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【登場人物】ヴァリニア(Varinia)

  『スパルタカス』でブリタニア出身で元家庭教師の聡明で美しい女奴隷。クラサスにしつこく言い寄られるが頑に拒み続け、スパルタカスの妻となり一子をもうける。

【俳優】ジーン・シモンズ(Jean Simmons)

  『スパルタカス』の女奴隷のヴァリニア役。『ハムレット』('48)、のオフィーリア役でヴェネツィア国際映画祭 女優賞を受賞し、ハリウッドに招かれた。主な出演作は『シーザーとクレオパトラ』('45)、『大いなる遺産』('46)、『聖衣』('53)、『エジプト人』('54)、『野郎どもと女たち』('55)、『大いなる西部』('58)、『エルマー・ガントリー/魅せられた男』('60)、『ハッピーエンド/幸せの彼方に』('69)、『ドミニク』('79)、『マイ・ディア・ボディガード』('88)、『キルトに綴る愛』('95)。意外なところでは宮崎アニメ『ハウルの動く城』('04)の英語吹き替え版でソフィアの声を担当している。  1929年1月31日イギリス・ロンドン生まれ、2010年1月22日死去、享年80歳。

【プロップ】ムーンバス(Moon Bus)

 『2001年宇宙の旅』で、クラビウス基地からモノリス発掘現場に移動する際、フロイドが乗車した月面を低く飛ぶバス。月面は低重力なので非常に理にかなった交通機関だが、小説版は地上を走るまさに「バス」として登場している。ガタゴトとクレーターを超えていく描写はとてもユーモラスだが、だがそれを(説得力のある)映像にするにはかなり大変であろうことは容易に想像できる。キューブリックがそれを「空飛ぶバス」に変更したのは予算的、時間的都合が大きかったのではないか、と推察している。

【トリビア】キューブリックと日本(Kubrick and Japan)

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  キューブリックと日本との関係を少し…。  『ロリータ』では、ロリータの部屋には「TOKYO」のポスターが、また、ホテルのシーンではキルティが支配人に「僕は柔道をやっている。彼女は黄帯(?)、僕は緑帯(??)」という台詞が、ロリータが結婚後、アパートで交わす会話には「キルティは天才よ。彼は一種の日本的な…東洋的な哲学を持っているわ」という台詞が出てくる。  『博士の異常な愛情』でも、マンドレイク少佐がリッパー将軍に「私は第二次大戦で日本軍の捕虜になって、ひどい拷問をうけた」「でも不思議なことに、彼らはあんなにも優れたカメラを作った」という台詞がある。  『2001年宇宙の旅』では国内外のあらゆる特撮SF映画を参考に観たらしいが、その中に日本の特撮映画も含まれていたらしい。(1956年公開の『宇宙人東京に現る』と言われている)また、月に向かうアリエス号の船内ではスチュワーデスが柔道の試合を観ているシーンがあり、宇宙ステーションの「音声身分証明装置」には、日本語のスイッチがある。HALに埋め込まれたレンズはニコンの「1:8 f=8mm 魚眼レンズ (1:8 f=8mm Fish-eye-NIKKOR)」だった。  『時計じかけのオレンジ』では、作家夫婦の家の庭はどういうわけか、日本庭園風になっている。(但し、これはセットではなく、実在の家をロケしたもの。単なる偶然かもしれない)  『フルメタル・ジャケット』では、カメラはニコンで、ホンダのカブも売春婦とポン引きを乗せて登場する。  遺作となった『アイズ ワイド シャット』では、少女を買春するふとどき者として揶揄の対象となっている。同じ日本人としては笑えないが、実際そうなんだから余計始末が悪い。  実現しなかったが、『A.I.』では製作準備中に、アンドロイドについて訊きたいことがあるからと、いきなり三菱の「ミスター三菱」に電話したらしい。(でも、「ミスター三菱」って誰?)   因にキューブリックは来日したことはない。当然、飛行機嫌いで出不精だからである。

【スタッフ】ハワード・サックラー(Howard Sackler)

  『恐怖と欲望』と『非情の罠』で、脚本を担当。他には『ジョーズ』('75)、『ジョーズ2』('78)などがある。  1929年12月19日生まれ、1982年10月12日死去、享年52歳。

【台詞・言葉】ハバナ葉巻(Havana Cigars)

  『博士の異常な愛情』で、ソ連大使が好む葉巻。当時の「キューバ危機」を皮肉ったこんなセリフが登場する。「ジャマイカ産の葉巻は資本主義者の臭いがしますからな」

【作品紹介】ロリータ

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Lolita(IMDb) 邦題/ロリータ 原題/Lolita 公開日/1962年6月13日(153分、モノクロ) 日本公開/1962年9月22日 製作会社/セブンアーツ、アンヤ、トランスワールド 製作/ジェームズ・B・ハリス 監督/スタンリー・キューブリック 原作/ウラジミール・ナボコフ「ロリータ」 脚本/ウラジミール・ナボコフ 撮影/オズワルド・モリス 編集/アンソニー・ハーヴェイ 音楽/ネルソン・リドル、ボブ・ハリス「ロリータのテーマ」 美術/ウィリアムス・アンドリュース、アンドリュー・ロウ 出演/ジェームズ・メイスン(ハンバート・ハンバート)、スー・リオン(ロリータ)、シェリー・ウィンタース(シャーロット・ヘイズ)、ピーター・セラーズ(キルティ)、ダイアン・デッカー(ジーン・ファーロウ)、ジェリー・ストーヴィン(ジョン・ファーロウ)、スザンヌ・ギブス(モナ・ファーロウ)ほか 配給/MGM(メトロ・ゴールドウィン・メイヤー) ●ストーリー  霧深い日、荒れ果た屋敷で男を射殺したハンバートは、こうなるまでのいきさつを思い出していた。  4年前、パリからアメリカにやってきたハンバート教授は、小説を書くために静かな夏を過ごそうとラムズデイルという田舎町で下宿を探していた。ヘイズ夫人の家を訪れたハンバートは、明らかに誘うような態度を取るヘイズ婦人に嫌気がさし他を当たろうとしたその時、夫人の娘ドロレス・ヘイズ(ロリータ)に釘付けになった。ロリータに心奪われたハンバートはこの家に下宿する事を決め、早速共同生活を始めた。一方、町に来ていた人気放送作家のキルティはダンスパーティーでヘイズ婦人と再会した。  サマーキャンプに行く事になったロリータは、ハンバートが下宿を去る頃には自分は居ない事を嘆き、離ればなれになるのが寂しいとハンバートに告げた。ますますロリータに入れ込むハンバートは、醜悪なヘイズ夫人のプロポーズを受け結婚、晴れてロリータの義父となる。ある時、ハンバートの日記帳を読んだヘイズ夫人はハンバートの本心を知り逆上、雨の中路上に飛び出し車に轢かれて死んでしまう。サマーキャンプにロリータを迎えに行ったハンバートは、母は入院したと説明し、帰りに泊ったモーテルで遂に本懐を遂げた。その後母の死を知らされたロリータは、ハンバートに自分を孤児院に送らず側に置いて欲しいと懇願する。  ...

【作品紹介】拳闘試合の日(Day of the Fight)

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Day of the Fight(IMDb) 邦題/拳闘試合の日 原題/Day of the Fight 公開日/1951年4月26日(モノクロ、16分) 日本公開/日本未公開 製作/ジェイ・ボナフィールド 監督/スタンリー・キューブリック 助監督/アレキサンダー・シンガー 脚本/ロバート・レイン 撮影/スタンリー・キューブリック 編集/ジュリアン・バーグマン、スタンリー・キューブリック 録音/スタンリー・キューブリック 音楽/ジェラルド・フリード 出演/ウォルター・カーチャ、ヴィンセント・カーチャ、ネイト・フレイシャー、ボビー・ジェイムス ナレーター/ダグラス・エドワーズ 配給/RKOラジオ ●作品概要  キューブリック初の映画作品でニュース映画。ミドル級ボクサー、ウォルターが試合当日の朝からリングに上がり、試合に勝つまでを追ったドキュメンタリ-。友人や自分の資金で製作し、 RKOに売り込んだ。 ●ストーリー  1950年4月17日拳闘試合の日、ミドル級ボクサー ウォルター・カルティエは朝6時に起床した。夜10時にはボビー・ジェームズとの試合があるのだ。双子でマネージャーでもあるヴィンスと共にカルティエは教会へ。朝食を摂り身体検査し、お気に入りのレストランで試合前最後の昼食を食べた。午後4時、カルティエは試合の準備を開始。午後8時、楽屋入りしバンテージを巻くなど試合に備える。ついに試合開始。ボビー・ジェームズと試合はカルティエがKO勝ちを収めた。今日1日の彼の仕事が終わったのだ。

【俳優】ピーター・ブル(Peter Bull)

  『博士の異常な愛情』で、ソ連大使役。他の出演作は『殺しのライセンス』('65)、『ドクター・ドリトル(1967年版)』など。   1912年3月21日イギリス・ロンドン生まれ、1984年5月20日死去、享年72歳。

【登場人物】デ・サデスキー ソ連大使((Ambassador) de Sadesky)

 『博士の異常な愛情』に登場するソ連大使。ストレンジラブ博士が立ち上がる時に思わず笑ってしまってます。

【作品紹介】博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか

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Dr.Strangelove or:How I Learned to Stop Worrying and Love the Bomb(IMDb) 邦題/博士の異常な愛情:または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか 原題/Dr.Strangelove or:How I Learned to Stop Worrying and Love the Bomb 公開日/1963年12月3日(94分、モノクロ) 日本公開/1964年10月6日 製作会社/ホーク・フィルムズ 製作/スタンリー・キューブリック 監督/スタンリー・キューブリック 原作/ピーター・ジョージ「赤い警報」 脚本/スタンリー・キューブリック、テリー・サザーン、ピーター・ジョージ 撮影/ギルバート・テイラー 編集/アンソニー・ハーヴェイ 音楽/ローリー・ジョンスン 美術/ケン・アダムス 特殊効果/ウォーリー・ヴィーナース 出演/ピーター・セラーズ(マンドレイク大佐、マフリー大統領、ストレンジラヴ博士)、ジョージ・C・スコット(タージトソン将軍)、スターリング・ヘイドン(ジャック・リッパー将軍)、スリム・ピケンズ(コング少佐)、キーナン・ウィン(グアノ大佐)、ピーター・ブル(デサデスキー駐米ソ連大使)、トレイシー・リード(スコット嬢)ほか 配給/コロムビア映画 ●ストーリー  1年以上の間、西側高官の間でソ連が最終兵器の「皆殺し装置」が完成しつつあるとの噂が広まっていた。  バープルソン空軍基地。イギリス軍の派遣将校マンドレイク大佐に基地司令官のリッパー将軍から緊急指令が発令される。それは「R作戦」といい演習ではないという。加えて隊員の私物のラジオを没収せよと指示された。ソ連への隣接空域を飛行中の50メガトンの核爆弾を積んだコング少佐のB-52にもR作戦が指示された。にわかに信じられない隊員たち、だが指令は確認された。美人秘書と情事を楽しんでいたタージドソン将軍にR作戦が発動された事を知らせる電話がかかってくる。まだ危機感は薄く、国防総省の様子を見てくると秘書に告げる将軍。バープルソン空軍基地では敵襲に備えるようリッパー将軍が指示を与えていた。ラジオを見つけたマンドレイク大佐は何気なくスイッチを入れると通常放送だと気付く。放送をリッパーに聴かせ自国に核攻撃がない事を説明し、攻撃機を呼び戻そう...

【俳優】ウィリアム・シルヴェスター(William Sylvester)

  『2001年宇宙の旅』のフロイド博士を演じた。他の出演作は『コンクリートの中の男 』(1949)、『撃滅戦車隊3,000粁(キロ) 』(1950)、『記憶喪失の男』(1954)、『怪獣ゴルゴ』(1961)、『BM15必死の潜行』(1964)、『吸血鬼シニスターの復讐』(1965)、『007は二度死ぬ』(1967)、『怪奇!魅惑の魔女』(1968)、『チャレンジャー』(1970)、『殺人者の影』(1970)、『地下室の魔物』(1973)、『破壊! 』(1974)、『有罪か無罪か』(1975)、『ヒンデンブルグ』(1975)、『天国から来たチャンピオン』(1978)など。  1922年1月31日アメリカ・カリフォルニア州オークランド出身、1995年1月25日死去、享年72歳。

【登場人物】ヘイウッド・フロイド(Dr. Heywood Floyd)

  『2001年宇宙の旅』に登場する人物の中で一番地位の高い、アメリカ宇宙飛行会議の議長。いかにも役人っぽい上から目線の言動や、HALの反乱事件の黒幕っぽく嫌な印象でしたが、続編の『2010年』ではロイ・シャイダーが演じて精悍になった上にいい人に。なんだかなあ。  演じたのはウィリアム・シルヴェスター。

【トリビア】悪夢(Nightmare)

  『非情の罠』でデイヴィが試合に負けた夜に見る悪夢は、試合から帰るバス(バスで試合に向かうシーンはある)で見た風景に観客の罵声が重なる、という理解ででいいんでしょうか。「後のスターゲートシークエンスに影響を与えた云々」はあんまり考えなくてもいいような気もしますが、実はこのシーンには裏話があります。ボクサー姿のデイヴィが、NYの街をふらついているシーンを撮影したのですが、それを見た通行人が驚いてくれなかった(いかにも他人には無頓着な都会的な反応ですね)ので、ボツになったそうです。その映像を想像しながら例の罵声と合わせれば・・・キューブリックが本来やりたかったシーンが見えてきますね。

【関連記事】「アイズ・ワイド・シャット」は駄作!キューブリックが告白!?

 「2001年宇宙の旅」「時計じかけのオレンジ」で知られる巨匠スタンリー・キューブリックが、俳優のR・リー・アーメイに自身の遺作「アイズ・ワイド・シャット」(99)を駄作と告白していたことが、米RADAR誌により明らかになった。  R・リー・アーメイは87年のキューブリック監督作「フルメタル・ジャケット」に海兵隊の教官役として俳優デビューを飾り、それ以来キューブリックとは親交があったという。アーメイは今月に全米公開となる自身の出演作「テキサス・チェーンソー/ビギニング」の取材で、キューブリックのことを聞かれ「スタンリーが、亡くなる2週間前に電話があったんだ。『アイズ・ワイド・シャット』について2時間くらい話したんだけど、彼は“今回の映画はクソだ”と言い、主演のトム・クルーズ&ニコール・キッドマン夫妻(当時)のやり方に付き合って批評家とランチをするのにもうんざりしていたようだ。彼はシャイで臆病な小心者で、本当に強い人間じゃないんだよ。だからこそ、彼はビッグスターとは映画を作りたがらなかったんだ。スターに思い通りにやらせたら、彼はコントロール出来ないからね。それで、彼の映画もダメになったと言うわけだ」と話している。  アーメイの言葉をどこまで信じていいか分からないが、トム・クルーズファンにとってはまたもや耳の痛いニュースだ。 (<引用:eiga.com/2006年10月6日)  ・・・これはさすがににわかには信じられません。トムは撮影が際限なく長引くのを不満に思い、それをやんわり批判していたはずで、その事は撮影がキューブリックペースで進んでいた事の証明になると思うのですが・・・。この記事のソース、信用できるんでしょうか?

