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【関連記事】キューブリックの『シャイニング』のアシスタント、レオン・ヴィタリは『ROOM237』を「まったくのナンセンス」と呼んだ

おかえり。しかし、それは何を意味するのか? 〈前略〉  「私はほとんどの時間、笑い転げていました」と彼は電話で語った。「映画の中で主張されている考えの中には、まったくのナンセンスだとわかっているものもあります。」 〈中略〉  ヴィタリ氏は、キューブリック監督と『シャイニング』の大きな意味について話したことは一度もないと語った。「彼は観客に何を考えるべきか、どう考えるべきかを指示しなかった」と同氏は語り、「観客がそれぞれ違った考えを持って映画館を出たとしても、彼はそれで構わなかった。とはいえ、彼は『ルーム237』の70%、いや80%くらいは聞きたくなかっただろう」と語った。 -なぜだめですか? 「まったく意味不明だから」 (引用: New York Times/2013年3月31日 )  ここで証言しているアシスタントとは、『バリー・リンドン』以降アシスタントとして常にキューブリックの身近にいたレオン・ヴィタリです。もちろん『シャイニング』の製作にも深く関わっていて『メイキング・ザ・シャイニング』でもダニーの遊び相手をしてあげている場面に映っています。  そんな彼が、例のデタラメでっち上げ金儲け「フィクション(notドキュメンタリー)」映画『ROOM237』を一刀両断しています。まあ、レオンを始め当時の制作スタッフには一切取材せずにでっち上げたゴミ映画ですので、この反応は予想通りですね。レオンは「全部たわごと」まで言い切っています。(笑   もしこの映画がヒットするような事があれば、次の矛先は多分『アイズ ワイド シャット』でしょうね。ネット上ではすでにキューブリックの死と絡めた陰謀説が飛び交っていて、活発に活動しているサイトもあるようです。カネの亡者が飛びつくのも時間の問題でしょう。  こんな映画をカネを払ってまで観て、墓荒らしのような連中の片棒を担ぐマネはファンなら絶対するべきではありません。もちろんこんな事をキューブリックが喜ぶはずもなく、生きていれば訴訟も含め、強硬な態度に出ていたでしょう。  まあこういった連中はどこにでも湧いて出てくるものですが、某映画雑誌はご丁寧に紹介記事まで掲載したそうです。日本のマスコミが「マスゴミ」と言われるのも仕方ないですね。ちょっと調べればこの映画がうさん臭い事などすぐ分かるのに。それすらしないのは編集者やライターの知能レベルが...

【考察・検証】HAL9000コンピュータはなぜ反乱を起こしたのか?

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 『2001年』でディスカバリー号に搭載されていたコンピュータHAL9000。何故HALは反乱を起こし、人間を殺害するに至ったか。これは一般的には「正確な情報を正確に処理する事を義務づけられた知的コンピュータであるHALは、乗組員にはモノリスの情報を隠しながらも、同時にモノリスと地球外知的生命体の調査は行うように命令されていたため、何も知らされていない乗組員と共同生活の中でその矛盾に苦しみ、一種の精神疾患のような状態に陥った」「挙動不審なHALの状態に乗組員は危機感を憶え、高度な論理回路だけ切断するという検討を始めた。それを自身の死刑宣告だと判断したHALは人間を排除し、知的生命体の調査は自身の能力だけでするしかない、と考え実行に移した」とされています。  この説明を納得するか否か、また他の説明が可能か等はここでは検証しません(個人的には十分納得できるレベルだと思いますが)。では、何を検証するのかというと「どうしてキューブリックとクラークはこんな設定を持ち出して来たのか?」です。つまり「制作側の事情」を検証してみたいのです。  実はその裏話の一部始終が『失われた宇宙の旅2001』で語られています。当初はクルー全員が無事に木星圏にたどり着き、ビック・ブラザー(巨大なモノリス)の詳細な調査が行われる予定でした。その後、スペース・ポッドに乗り単独でビックブラザーの調査に向かったボーマンが変化したモノリスに飲み込まれる、という流れになっています。(これらのプロットはしょっちゅう二転三転したようです)  最終的にこの案はボツになり、ボーマンだけが生き残る事になりました。その理由は明確ではありませんが、木星探査のプロセスを映像化するには予算が足りない、または当時のSFX技術で映像化するにはハードルが高すぎる(実際木星を映像化するだけでも悪戦苦闘していました)など理由はいくらでもありそうですが、クラークは「そもそもオデッセウスも唯一の生存者だから」と説明しています。つまり神話との共通性を示唆したかってのでしょう。  ではどうやってボーマン以外の乗組員を殺害するのか?当初は「ホワイトヘッド(映画ではプールに名前が変更)のポッドが故障により暴走しアンテナと衝突、ホワイトヘッドは回収不可能になりアンテナも失われる。その後人工冬眠中のクルーも蘇生に失敗する」というものでした。これは「偶然...

【オマージュ】プライベート・ライアン(Saving Private Ryan)

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 有名な『プライベート・ライアン』のノルマンディー上陸作戦のオハマ・ビーチ上陸シークエンスですが、これについてスピルバーグはキューブリックの『博士の異常な愛情』の影響を明言していて、『シンドラーのリスト』の際キューブリックに対して  「(博士の異常な愛情の)パープルソン空軍基地奪還のシークエンスを憶えていませんか?あなたはあのすごいシーンを長焦点レンズと手持ちカメラで撮りました。基地を撃つ兵士や逃げる記者たち・・・全部手持ちでしたよね」「だから通信隊のカメラと、それにあなたの影響で私はストーリーをああいうやりかたで語り、その後(の)『プライベート・ライアン』でもそうしたんですよ」(引用:『キューブリック全書』)  と語ったエピソードを紹介している。  この『プライベート・ライアン』が与えた影響は大きく、当時まだタブーだった戦場の凄惨な描写と、これが戦場の色だと言わんばかりの灰色のくすんだ色彩は、その後の戦争映画のビジュアル面を決定づけたと言ってもいい。ただそれは同時に「戦争=悲劇」の図式のみを強烈に印象づけるものとなってしまい、戦争の本質的な意味を問いただすといった作業は『フルメタル…』以降現在でも遅々として進んでいないのは残念だ。

