいますね。キューブリックはダニー・ロイドに怖い思いをさせないよう、細心の注意を払って撮影していましたが、16歳になるまでちゃんと『シャイニング』を観た事がなかったとは・・・。ハリウッドで成功した子役はだいたいダメになるパターンが多いのですが、すぐ俳優活動を辞めたせいか、とてもやさしそうなパパになってますね。キューブリックもさぞかし喜んでいる事でしょう。