【スタッフ】モリス・ブーゼル(Morris Bousel)

  『非情の罠』で大きくプロデューサーとしてクレジットされているが、実はキューブリックとは家族ぐるみの付き合いがあったブロンクスの薬剤師で、製作資金のほとんどの4万ドルを借りた。だが回収できたのはその半分くらいだったという。

【俳優】シェリー・ウィンタース(Shelley Winters)

 『ロリータ』でロリータの母親、シャーロット・ヘイズを演じた。遅刻魔でダンスが苦手、あげくにハンバートとのベッドシーンは恥ずかしがってしまって手に負えないとかなり大変な女優だったようだ。さしものキューブリックも「シェリーはとても扱いにくい」と愚痴る始末。  他の主な出演作は『風を起す女』(1943)、『再会』(1944)、『カバーガール』(1944)、『今宵よ永遠に』(1945)、『千一夜物語・魔法のランプ 』(1945)、『わたしのあなた』(1946)、『スージー売り出す』(1946)、『ニューオリンズ』(1947)、『二重生活』(1947)、『都会の叫び』(1948)、『赤い河』(1948)、『暗黒街の巨頭』(1949)、『ウィンチェスター銃'73』(1950)、『ダニー・ウィルソン物語』(1951)、『その男を逃すな』(1951)、『陽のあたる場所』(1951)、『重役室』(1954)、『サスカチワンの狼火 』(1954)、『マンボ』(1954)、『黄金の銃座』(1955)、『俺が犯人(ホシ)だ!』(1955)、『嵐の中の青春』(1955)、『悪徳』(1955)、『狩人の夜』(1955)、『拳銃の報酬』(1959)、『アンネの日記』(1959)、『俺の墓標は立てるな』(1960)、『明日なき十代』(1961)、『チャップマン報告(レポート)』(1962)、『禁じられた家』(1964)、『いつか見た青い空』(1965)、『偉大な生涯の物語 』(1965)、『動く標的』(1966)、『アルフィー』(1966)、『想い出よ、今晩は!』(1968)、『インディアン狩り』(1968)、『狂った青春』(1968)、『おかしなおかしなおかしな親父』(1970)、『血まみれギャングママ』(1970)、『最後のインディアン』(1970)、『無実の死』(1971)、『ヘレンに何が起こったのか?』(1971)、『誰がルーおばさんを殺したか?』(1972)、『ポセイドン・アドベンチャー』(1972)、『ダイナマイト諜報機関/クレオパトラ危機突破』(1973)、『セックス・シンボル』(1974)、『ラッキー・タッチは恋の戦略 』(1975)、『MR.ダイヤモンド』(1975)、『怒りの凶弾』(1975)、『テナント』(1976)、『グリニッチ・ビレッジの青春』(1976)、『囁...

【登場人物】バーテンダーのロイド(Lloyd the Bartender)

  『シャイニング』で、誰もいないはずのバーに、突如出現したバーテンダーの霊。あまり多くを語らず、ジャックを「トランス様」と呼ぶその折り目正しく、抑制された物腰と、酒が飲めるものだからとたんに上機嫌になるジャックの下品なやりとりが可笑しくも恐ろしい。

【登場人物】デルバート・グレイディ(Delbert Grady)

  『シャイニング』で、オーバールック・ホテルのウエイター。前管理人で双子の少女の父親の際にはチャールズ・グレイディと名乗っていた。余りの孤独に気が狂い、双子の娘と妻を斧で斬殺し、自分は猟銃で自殺、霊としてジャックの前に現れて「言う事を聞かない息子と母親には〈しつけ〉が必要ですな」と静かに語るシーンはとても恐ろしい。

【登場人物】フェイ(Fay)

 『現金に体を張れ』でジョニーの恋人。

【俳優】コリーン・グレイ(Coleen Gray)

  『現金に体を張れ』でジョニーの恋人、フェイを演じた。他の主な出演作は『死の接吻』('47)、『死の接吻』('47)、『アリゾナの決闘』('48)、『赤い河 』('48)、『アリバイなき男』('52)、『赤い谷 』('54)、『対決の一瞬』('55)、『拳銃の報酬』('56)、『地獄の拳銃』('56)、『俺に近づく』('57)、『勇者の街』('65)、『野良犬の罠』('67)。  1922年10月22日アメリカ・ネブラスカ州出身。

【セット】血のエレベーター

  『シャイニング』で、予告編にも使用された血が噴き出すエレベーター。原作では、誰もいないのに動き出すという設定だったが、それだでは映像的に面白くないと判断したのか、映画では血まみれにしてしまった。予告編でもこの映像が使用されたが、タイトルロールが通常とは逆に下から上へと流れていくのが微妙に気持ち悪い。

【俳優】シェリー・デュバル(Shelley Duvall)

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Shelley Duvall(IMDb)  『シャイニング』のウェンディ役。『メイキング…』では「この撮影で貴重な体験をし、役者として一回り大きく成長できた」と殊勝にインタビューに応えていたが、カメラを回していたのがキューブリックの娘なので、当然本音を語るはずもなく、それはシェリーにとってかなり辛い体験だったようだ。キューブリックはシェリーの「役者的演技」を排除するために徹底的に高圧的に接していて、「時間を無駄にするな」「シェリーに同情しても為にはならない」「驚く姿がわざとらしい」など言いたい放題。演技に関してはキューブリックの言う通りいかにも「演技してます」感があり、役者としては下手な方なのだが、それなら俳優を変えれば良いはず。なのにキューブリックは我慢して最後までシェリーを使い続けた。これは想像だが、ニコルソンの「強烈な狂気顔」と張り合うには、シェリーの「貧相な恐怖顔」しかなかったのかも知れない。  他の出演作は『バード・シット』(1970)、『ナッシュビル』(1975)、『ビッグ・アメリカン』(1976)、『アニー・ホール』(1977)、『ポパイ』(1980)、『バンデッドQ』(1980)、『愛しのロクサーヌ』(1987)、『マイホーム・コマンドー』(1989)、『ある貴婦人の肖像』(1996)、『タロス・ザ・マミー/呪いの封印』(1998)。  1949年7月7日テキサス州ヒューストン出身。2024年7月11日、糖尿病の合併症により睡眠中にテキサス州の自宅で死去。享年75歳。

【登場人物】ウェンディ・トランス(Wendy Torrence)

  『シャイニング』で、ジャックの妻でダニーの母親。泣いているか、驚いているか、叫んでいるか、逃げているかしか印象になく、迫り来る危機に対してただひたすら受け身ばかりでちょっとふがいない。原作/TV版ではそれなりに活躍しているのだが・・・。原作では母娘関係の不和に悩み、夫との愛憎入り交じる感情や性行為の描写など丹念に描き込まれ、TV版ではジャックに「子供はもう寝たからベッドに行きましょう」と誘うシーンがあったりするのだが、映画版では全てカット。まあ、シェリーとニコルソンのベッドシーンなんて観たくないからいいけど。TV版のレベッカ・デモーネイならともかく。衣裳がネイティヴ・アメリカン風なのは、舞台のオーバールック・ホテルがネイティヴ・アメリカンの墓地の上に建てられたという設定から。

【関連記事】トムとニコールの離婚の原因は、あの映画

 トム・クルーズと二コール・キッドマンとの離婚の真相は明らかになっていないが、かねてから噂されていたスタンリー・キューブリック監督作「アイズ・ワイド・シャット」('99)に夫婦で出演したことが原因だったという見解が、再浮上した。二コールの伝記本を手がけている映画史の専門家デビッド・トムソンは、「『アイズ・ワイド・シャット』は、2人の夫婦生活を映し出す鏡となりました。演じたキャラクターと実生活の2人が、あまりに似すぎていたのです」「二コールは、人生の師を必要としていましたが、この作品に出演したことで、自立の必要性を学び、そしてトムのように強く自己中心的になれば、彼と同様にビッグになれると確信したのです。一方で、トムが求めていたのは、美しくて賢くて従順な妻です」「少なくても、同作が離婚へのプロセスになったのはまぎれもない事実です」と分析している。 (NY在住/JUNKO) (引用:AOLエンターテイメント/2006年9月18日)  『アイズ…』で演じたキャラクターが実際の二人に似過ぎていた?いや、それはないでしょう。キューブリックは意図的に劇中のビルとアリスが、実際のトムとニコールに見えるように仕向けたにせよ、ビルとトムとではイメージが違い過ぎます。アリスとニコールもそう。ただ、長い撮影期間が二人だけの時間を増やす事になり、いかんともしがたい価値観の相違を見つけた為に離婚に至った・・・というのなら理解できますが。  キューブリックは、撮影期間中はスタッフや俳優との間に家族同然の強い絆を求めます。これは、集団芸術である映画を完全に個人の支配下に置く為にも必要なやり方です。でも、製作が終わればキューブリックはあっさりとその絆を捨て去ります。興味は次作の構想に移り、絆も家族・親族だけの最低限のものだけになります。このやり方の一番の被害者はマイケル・マクドウェルでしょう。マクドウェルはキューブリックに父性を感じ、製作後もその絆を維持しようとしました。でもキューブリックは全く相手にしませんでしたが。  今回の場合、トムとニコールが映画製作中の家族同然の強い絆の中で「いかんともしがたい価値観の相違」を見つけてしまったのであったとするならば・・・まあ、原因はキューブリックであり、『アイズ…』であったと言えなくはないでしょうけど。

【俳優】ダン(ダニー)・ロイド(Dan(Danny) Lloyd)

  『シャイニング』のダニー役。5000人余りの候補者の中から選ばれた。別に子役という訳ではなかったらしく、父親は鉄道技師だった。俳優デビューがこんなラッキーな形だったのに、その後俳優の道を歩む事もなく、出演作は『シャイニング』のみ。現在は中西部あたりで科学の先生をしているらしい。写真は大人になった彼・・・・。まあ、面影はありますね。でも、髭は似合わないんじゃないの?   1972年10月13日、イリノイ州シカゴ生まれ。

【登場人物】ダニー・トランス(Danny Torrense)

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  『シャイニング』で、ジャックとウェンディの一人息子。超自然感応能力「シャイニング」を持ち、ホテルの異常にいち早く気づく。予知能力を持つもうひとつの人格「トニー」を持っているが、映画ではあまり突っ込んで描写していない。頭は良いが繊細で病弱、という印象があるが、それは勇気を持って悪霊に立ち向かうシーンをことごとくカットしてしまったからで、キング版ではそれらを復活させ、全く印象の異なるキャラクターになっている。(原作/TV版は「ダニーの成長」というのも重要な要素)ただ、少年の美しさは特筆に値する。『アイズ…』もそうだが、キューブリックが子供に向ける視線はどれもやさしい。

【作品紹介】『時計じかけのオレンジ』

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A Clockwork Orange(IMDB) 題名/時計じかけのオレンジ 題名/A Clockwork Orange 公開日/1971年12月20日(137分、カラー、ワイド) 日本公開/1972年4月29日 製作会社/ホーク・フィルムズ 製作総指揮/マックス・L・ラーブ、サイ・リトヴィノフ 製作/スタンリー・キューブリック 監督/スタンリー・キューブリック 脚本/スタンリー・キューブリック 原作/アンソニー・バージェス『時計じかけのオレンジ』 撮影/ジョン・オルコット 編集/ビル・バドラー 音楽/ルードヴィッヒ・ヴァン・ベートーベン、エドガー・エルガー、ジョアキーノ・ロッシーニほか 電子音楽/ウォルター・カルロス 美術/ジョン・バリー 出演/マルコム・マクドウェル(アレックス)、パトリック・マギー(アレキサンダー)、ウォーレン・クラーク(ディム)、ジェームズ・マーカス(ジョージ)、アレキサンダー夫人(アドリエンヌ・コリ)、パパ(フィリップ・ストーン)、ママ(シェイラ・レイノー)、内務大臣(アンソニー・シャープ)、看守長(マイケル・ベイツ)ほか 配給/ワーナー・ブラザーズ 受賞/1971年ニューヨーク映画批評家協会賞、最優秀作品賞、最優秀監督賞受賞 ●ストーリー  アレックスをリーダーにした4人の非行少年グループは、「コロバ・ミルク・バー」で「麻薬入りミルク」を飲みながら、今夜の「ウルトラバイオレンス」を企てていた。手始めにホームレスを袋だたきにし、対立する少年グループは病院送り、盗んだスポーツカーで郊外の家「ホーム」に押し入りれば、作家を叩きのめし、その妻をレイプする…そんな暴力三昧の日々だった。だがベートーベン好きなアレックスは、そのベートーベンの歌に聞惚れているところを仲間に邪魔にされ、ちょっとした仲たがいを起こす。それをきっかけにアレックスは、仲間に裏切られ、強盗に押し入った老女を殺害した罪で、警察に捕まってしまう。  刑務所に収監されたアレックスは、聖書で暴力と性欲を慰める日々を送っていたが、やがて政府が犯罪者の更生にと開発した「ルドヴィコ療法」で治療すればすぐ出所できる事をを知り、それを自分に試して欲しいと自ら名乗り出る。だが、その治療法とはとんでもない代物だった。  アレックスは拘束具で身体の自由を奪われた上に眼球を閉じれないようにし、暴力的な映画...