【考察・検証】小説『時計じかけのオレンジ』第21章の違和感の正体

 この第21章、読んでいただければ分かるように、それまでのトーンと全く整合性がとれていない。ここに描かれている部分には、権力者も、反権力者も登場しない。あの収監と治療と自殺幇助と逆治療の日々がまったく「なかった」かのような扱いをされている。しかも他の章に比べて極端に短い。まるでやっつけ仕事のようにさえ感じてしまう。  もし、バージェスが本気で希望を持った終わり方にしたいと思ったのなら、アレックスがどうやって権力者や反権力者の思惑から抜け出し、自由と自立を勝ち取るか描くはずだ。小賢しいアレックスの事である。内務大臣の宣伝担当という役柄を最大限逆利用するとか、収容されている反体制グループを解放、煽動し権力者にぶつけるとか、なにか新しい仲間〈ドルーギー〉と共に行動を起こすに違いない。そうやって両者にたっぷりと仕返しをした後のこの21章なら充分納得できる。だが今の第21章では単なる権力の犬のままだ。その権力の犬のまま嫁を捜して結婚し、大人になって暴力から卒業する・・・もしかしてこれがバージェス流のブラックな結末のつもりなのだろうか?権力者が個人の尊厳を踏みにじってまで強要したルドヴィコ療法は間違ってました。市内に警察官を多く配置したら治安は良くなりました。それに若者は大人になればいずれ暴力はやめるのだから、自然に任せておくのが一番いい。そんな結末を読者に信じろと?  冗談ではない。暴力は生きる力だ。暴力性こそ人間性だ。暴力性を否定する事は人間性を否定する事だ。暴力性は老若男女誰もが持ち合わせている。権力も暴力だ。反権力も暴力だ。暴力を止めるのも暴力だ。宗教も言論も暴力だ。世界は暴力で溢れている。それが現実だ。それから目を背けるな。第20章までバージェスはそう描いていたではないか。それが何故突然第21章で「大人になったから暴力から卒業」で終わってしまうのだ?  キューブリックはこの件に関して  「それ(第21章)は納得のいかないもので、文体や本の意図とも矛盾している。出版社がバージェスを説き伏せて、バージェスの正しい判断に反して付け足しの章を加えさせたと知っても驚かなかった」(引用:『ミシェル・シマン キューブリック』) と1972年のインタビューで語っている。この時、出版社の編集担当者がどう説き伏せたのかは分からない。ただバージェスは60年代始めはまだ経済的に恵まれてはいな...

【関連作品】恐竜100万年(One Million Years B.C.)

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 『時計じかけのオレンジ』で、アレックスが第九を聴きながら夢想する夢の一つがこの1966年公開の『恐竜100万年』のワンシーンです。上記の予告編にも使われていますね。特撮ファンにとっては「あのレイ・ハリーハウゼンの名作」として名高いそうです。  『キャット・バルー』と同様「アレックスは映画で見たことを想像するだろう」と、これらワンシーンを採用したそうですが、これもエロくサディスティックなのでアレックスの好きそうな映画ではありますね。

【撮影・技術】ソース・ライティング(Source Lighting)

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 セットの組み込まれた光源や、ロケ先に予め設置されている光源を主体とした照明の当て方。過去のハリウッド映画ではセットには天井を作らず、スタジオ設置の照明を使うのが一般的だった。その方が俳優やセットの立体感をライティング次第でコントロールできたからだ。反面、いかにも照明を当てました的な不自然さも感じさせてしまうことにもなるため、キューブリックはその「不自然さ」を嫌い、ソースライティングにこだわった。これはキューブリックが報道カメラマン出身という出自が大きく関係していると思われる。報道カメラマンは現場の光源、つまりソースライティングに頼るしかなかったからだ。キューブリックは状況によってはフラッシュも使っていたが、それを感じさせない自然な写真の仕上がりには定評があった。  上記の動画は『現金に体を張れ』でのワンシーン。男たちを照らすペンダントライトを使った「ソース・ライティング」。ライトの影に俳優が入ってしまって顔がよく見えない瞬間があるが、キューブリックはそれを「共謀計画を練る男たちが醸し出す緊張感」としてあえて採用しているのがよくわかる。

【プロップ】シコルスキー HUS-1 シーホース(Sikorsky HUS-1 Sea Horse)

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 『フルメタル・ジャケット』に登場したベトナム戦争時に使用されたアメリカ海兵隊のヘリコプター。例の「戦場は地獄だぜ」と非戦闘員を撃ちまくっていたヘリや、フエでの市街戦の負傷者を運んでいたヘリなど登場するヘリは全てこれ。  ナム戦でヘリといえば『地獄の黙示録』や『プラトーン』などのUH-1をイメージしますが、軍史家のリー・ブリミコウム=ウッドによると 「フエの海兵隊は大きくなかったからLCH格納庫の中に収まるような(小型の)ヘリが好まれた」(引用:『キューブリック全書』) のだそうです。  ちなみに撮影で使用されたヘリは「個人所有機を何とか見付けて、塗り替えて使った」のだそう。 (参考: Flying Leatherneck )

【考察・検証】『薔薇の葬列』は『時計じかけのオレンジ』に影響を与えたか

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 ここでは、この1969年制作の日本映画、松本俊夫監督の『薔薇の葬列』が『時計じかけのオレンジ』に与えた影響について検証してみたい。まず、この記述、 1970年にロンドンで上映された 『薔薇の葬列』 を観たスタンリー・キューブリックが、次回作 『時計じかけのオレンジ』 の「早回しのセックスシーン」等、同作のビジュアルの参考としたと云われる。(ハーバード大学ウェブサイトより) についてだが、その当該のサイトとは ここ になるだろう。Julie Buck氏が「キューブリックは一瞬のカット割り、若者のギャングイメージ、早回しのモンタージュシークエンスの影響を受けた」と指摘している。この『時計…』の早回しのセックスシーンと似たシーンを『薔薇…』から探すとするなら、ピーターとバーのママとの乱闘シーンだが、確かに早回しではあるがキューブリックの乱交シーンとは比べ物にならない程遅く、また使用されている曲もクラッシックではなく、手回しオルガン曲『愛しのアウグスティン』だ。これを根拠に「キューブリックが影響された」と論じていいものだろうか?  早回しのセックス・シーンについては、キューブリック自身が 「この種のシーン(ラブシーン)をおごそかにするために、ごくありふれた用法のスローモーションがふさわしいとする考えを風刺するためには、よい方法だと私には思えた」(引用:『ミシェル・シマン キューブリック』) と語っていて、つまり通俗的なラブシーンの演出を逆手に取りたかった意図を説明している。原作でのアレックスはこのシーンに第九をかけているが、音楽を担当したウェンディ・カルロスの証言によると当初はオーケストラ版『ウイリアム・テル序曲』が使用されていた。それについては 「(ラブシーンに)標準的なバッハの演奏に対して、(『ウイリアム・テル序曲』を使うのは)うまい音楽ジョークだと思えた」(引用:『ミシェル・シマン キューブリック』) と発言していて『薔薇…』の話やその影響を感じせる部分は全くない。  その他のビジュアル・イメージやカット割などは『薔薇…』をご覧になって判断していただくしかない。確かにアイスクリームの食べ歩きや、素早いカット割の連続による悪夢イメージ、不良達など『時計…』との類似点は散見されるが、当時のアングラ・サイケに毒された他の映画を観れば同じようなビジュアルイメージは頻出してい...

【オマージュ】オアシス/ドゥー・ユー・ノウ・ホワット・アイ・ミーン(Oasis - D'You Know What I Mean?)