【台詞・言葉】シャーリーン(Charlene)

  『フルメタル・ジャケット』で、パイルが自分のM-14ライフルに付けた名前。ハートマン軍曹によると「新兵が愛撫できる唯一のプッシー」だそうだ。原作ではパイルが狂気に陥るきっかけとなり、自殺する際にも軍曹に「僕のシャーリーンに手を出すな!」と叫ぶなど、まさしく「狂気の引き金」としての役割を負っているが、映画では、その役割がそのまま「フルメタル・ジャケット(完全被鋼弾)」に置き換わってしまったため重要度は低い。因に原作によるとジョーカーがライフルに付けた名前は「ヴァネッサ」。ヴァネッサはジョーカーのガールフレンドの名前だが、そういったプライベートなエピソードは映画ではことごとく省かれている。

【登場人物】ベトコン狙撃兵(VC Sniper)

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  『フルメタル…』で、ジョーカーの小隊を混乱させたベトコンゲリラの狙撃兵。年端もいかぬ少女に正規のアメリカ兵が振り回された事に、ある種の「皮肉」と受け取る向きもあるようだが、現在のイラクの混乱を見れば判る通り、民間人に紛れたゲリラほど厄介なものはないので、この戦闘も単なるベトナム戦争の一コマに過ぎない日常的なものだったのだろう。  尚、ボツになったシークエンスに「射殺した少女の首を切り取り、それをサッカーボールにして遊ぶ」があった、と噂されているが、この信憑性はかなり疑問。原作には少女の首を斧で切断し「胴体と離れて安らかに眠りやがれ、このクソアマ!」とアニマル・マザーが叫ぶシーンがあるが、それが大きくなって伝わっただけではないだろうか。

【パロディ】30秒でわかる『シャイニング』(The Shining in 30 seconds)

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 これでストーリーを全部説明できてしまうところがすごい。この「30秒シリーズ」は他にも『エクソシスト』、『エイリアン』、『タイタニック』とかあるけど、『シャイニング』なんかこれでめぼしいエピソードはほとんど網羅されています。ストーリー的には薄い映画だよなぁホント。 

【セット】生垣迷路(maze)

  『シャイニング』で、オーバールック・ホテルの裏側にある生垣の迷路。原作では生垣の動物が動き出して襲ってくるのだが、そんな物を映像化しても陳腐になるだけ、と描写を拒否したキューブリックが「ジャックの精神が錯乱していく暗喩にもなる」と代わりに採用した。  ジャックの狂気は生垣迷路の模型の中にウェンディとダニーの姿を見る(霊の視点がジャックの視点と同化する)事から始まり、最終的にはその迷路の中で凍死し、心身ともに霊(ホテル)と同化する事で終わる。迷路の暗喩はホテル内部もそうであり(ウェンディがホテルを案内された際「まるで迷路ね」と感想を漏らす)、カーペットの柄にもそれは反映されている。  生垣迷路を無事脱出したウェンディとダニーが、最終的にホテルからも脱出できたのは当然だし、ジャックがダニーの単純なトリックに気付かず凍死したのも当然の帰結。物語は始まった時から「仕組まれて」いて、「仕組まれた」通りに終わる。『シャイニング』とはそういう物語なのだ。

【台詞・言葉】お客さまだよ!(Here's Johnny!)

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 『シャイニング』でジャックが斧でトイレのドアをぶち破って言う一言。元ネタはアメリカの人気バラエティ番組『ザ・トゥナイト・ショー』で、司会者ジョニー・カーソン(2005年1月没)を迎える番組冒頭のナレーション。深夜番組でゲストは俳優やミュージシャンが多かったそうだから、日本で例えるならさしずめ『笑っていいとも!』の深夜版といった感じでしょうか?となると、字幕の「お客さまだよ!」はちょっとおかしい。「おコンバンワ!」でも「ジョニーだよおおおん!」でもしっくり来ない。人気司会者をコールするナレーションなので、「さあ、ジョニーのおでましだ!」とか「ジョニー登場!!」といったニュアンスになるはず。  実際のジョニー・カーソンは優しい印象の紳士なので、「ジョニーのおでましだ!」なんて言っておきながら狂ったニコルソンが不気味な微笑みをたたえて登場する、という所がこのシーンの異常性を印象づけているのでしょうけど、「Here's Johny!」と言われてジョニー・カーソンの顔が思い浮かばない日本人にとっては意味不明。しょうがないから苦肉の策で「お客さまだよ!」という訳が当てられたんでしょう。  因みにキューブリックはイギリス暮らしが長かったので、この元ネタを知らなかったそう。知っていたら採用していたかどうか・・・ちょっと微妙な所ですね。

【登場人物】クレア・キルティ(Clare Quilty)

  『ロリータ』に登場した、ロリータを裏で操る怪しげな男。放送作家という事だがその正体ははっきりしない。ハンバートは、「キルティ殺しで有罪」(Guilty of Killing Quilty)となってしまうんだけど、「キルティ」という変なネーミングは、このシャレから来ているんでしょう。キルティを演じたピーター・セラーズの妙な存在感が忘れられない。

【登場人物】シャーロット・ヘイズ(Charlotte Haze)

  『ロリータ』での、ロリータの母親。やたら大声でしゃべりまくる「不器用なアザラシ」(ハンバートの弁)。原作だと、ロリータがその下品な母親の血を強烈に受け継いでいることがちゃんと描写されていた。つまり、ハンバートは「子供版シャーロット」に恋をしていたに過ぎない・・・いうことになる。なんとも皮肉な話だ。

【作品紹介】『シャイニング』

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The Shining(IMDb) 邦題/シャイニング 原題/The Shining 公開日/1980年5月23日(142分、カラー、ワイド) 日本公開/1980年12月13日(119分の国際版) 製作会社/ワーナー・ブラザーズ 製作総指揮/ヤン・ハーラン 製作/スタンリー・キューブリック 共同製作/ロバート・フライアー、マーティン・リチャーズ、マリー・リア・ジョンスン 監督/スタンリー・キューブリック 脚本/スタンリー・キューブリック、ダイアン・ジョンスン 原作/スティーブン・キング『シャイニング』 撮影/ジョン・オルコット 編集/マーティン・ハンター 音楽/ウェンディ・カルロス、レイチェル・エルキンド 美術/レイ・ラヴジョイ 出演/ジャック・ニコルソン(ジャック・トランス)、シェリー・デュヴァル(ウエンディ・トランス)、ダニー・ロイド(ダニー・トランス)、スキャットマン・クローザス(ハロラン)、フィリップ・ストーン(デルバード・グレディ)、ジョー・ターケル(ロイド)ほか 配給/ワーナー・ブラザーズ ●ストーリー  上空から冷ややかに見つめる視線。それは雄大なコロラド・ロッキーの中を走る一台のワーゲンを追いかける。やがてその視線の先に豪華なリゾートホテル「オーバールック・ホテル」が姿を現わした。ワーゲンの主は作家兼教師のジャック・トランス。彼は冬季に閉鎖されるこのホテルの管理人の採用試験に赴いたのだ。ところがその面接で支配人から不吉な話を聞かされる。前任の管理人はあまりの孤独に気が狂い、妻と娘を惨殺し自分も猟銃自殺したというのだ。そんな話を一笑に付し無事採用されたジャックは、妻ウェンディと一人息子のダニーとともに再びオーバールックに向かう。だが、超自然感応能力〈シャイニング〉を持っていたダニーは、そのホテルに不気味な影の存在を感じていた。  ホテルに到着したトランス一家に、ホテルの料理長ハロランは不安を抱く。特に自分と同じ〈シャイニング〉を持っているダニーを心配し、「237号室には何もないから近づくな」と言い残してマイアミに帰省した。一方のジャックは、断酒中の自分にはアルコールのない、静かな環境で執筆ができると乗り気で、ウェンディはそんな家族を暖かく支えるつもりだった。  だが、そんな一家の幸せな時間は長くは続かなかった。ダニーはいきなり双子の少女の霊に遭遇、ジャ...

【登場人物】アリス・ハーフォード(Alice Harford)

  『アイズ ワイド シャット』で、医者のビル・ハーフォードの奥さん。浮気願望を告白したために、ビルを苦悩させてしまう羽目に。でも、それも予定の行動だった?役名の「アリス」は『鏡の国のアリス』からの引用と考えられるが真意は不明。ラストの一言「ファック」が強烈だ。

【登場人物】ウィリアム"ビル"・ハーフォード(William "Bill" Harford)

  『アイズ ワイド シャット』の主人公で、ニューヨークで成功した若くてハンサムな医者。前半と後半でパーティーを境に夜と昼のニューヨークを彷徨うが、結局何も起こらなかった。ハンサムなクセに少々間抜けな男の姿が、背の低いクルーズによく似合っていた。キューブリックは原作のユダヤ人らしさを払拭するために「どこにでもいる標準的なアメリカ人」を意識し、名前もハリソン・フォードに因んでこの役名にしたそうだ。

【関連書籍】スタンリー・キューブリック ドラマ&影:写真1945-1950

  時折未熟で青臭い作品も混ざってはいるが、なにせキューブリックはこの頃まだ17歳から22歳の若者、それでこのクオリティなのだ。当時関係者に「天才少年」と言われただけの事はある。撮影技術はすこし拙い部分もあるが、その後のキューブリック作品に通低している冷徹でシニカルな観察眼の原点は、すでにここで完成していると見ていいだろう。  女優や俳優の取材写真など、やらせ系の作品にはあまり感心しないが、それでも構図やアングルなど「キューブリックらしさ」を見て取れる。だが、キューブリックの心髄はやはりドキュメンタリーだろう。シカゴ・シリーズやポルトガル取材、地下鉄、動物園やサーカス、競馬場、公園に集う人々の見るキューブリックの観察眼は決して暖かくない。欲望と落胆、悲哀や悲痛、苦しみ、無常観、疑心暗鬼、不信など、キューブリックは常に人間の「負の側面」にスポットを当てている。有名な猿の檻の向こう側に痴呆的な顔をして並ぶ人間達のショットはもちろん、遊園地にあるハンマーゲームのショットは、手前の力強くハンマーを振り下ろそうとする男の力強さと、得点の柱の上部をトリミングする事による頂点への遠さの対比により、人間の飽くなき欲望の深さを象徴する印象的な作品だ。  また、その後の映画作品に登場したモチーフが見られるのも本作の特徴だろう。ボクシングの取材が『拳闘試合…』『非情…』として結実したのは周知の事実だが、それ以外でも競馬場(『現金…』)、ピエロ(『時計…』)、猿と人間(『2001年…』)、強大なサイクロトロン装置と科学者(『博士…』)、そして扉に口紅で「I HATE LOVE」と書きなぐった女性の写真はそのまま『シャイニング』の「REDRUM」となった。  優れた写真とは、その撮影者の視点なりアングルなりの切り口が優れている、という事だ。観光地などで、同じ場所に大量に発生するカメラの砲列に「優れた写真」など写りようもない。キューブリックの原点を確認したいファンにお薦めなのはもちろんだが、画になる被写体を、画になるアングルから撮って、「画になる写真ができた」と喜ぶ浅はかな自称「写真家」達に、刮目して観ていただきたい書としてお薦めしたい。

【登場人物】スキート(Squirt)

  『2001年宇宙の旅』でフロイドが宇宙ステーションからピクチャーフォンを自宅にかけた際、留守番していた娘。演じているのはキューブリックの三女ヴィヴィアン。その後ヴィヴィアンは『バリー・リンドン』、『シャイニング』、『フルメタル・ジャケント』とスクリーンに登場しているので、キューブリック作品では最多出演者(となる。

【名曲】デイジー・ベル(Bicycle Built For Two (Daisy Bell))

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  『2001年宇宙の旅』で、HALがシリコン素子を抜かれ、退行していくときに歌う歌。 歌詞は「デイジー、デイジー答えておくれ、気が狂うほど君が好き。洒落れた結婚式は望めないんだ、馬車はとても無理だから。でも君が二人乗り自転車に乗る姿は素敵に見えるだろうね」という内容。 1961年にベル研究所が始めてコンピュータに歌わせた歌がこの歌だったというエピソードからの引用された。

【音楽家】ウォルタ(ウェンディ)・カルロス(Wendy(Walter) Carlos)

  『時計じかけのオレンジ』で、ベートーヴェンの『第九』などをシンセサイザーでアレンジした、シンセ・ミュージックの第一人者。1972年になぜか性転換手術をし、名前も「ウェンディ」に改名した。『シャイニング』でもシンセの楽曲を提供しているが、以前仕事をした音楽家がいきなり女になって現れたものだから、さぞかしキューブリックもびっくりしただろう。映画では他に『トロン』(1982)、『ブランニュー・ワールド』(1998)などを手掛けている。写真はまだ男だった頃のもの。  1936年11月14日アメリカ・ロードアイランド出身。

【パロディ】シンプソンズ『ホーマー宇宙へ行く』(The Simpsons - Homer in space)

  ブラックな笑いでお馴染みのアメリカのアニメ『シンプソンズ』ですが、作品中あらゆるところでキューブリックのパロディがあるそうです。で、これもその中の一つ。シャトルの中でポテトチップスをぶちまけてしまったホーマーが、無重力の中でポテトチップスを口で集めていくというものですが、BGMはやっぱり『ドナウ』、しかもホーマーとチップスがシンクロして回転までしてしまう・・・笑えます。

【名曲】美しき青きドナウ(The Blue Danube)

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  ヨハン・シュトラウス2世のペンによる有名なワルツ曲。 『2001年宇宙の旅』で使用されたのは演奏はカラヤン&ベルリン・フィルで1966年12月録音のもの。1966年といえは丁度『2001年…』製作中ですね。キューブリックは当時最新のドナウを映画に使ったのだと思いますが、カラヤンを使ったのは、やはり淀み無く流麗に舞い踊る宇宙船や宇宙ステーションの映像に合わせるには、カラヤンのドナウしかなかったのでしょう。本来のドナウはもっとリズムがもっさりしてタメがあるのですが。そうでないと踊れないですしね。上記はその「もっさり」バージョン。『2001年…』のバージョンを聴き比べるとその違いがよく分かります。カラヤンバージョンより1分も長いですし。  キューブリックは関係者用のラッシュフィルムで、無重力のシーンにメンデルスゾーンの『真夏の夜の夢』、月面のシーンにヴォーン・ウィリアムズの『南極交響曲』を使っていたそう。これはこれですごく観てみたい。

【関連記事】数学的計算による世界最高のホラー映画は「シャイニング」

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 この度英ロンドン王立大学の研究チームが行った研究によると、世界最高のホラー映画は「シャイニング」(スタンリー・キューブリック監督、ジャック・ニコルソン主演)であることが明らかになったとのこと。今回の研究で、研究者らは一体何故、人は「サイコ」や「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」といった映画に対して恐怖を抱くのかを研究し、ホラー映画の恐怖度を決定づける数学的公式を開発したという。研究者らが開発した公式には、それぞれホラー映画の重要な要素である緊張感、リアリズム、血、そして衝撃度などが計算され、いかなるホラー映画が最も恐ろしいかを導きだしたとしている。  また研究者らは今回の研究に当たって、凡そ2週間をかけて「エクソシスト」、「テキサス・チェーンソー」、「羊達の沈黙」といったホラー映画を鑑賞し、公式を開発したという。そして結果、ホラー映画の重要要素は緊張感、リアリズム、血であるという結論に達したとしている。 公式には、それら基本の三要素に加えて、緊張感を高める音楽、現実と虚構のバランス、そしてどれくらいの血や内臓が含まれているかも考慮された。  また更に、研究者らによれば、映画が真に恐怖であるためには、リアリズムが重要であり、そのため、映画がどの程度現実からかけ離れているか、または現実に起こりえることか、そのバランスも重要なポイントであるとしている。  また登場人物は少ない方がより観衆の共感を得られること、さらに映像全体の雰囲気も考慮され、例えばシャイニングにおける「冬の間閉鎖された巨大なホテルにいる家族」という非常に孤立した舞台設定、または「サイコ」におけるシャワーシーンなどは最も優れた例であるとしている。  また映画に出る血糊の量が加算された上で、ステレオタイプ度が差し引きされているが、例えばジョーズにおける血の量は最も適切な値であるとしている。「スティーブン・スピルバーグのジョーズにおける血の量は完璧ですね。我々を怯えさせるが、嫌悪まではさせない、最適値です。」研究者は語った。 そして編み出された公式は以下のようなものである。  (es+u+cs+t) squared +s+ (tl+f)/2 + (a+dr+fs)/n + sin x - 1. < es = 緊張感を高める音楽 , u = 未知要素 , cs = 主人公らが追われるシーン ,t = 罠にハ...