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 世界一仲の悪い兄弟バンド、オアシス。そのオアシスの1997年発表のアルバム『Be Here Now』からのファーストシングルがこの『D'you Know What I Mean?』です。  何故かPVはベトナム戦争で『フルメタル・ジャケット』風。それもそのはず、ロケ地は『フルメタル…』と同じベクトン・ガス工場跡地です。キューブリックは撮影が終わった後、原状回復してないようで、約10年経ってもそのままで残っていたみたいですね。まあそれも今は昔、現在は瓦礫もほとんど片付けられているみたいです。

【ロケーション】ベクトン・ガス工場(Beckton Gas Works)

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 『フルメタル・ジャケット』でフエの市街戦が撮影されたロンドンのイースト・エンドにあったベクトン・ガス工場の跡地。現在では再開発が進み、北半分はテスコの広大なショッピングモールと物流倉庫になっているようです。すぐそばには滑走路の短さとアプローチの急角度で有名なロンドン・シティ空港があります。東側からのアプローチだったら着陸寸前の右側に広大な跡地が見えるはず。そこがベクトン・ガス工場跡地です。  この工場跡地で大規模ロケを敢行したのはキューブリックが最後だったうようで、それまでに破壊されていた建物を更に壊したり、燃やしたり、爆破したりと割と自由にできたようです。ここで撮影された映画は他に『007 ユア・アイズ・オンリー』(1981)のヘリコプターシーンや『1984』(1984)などが有名ですが、『ユア・アイズ…』の頃はまだ建物が残ってますね。『1984』でかなり破壊されたみたいです。「モノリスのようだ」と言われたコンクリートの板(キューブリックは「ただそこにあっただけ」とコメント)も『1984』の予告編にチラっと映っています。  現在では戦車が砲弾をぶっ放していた3つのタワーが印象的な建物を始め、そのほとんどが解体・撤去され、その面影はほとんどありません。この建物の向こう側はすぐテムズ川になっていますが、劇中では香川(パフューム・リバー)という事になっていました。実際の川の映像では出てきませんが、こういう見えない事にさえこだわるのはキューブリックらしいですね。

【台詞・言葉】ローレンス(Lawrence)

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「アラビアのロレンス」と「駆逐艦チャールズローレンス」  『フルメタル・ジャケット』でハートマン軍曹がレナード・ローレンスに向かって、「名前が気に喰わん、ローレンスはオカマ野郎か水兵の名前に決まってる!」と決めつけてますが、この意味を調べてみました。  まず「オカマ野郎」ですが、これは「アラビアのロレンス」ことトーマス・エドワード・ロレンスを指しているものと思われます。当時ロレンスが同性愛者だったという噂があり、映画『アラビアのロレンス』でもそれを示唆するシーンがあります。また軍曹がローレンスという名前について「気品ある名前、王族か?」と言っていますが、それはこのトーマス・エドワード・ロレンスが実際に貴族の家柄の出身であったため、こう質問しているのでしょう。  次に「水兵の名前」ですが、これはチャールズ・ローレンスを指しているのだと思います。チャールズ・ローレンスは旧日本軍の真珠湾攻撃で戦死した水兵の名前で、それに因み、1943年2月16日に護衛駆逐艦のネーム・シップとして命名されました。  つまり海兵隊にとって「ローレンス」とはイギリス陸軍の英雄や、アメリカ海軍の有名な戦死者とその艦名を連想させる「嫌な名前」なんですね。だからハートマン軍曹は「名前が気に喰わん!」と噛み付いているのでしょう。  因に原作では「レナード・プラット」といういかにもどん百姓でマヌケな名前になってます。それを「レナード・ローレンス」に変えたのはこの罵詈雑言を使いたかったリー・アーメイが、キューブリックに進言したのかも知れません。海兵隊の訓練教官だったアーメイは実際にこの罵倒ネタを使ったことがあった可能性もあります。どちらにしても、いかにもハートマンらしい皮肉に満ちた罵詈雑言ですね。

【撮影・技術】リア・プロジェクション(Rear Projection)

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『アイズ ワイド シャット』で使用されたリア・プロジェクション  スクリーン・プロセスの一種で、過去に一般的だった撮影技術。演技者の背景にスクリーンを設置、それに裏側から背景映像を映写する事によって、スタジオ内でロケをしなくてもロケをしたような映像が撮れる。背景映像さえ準備できればどんな場所でも撮影可能だが、問題点もあり、背景映像を裏から映写するために演技者との映像の鮮明度に差がでてしまい違和感がでてしまう事。この点を克服したフロント・プロジェクションという方法もあるが、これは前面から背景画像を映写するので、演技者の衣装や小物、前面のセットにつかえる材質(反射するものやエッジがぼやけているものは不可)に制限があり、一長一短がある。  キューブリック作品では『現金に体を張れ』の競走馬銃撃シーンなどで初めて使用され、以降『シャイニング』の車内のシーン、『アイズ ワイド シャット』でクルーズが街を歩くシーンまで使用された。現在はデジタル合成が一般化している。

【プロップ】ピエロの仮面(Clown Mask)

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 『現金に体を張れ』でジョニーが強盗で押し入る際にかぶっていた仮面。キューブリックは気に入ると後の作品でも同じアイデアを使い回す事がよくあり、『時計じかけのオレンジ』でもアレックスが作家夫婦の家に押し入る際に同じようにピエロの仮面をかぶっていた。  ピエロのモチーフはルック時代のスチール写真に遡る事ができる。あるサーカス団を追った一連のフォト・ルポルタージュは、決して暖かく幸せに満ちたサーカスの姿を微塵も感じさせてはくれない。そこにはどうしょうもない人間の愚かさ、滑稽さ、悲哀、諦観が漂っている。また、長編映画第2作『恐怖と欲望』にもピエロ(道化師)が登場する。これも窃盗という犯罪をカモフラージュするためのもので、本来の喜劇性は欠片も無い。  ピエロといえば『ロリータ』のハンバートもそうだ。ハンバートはロリータへの偏愛を利用され、キルティの手のひらで踊らされただけの哀れなピエロに過ぎない。その結末が殺人と獄死なのは当然の帰結だろう。そしてそれは『アイズ ワイド シャット』のビルとて同じ。あのクルーズの馬鹿っぽい白い歯をキラキラ見せながら笑う笑顔は手にした貸衣装屋の仮面と同じく滑稽で空々しい。  もっと解釈を広げてみてはどうだろうか。ピエロとは「悲しいまでに滑稽で哀れで矮小な存在」としたら。それは自滅のシステムを止められない政治家や軍人たちであり、18世紀に己の欲望のままに生き、そして自滅した貴族であり、悪霊の意のまま操られたジャックであり、戦争という大義なき大義に振り回されたジョーカーであり、そして宇宙という広大な秩序の前ではケシツブ同然の「人類」という存在を象徴しているように思える。  そんな「ピエロたち」の営みを冷徹に観察していたキューブリック。キューブリックにとってピエロとは人間、ひいては人類そのものだと看過していたのだとしたら、各作品の持つキューブリック作品ならではの独特の空気感はまさしくそれを表現していたのだ。  

【場所・地名】エンシャンテッド・ハンターズ・ホテル(Enchanted Hunters Hotel)

 『ロリータ』で、ハンバートがロリータとの「本懐」を遂げたホテル。「魅入られた狩人ホテル」という名称は、魅入られた狩人のようにロリータに入れ込んでいるハンバートを指していて、完全にそれを意識して命名されていますね。『ロリータ』ではこれに限らず、エロティックな暗喩が頻出しています。それは次作『博士の異常な愛情』で更にひどいことになります。

【関連作品】フランケンシュタインの逆襲(The Curse Of Frankenstein)

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 『ロリータ』でハンバートとロリータとヘイズ婦人がドライブイン・シアターで観ていた映画。フランケンシュタインは幾度か映画化されていますが、これは1957年のもので実はカラー作品だったんですね。  このフランケンシュタインの怪物(よく勘違いされるのですが、フランケンシュタインとは博士の事で、怪物は博士の創造物です)を演じているのはかの名優クリストファー・リー。『スター・ウォーズ』のドゥークー伯爵役や『ロード・オブ・ザ・リング』のサルマン役で有名ですが、それ以前はドラキュラだの、ミイラだの、フー・マンチューだの怪奇ホラー映画では欠かせない定番俳優でした。  とくれば、その相手役のフランケンシュタイン博士はピーター・カッシングですね。この人も『スター・ウォーズ』のターキン総督役が有名です。ドラキュラシリーズのヴァン・ヘルシング教授役で上記のクリストファー・リーと息の合ったコンビぶりを見せています。TV版のシャーロック・ホームズ役でも有名だそうです。