【登場人物】ヴィンセント・ラパロ

  『非情の罠』で、マフィアのボスでグロリアの愛人。典型的な悪漢キャラクターだが、この映画で一番いい味出しているのも彼。主役は朴訥すぎるわ、ヒロインは薄っぺらいわで、必然的にラパロに注目が集まってしまった感はあるが、素人だらけのこの映画で、まともに「俳優」と呼べるのは彼だけだったので、それも仕方ないだろう。フランク・シルヴェラ。

【俳優】フランク・シルヴェラ(Frank Silvera)

  『恐怖と欲望』で兵士のマックを、『非情の罠』でマフィアのボスのラパロを演じた。他の出演作は『四人の恐迫者』('60)、『戦略爆破部隊』('60)、『新・荒野の七人/馬上の決闘 』('69)、『追撃のバラード』('70)など。  1914年7月24日旧英国領ジャマイカ・キングストン出身、1970年6月11日死去、享年55歳。

【パロディ】A Space Ipodyssey

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  iPod nanoの黒を見た時に、モノリスを思い浮かべた人は多いはず。でも、そんな事に飽き足らず、こんなパロディ動画を作ったツワモノが現れました。著作権的には真っ黒な動画ですがデキはけっこう良いです。  ところで、iPod nanoの縦横の比率って4cm:9cmなんですよね。残念ながら厚みは1cmではありませんが。iPod nanoの造形的な美しさは、この「モノリス比率」に近いためかもしれません。

【家族】ドミニク・ハーラン(Dominic Harlan)

  『アイズ ワイド シャット』のサントラで、ジョルジ・リゲティ作曲『ムシカ・リセルタカII』、を演奏したピアニスト。キューブリックの義弟、ヤン・ハーランの息子。身内を使いたがるキューブリックに引っ張り出されたのか、それとも自分自身が積極的に売り込んだのか、映画に関係したのは今のところこの一曲のみのよう。時折、『ムシカ・リセルタカII』をドミニクの作品かのように評したものを見かけますが、ドミニクは演奏しただけです。サントラにはもっと明解にクレジットすべきでしょう。

【場所・地名】蟻塚(Ant Hill)

  『突撃』で、ドイツ軍が強固に守る戦略拠点。この「蟻塚攻略作戦」で、フランス兵を演じているのは敵であるはずのドイツの警官だった。キューブリックが撮影の際、「フランス軍のように振る舞って欲しい」と言って、笑われてしまったそうだ。この「進軍する兵隊と平行移動するドリーショット」は、後の『フルメタル・ジャケット』のラストシーンでも使われている。このシーンはロケで撮影されたが、ロケ地はドイツ・ミュンヘン郊外のダッハウ。

【登場人物】ドイツ人少女(German Girl Singer)

  『突撃』のラストシーンで登場する、敵に捕まったドイツの少女。酒場でフランス兵の前で無理矢理歌を歌わされるが、その歌声に心揺さぶられ、次第にフランス兵達が涙ぐんでくる一連のシークエンスは強く印象に残る。演じているのは急遽現地ドイツでキャスティングされたスザンネ・クリスチャン。後にキューブリックの三番目の妻となった。だた、この時すでに24~5歳、しかもバツいちの子持ちだったわけで、「少女」というには若干無理があるのも事実。因に歌っていた歌は『忠実な兵士』。

【登場人物】スパルタカス(Spartacus)

  『スパルタカス』の主人公で反乱奴隷軍のリーダー。「スパルタカスの反乱」は史実であり、紀元前73~71年頃の出来事で、おおまかには映画もそれに拠っている。ただ、スパルタカスの最後がどうなったかは謎のままなので、映画では「アッピア街道に磔されるが、未来を息子に託す」というラストシーンが創作された。また、演じたカーク・ダグラスのイメージと相まって、「清廉潔白で正義感の強い英雄」として描かれているが、この時代の事、イタリア各所で暴動・略奪なども行っている。

【登場人物】ダックス大佐(Col. Dax)

  『突撃』で、理不尽な上層部の命令に断固とした態度をとり続ける第701連隊長。民間では弁護士だった。一般に『突撃』は反戦映画と言われるが、ダックスは理不尽な命令に反対しただけで、戦争そのものは否定していない。むしろ臆病風に吹かれて塹壕を出ようとしない小隊を鼓舞している。まあ、ちょっとでも軍部批判をすればすぐ反戦と結びつける風潮はどこにでもあるもので、キューブリックも「反戦映画」と言われる事に対して異を唱えている。

【関連記事】新ボンド「007」のスタジオで火災 屋根やけ落ちる

  英国のスパイ映画「007」の最新作「カジノ・ロワイヤル」が撮影されたロンドン郊外のセットで30日、火災が発生、建物から煙が噴き上げ、屋根が黒こげになって焼け落ちた。消防車8台が出動、近くの道路が一時封鎖される騒ぎになったが、けが人などはなかった。  バッキンガムシャー州消防隊によると、火災が発生したのはロンドン西郊のパインウッド撮影所。イタリアのベネチアを模した舞台がつくられ、「007」最新作の一部がここで撮影された。   「カジノ・ロワイヤル」は昨年、新ジェームズ・ボンド役に選ばれたばかりの俳優ダニエル・クレイグ初の主演作で、今秋に封切られる予定だ。 (引用:asahi.com/2006年7月31日)  パインウッド撮影所といえば、『アイズ ワイド シャット』で、敷地内にニューヨークのセットを建てた所ですね。スタジオの火事はキューブリックも『シャイニング』で経験していて、セットの再建に250万ドルの費用、スケジュールの大幅な遅れなど、大変な損害を被っています。幸いこの火事でけが人は出ませんでしたが、キューブリックがスタジオで必要のないときまでヘルメットをかぶっていたのは、あながち大袈裟な事じゃないのかも知れません。映画製作にはこういった危険はつきものなんでしょう。

【パロディ】オペレーション・ルーン(Operation Lune)

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 「1969年の月面着陸はNASAがキューブリックに撮らせたヤラセだった!」という世紀のスクープをフランスのTV局が製作した衝撃のドキュメント。なんと言っても登場する面子がすごい。キューブリック関係者だと妻のクリスティアーヌ、義弟のヤン・ハーラン、政府側ではキッシンジャーにラムズフェルド、ローレンス・イーグルバーガーに、NASAでは宇宙飛行士のジェフリー・ホフマンや月面に降り立った当事者であるバズ・オルドリンまで、リアリティーありありですね・・・ってこれは2003年のエイプリールフールにオンエアされたジョーク番組。最後には月面の映像にキューブリックの写真が映っていた、なんてオチまで用意するなど徹底しています。  キューブリックが生きていたら、絶対実現しなかっただろうこの企画、日本ではダイジェスト版が2003年12月31日放送の「ビートたけしの世界はこうしてダマされた!?」でオンエアされたようですが、TVはあまり見ない方なので残念ながら未見です。フルバージョンでは50分ほどあるようなので、なんとかフルで観てみたい!というのも、番組では関係者として「ジャック・トランス」、「デビット・ボーマン」、「ディミトリ・マフリー」なる人物が出てくるのです。もちろんこれら全部キューブリック作品の登場人物ですね。スタッフ、遊んでます。  このアポロ月面着陸、真顔で信じていないフリをしたり、陰謀説を唱える事で売名行為に走る人も多いせいか、真剣に「捏造」と信じている人も少なくないようです。こういうジョークは分かって楽しむものです。でないと、 こんなムービー も楽しめませんよ。 追記:番組全編の動画がYouTubeにアップされていました(上記)。一応ネタばらしまでしているのですが、恣意的に編集すればいくらでも陰謀論のソースとして悪用できそうです。それにしてもやっかいなものを作ってしまったものです。出演したクリスティアーヌとヤン・ハーランは間違いなく本人ですから、いくらでもその陰謀論の証言者に仕立て上げられてしまえる訳ですからね。 ※『オペレーション・ルーン』を編集し、「ビートたけしの世界はこうしてダマされた!?」でオンエアされたバージョン。尚番組では最後にネタばらししているが、この動画では恣意的にその部分はカットしている。

【プロップ】アリエス1B宇宙船(Aries 1-B)

  『2001年宇宙の旅』に出てくる、 地球軌道上の宇宙ステーションと月面基地を結ぶ月着陸船。よく言われている事だけど、何度観ても月面への着陸シーンはよくできている。アポロが実際に月に人間を運んだのは、公開から一年以上経ってからの話だ。

【台詞・言葉】All work and no play makes Jack a dull boy.(仕事ばかりで遊ばない、ジャックは今に気が狂う)

  『シャイニング』で、ジャックが繰り返しタイプする文句。原稿用紙自体アートしているのが更に薄気味悪い。元々は「勉強ばかりさせて遊ばせないと子供はだめになる」ということわざで、「Work」とは勉強を指し、「Jack」は一般的な子供の名前としての意味だが、この場合、「Work」とは原稿執筆、「Play」とはお酒、「Jack」はもちろんジャック・トランス自身を指し、「原稿ばっかり書かせて酒を飲ませてくれないから、俺は気が狂ってしまいそうだ!」という意味になる。また、この一文は紋切型のホラーしか創れない他のホラー作家に対しての皮肉にもなっている。

【関連記事】火星目指すスペースシャトル後継宇宙船、「オリオン」に命名

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 米航空宇宙局(NASA)は8月22日、新たに計画されている有人宇宙船の名称をオリオン(Orion)と命名した。  オリオンは新世代の探査船で、クルーを載せた月旅行、後には火星探査での仕様が予定されている。NASAが有人宇宙探査に用いる主要宇宙船として、スペースシャトルの後を継ぐことになっており、NASAのConstellation Programで開発されている。  宇宙飛行士が搭乗した最初のミッションとして、ISS(国際宇宙ステーション)への飛行が2014年までに予定されており、2020年までにオリオンを使った月への探査計画が予定されている。  オリオンという名前は、最も明るく、人気があり、見つけやすい星座からつけられた。「オリオン座は新世界を探索するための目印として、数世紀にわたって使われてきた」とプロジェクトマネジャーのスキップ・ハットフィールド氏は説明している  NASAのConstellation Programは2006年6月、アレス(Ares)というロケットの打ち上げに関する発表を行った。オリオンを打ち上げるためロケットはAres Iと呼ばれ、さらに重量のある宇宙船/衛星を打ち上げるためのロケットとしてAres Vが計画されている。  オリオンは最大6人までの乗組員をISSに送り、地球に帰還させる能力を持つ。月へのミッションでは最大4人が乗船可能で、火星へも複数の乗組員の搭乗が可能になる予定。  重量は約25トン。アポロ宇宙船の2.5倍の居住空間を持つ。デザインは過去の宇宙船を踏襲したものだが、コンピュータ、電子技術、ライフサポート、推進力、耐熱性においては最新技術が導入されており、スペースシャトル「コロンビア」事故で問題となった大気圏再突入時の問題は、安全な円すい形デザインにすることで対策が取られているとNASAは説明している。 (引用: ITmedia News/2006年8月23日 )  スペースシャトルを「ディスカバリー」と名付けたNASAが、今度は有人宇宙船を「オリオン」と名付けましたか。『2001年宇宙の旅』ではスペースシャトルが「オリオン」で有人宇宙船が<「ディスカバリー」だったので丁度逆になりましたね。まあ、直接『2001年…』から引用した訳ではないので、ただの偶然なんでしょうけど、クラーク先生は多分大喜びでしょうね。

【関連書籍】キューブリックの世界と2001年宇宙の旅/横山 正 訳

  1978年のリバイバルに合わせて配給元の東宝が出版したグラビア誌。『2001年宇宙の旅』だけでなく、『恐怖と欲望』から『バリー・リンドン』まで、さらっとだが触れられている。写真も荒く情報も少ないので今となっては価値はないが、当時はこれと小説版『2001年…』(旧版)ぐらいしか情報源がなかった。その意味でも個人的には思い入れは強い。

【オマージュ】『スター・ウォーズ エピソードI ファントム・メナス』

  ジョージ・ルーカスが『2001年宇宙の旅』に影響を受けているのは明白なんだけど、直接的にオマージュしているのは、この『ファントム・メナス』のジャンク屋のシーンだけでは?スペース・ポッドがなにげに置いてあります。まあ、このエピソードのメインが「ポッド」レースなのだから、さもありなん、という所でしょうか?  この『スター・ウォーズ』シリーズ(サーガ)の1作目(エピソード4)の大ヒットがSF映画ブームを呼び、『2001年…』のリバイバル、そして続編『2010年』の製作&公開・・・という流れになったので、あんまりルーカスを悪くは言いたくないのですが、制作者としてはともかく、監督としてはあまりね・・・なんか、軽いんですよ、作りが。お話も、映像も、編集も。全てが薄っぺらいというか。個人的にルーカス監督の最高傑作はデビュー作の『THX1138』だと思うのですが、これも見方によっては「薄い」映画ですからねぇ。  まあ、『スター・ウォーズ』も完結した事だし、もう監督は止めにしてプロデュース業に専念してもらいたいものです。くれぐれも・・・新作『インディ・ジョーンズ』の監督はやらないでください、お願いします。