【名曲】ホ短調 三重奏曲 作品100/フランツ・シューベルト(Piano Trio in E Flat, Op.100 / Franz Schubert)

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 『バリー・リンドン』で『ヘンデルのサラバンド』</a>と同じくらい繰り返し用いられた主題曲のひとつ。フランツ・シューベルト最晩年の曲のひとつで1828年にウイーンで書かれたもの。暗く、悲壮感が漂っていますがそれもそのはずで、この時すでにシューベルトは死に至る病(腸チフスとも梅毒とも言われている)に冒されてました。  1828年といえば『バリー…』の時代設定の18世紀と時代が違ってしまいます。実はキューブリックは作中の使用楽曲全て18世紀の音楽でまかなおうとし、片っ端からレコードを聴いたそうですが、どうしても思ったような「悲劇的でロマンティック」な曲が見つけられず、仕方なく19世紀に書かれたこの曲を採用したそうです。

【言葉】STOP

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 『アイズ ワイド シャット』で謎の男がビルを伺う横に掲げられていた一時停止の標識。終始無言の男がビルに向けて「詮索はやめろ」と警告しているように見えます。そして思わずビルが手にした新聞には「生きているだけで幸運」ですからね。意味が分かって観ると面白い演出です。

【関連記事】英誌選出「映画史に残るキスシーン50」

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 英Total Film誌が、「映画史に残る最高のキスシーン50」を発表した。  第1位に選ばれたのは、フレッド・ジンネマン監督作「地上より永遠に」(1953)のバート・ランカスターとデボラ・カーによる、有名な波打ち際でのキスシーン。コメディ映画「フライングハイ」をはじめ、多くのパロディやオマージュを生んだ名シーンとして知られる。  なお、ロマンチックなキスに混じって、11位の「ゴッドファーザーPARTII」や28位の「シャイニング」など、恐ろしいキスがランクインしているのにも注目だ。  トップ30までは以下の通り。 「地上より永遠に」バート・ランカスター&デボラ・カー 「スター・ウォーズ 帝国の逆襲」ハリソン・フォード&キャリー・フィッシャー 「バック・トゥ・ザ・フューチャー」クリスピン・グローバー&リー・トンプソン 「きみに読む物語」ライアン・ゴズリング&レイチェル・マクアダムス 「スパイダーマン」トビー・マグワイア&キルステン・ダンスト 「カサブランカ」ハンフリー・ボガート&イングリッド・バーグマン 「ブロークバック・マウンテン」ヒース・レジャー&ジェイク・ギレンホール 「わんわん物語」レディ&トランプ 「タイタニック(1997)」レオナルド・ディカプリオ&ケイト・ウィンスレット 「ハリー・ポッターと死の秘宝 PART2」ルパート・グリント&エマ・ワトソン 「ゴッドファーザーPARTII」アル・パチーノ&ジョン・カザール 「ティファニーで朝食を」ジョージ・ペパード&オードリー・ヘプバーン 「フォー・ウェディング」ヒュー・グラント&アンディ・マクダウェル 「めまい」ジェームズ・スチュワート&キム・ノバク 「プリンセス・ブライド・ストーリー」ケイリー・エルウェス&ロビン・ライト 「レイダース/失われたアーク《聖櫃》」ハリソン・フォード&カレン・アレン 「風と共に去りぬ」クラーク・ゲーブル&ビビアン・リー 「素晴らしき哉、人生!」ジェームズ・スチュワート&ドナ・リード 「マルホランド・ドライブ」ローラ・エレナ・ハリング&メリッサ・ジョージ 「ゴースト ニューヨークの幻」パトリック・スウェイジ&デミ・ムーア 「アメリ」マチュー・カソビッツ&オドレイ・トトゥ 「お熱いのがお好き」トニー・カーティス&マリリン・モンロー 「E.T.」ヘンリー・トーマス&エリカ・エレニアック...

【俳優】リア・ベルダム(Lia Beldam)

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 『シャイニング』でバスルームの美女</a>を演じた。俳優ではなくモデルで、出演作も『シャイニング』のみのようだ。  スイス・チューリッヒ出身、年齢不詳。

【プロップ】人工冬眠装置(Cold Sleep)

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 『2001年宇宙の旅』に登場したこの人工冬眠(コールド・スリープ)装置ですが、SF小説では古くからあったアイデアでハインラインの『夏への扉』(1956)などが有名です。『2001年…』と同年に公開された『猿の惑星』でも登場していました。キューブリックはインタビューで人工冬眠(冷凍保存)について「現在利用できる適切な施設があれば関心を持つだろうな」とインタビューで応えています。

【考察・検証】『シャイニング』再評価の理由を探る

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 『シャイニング』の公開当時の評価は芳しいものではありませんでした。いくつかの論評を抜粋してみても  「ニコルソンの頭がおかしくなっていけばいくほど、彼はどんどん馬鹿に見えていく。シェリー・デュヴァルは原作の暖かくて感じの良い妻を、作り笑いばかりする半ば知恵遅れのヒステリーに変えてしまった」「仕事ばかりで遊ばないので、スタンリーも退屈な男になる。彼は三年以上もこの企画に閉じ込められていた。もし閉所恐怖症を表現した映画があるとすれば、この作品がそれである」「引きこもっていたことのツケが回った。観客と批評家をともども奴隷にしてしまうキューブリックの魔法は失敗してしまったようだ」 (引用:『キューブリック全書) と、暗澹たるものでした。それがいつの間にか今ではホラー映画トップ10という企画をやれば、必ず上位に入るほど評価が高まっています。では、どうして評価が一変したのでしょうか。その理由は一体なんなのでしょうか?  当時、原作をそのまま映像化すればもっと良い結果がもたらされるはず、という空気が少なからずありました。それを察知してか原作者のスティーブン・キングは、「映画版『シャイニング』について今後あれこれ言わない」との約束と引き換えにキューブリックから映像化権を取得、ご贔屓の監督と組み、映画並みの予算をかけて1997年にTVシリーズ化しました。これでキングはもとより、原作ファンの溜飲は下がると期待されていたのです。  でも、そこにあったのは「確かに原作に忠実だが、たいして面白くも恐ろしくもない凡庸なホラーフィルム」でした。その時始めてこの原作に対してキューブリックが何を加え、何を捨て去ったのか、その意図が明確になったのです。このTV版を製作していてキングは気付いたはずです「恐怖描写ではキューブリックに敵わない」と。そこでキングは恐怖描写は最低限に留め、物語の主眼を家族愛に置きました。それは決して悪い判断ではありませんでした。しかし、事前にキングが「キューブリックはホラーの何たるかを分かっていない」と豪語していたレベルには遠く及ばず、恐怖描写を楽しみにしていた原作ファンの期待を裏切る結果となったのです。  その裏切られた形になった原作ファンは手のひらを返したようにキューブリックを賞賛し始めます。しかも「キングに映像センスはない」「小説だけを書いていれば良い」などと言い出す始...

【オマージュ】レニー・クラヴィッツ/ビリーヴ(Lenny Kravitz - Believe)

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 レニクラことレニー・クラヴィッツが1999年発表した曲『ビリーヴ』のあまりにも有名なこのPV、今観てもいいセンスしていますね。全編『2001年宇宙の旅』のオマージュになっていますが、楽曲自体が浮遊感あるトリップソングですので、こうなる事は必然かも。当時はピンクフロイドっぽいなと思っていたのですが、デヴィット・ボウイっぽくもありますね。そういえばデビュー当初はボウイの前座でしたし。と、いう事は『スペース・オディティ』が着想源かも知れません。

【トリビア】オペラント条件づけ(Operant Conditioning)

 オペラント条件づけ(オペラントじょうけんづけ、operant conditioning、またはinstrumental conditioning)とは、報酬や嫌悪刺激(罰)に適応して、自発的にある行動を行うように、学習することである。行動主義心理学の基本的な理論である。 (引用: オペラント条件づけ/wikipedia )  洗脳は思考をある一定の方向に染めてしまうイメージですが、このオペラント条件付けは本来全く関連性のない思考と行動を無理矢理固定化するというイメージでしょうか。望ましい行動に対して喜ばしい刺激を与える事を「正の強化」、ルドヴィコ療法のように、望ましくない行動に対して嫌悪刺激を与える事を「正の罰」というそうです。ただ『時計じかけのオレンジ』じたいカリカチュア化された物語ですので、厳密に考えなくても良さそうです。現にどうやってその条件付けを解除したかの描写はかなりいいかげんでしたし。  このオペラント条件付けは前作『2001年宇宙の旅』にも登場しています。飢餓のため絶滅の危機に瀕していた人類の祖先である猿人を、他の種を殺戮して食料や水を得るという知恵を授けるために、モノリスは「正の強化」を猿人に施した、と言えるからです。小説版『2001年…』ではそのプロセスが詳細に描写されていました。ただキューブリックはオペラント条件付けには懐疑的で「それでは単なるティーチングマシンにしか見えない」との理由で、映画版では「モノリスに触る事によって知恵を授かる」という抽象的な表現にしたようです。

【関連記事】スタンリー・キューブリック幻の劇場映画デビュー作『恐怖と欲望』が日本公開

 『2001年宇宙の旅』『シャイニング』『時計じかけのオレンジ』など、その革新的な映像で世界中の映画ファンを熱狂させてきた巨匠、スタンリー・キューブリック(Stanley Kubrick)。一般的に彼の“劇場映画デビュー作”とされる『非情の罠』以前に製作、公開された幻の作品『恐怖と欲望』(原題:Fear And Desire)が5月3日(金)より、オーディトリウム渋谷にて公開されます(全国順次公開)。  わずかなキャスト&スタッフ、そして低予算で製作されながら、公開時は批評家などから好評価を得ていたという『恐怖と欲望』。その最大の不運は、監督自身に忌嫌われてしまったこと。“完璧主義者”として知られるキューブリックは本作を“アマチュアの仕事”と、プリントをすべて買占め封印し、幻の作品となる羽目に……。  ですが、2012年3月にニューヨークのリンカーン・センターで行なわれた特集上映では、いちプログラムとして公開され大きな話題に。2013年現在、残されたプリントはわずか一本。ニューヨーク・ロチェスターのコダック・アーカイヴに保管されています。この貴重な機会をお見逃しなく。 (引用: CD Journal:2013年3月13日 )  ・・・ついに来たか!これはDVD/BD化も視野に入れていると考えても良さそう。字幕なしでよければ観る方法はいくらでもあったのですが、我慢してきたかいがありました!公開が楽しみです!!

【関連記事】S・キューブリックの元インターンが苦労の日々を明かす

 スタンリー・キューブリックといえば、言わずとしれた世界的名監督。しかし、その強迫症的なまでに徹底した映画作りは、『Stanley Kubrick's Boxes』というドキュメンタリーまで作られたほどだ。  そんなキューブリック監督だが、『2001年宇宙の旅』が公開された1968年当時に、彼の元でインターン生として働いていたティム・ディーガンが、監督にまつわるさらなるエピソードを明かした。  「マーケティングや映画の見せ方について、あれほど強大な力でコントロールできた監督は数えるほどしかいないだろう」と語るディーガン氏。「会計係としてお金を貰いながら彼のもとで働いていた。赤字を計算して彼に伝えていたんだ」。そんな彼から見ても、キューブリックの力は絶対的なものだったという。  さらにディーガン氏は驚くべきエピソードを披露した。彼の日課は、あらゆる新聞に載るキューブリック監督の"広告の大きさを定規で測る"というものだった。監督は、スタジオが"約束した通りの大きさ"の広告がきちんと出ているかチェックしていたというのだ。大抵は約束より小さい広告が出ていたので、キューブリックは独自の調査を元にスタジオに交渉へ行き、不足分の広告を追加で出すよう迫っていたそうだ。  キューブリックの徹底的なコダワリは、映像だけでなく広告の細部にまで及んでいたようだ。 (引用: 映画ニュース:2013年3月13日 )  「苦労の日々」などと見出しで煽っておきながら、広く知られている広告の話ですが・・・。ファンなら周知の事実ですね。この程度で記事になるなら、インタビュー記事を自ら校正してまるまる削除させたとか、映画館の壁が明るすぎるからと塗り直させたとか、もっとレアなエピソードなんていくらでもあります。  キューブリックが他の監督と絶対的に違うのは、映画製作に関する資金と、それに伴う責任の全てをキューブリック自身が負っていた、という事実に他なりません。知ってか知らずかマスコミはこの事を意図的に触れませんからね。企業のトップが自社の広告の出稿状態をチェックするのに何の不思議があるんでしょう?それと同じ事です。

【関連動画】キャット・バルー(Cat Ballou)

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 ジェーン・フォンダ主演のウェスタン・コメディ『キャット・バルー』。この1965年製作のアメリカ映画を何故関連作品として紹介するかというと、『時計…』でアレックスが第九を聴きながら見る暴力的な夢で、ウェディングドレスを着た女(?)が絞首刑台から落とされるワンカットはこの映画からの流用だそうです。  キューブリックは「アレックスは映画で見たことを想像するだろう」としてこれらのシーンを採用したそうですが、ジェーン・フォンダといえば当時のセックス・シンボル。それに本作はアカデミー賞主演男優賞をリー・マーヴィンが獲得するなど大ヒットした事もあり、エロとサディスティックが同時に感じられるこのカットを採用したのかも知れません。  だからといって現在、このワンカットだけ観て『キャット・バルー』やジェーン・フォンダを連想するのは至難の業です。特に日本では本作は知名度が低いですし。でも意外に評価が高いようなので、機会があれば観てみたいと思ってます。

【ロケーション】ベイ・メドウズ競馬場(Bay Meadows Racetrack)

 『現金に体を張れ』で強盗の舞台になったサンフランシスコ郊外のサンマテオにあった競馬場。1934年11月開場した歴史ある競馬場だったが、残念ながら2008年8月廃止。現在跡地では再開発が始まっているようだ。

【名曲】バッド・バッド・シング(Baby Did a Bad Bad Thing)

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 『アイズ ワイド シャット』で採用された1995年発表のクリス・アイザックの『バッド・バッド・シング』。キューブリックがこんなブルージーな曲を採用したのに驚きましたが、オリジナルのPVを観るとなるほど、これはエロいですね。劇中でも予告編でも使用されたこの曲、撮影時にも雰囲気を盛り上げるために流されていたそうで、そういえばキッドマンがおしりを振る仕草はリズムを取っているように見えます。  ブルース、と書きましたがジャンルはロカビリーだそうです。まあロカビリーはブルースやR&Bの白人的解釈ですから間違ってはいないですが、ヘアスタイルはそういえばロカビリーですね。俳優としても有名だそうです。