【登場人物】ジョニー・クレイ(Johnny Clay)

  『現金に体を張れ』の主人公で、競馬場襲撃計画の首謀者。緻密な計算で計画を主導するが、些細なほころびからやがて破綻する。寡黙でクールでやたらカッコ良く、ラストもじたばたせず潔いキャラクターだが、後に同じ役者が『博士の異常な愛情』で強烈な人格破綻者を演じてそのギャップに驚く。

【俳優】スターリング・ヘイドン(Sterling Hayden)

  『現金に体を張れ』では主人公のジョニー役を演じているが、何と言っても印象的なのは、『博士の異常な愛情』でのリッパー将軍役。笑わせてくれます。他には『アスファルト・ジャングル』('50)、『第七機動部隊』('52)、『カンサス大平原』('53)、『三人の狙撃者』('54)、『アラモの砦』('55)、『西部の裏切者』('57)、『殺人美学』('69)、『ゴッドファーザー』('72)、『9時から5時まで』('80)など。  1916年3月26日アメリカ・ニュージャージー州生まれ、1986年5月23日死去、享年70歳。

【登場人物】グロリア・プライス(Gloria Price)

  『非情の罠』のヒロインで、場末のダンスホールのダンサー。そのダンスホールのオーナーでマフィアのボス、ラパロの愛人。ボクサーのデイヴィに恋をするが、その心理描写が明確でなく、演技もあまり上手くないので印象はイマイチ。決して美人でもないし。結局この映画で一番印象に残るキャラが悪役のラパロなわけで、この頃からキューブリックは悪役を描く方が上手い、って事なんでしょう。

【俳優】アイリーン・ケーン(Irene Kane)

 『非情の罠』のヒロイン、グロリア役。ケーンは高校卒業後、映画雑誌『モダンスクリーン』でモデルをしていた際にカメラマンのバート・スターンに見いだされ、ファッション雑誌の『ヴォーグ』のモデルになり、そのバート・スターンによってキューブリックに紹介され、『非情…』に出演した。  その『非情…』では、キューブリックが当人に内緒で監禁脱出後にデイビィとグロリアのラヴシーンをセットしていたが、ケーンの激しい抵抗に合いあえなく断念。また、アフレコではキューブリックの不慣れもあって厳しい待遇に途中降板、結局声はラジオ女優のペギー・ロッビンが担当した。  1962年6月3日にテレビプロデューサーのマイケル・チェイス(ピューリツァー獲得の脚本家メアリー・チェイスの息子)と結婚し、クリス・チェイスの名前で売れっ子のコラムニスト・伝記作家・ジャーナリストとして活躍、女優のロザリンド・ラッセル、コメディアンのアラン・キング、フォード大統領妻のベティ・フォードの自叙伝を共同執筆した。写真は1977年のクリス・チェイスことアイリーン・ケーン。  他の出演作は『オール・ザット・ジャズ』('79)など。1924年1月12日ニューヨーク生まれ。本名はアイリーン・グリーンガード。実弟はノーベル賞受賞者であるポール・グリーンガード。  1924年1月12日ニューヨーク出身、2013年10月31日膵臓がんで死去。享年90歳。

【パロディ】『アルマゲドン』

 まあ、監督がマイケル・ベイですし、主演がブルース・ウイルス、ベン・アフレックとくれば、まあこんなものかと。2時間のエアロスミスPVとして観ればそこそこ楽しめるのでは?タイラー親子の競演もあることですし。すでにDVDも叩き売り状態のこの映画ですが、キューブリックファンの見所としては唯一ブシューミが核爆弾に跨がって「博士の異常な愛情ごっこ」とふざける所だけ。前作の『ザ・ロック』は地味にパロってましたからねぇ・・・。『博士…』が大好きなのはよく分かったんで、今後はもっとまともな作品をお願いしたいものです。 

【関連記事】オランダ人デザイナー、空中に浮くベッドを製作

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  オランダの建築家、Janjaap Ruijssenaarsさんは磁気力で空中に浮かぶベッドを製作した。販売価格は120万ユーロ(約1億7700万円)。  完成まで6年かかったというこのベッドは、床とベッドにそれぞれ内蔵された磁石の反発によって浮遊する仕組みで、細いスチールケーブルでつなぎとめる。ダイニングテーブルや台座としても使用できるという。  Ruijssenaarsさんは「すべての建築物は重力の影響を受けている。重力以外の力がイメージを支配する物体や建築物、家具が作れるかどうか試したかった」と語った。  1968年に公開されたスタンリー・キューブリック監督のSF映画「2001年宇宙の旅」に登場する謎の物体「モノリス」からインスピレーションを受けたという。 (ロイター/2006年8月5日)  完成予想図(?)を見た限りでは、とても実用になるとは思えませんが・・・。これにマットレスと枕と掛け布団だとサマになんないでしょうね。それにこれだけ大きな磁場って身体に悪そうだし。約1億8千万円也・・・面白いけど誰も買わないでしょうね。

【俳優】ダグラス・レイン(Douglas Rain)

 『2001年宇宙の旅』のディスカバリー号に搭載されたコンピュータ、HAL9000の声。 元々ナレーターとしてキューブリックに雇われたが、ナレーションは入れないことにしたため、急遽HALの声に抜擢された。キューブリックは「今度レインに台詞のない役で出演してもらおう、そうすれば辻褄が合う」なんて言ってるが、監督はキューブリックではないものの、結局『2010年』('84)でもHALの声を担当させられた。他の出演作は『スリーパー』('73)など。  1928年3月13日、カナダ・マニトバ州生まれ。

【考察・検証】キューブリックが選ぶ映画ベスト10

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Stanley Kubrick(IMDb) 『青春群像』(1953年/監督:フェデリコ・フェリーニ) 『野いちご』(1957年/監督:イングマール・ベルイマン) 『市民ケーン』(1941年/監督・主演:オーソン・ウェルズ) 『黄金』(1948年/監督:ジョン・ヒューストン /主演:ハンフリー・ボガード) 『街の灯』(1931年/監督・主演:チャールズ・チャップリン) 『ヘンリー五世』(1945年/監督・主演:ローレンス・オリヴィエ) 『夜』(1961年/監督:ミケランジェロ・アントニオーニ) 『バンク・ディック』(1940年/監督:エドワード・クライン) 『ロキシー・ハート』(1942年/監督:ウィリアム・ウェルマン) 『地獄の天使』(1931年/監督:ハワード・ヒューズ)  キューブリックが1963年にアメリカの映画雑誌「シネマ」誌上で公表したベスト10。以降、この手のランキングは発表されていないので非常に貴重な証言と言える。その時代のものから過去の名作、フェリーニやチャップリン、アントニオーニなどの巨匠まで、ジャンルも多岐に渡り、バランス良く選択さえれいる。  1963年といえば、『博士の異常な愛情』の製作中か公開中の頃なので、それを踏まえて判断しなければならないが、各作品については追々論評していきたい。

【トリビア】パイ投げ合戦(Pie Fight)

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 『博士の異常な愛情』で、ストレンジラブ博士が「総統!私は歩けます!」からヴェラ・リンの曲が始まるまでの間にあったパイ投げ合戦のシークエンスのこと。2週間もかけて撮影したのに「これは笑劇(ファース)であって風刺(サタイア)ではない」とまるまるカットしてしまった。タージドソン将軍を演じたジョージ・C・スコットによると「ケネディ暗殺で全てが変更になった」そうだ。まあこの判断は正しかったかと思う。これを残してたら今の高評価があったかどうか・・・。

【パロディ】モノリス大明神

  2001年に幕張メッセで行われた第40回SF大会では、その開催年にちなんで、ちゃんと3辺の比率が1:4:9のモノリスが飾られたのですが、なんでもかんでもありがたがる日本人のいい意味での「無宗教感覚」と、SFファンによる「悪ノリ」によって、いつしか「モノリス大明神」と呼ばれるようになり、名刺を絵馬代わりにお供えするわ、お神酒や注連縄が据え付けられるは、お賽銭を投げ込むわ、柏手を打ってお参りするわ、会場で配っていた銀色の風船を周りに浮かべるわで、いつの間にやらこんな姿になってしまいました(笑)。 ただ、主催者によると「触ってはダメ」だったそうで、その理由も進化するから・・・ではなく、手が黒く汚れるからだそうです。

【関連書籍】スタンリー・キューブリック全作品/ポール・ダンカン 著

TASCHEN スタンリー キューブリック 全作品 ポール・ダンカン(Amazon)  ポール・ダンカンによるキューブリック全作品解説書。グラビアが豊富で解説もダイジェストなので、分厚い「全書」や「評伝」に尻込みしがちな初心者向きだろう。手っ取り早くキューブリックを知るには適切な書だ。『突撃』『スパルタカス』『博士…』などのモノクロ時代の撮影現場を写したカラースチールは貴重。ただ、巻末のフィルモグラフィをもっと充実させるなど、もう少し資料性が高ければ良かったのだが・・・。

【台詞・言葉】平和こそ我等の職務(Peace is Our Profession)

  『博士の異常な愛情』で、パーブルソン基地に掲げられている標語。この看板の前で、「味方同士」による激しい戦闘が繰り広げられる。ロケ地は『博士…』を撮影していたシェパートンスタジオの外観が使用された。

【登場人物】コング少佐(Maj. T.J. 'King' Kong)

  『博士の異常な愛情』で、核爆弾でロデオするB-52の機長。名前の由来はもちろん「キング・コング」から。緊急キットの点検の際の台詞、「これだけあればヴェガスでたっぷり遊べるぞ!」は、本来「ダラス」だったが、公開直前にダラスでケネディ大統領が暗殺されたため急遽「ヴェガス」に変更になった。  あちこちでパロディにされた「爆弾に跨がってロデオ」の元ネタで有名なこの役は、本来ピーターセラーズが4人目として演じるはずだった。だが、テキサス訛り丸出しのこの役をセラーズが気に入らず、怪我を理由に降板したのだが、ピケンズの素晴らしい演技を見た後、演じなかった事を後悔したという。

【俳優】スリム・ピケンズ(Slim Pickens)

  『博士の異常な愛情』で、核爆弾でロデオする B-52機長を演じた。他の出演作は、キューブリックが脚本作りで途中まで協力した『片目のジャック』('60)、『ゲッタウェイ』('72)、『1941』('79)、 『ハウリング』('81)などがある。  1919年6月29日アメリカ・カリフォルニア州生まれ、 1983年12月8日死去、享年64歳。

【登場人物】警官トム(Det. Const. Tom)

  『時計…』でアレックスをぶん殴る警官。実はここの暴力シーンが一番本気っぽく見えます。なのでちょっとアレックスが可哀想に見えてしまう弊害が・・・。腕っぷしも太いですしね。

【俳優】スティーブン・バーコフ(Steven Berkoff)

  『時計じかけのオレンジ』の警官と、『バリー・リンドン』のラッド卿役。主な出演作は『アウトランド』('81)、『007/オクトバシー』('83)、『ビバリーヒルズ・コップ』('84)、『ランボー/怒りの脱出』('85)、『プリンス/アンダー・ザ・チェリームーン』('86)、『ビギナーズ』('86)、『バロン』('89)、『フェア・ゲーム』('95)、『トリコロールに燃えて』('04)など。  1937年8月3日イギリス・ロンドン出身。

【関連書籍】メイキング・オブ・2001年宇宙の旅/ジェローム・アジェル 著

  1970年に出版され、『2001年…』の貴重な資料、証言集として名著の名を欲しいままにしていた『THE MAKING OF KUBRICK 2001』が、38年(!)の時を経て、やっと邦訳されたのが本書だ。「全訳ではない」とか、「時期が遅すぎる」との批判はあるが、当時の資料、図版、写真、証言、論評はやはり貴重で、名著であるのは今も変わりない。

【登場人物】シェヴァリエ・デ・バリバリー(Chevalier de Balibari)

  『バリー・リンドン』に登場するイカサマポーカーの賭博師。バリーと共謀して大金を稼ぎだす。演じたのは『時計じかけのオレンジ』で小説家のアレキサンダー氏を演じたパトリック・マギー。この頃からキューブリックはオーディションのプロセスを嫌うようになったらしく、過去の出演者の中から再びキャスティングするという方法を取り始めた。特に『バリー・リンドン』と『シャイニング』にその傾向が顕著だ。

【登場人物】アレックス(Alex)

  『時計じかけのオレンジ』の主人公で語り部。本名は、アレキサンダー・デ・ラージ。刑務所内では「655321」と呼ばれていた。原作では15歳の設定だが、映画化する際に検閲の事も考えて、もう少し年上(恐らく18歳程度)に設定。 全編ナッドサット(ティーンエイジャー) 言葉でしゃべっているが、これは、ロシア語と古いジプシーの言葉が混ざったものと説明されていて、一例を挙げてみると「ドルーグ(仲間)」、「ミリセント(警察)」、「デボチカ(女)」、「マルチック(男)」、「ベック(野郎)」、「スロボ(言葉)」、「カッター(お金)」、「トルチック(殴る)」、「ブリトバ(カミソリ)」、「ノズ(ナイフ)」、「ヤーブル(睾丸)」など。また性行為は、「インアウト」なんて言っている。このキャラの魅力がすなわちこの映画の魅力と考えてさしつかえなく、アレックスに共感するか嫌悪するかで好悪が別れるきらいがある。尤も、この作品の本質はもっと深い所にあるのだが、生理的嫌悪だけで思考に蓋をする人間には何を言っても無駄だろう。

【オマージュ】ミューズ/ブリス(Muse - Bliss)

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 以前紹介したイギリスのロックバンド「ミューズ」ですが、セカンドアルバム『オリジン・オブ・シンメトリー』からのこの曲では、地味にこんなところでオマージュしてたんですねぇ。こういうさりげなさって好きです。『Time is~』は露骨すぎましたんで。これからどんなオマージュを仕込んでくるか、彼らのプロモはチェックの必要がありそうです。

【小説家】ウラジーミル・ナボコフ(Vladimir Nabokov)

  『ロリータ』の原作者。ロシアのサンクト・ペテルスブルグ出身で、フランス、ドイツ、アメリカと各国を転々とする。『ロリータ』は、1954年に脱稿し、アメリカの4つの出版社に持ち込んだが、 内容が内容だけに、見事に出版を断られている。 翌55年になって、 パリのオリンピア・プレスによってやっと出版され、ベストセラーとなった。  『ロリータ』の映画化権をキューブリックが獲得した際、ナボコフは脚本のオファーを受けたが、過去に脚本で苦い経験をしているナボコフはそれを断った。だが、周りの薦めもあり結局オファーを受ける事に。ナボコフが最初に脱稿した脚本は、キューブリックから「このまま映画化すると7時間の映画になるから短くしてくれ」といわれ書き直しになり、それから半年後にやっと脚本が完成する。だが、キューブリックはちゃっかりその脚本にも手直しを加えた。  キューブリックが脚本にクレジットされていないのは本作と『スパルタカス』だけ。『スパルタカス』はともかく、本作にクレジットしなかったのは、これだけ社会的に大問題になった小説の映画化だけに、各方面から批判を浴びるのは容易に想像されたので、脚本でクレジットされるのはナボコフだけで充分、という計算があったためだと言われている。  公開当時は映画を褒めちぎっていたナボコフだが、後になって「いくつかの本質的な部分とは関係ない箇所(卓球台のシークエンスや浴槽でスコッチを飲むハンバート)は楽しいが、その他は痛々しい限りだ」と批判している。  他の作品は、『青白い炎』、『アーダ』など。1899年4月23日生まれ、1977年7月2日スイスのローザンヌで死去した。

【登場人物】レディ・リンドン(Lady Lyndon)

  『バリー…』で、バリーと結婚する美しい伯爵夫人。その優美な立ち姿とは裏腹な物憂げな表情は、台詞の少なさも相まって非常に印象に残る。そしてラストシーン、小切手にサインするその表情に、その本心の全てが現れているような気がする。愛してたんですね、彼を。

【俳優】マリサ・ベレンソン(Marisa Berenson)

  『バリー・リンドン』の、レディ・リンドン役。キューブリックから直接出演をオファーされ、即引き受けた。その際告げられたのは、物語が18世紀の古典であることと、日焼けしないように指示されただけだったそうだ。主な出演作は『キャバレー』('71)、『ベニスに死す』('71)、『キラー・フィッシュ』('78)、『ホワイトハンター ブラックハート』('90)、『裸足のトンカ』('97)など。実妹のベリーは911テロの際アメリカン航空11便に乗っていため、亡くしている。  1947年2月15日、アメリカ・ニューヨーク州生まれ。

【名曲】ミッキーマウス・マーチ(Micky Mouse Club March)

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 『フルメタル…』のラストシークエンスで、このミッキーマウス行進曲を兵士達が行軍しながらこの歌を口ずさみますが、それをキューブリックによるブラックなオリジナルアイデアと受け取った人が多いようです。実は原作には、夜の兵舎での暇つぶしにとナイフや靴でネズミをベトコンに見立てて退治し、その屍骸を埋める時に弔意を込めて兵士達がこの歌を歌うシーンがあります。つまり、ベトナムで兵士達は日常的にこの歌を口ずさんでいたんですね。また全編に渡って敵兵や自分たちの事を「ネズミ」と呼んでいます。  この兵舎でのネズミ退治シーンをカットした真意はわかりませんが、原作の該当部分はとてもユーモラスで、ある種の生活感が感じられるので、映画に人間性を持ち込みたくなかったキューブリックが採用しなかったのでしょう。ただし、「戦場」と言う非日常な空間で「ディズニー」という真逆の非日常性の歌を歌っていたという事実が気に入ったキューブリックが、歌だけを行軍のシーンで採用した、と考えられます。  本当はオリジナルのミッキーマウス・マーチにつなげ、そのままエンドロール、という予定だったのにディズニーから使用許可が下りなかった。だから代わりにストーンズの『黒く塗れ!』を採用した、という経過も考えられます。まあ、これはあくまで想像ですが。  当然ながらこの曲はサントラには未収録。それは仕方ないにしても『黒く塗れ!』まで未収録なのは何故?レーベルの問題でしょうか?

【俳優】ジェームズ・メイソン(James Mason)

 『ロリータ』で、ロリータに恋をする中年男、ハンバート・ハンバートを演じた。原作のファンでもあったメイソンは、最初のオファーの際、すでに舞台出演の契約をしていたために一旦は断ったが、妻や友人の説得により引き受ける事にした。『シャイニング』の撮影中のキューブリックをメイソンが訪ねる映像がメイキング・ザ・シャイニング』に残されている。  主な出演作は『無敵艦隊』(1937)、『灰色の男 』(1943)、『あるスパイの末路 』(1944)、『第七のヴェール』(1945)、『激情』(1945)、『妖婦 』(1945)、『邪魔者は殺せ』(1947)、『霧の夜の戦慄』(1947)、『魅せられて』(1949)、『ボヴァリー夫人』(1949)、『無謀な瞬間』(1949)、『砂漠の鬼将軍』(1951)、『パンドラ』(1951)、『ゼンダ城の虜』(1952)、『五本の指』(1952)、『イエロースカイの対決』(1952)、『流刑の大陸』(1953)、『三つの恋の物語』(1953)、『二つの世界の男』(1953)、『砂漠の鼠 』(1953)、『ジュリアス・シーザー』(1953)、『炎と剣』(1954)、『スタア誕生 』(1954)、『海底二万哩』(1954)、『黒の報酬 』(1956)、『日のあたる島』(1957)、『針なき時計』(1958)、『美女と詐欺師』(1959)、『地底探険』(1959)、『北北西に進路を取れ』(1959)、『野性の太陽』(1962)、『ザーレンからの脱出』(1962)、『潜水艦ベターソン』(1963)、『ローマ帝国の滅亡』(1964)、『女が愛情に渇くとき』(1964)、『太陽が目にしみる』(1965)、『ジンギス・カン』(1965)、『ロード・ジム』(1965)、『ジョージー・ガール 』(1966)、『恐怖との遭遇』(1966)、『ブルー・マックス』(1966)、『太陽を盗め』(1968)、『うたかたの恋』(1968)、『としごろ』(1969)、『夜の訪問者』(1970)、『殺し』(1971)、『無頼プロフェッショナル』(1971)、『真説フランケンシュタイン/北極に消えた怪奇人間! 』(1973)、『マッキントッシュの男 』(1973)、『シーラ号の謎』(1973)、『マルセイユ特急』(1974)、『新・おしゃれ泥棒』(1974)、『プリンセスの自叙伝 』...

【台詞・言葉】ゲーム(Game)

 『ロリータ』で、モーテルに泊まった朝、ロリータがハンバートにもちかける「ゲーム」。もちろん意味は「セックス」なのだが、当時の検閲ではこれが精一杯の表現。

【オマージュ】ロウワー・クラス・バッツ/ジャスト・ライク・クロックワーク(Lower Class Brats - Just Like ClockWork)

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   『時計じかけのオレンジ』が70年代のロンドンパンク・シーンに少なからず影響を与えていたのは、よく知られているけど、アメリカのこのバンドについては全く知りませんでした。で、調べてみたところ「1995年、テキサスのオースチンで活動を始め、今までに7インチシングルを8枚、12インチシングルを2枚、フルアルバムを4枚リリースしている。内容は全て『時計…』に関するもので、歌詞はナッドサット言葉を用いていている」だそうです。  で、歌詞はナッドサット言葉はないようですが・・・あまり頭の良さそうな歌詞じゃないですね。しかし相変わらず固定ファンがいるんですねOiって。スラッシュとかハードコアとかOiとかはニッチなニーズがあるんでしょう、ずーっとありますもんね。  ところでこのプロモ、面白いのは『時計…』でも予告編の方をオマージュしているところ。これはちょっと新鮮。でも『時計…』だけにこだわっていたらネタ続くのかな?と余計な心配をしたくなりますが、現在も活動しているかどうかは・・・知りません。笑

【スタッフ】ルシアン・バラード(Lucien Ballard)

  『現金に体を張れ』で、撮影を担当したカメラマン。この頃すでにベテランで、ハリウッドでは名の知れた名カメラマンだった。そんな自分が、まだデビューしたばかりの若い新人監督にあれこれ指示をされるのが嫌だったのか、それとも若造のキューブリックをナメていたのか、「この方が慣れているから」と言って、キューブリックの指示とは違うレンズで違う位置から撮影しようとした。それに対してキューブリックは「指示通りにするか、セットから立ち去るかどちらかだ」と静かに言い放ったという。それからバラードとキューブリックの間にもめ事は起こらなかったそうだ。  参加作品は『昼下りの決斗』('62)、『ボーイング・ボーイング』('65)、『ネバダ・スミス』('66)、『墓石と決闘』('67)、『勇気ある追跡』('69)、『エルビス オン・ステージ』('70)、『ゲッタウェイ』('72)、『ブレイクアウト』('75)、『セント・アイブス』('76)、『正午から3時まで』('76)など。1908年5月6日マイアミ生まれ、1988年10月1日没。

【作品紹介】『突撃』(原題:Paths of Glory)

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Paths of Glory(IMDb) 邦題/突撃 原題/Paths of Glory 公開日/1957年12月25日(86分、モノクロ) 日本公開/1958年2月19日 製作会社/ハリス=キューブリック・プロダクション 製作/ジェームズ・B・ハリス 監督/スタンリー・キューブリック 原作/ハンフリー・コッブ「栄光の小径」 脚本/スタンリー・キューブリック、カルダー・ウィリンガー 撮影/ジョージ・クラウス 編集/エヴァ・クロール 音楽/ジェラルド・フリード 美術/ルードウィッヒ・レイバー 出演/カーク・ダグラス(ダックス大佐)、ラルフ・ミーカー(パリス伍長)、アドルフ・マンジュー(ブルラール将軍)、ジョージ・マクレディ(ミロー将軍)、ウェイン・モリス(ロジェ中尉)、リチャード・アンダーソン(サントーバン少佐)、ジョセフ・ターケル(アーノー二等兵)、ティモシー・キャレイ(フェロル二等兵)ほか 配給/ユナイテッド・アーティスツ ●ストーリー  1916年、第一次世界大戦中のフランス軍。ブルーラード将軍はドイツ軍の難攻不落な陣地「蟻塚」を攻め落とそうと、ミロー将軍に明後日までに占領せよとの命令を出す。現状では不可能と主張するミローは昇進をほのめかされたため承諾する。前線を視察したミロー将軍から命令を聞かされた、701歩兵連隊長で元弁護士のダックス大佐は攻撃は無謀だと抗議するが、解任を示唆され止むなく受け入れる。  その夜、3名が蟻塚偵察に向かうがロジェ中尉は敵前逃亡し、その際ルジューンを手榴弾で殺害する。それに気付いたパリス伍長はロジェを激しく非難した。明け方作戦が開始されると、ダックス大佐はピストルを持って連帯を鼓舞し、兵士とともに戦うが激しい砲撃と機銃掃射で連隊は途中で前進を阻まれる。だがB隊は壕にこもって攻撃をしようとしなかった。しびれをきらしたミロー将軍は味方の陣地を砲撃しろと命令するが砲兵隊はそれを拒否、そんな中、先発隊も塹壕へ退却し始める始末だった。  ミロー将軍は命令を実行しなかったとして3中隊から1名ずつ、合計3名を選び軍法会議にかけることにした。ダックス大佐は弁護を志願したが、それを思いとどまるようミローはダックスに圧力をかけた。選ばれた兵士は気に入らないからと選ばれたフェロル二等兵、くじ引きで選ばれたアーノー二等兵、ロジェ中尉のルジューン殺害を告発し...

【小説家】アンソニー・バージェス(Anthony Burgess)

  『時計じかけのオレンジ』の原作者で小説家。『時計…』(1963)は、バージェスが脳腫瘍で余命1年と診断されたため(結局誤診だった)『ひとつの解答への権利』(1961)、『ある国の悪魔』(1962)、『見込みのない種子』(1963)と同時期に短期間で書かれた小説のひとつ。第二次世界大戦中のロンドンで妻がアメリカの脱走兵にレイプされるという事件が起こり、その苦しみ抱えつつ脱稿した。後にバージェスはこの小説を「アル中状態で書いたクズ本」と酷評している。1917年2月15日イギリス・マンチェスター出身、1993年11月22日死去。  本来の小説版は最終章の第21章で、アレックスが暴力に魅力を感じなくなっている自分に気が付き、成長したと自覚するところで終わっている。ところがアメリカの編集者は第21章が追加されたいない原稿をそのまま印刷してしまった。(現在は第21章で終わっている修正版を出版済)、そのアメリカ版を読んだキューブリックはそれに気付かず、気付いた後になっても「これまでの調子と合わないから」と採用しなかった。小説家の思い入れには全く組みしないキューブリックらしいエピソードだ。

【名曲】ベートーヴェン:交響曲第9番(Ludwig van Beethoven:Symphonie No.9)

 『時計…』では、『雨に唄えば』と同様、ストーリーの重要なキー・ポイントとしてベートヴェンの『第九交響曲』が使われています。原作によるとアレックスはベートーヴェンばかり聴いていた訳ではないのですが、映画化する際にキューブリックはより単純化・様式化し、アレックスの部屋にはベートーヴェンのポスターが、刑務所の部屋には胸像が、猫おばさんの武器もベートーヴェンの胸像(前者と同じ物?)だし、ミルクバーで歌手が突然歌った歌も『第九』、作家の家の呼び鈴は『運命』だったりと、作品中ベートーヴェンだらけにしてしまいました。  第九のコンサートでは最終楽章が終わったと同時に「ブラボー!」と立ち上がって拍手を送るのが定番になっていますが、最後のアレックスの性夢はまさにそのイメージですね。理解していない人も多い様ですが。映画で使用されたのは、アレックスが自室で聞いていたシーンでマイクロカセットになっていた、フリッチャイ指揮・ベルリンフィルによる『第九』。アマゾンのレビューによるとかなり評価が高いようです。

【プロップ】ザ・ロッキングマシーン(The Rocking Machine)

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 『時計じかけのオレンジ』で、キャットレディ撲殺の凶器にされた「芸術性豊かな」オブジェ。作者はハーマン・マキンク。レプリカがAmazonより発売されましたが、欲しいけど「高くて買えない」「家人が許さない」等事情がある諸氏は以下で我慢を・・・。そのリアル且つ洗練された動きをロッシーニと共にお愉しみください(笑。  ちなみに「クライスト・アンリミテッド」もマキンク作。なぜか第九がよく似合いますね。

【プロップ】クライスト・アンリミテッド(Christ Unlimited)

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 『時計じかけのオレンジ』で、アレックスの部屋に置いてあったオブジェ。「ザ・ロッキングマシーン」と同じくハーマン・マキンク作。