【アーティスト】クリス・アイザック(Chris Isaak)

 『アイズ ワイド シャット』でクルーズとキッドマンが鏡の前で抱き合うラブシーンに使用された曲『バッド・バッド・シング』の作者でシンガー。1985年にシンガーとしてデビューし、1988年に『愛されちゃって、マフィア』で俳優としてもデビューする。他の主な出演作は『羊たちの沈黙』(1991)、『ツイン・ピークス ローラ・パーマー最期の七日間 』 (1992)、『リトル・ブッダ』(1993)、『グレイス・オブ・マイ・ハート 』(1996)、『すべてをあなたに』(1996)、『ア・ダーティ・シェイム 』 (2004)など。  発表されたアルバムは『Silvertone』(1985)、『Chris Isaak 』(1986)、『Heart Shaped World』(1989)、『Wicked Game 』(1991)、『San Francisco Days』(1993)、『Forever Blue』 (1995) 、『Baja Sessions』 (1996)、『Speak of the Devil 』(1998)、『Always Got Tonight 』(2002)、『Christmas』 (2004)、『Best of Chris Isaak 』(2006) ベスト盤、『Live in Australia』 (2008) ライヴ盤、『Mr. Lucky』 (2009)、『Live at the Fillmore』 (2010) ライヴ盤、『Beyond the Sun』 (2011)。  1956年6月26日 アメリカカリフォルニア州出身。

【考察・検証】手塚治虫、スタンリー・キューブリックをかく語りき

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同じ1928年(昭和3年)生まれの二人  キューブリックと手塚治虫、有名な『2001年宇宙の旅』における美術監督オファーの件はこちらで紹介済みですが、その手塚がキューブリックをどう評したか、手元にある「季刊映画宝庫 SF少年の夢」の座談会から抜粋してみましょう。  「『スター・ウォーズ』と『未知との遭遇』はもっと『2001年』が向こう(アメリカ)で受けていたら、ぼくはキューブリックがつくった映画じゃないかって気がする。ぼくは『スター・ウォーズ』はともかく『未知との遭遇』的なものはキューブリックが狙っていたのではないかという気がする  「つまりキューブリックもある意味では一つのカリスマというか、哲学的な思考を持っているでしょう。そういうものをずっとつきつめていくと宇宙心理みたいなものに走っていく。ただキューブリックの映画が受けなかったのは(で)、僕は(スピルバーグが)それを引き継いでかたきをとったという、そんな気がする」  「ただ『スター・ウォーズ』にしても『未知との遭遇』にしてもぼくはクラシックになる恐れがあると思う。『2001年』はクラシックにならない気がする。何か新しいとか古いを超越しているような・・・キューブリックのものは何を見てもそんな感じがする。『時計じかけのオレンジ』を見てもそうだしね」  「つまりルーカスもスピルバーグも完成されすぎているんですね〈中略〉ところがキューブリックは未知数なんですね。おそらくキューブリックは最後まで未知数の男で、受けるのか受けないのか、本当に名人なのか、素人なのかわからないという感じで、それが、ぼくはやはり未知の面白さみたいな感じだと思う」  いかがでしょうか、なかなか鋭い観察眼ですね。今から35年も前の発言とはとても思えません。合いよる魂とでも言いましょうか、手塚はキューブリックの中に自分と似たものを感じ取っていたのかもしれませんね。  ・・・と、ここまで書いておいてなんなのですが、個人的には手塚はクラークの方がより近いイメージがあります。多作家だったりとか、シニカルではありながらもやっぱりオプチミストだったりとか、その強力なエゴやプライドの持ち方とか、やたらマスコミに出て喋りまくる姿とか。ちょっとロマンチストなところも両者共通してますね。一方のキューブリックにはロマンチストの印象はないですし、マスコミ嫌いで有名、徹底して...

【プロップ】バンドエイド(BAND-AID)

 『アイズ ワイド シャット』でアリスがマリファナとジョイントペーパー(マリファナを包む紙)を隠していた缶。これみよがしに缶を表にして見せてますが、これってジョンソン&ジョンソン的には大丈夫だったんでしょうか?  このあざとさには何か意味がありそうなので、少し考察してみたのですが「BAND-AID」には一時的に傷口を塞ぐ役割から「一時しのぎ」という意味があるそうです。直後の二人の口論のシークエンスではビルはまさに「一時しのぎ」の弁解を連発しているので、その暗喩かも知れませんね。

【企画作品】ブルー・ムービー(Blue Movie)

 『博士の異常な愛情』で脚本を担当したテリー・サザーンが、キューブリックの家でハードコア・ポルノを上映したことをヒントに、「キューブリックとおぼしき天才監督が、ハリウッドの人気スターを出演させた一大ポルノムービーを作ろうとする」という脚本を書いた。しかし、内容を知ったキューブリックの妻、クリスティアーヌの猛反対により中止された。  その後サザーンは1970年にこの構想を小説として出版し、1974年、ワーナー・ブラザーズ製作、マイク・ニコルズ</a>監督、ェリー・アンドリュースの主演で検討されたが実現には至らなかった。また、デヴィッド・リーンも検討したが実現しなかった。  遺作『アイズ ワイド シャット』はポルノ映画を撮る、という目的は一部達成されたと言えるかもしれない。いかに検閲に引っかからないように性行為を映像化するかについて、この当時から検討していた筈なので、それは無駄にはならなかったようだ。

【考察・検証】『時計じかけのオレンジ』と『原子心母』

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背面のレコード棚の右上にある牛のジャケ写が『原子心母』  言わずと知れた1960年代後半から70年代前半にかけて起こったサイケデリック~プログレッシブ・ロックムーブメントを代表する名盤中の名盤、ピンクフロイドの『原子心母』。キューブリックはこのアルバムの『原子心母(組曲)』を気に入り、『時計じかけのオレンジ』のサントラとして使いたいとのオファーをフロイド側に出しましたが、その時の条件が「無制限の使用ライセンス」。つまり編集や加工を自在にさせて欲しい、というものです。当然のようにフロイド側はこれを拒絶、この話は流れてしまいます。  キューブリックにしてみれば、『2001年宇宙の旅』のリゲティ</a>でやったように音源をそのシークエンスに合わせて自在に加工したかったのでしょうが、すでにメジャー・バンドの仲間入りを果たしていたフロイド側がそれを許すはずがありません。劇中のレコード店のシークエンスでこれみよがしに『原子心母』が置いてありますが、キューブリックは他のアーティストの作品を自作品に提供してもらう際「映画内で取り上げれば良い宣伝になるから」と口説いていたそうです。このシークエンスはその名残でしょう。  キューブリックが『2001年…』の音楽監督をフロイドにオファーしたという話はマユツバだと思っていますが(フロイド側からの証言がない)、実はこの『時計…』の話と混同しているんじゃないかと思っています。ではキューブリックはどこでこの「ピンクフロイド」の名前を知ったかという事になりますが、キューブリックは自身のトップ10ムービーでミケランジェロ・アントニオーニの『夜』を第7位に挙げているのです。ここまで書けばカンの良い方ならピン!とくるはず。そう、そのアントニオーニの当時の最新作『砂丘』のサントラを手がけていたのがピンクフロイドなのです。シド・バレット時代からキューブリックがフロイドに興味を持っていた、という話より遥かにこちらの方が説得力があります。  でも今度はロジャー・ウォーターズがソロアルバム『死滅遊戯』のために『2001年…』の音源使用をキューブリックにオファーを出したりするんですよね。それをキューブリックが断る・・・なんだか最後までこの両者は噛み合なかったみたいです。