【関連書籍】フィルムメーカーズ スタンリー・キューブリック/巽 孝之 著

  作品レヴューはもちろん、詳細なデータや年表、対談や座談会など、キューブリックに関するあらゆるものを詰め込んだムックの決定版。特に幻の処女作『恐怖と欲望』の詳細なレビューは読みごたえあり。ただし『アイズ…』に関しては出版時期が公開直後のためか、論点の定まっていない意味不明な混乱した評ばかりなので、参考程度に留めておくべきだろう。

【名曲】また会いましょう(We'll Meet Again)/ヴェラ・リン(Vera Lynn)

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 第二次世界大戦中に流行した、ヴェラ・リンが歌うセンチメンタルなポップ・ソングで、戦地に行った夫や恋人への想いを歌い、当時兵隊達の間で大流行した。  キューブリックが『博士…』のラストシーンで、核爆発のキノコ雲の映像にこの歌を使ったのは、「また会いましょう」と言いながらまた会えるとは限らず、むしろ「もう会えないかもしれない」事を言い出せない当時の兵隊の切ない気持ちを、全世界レベルに引き伸ばす為であり、一部で言われているような「脳天気なラブソングを悲惨な映像に使うという皮肉」ではない。それは、この歌詞を見れば分かる通りだ。  また会いましょう、どことも知らず、いつとも分からないけれど  でもいつかまた晴れた日に会いましょう  いつものあなたのように笑顔を絶やさないで  青空が暗い雲を吹き飛ばしてくれるまで  知ってる人に会ったら、ハローと言って  もうじき私に会えると伝えてちょうだい  私がこの歌を歌っていたと知れば  きっとみんな嬉しがるでしょう  また会いましょう、どことも知らず、いつとも分からないけれど  でもいつかまた晴れた日に会いましょう ※動画は映画で使用された音源のフルバージョン。キューブリックはイントロの後、後半Aパート(男性コーラスあり)にとび、前半Bパート(コーラスなし)に戻り、そして後半サビ(コーラスあり)からエンディングと編集している。  悲しい歌を悲惨なシーンに使うというのはむしろ常套手段で、たいしたアイデアではない。実はキューブリックがすごいのは「青い空」や「晴れた日」、「暗い雲を吹き飛ばす」といった歌詞に乗せ、核爆発の映像を見事にシンクロさせて編集している所だ。これこそ「皮肉に満ちた救いようのない絶望的な結末」を表現するにふさわしいキューブリックならではの感性だろう。それを映画で是非確認して欲しい。

【俳優】ジョージ・C・スコット(George C. Scott)

  『博士の異常な愛情』でタージトソン将軍を演じた。他の出演作には『ハスラー』('61)、『パットン大戦車軍団』('70)、『ヒンデンブルグ』('75)、『炎の少女チャーリー』('84)、『エクソシスト3』('90)、『グロリア』('98)などがある。 『パットン…』では、アカデミー主演男優賞を受賞した。『恋とペテンと青空と』('67)ではスー・リオンと、『タップス』('81)では若き日のトム・クルーズと共演。  1927年10月18日アメリカ・バージニア州生まれ、1999年11月22日没。

【関連作品】『未知への飛行〜フェイル・セイフ』

  ついにDVD化なりましたね、冷戦時代の隠れた名作『未知への飛行』。衝撃的なラスト・シーンは今日観返しても全く色褪せてなく、第一級のポリティカル・フィクションとして楽しめます。愚直だけど緊迫感溢れる演出を、最近のハリウッド映画はこの映画からもっと学んで欲しいものです。  詳しいストーリー等はリンク先で確認して頂くとして、やっぱり気になるのは『博士…』との関係。どうやら当時、両映画の原作の間で盗作騒ぎがあったらしく、キュー側が訴えられてしまったそうです。でも、裁判はキュー側が勝訴。この話題性に目をつけたコロンビアが映画化権を獲得し、(『博士…』もコロンビア)両方ともヒットさせてしまいました。  監督はシドニー・ルメット。実直な演出では定評ありますね。主演はヘンリー・フォンダ。大統領を静かに熱演してました。一時代を築いた名優で、ジェーン・フォンダやピーター・フォンダのお父さんです。一方の『博士…』といえば、監督がキューで脚本がテリー・サザーン、そして主演がピーター・セラーズとなるわけで、どこまで行っても好対照のこの2作品、続けて観るのも一興かも。  キューブリックは『博士の異常な愛情』から『2001年宇宙の旅』、『時計じかけのオレンジ』で巨匠の名を欲しいままにしたけど、ルメットは『オリエント急行殺人事件』、『狼たちの午後』『評決』で「名監督なんだけど地味」。ならばと、コメディー・タッチの『ファミリー・ビジネス』を撮ったりしてるんですが、やっぱり評価は「悪くないんだけど地味」。  まあ、平気で地球を破滅させるぐらいの肝っ玉がないと巨匠にはなれないという事でしょうか?

【俳優】パトリック・マギー(Patrick Magee)

 『時計じかけのオレンジ』で、アレックスに妻をレイプされた反政府小説家、アレキサンダー氏を、『バリー・リンドン』ではイカサマ賭博師、シュヴァリエ・ド・バリバリーを演じた北アイルランド出身の舞台俳優。 主な出演作は『マルキ・ド・サドの演出のもとにシャラントン精神病院患者たちによって演じられたジャン=ポール・マラーの迫害と暗殺』('67)、『テレフォン』('77)、『ラフ・カット』('80)など。  1924年3月31日北アイルランド生まれ、1982年8月14日没。

【スッタッフ】ジョン・オルコット(John Alcott)

  イギリス人の撮影監督。『2001年宇宙の旅』で追加撮影として参加。自然光撮影についてキューブリックと意気投合、以降『時計じかけのオレンジ』、『バリー・リンドン』、『シャイニング』の撮影監督を務めている。『バリー…』でアカデミー撮影賞を受賞した。バリーが二人の少女と逢瀬を交わしている隣で寝ている男性がオルコット本人。  キューブリック作品以外では、『料理長殿ご用心』('78)、『グレイストーク -類人猿の王者- ターザンの伝説』('83)、『追いつめられて』('87)など。1931年ロンドン出身、1986年7月28日死去、享年54歳。

【登場人物】ドロレス・ヘイズ(ロリータ)(Dolores Haze - Lolita)

  『ロリータ』で、ハンバートが想いを寄せる13歳も美少女・・・と言っても、すれっからしで口が悪く、生意気で意地悪な女の子だ。本名はドロレス・ヘイズ。(原作ではハンバートの獄中手記の形式を取っていて、作品中に登場する人物の名前、地名などは架空のものである、との但し書きがされている)「ロリータ」は愛称で、「ドロレス」→「ドリー」→「ロー」→「ロリータ」となっている。

【登場人物】ビクター・ジーグラー(Victor Ziegler)

 『アイズ ワイド シャット』で、ビルの患者のひとり。ビルを招待したクリスマスパーティーと、秘密の乱交パーティーの主催者でもある。ことの顛末はジーグラーの口から明かされるが、それを鵜呑みにするか否かは観客の判断に委ねられている。  当初この役はハーヴェイ・カイテルが起用されていたが、1997年5月から『グレイスランド』で主役を演じなければならなかったため、やむなく降板となった。しかし実際はカイテルがキューブリックのリテイクに耐えられず自ら放棄した。

【セット】ペンタゴン最高作戦室(War Room)

  『博士の異常な愛情』に登場するペンタゴンの最高作戦室(ウォールーム)ですが、もちろん当時、米軍からは何の協力も得られなかったので、キューブリックとデザイナーのケン・アダムが想像でデザインしたものです。  で、何かに似てると思いませんか?そう、これはカジノなんかによくあるボーカーのテーブルを模しています。まあ、今考えれば割とベタなネタですが、公開当時(冷戦の最中で、キューバ危機の数年後)の世界情勢じゃ、全然洒落になってませんよね。

【俳優】シドニー・ポラック(Sydney Pollack)

  『アイズ ワイド シャット』で、ヴィクター・ジーグラーを演じた製作兼監督兼俳優。監督としては『ひとりぼっちの青春』(1969)、『追憶』(1973)、『トッツィー』(1982)、『推定無罪』(1990)、『サブリナ』(1995)などがある。『ザ・ファーム/法律事務所』(1993)ではトム・クルーズを起用、『ザ・インタープリター』(19'93)ではニコール・キッドマンを起用している。『愛と哀しみの果て』(1985)でアカデミー監督賞を受賞した。  他の出演作には『夫たち、妻たち』(1992)、『シビル・アクション』(1999)、『チェンジング・レーン』(2002)などがある。  1934年7月1日アメリカ・インディアナ州生まれ。

【登場人物】双子の少女(Grady Twins)

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 『シャイニング』で、廊下の先に突然現れる双子の少女。衣裳が水色のワンピースというのも、周囲のインテリアと全くマッチせず、異様な感じを増幅させるのに一役買っている。この「一見しただけではあまり恐く無いが、よくよく考えるととたんに恐わくなってくる」という効果は『シャイニング』でしか味わえない。このシーンを観てしまったばっかりに、ホテルに泊まった際、薄暗い廊下の先に何となく違和感を感じる人も多いのでは?霊感の強い人に言わせれば「ホテルは嫌な空気でいっぱい」だそうだ。  演じたのはリサとルイーズのバーンズ姉妹。ダイアン・アーバスへのオマージュという話はかなりマユツバ。少なくともキューブリックがその旨の発言をしたことはない。

【スタッフ】ヤン・ハーラン(Jan Harlan)

  『時計じかけのオレンジ』でアシスタント・プロデューサーを勤め、それ以降のキューブリック作品『バリー・リンドン』、『シャイニング』、『フルメタル・ジャケット』、『アイズ ワイド シャット』の全てプロデュースしているプロデューサー。キューブリック未完のSF『A.I.』もプロデュースした。また、キューブリックのドキュメンタリー『ア・ライフ・イン・ピクチャーズ』のプロデューサー兼監督でもある。キューブリックの妻のクリスティアーヌの実弟。  1937年5月5日ドイツ・カールスルーエ出身。

【セット】白い部屋(White Room)

  ルイ王朝風だ、いやロココ調だとなにかと問題になる『2001年…』の白い部屋ですが、そのインテリアがいつの時代のものかはさして問題ではなく、重要なのはここが「ホテルの部屋」(もしくはホテルの部屋を模したもの)であるということです。ここがホテルの部屋である事はその調度品やバスルームを見れば理解できるし、撮影現場の写真にははっきりと「HOTEL Room」との記述がります。では、なぜ「ホテル」なのでしょうか?  それは、動物園を想像してみれば良いでしょう。人間は動物園の檻に動物を入れますが、動物にとって檻はどのように認識されているのでしょう?食事と寝床とトイレが用意され、しかも常に清潔に保たれている。外敵が襲ってくる心配もない。それはまさしく動物にとって「ホテル」と言えるのではないでしょうか?  クラークの小説版には「ホテルの部屋を模したもの」である事が明解に説明されています。それによると、月面のモノリスが地球のTV番組をモニターして地球人の生活環境や習慣を熟知。その知識を元にこのホテルの部屋を作り、ボーマンを迎え入れたと説明されています。(ボーマンが部屋を調べた際、引き出しが開かなかったり、本は背表紙だけの見せ掛けなのを発見するくだりは結構スリリング)。ボーマンは部屋に備え付けの天井TVに映し出されたドラマのワンシーンに、自分が今いる部屋と同じデザインのホテルの部屋が登場しているのを発見し、その真実を知ることになりました。  しかし、キューブリックはインタビューで「人間動物園のような環境」「彼自身の夢と想像から作られた」と説明し、「ホテル」とは説明していません。それは、ホテルにしては広すぎる部屋(カメラを自由に動かしたいキューブリックが、わざと大きめなスイートルームを作らせたのかもしれない)であること、ネタばらしである「ホテルの部屋」と言いたくなかったなどの理由が考えられます。  いずれにしても、この部屋がホテルの部屋であることは間違いありません。異星人(もしくは「科学的に定義された神」)よって作られたこの(偽物の)ホテルの部屋に招待されたボーマンは、加速度的に老いてゆき、死に、そしてスターチャイルドとして再生します。  ちなみにダグラス・トランブルによると、この部屋にはモデルがあり、それはロンドンの最高級ホテル「ザ・ドーチェスター」だそうです。

【登場人物】フランク・プール(Frank Poole)

  『2001年宇宙の旅』の、ディスカバリー号の乗組員で黄色い宇宙服の人。HALが操るスペース・ポッドに追突されて死んでしまう。おまけに遺体も放棄されるなんてちょっと可哀相すぎる。

【考察・検証】枕元の仮面のカット割りが持つ意味

  『アイズ ワイド シャット』のラスト近く、アリスの枕元に仮面が置いてあるシークエンスで、一連のカットが(1)ビル深夜の帰宅。(2)アリスの枕元に仮面。(3)ビル寝室に入り、仮面に気付く。の流れになっていた事に対し、「先に仮面を見せたらインパクトが弱い」「カット割りが素人くさい、ミスでは?」等の批判か少なからずありました。ちょっと待って下さい。「何よりも編集作業を好む」、「映画とは編集が全てといっても言い過ぎでは無い」と言っていた編集大好きのキューブリックがそんな初歩的なミスなんかをする筈なんかありません。これは、計算されてやっています。  理由は(1)『シャイニング』のタイプライターのシーンを想起させる。(2)ここで余りにもショッキングな演出を施すとラストシーンのインパクトが薄れる。の2つではないかと考えます。  実際、『シャニング』ではウェンディがタイプ用紙を見つめるシーンを粘って見せ、緊張感が最高潮に達したところで「タイプされた文字」を見せる事によって最高の恐怖感を演出しています。この方法論を使う事だってできた筈です。  でも、実際に採用したのは「先に仮面を見せる」でした。原作では、このあと全てを妻に告白し、寝室で新しい一日の夜明けを迎えたところで終わっていますが、キューブリックはおもちゃ屋のシークエンスを付け加え、ラストを「捨てセリフ一発」で終わらせています。このラストシーンのインパクトを弱めない為にも、あえて前のシークエンスでは、衝撃度を弱める編集をしたのではないでしょうか。

【台詞・言葉】微笑みデブ(Gomer Pyle)