【台詞・言葉】来週の水曜日に(See you next wednesday)

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   映画監督のジョン・ランディスが好んで自作の劇中に登場させた言葉。元ネタは『2001年宇宙の旅』でプールの誕生日のビデオ通話で通話を切る際に言うセリフ。なぜランディスがこの言葉を好んだかは・・・謎です。

【ロケーション】ブレナム宮殿の庭(Blenheim Palace Garden)

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 『バリー・リンドン』でバリーと婦人が散策する庭のロケ地。ブレナム宮殿は第二次世界大戦の英雄チャーチル首相の生家で、結構メジャーな観光地。世界遺産でもあります。  場所はイングランド・オックスフォードシャー州、オックスフォード北部にあります。キューブリック邸からさほど遠くありません。キューブリックにとっては「なるべく近場でロケ」の条件にピッタリでしたね。これにはケン・アダムも胸を撫で下ろした事でしょう。

【関連動画】チルドウィックベリー・アートフェアー(Childwickbury Arts Fair)

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 イギリス・ハーフォードシャーのキューブリック邸で開催されている『チルドウィックベリー・アートフェアー』のPVがあったのでご紹介。2010年のものですが、アーティスト・インタビューの最後にはクリスティアーヌご本人も登場しています。今年は7月5日~7日開催のようです。

【場所・地名】キューブリック邸と墓所(Stanley Kubrick's House and Grave)

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現在もキューブリック邸として使用されている「チルドウィックベリー・マナー」。  本日3月7日はキューブリックの命日になる。この機会にキューブリック邸と墓所について紹介し、キューブリックの死因にまつわるくだらない噂を完全否定してみたい。  この、まるで城のようなキューブリック邸とその広大な庭を見て、まだ不審者が侵入して殺害できる余地があるとでもいうのだろうか。キューブリックは『時計じかけのオレンジ』で執拗な脅迫に晒された経験から、この邸宅に辿り着くまで様々なセキュリティが施されていて、その様子はラファエルの『アイズ ワイド オープン』でも触れられている。当然この事をご存知であろう陰謀論者に、その侵入経路と侵入手段を是非ご教授願いたいものだ。  墓所はおそらく邸宅の南西側の芝生の先にある環状の柵の中(スクロールで現れる)だろう。キューブリックのお気に入りの樹の下に愛猫、愛犬そして2009年に亡くなった次女アンヤと一緒に埋葬されているとの事だ。また、このだだっ広い芝生のどこかにトム・クルーズとニコール・キッドマンがヘリコプターで降り立ったという。  邸宅の場所はロンドン郊外のハートフォードシャーだ。現在は妻クリスティアーヌと長女カタリーナが住んでいて、この本邸宅近くの別邸「チルドウィックベリー・ハウス」で絵画教室を開いている。『チルドウィックベリー・アート・フェアー』として一般公開もしているそうだ。  ファンなら一度は訪れてみたいと思う聖地なのかもしれないが、故人の意思を尊重し、こうしでネットで参拝するだけにして、そっと静かに眠らせてあげたいと思う。

【場所・地名】アボッツ・ミード(Abbots Mead)

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キューブリックが住んでいた当時の写真。  キューブリック一家が1965年から1979年まで住んでいたロンドン郊外のエルスツリーにある邸宅の名称。現在では人手に渡っているようです。  1965年といえば『2001年宇宙の旅』のプリプロダクション中で、同年夏ごろまでニューヨークのセントラルパーク・ウェストのマンションに住んでいましたので、『2001年…』の本格制作のために渡英した際に、撮影スタジオが集中するロンドン北部のこの地を選んだのだと思います。  その後、キューブリックは1979年にその生涯を終えるセントオールバーンズのチルドウィックベリーへ引っ越すのですが、この年は『シャイニング』のポストプロダクション中のはずで、その作業が一息ついた頃(秋~冬頃)に引っ越したのでしょう。  キューブリックの三女、ヴィヴィアンが『フルメタル・ジャケット』のサントラ参加時に名乗っていた「アビゲイル・ミード(Abigail Mead)」はこれのもじり。ちなみにアビゲイル・ミードには「父の歓び」という意味もあり、キューブリックはその偶然を喜んでいたそう。

【パロディ】ズーランダー(Zoolander)

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 『2001年宇宙の旅』でパロディにされる3大シークエンスといえば「HALがデイジーを歌う」「宇宙空間に浮かぶ宇宙船とドナウ」そしてこの「猿人とモノリス」でしょうか。ファイルを取り出してと頼まれた二人がパソコン(Mac)の使い方がわからず、あちこち叩いている内に・・・というパロディ。まあ、右下にこれ見よがしに置いてある骨でオチはわかっちゃいますけどね。これを面白いと思うか否かは個人の好きずきでしょうけど、やるならもっと徹底して欲しかったかな。Macを舐めてみるとか、Macに一瞬ライトの光が当たっているとか。それに骨で殴ろうとするカットはスローモーションじゃないとね。

【関連記事】スピルバーグ監督、スタンリー・キューブリックが断念した映画をテレビミニシリーズ化!

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 映画『JAWS/ジョーズ』、『インディ・ジョーンズ』シリーズなどを手掛けてきたハリウッドの巨匠スティーヴン・スピルバーグ監督が、スタンリー・キューブリック監督が断念した映画『ナポレオン(原題) / Napoleon』のテレビミニシリーズ化を企画していることが、フランスのテレビネットワークCanal+によって明らかになった。  もともと映画『ナポレオン』は、1961年にキューブリック監督が脚本の執筆を開始し、映画『2001年宇宙の旅』の後の次回作として製作も決定して、脚本も完成していた。しかし、1970年に製作されたイタリア・旧ソ連の合作映画『ワーテルロー』が興行的に失敗。同じ題材となる『ナポレオン』の出資者が支援を諦め、製作中止となっていた。  キューブリック監督による同作のための膨大なリサーチは、ロケーション・スカウトをした際の写真や、ナポレオンの時代の背景を詳細に記されたノートなどにもおよんでいた。  スピルバーグ監督自身は今回の件について「スタンリー・キューブリック監督の脚本を基に、ナポレオンの人生を映画ではなく、テレビミニシリーズとして企画を進めている」とCanal+に語っている。  スピルバーグ監督は映画『A.I.』でもキューブリック監督の原案を基に映画化しているため、今は亡きキューブリック監督の企画を製作するのは、彼が一番適任なのかもしれない。(細木信宏/Nobuhiro Hosoki) (引用: シネマトゥデイ/2013年3月4日 )  スピルバーグでTVシリーズですか・・・。上映時間を考えれば仕方ないのかも知れませんが、できれば映画の方が良かったですね。『バリー・リンドン』より更に広大な歴史絵巻をどうTVで表現するか見物ですが、やっぱりスピルバーグ節になるんでしょう。『A.I.』でもそうでしたし。まあ、一番無難な人選ではあります。  この記事では製作なのか監督なのか兼任するのか触れていませんが、多分製作でしょうね。監督が誰になるのか楽しみです。  

【オマージュ】サーティー・セカンズ・トゥー・マーズ/ザ・キル(Thirty Seconds To Mars - The Kill (Bury Me))

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 MV全編が『シャイニング』に捧げられていて、素晴らしいオマージュとなっています。このサーティー・セカンズ・トゥー・マーズ」というバンド、詳しくは知らないのですが静と動を効果的に切り替えて叙情的にスケール大きく歌い上げる感じは、以前紹介したミューズと似ていますが、こちらはアメリカのバンドのようです。ボーカルのジャレッド・レトは俳優としても活躍していて、このバンドは兄弟・友人らと結成したとの事。こういったサウンドはルーツを辿ればレディオヘッド、更にはU2へと行き着くのですが、そちらを聴き込んでいた世代にはちょっと物足りなさもあります。でも音はカッコイイので今後の活躍に期待したいです。

【ロケーション】アワニー・ホテル(Ahwahnee Hotel)

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 『シャイニング』でオーバールック・ホテルの内装のモデルになったアメリカ・カリフォルニア州ヨセミテ公園内にある老舗ホテルであるアワニーホテル。映画はすべてセットだが、再現度が高く雰囲気はかなり似ている。「アメリカ人が一度は泊まってみたいホテル」として有名で、予約はかなり取りにくいそうだ。

【台詞・言葉】いいや、俺はスパルタカスだ(No, I'm Spartacus)

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 『ロリータ』でハンバートが屋敷でキルティを見つけ「お前がキルティか?」と詰めよるとキルティが「いいや、俺はスパルタカスだ。奴隷の解放にでも来たのか?」と答えたこの台詞、これは前作『スパルタカス』がキューブリックにとってまさに奴隷同然の扱いだった事に対する当てこすりになっています。また『スパルタカス』の代表的な台詞「私がスパルタカスだ(I'm Spartacus)」を酔っぱらって自堕落な姿をしたピーター・セラーズに言わせる事によって、この台詞がいかに嘘くさく偽善まみれであったかを皮肉っているようにも見えますね。キューブリックにとって『スパルタカス』がどういうものであったのか・・・よっぽど腹に据えかねていたんでしょう。

【トリビア】スパルタカスの磔(Crucifixion of Spartacus)

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 『スパルタカス』のラストシーン、当時史実ではスパルタカスがどのように死んだかよく分かっていなかったため「アッピア街道に磔になり、その前で自由になったヴァリニアは子供を掲げる」というけ結末が創作された。(現在はシラルス川の戦いで戦死したというのが定説になっている)ただ、あからさまにキリストの磔や受胎を思わせるようなシーンに、キューブリックは当初は磔になったスパルタカスの姿をまるまるカットしていた。それを見たカークは激怒、椅子を投げつけて周囲に怒鳴り散らしたという。  キューブリックは善悪の二元論やありきたりなヒーロー像を好まない。キューブリックはカークが怒るのを承知の上でカットしたフィルムを見せた。それはキューブリックの思い通りにならなかった本作へのせめてもの抵抗だったのかも知れない。それは次作『ロリータ』での「いいや、俺はスパルタカスだ(No, I'm Spartacus)」の台詞にも表れている。

【ブログ記事】『シャイニング』で削除された幻のエンディングの台本

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 以下は『シャイニング』が初めて1980年5月23日に公開されてから、わずか5日間だけ存在したという幻のエンディングの台本です。ただ、公開されたものと同じ最終版なのか、ここから更に変更があったものなのかは不明ですが、 シェリーの証言 との間に大きな齟齬はないようなので一応信頼して良さそうです。訳は管理人ですので誤訳はご了承ください。これについてはいずれ検証したいと思っています。また上記は現存している撮影時の写真です。 - 病院:アルマンは看護師とダニーが「ヘビとはしご(双六ゲーム)」をしている受付に行く アルマン「やあ、皆さん」 看護師「こんばんは、アルマンさん」 アルマン「元気かい、ダニー」 ダニー「大丈夫だよ」 看護師「ちょうど良くなったところです。そうよね?」 ダニー「うん」 アルマン「いいね、安心したよ。ところで今日のトランスさんの様子は?」 看護師「ええ、よくなってきています。お昼はよく食べましたし、午後には散歩もしました」 アルマン「ああ、それはよかった。会いにいっても大丈夫ですか?」 看護師「もちろんです、アルマンさん」 - アルマンは受付を後にし、警官が座るドアの前まで行く アルマン「よろしいですか?」 警官「いいですよ」 - アルマンはドアをノックする アルマン「トランスさん?」 ウェンデイ「どうぞ」 - アルマンは部屋に入る アルマン「やあ、気分はどうですか?」 ウェンデイ「だいぶ良くなりました」 アルマン「よかった。元気そうで本当によかった。そうだ、あなたに花を買ってきたんです」 ウェンデイ「ありがとう」 アルマン「ダニーには本物に見えた、全てものにものすごく順応したのでしょう。そういえばここに来る途中、エリオット警部補と話をしました。警察は調査をし、そのおかしな仕事は終わったとのことです。警部補はあなたに直接結果を伝えたいから今夜ここに来ると言ってました」 ウェンデイ「これでもう私たちは解放されますか?」 アルマン「もちろんです。ああ、あなたがホテルで見たものについてですが、警察はその場所をしらみつぶしに調査しましたが、異常だというわずかな証拠も見つけられなっかたそうです」「トランスさん、私はあなたがこれに関してどのようにお考えになっているか分かっています。でも、あなたがそうであったように、こういった事態に陥った場合、誰もがそういうものを想像...

【撮影・技術】シンメトリー(Symmetry)

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 左右対称の意。キューブリック作品の特徴の一つで、左右対称の構図が随所に現れる。セットや人物など、わざわざきっちりと左右対称に配置することにより、そのあまりにも「人為的すぎる配置や配色」でスクリーンに独特の違和感を生み出している。キューブリックは『2001年宇宙の旅』の白い部屋に現れたモノリスのシーンや、『シャイニング』のハロランがシャイニングを感知するシーンにこの構図を使い、観客に「何か得体の知れない現象が起こっている」という印象を与えたい場合に好んで使っているようだ。『フルメタル・ジャケット』でのトイレシーンは、実際の訓練所のトイレでは片側にか便器が並んでいないにも関わらず、わざわざ両側に配したのは、ここで行われた「パイルの狂気」のシークエンスに異常性を強調したかったからだと思われる。  尚、「一点透視図法」とは配置や配色の整然さや奥行き感が違うので分けて考えるべきだが、両方を合わせた使い方(『2001年…』のスターゲート出現シークエンスなど)もしている。

【スタッフ】エミリオ・ダレッサンドロ(Emilio D'Alessandro)

 キューブリックのパーソナル・アシスタントで運転手を約30年に渡って勤めた。元レーサーの運転技術を買われ娘達の学校への送迎もしていたようで、家族ではないが、ある意味家族同様にキューブリック一家と接していた人。その貢献からか『アイズ ワイド シャット』ではクルーズが新聞を買った売店のおじさん役でエキストラ出演している。  最近になって回顧録『Stanley Kubrick & Me』を上梓(現在イタリア語版のみ)そのPVは こちら で観る事ができる。邦訳は望めそうにないが、新しい情報があるかもしれないのでそれに期待したい。