  「名前が気に入らん!〈微笑みデブ〉と呼ぶ事にする!」とハートマン軍曹に怒鳴られても、〈微笑みデブ〉って一体何?…というわけで、ググってみました。こんな顔です・・・た、確かにアホ面ですね。  「アメリカのコメディ番組『ゴーマー・パイル』は日本では『マイペース二等兵』として放映された軍隊コメディで、アメリカ海兵隊に入隊した青年、ゴーマー・パイル二等兵が訓練基地で騒動を巻き起こす物語」って、そのままんま。数々のヒネリや皮肉の効いた名セリフを生み出したハートマン軍曹にしてはストレートな罵倒ですね。

【俳優】ピーター・セラーズ(Peter Sellers)

  イギリスの有名なコメディ俳優。『ピンク・パンサー』シリーズ〈『暗闇でドッキリ』『ピンク・パンサー2~5』のクルーゾー警部がハマり役。キューブリック作品は、『ロリータ』のキルティを見事に怪演した後、次の『博士の…』ではアメリカ大統領、イギリス軍の派遣将校、ストレンジラブ博士と3役を熱演している。他にB-52 機長も演じる予定だったが、ケガをしたためにスリム・ピッケンズが代役として演じた。だが実はそれは言い訳で、テキサス訛り丸出しのコング役が気に入らなかったので断ったらしい。ピッケンズの素晴らしい演技を見た後になって、演じなかったことを後悔したという。  他の主な出演作は『黒ばら』(1950)、『裸の島』(1953)、『マダムと泥棒』(1955)、『ピーター・セラーズの地上最小のショウ』(1957)、『赤裸々な事実』(1957)、『転覆騒動』(1958)、『親指トム 』(1958)、『ピーター・セラーズのマ☆ウ☆ス』(1959)、『ピーター・セラーズの 労働組合宣言!! 』(1959)、『とんだりはねたりとまったり』(1960)、『泥棒株式会社』(1960)、『喰いついたら放すな』(1960)、『求むハズ』(1960)、『トライアル・アンド・エラー』(1962)、『ワルツ・オブ・ザ・トレアドールズ』(1962)、『ミサイル珍道中』(1962)、『新・泥棒株式会社』(1963)、『ヘブンズ・アバーブ』(1963)、『ピンクの豹』(1963)、『マリアンの友だち』(1964)、『暗闇でドッキリ』(1964)、『何かいいことないか子猫チャン』(1965)、『紳士泥棒/大ゴールデン作戦』(1966)、『無責任恋愛作戦』(1967)、『女と女と女たち』(1967)、『007/カジノ・ロワイヤル』(1967)、『太ももに蝶』(1968)、『パーティ』(1968)、『マジック・クリスチャン』(1969)、『不思議の国のアリス』(1972)、『別れの街角』(1973)、『ピーター・セラーズのおとぼけパイレーツ』(1973)、『これがピーター・セラーズだ!/艶笑・パリ武装娼館』(1974)、『ピンク・パンサー2 』(1975)、『名探偵登場 』(1976)、『ピンク・パンサー3』(1976)、『ピンク・パンサー4』(1978)、『ゼンダ城の虜』(1979)、『チャンス』(19...

【登場人物】ハンバート・ハンバート

  『ロリータ』で、ロリータに恋する哀れな中年男。職業は作家兼大学教授。さんざんロリータとキルティに振り回された揚げ句、心臓発作のため獄中で頓死してしまう。だがそれも元々は自分が蒔いた種、いずれはロリータもシャーロットのようになるのだから、最初からシャーロットを愛しておけば良かったのに・・・という論理は働かないのが変態の変態たる所以でしょう。ジェームズ・メインンのおどおどした感じがハマってました。

【パロディ】HAL2000

  今となっては「あの騒ぎは一体何だったんだ?」と首を傾げてしまうコンピュータの「2000年問題」。その2000年問題にMacintoshは対応済みというメッセージの為に製作された当時のAppleのCMにHALが起用され、話題になりました。その名も「HAL2000」。で、こんな事言ってます。  「ねえデイブ、西暦2000年に起きたコンピュータ障害に起因した金融市場での大恐慌は僕達が悪いんじゃないんだ。ねえデイブ、みんな人間が引き起こしたプログラムのバグが原因だったんだよ。でもMacintoshシステムだけは正常に作動を続けていたんだ。その時も。」  まあ、HALに言われても全然説得力ないんですが、結局実際は大した問題にはならなかったので、このCMも2000年問題同様すぐ忘れられてしまいました。日本では結局オンエアしなかったし。ところで、キューブリックは多分Winユーザーでしょう。律儀にIBMを使っているのはちょっと微笑ましい。なんせ「HALはIBMの一歩先」ですからねぇ。

【インスパイア】『ミッション・トゥ・マーズ』

  なんと申せばよいのやら、トンデモ説をもっともらしいCGでゴリ押しした、ブライアン・デ・パルマ監督による「観るに耐えないほどイタい脱力系SF映画」。  いつぞやのNASAの火星探査で撮影され議論を呼んだ、人の顔に見える岩の写真をヒントに、地球・火星同起源説を唱え、『2001年宇宙の旅』、『未知との遭遇』、『アビス』風味で仕上げる(あくまで「風味」だけ)というアイデアも底が浅いが、クルーの数を減らしたい意図がミエミエの「単なる事故」や、友好的とは言いがたいエグい嵐で危機感を煽った割に、突然手のひらを返して優しく地球人を迎える火星人の強烈な違和感(CG火星人は言わずもがな)、あげくにゲイリー・シニーズは突然「彼らと一緒に行く」と言い出す始末(動機はあるにはあるのだが弱い)。  豪華なCGで押しまくれば脚本のアラなんて気にならないさ、とデ・パルマが言ったかどうかは分からないけど、この監督にSFを撮る資格のない事だけははっきりしました。『2001年…』とプロットは似通っていても、監督の画作りひとつでこれだけ駄作になってしまうという事は、キューブリックがいかに偉大かよくわかる。クラークの『失われた宇宙の旅2001』によると、けっこうこの『ミッション…』と共通点が多く、雰囲気も似通っているため、一歩間違えば『2001年…』だってこうなっていた可能性があったのだ。  そういう意味ではキューブリックが撮る事を拒否した『2001年…』と思って観るのもありかもしれない。遠心機のシーンはそれなりに出来は良いし。でも・・・もうデ・パルマにはSF撮って欲しくないです。ホントに。

【考察・検証】『2001年宇宙の旅』の「スターゲート・シークエンス」を解説する

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キア・デュリアの目をアップを「パープルハート(俗称)」という色彩変換技術で 変換した映像。パープルハートとはドラッグの一種。  『2001年宇宙の旅』の有名なスターゲート・シークエンスは、大きく4つのパートに分けることができます。 (1)ワームホールによる空間転移シークエンス   (2)星の誕生・銀河の誕生、もしくは生命の誕生シークエンス     (3)地球外知的生命体との遭遇シークエンス  このシーンには「マインドベンダー(催眠術師)」というタイトルがある。このダイヤモンドの物体はモノリス初期案のピラミッド型(正四面体)のアイデアがベースになっているので、UFOではなく地球外知的生命体(もしくはそれを象徴するもの)と解釈するのが正しい。   (4)原始惑星の誕生シークエンス    こうしてみると、全て映像で説明しきっているのがわかります。(1)はワープという解釈でも良いのですが、小説版やその原案小説である『地球への遠征』にははっきりとワームホールである描写があります。(3)はもっと映像を準備するはずでしたが、当時の技術では納得できる表現ができず、かなりの部分が没になった経緯があります。  撮影の種明かしをすれば、(1)と(3)はダグラス・トランブルの開発によるスリット・スキャンを中心に、様々な手法を駆使して撮影。(2)は溶剤に色の液体を落とし、超スローモーションで撮影したもの。(4)はスコットランドのヘブリディーズ諸島と、アリゾナ州とユタ州にまたがるモニュメント・バレーの空撮で、それらの映像にソラリゼーション(厳密には単なるソラリゼーションではなく、もっと複雑な工程だったそう)の処理を施したものです。  人類が決して目にする事が出来ない宇宙や生命の成り立ちや、何万光年を一瞬に飛び越えるテクノロジーを映像化する事によって、地球外知的生命体の存在と、その力の強大さを印象づけるために、このシークエンスを作成しましたが、当時の若者はそれを全く理解せず、映画館の最前列に座り、ポケットからマリワナ取り出し吸い始めてしまいました。これにはさすがのキューブリックやクラークも頭を抱えてしまい、はっきりと「反ドラッグ」の立場を明確にしています。  もちろん、ディスカバリー号を男性器、スペース・ポッドを精子、スターゲートを女性器とする解釈...

【小説家】グスタフ・ハスフォード(Gustav Hasford)

  『フルメタル・ジャケット』の原作者。主人公のジョーカーと同様に、海兵隊の報道員としてベトナム戦争に参加し、その経験を元にこの作品を書き上げた。出版印税も底を尽き、車で生活していた所に映画化が決定し、思わぬ大金を手にする事に。映画にも脚本として参加するが、その扱いは決して良くなかったようだ。キューブリックは原作者による干渉を好まない。原作者の思い入れを映画に持ち込んで欲しくないからだろう。原題は『ショート・タイマーズ(Short Timers)』。  1947年11月28日アラバマ生まれ、1993年1月29日死去。

【プロップ】モノリス(Monolith)

  『2001年宇宙の旅』に登場した謎の石版。 奥行・横・縦の比率が1対4対9で、最初の整数(1・2・3)のそれぞれ二乗になっている。クラークの小説版によると、地球のモノリスは「進化を促す教育装置」、月面の物は「掘り出された時に自動的に電波を発信する警報装置」、木星の物は「遥か彼方、銀河系の違う場所に運ぶ為の運搬装置」とそれぞれ説明しているが、キューブリックはそういった直線的で明解な説明的描写は避け、「地球外知的生命体を象徴させる物体」、もしくは「神の化身」といった抽象的な扱いになっている。尚、月面のモノリスは「TMA-1」、木星のモノリスは「ビック・ブラザー」と呼ばれた。  撮影に使われたモノリスは木製で、それに黒鉛を混ぜた塗料を何度も重ね塗りし、丁寧に磨きをかけたものだそうだ。

【家族】ヴィヴィアン・キューブリック(Vivian Kubrick)

  キューブリックの三人姉妹の末娘。『2001年宇宙の旅』のテレビ電話の女の子として有名だが、彼女の名前は配役表には載っていない。「大きくなった時、いつまでも私の側にいるのは良くないから」というのがその理由。でもその後しっかりキューブリックに重用されている。成長した彼女は『バリー・リンドン』で食事シーンのエキストラとして出演。『シャイニング』ではキューブリックから誕生日に贈られたビデオカメラを使ってメイキング風景を撮影し、その映像がイギリスでTVスペシャルとして放映された。また、ボールルームパーティーの幽霊のエキストラでも出演している。『フルメタル・ジャケット』では、アビゲイル・ミードの名で音楽を担当。女性カメラマンの役で出演した。  1960年8月5日カリフォルニア州ロサンゼルス出身。

【小説家】マイケル・ハー(Michael Herr)

  『フルメタル・ジャケット』でキューブリックと共同で脚本を書いた作家・脚本家。『地獄の黙示録』('79)、『レインメイカー』('97)でもナレーションの脚本を担当している。代表作は『ディスパッチイズ』で、キューブリックはこの小説を気に入ってハーに脚本を依頼した。

【オマージュ】ミューズ/タイム・イズ・ランニング・アウト(Muse - Time is Running Out)

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 このバンド、パンク・ハードロック・ヘビメタ・グランジなどにある攻撃性と叙情性をベースに、歌い上げもできるファルセットボイス、クラシックフレーバーやイギリスのバンドらしいちょっとヒネったポップセンス、それにサイケデリック風味までと、クイーン、ブラックサバス、ELO、ストラングラーズ、U2、レディオヘッド、ニルヴァーナなど、過去のロックのおいしいとこ取りをしつつ、自分達独自のサウンドにまとめている点では才能豊かなグループ。  で、このプロモ。メンバーの趣味なのか監督の趣味なのかは不明だけど、歌詞つながりで『博士の異常な愛情』を引用したのでしょう。ウォールームを結構忠実に再現している点は嬉しい限り。こうして新しく撮り直した映像で観ると、いかに『博士…』のプロダクト・デザインが洗練され、画的美しさに溢れていたかが確認できます。ローアングルの多用や画面が広角気味なのも当然意識してますね。

【名曲】ツァラトゥストラはかく語りき(Also Sprach Zarathustra)

 リヒャルト・シュトラウス作曲の『2001年宇宙の旅』の事実上のテーマ曲。オープニングや進化のシークエンスには必ずかかっている。『ツァラトゥストラはかく語りき』とは、ニーチェの「超人思想」を記した著作ことで、その作品にインスパイアされたシュトラウスが、人類の前に姿を現した超人をイメージして作曲したとされている。  何故かエンドロールではノークレジットだったこの曲、公開当時のMGM版のサントラでは、カール・ベーム指揮を収録していたので、当然映画もベーム指揮だと思われていたが、実はカラヤン指揮のウィーンフィル演奏盤だった事が判明。では、何故サントラでは映画で使用されていないベーム盤を収録したのか?レーベルの関係でやむを得ず、という事だったのか?  「映画ではカラヤン盤を使用したにもかかわらず、サントラではレーベルの問題でベーム盤を収録したため、クレジットを載せる事ができなかった。しかし、ターナー版再発時(1996年)にはレーベルの問題はなくなり、カラヤン盤を収録した」という経緯が推測できるが、事実は不明だ。  上記はそのフルバージョン。これだけオープニングが有名な曲なのにフルで聴いた事がある人は少ないのでは?是非この機会にフルで聴いて欲しい。まちがいなく名曲なのだから。 2013年9月25日追記:<a href="http://ja.wikipedia.org/wiki/2001%E5%B9%B4%E5%AE%87%E5%AE%99%E3%81%AE%E6%97%85" target="_blank" title="">wiki</a>によると以下の事情があったとの記述あり。  なお、(1)メインタイトル、(2)「人類の夜明け」、(3)ラストと合計3回使われている《ツァラトゥストラはかく語りき》の演奏はヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ウィーン・フィルのデッカ録音だが、デッカ(1968年当時は日本国内ではロンドン・レーベル)が演奏者名を出さないことを許諾の条件としたので、映画のエンド・クレジットでは曲名しか表示されていない。

【関連作品】ブレードランナー(Rlade Runner)

  公開当時はSFブームでもあり、それなりに話題になったのに、その難解な内容故か、デカダンな都市イメージとSFXのせいか、今ではすっかりカルムビー扱いの『ブレードランナー』。監督は、おなじみリドリー・スコットですね。  で、この『ブレラン』、あまりにも未来のない終り方に興行成績を危惧したワーナーが、無理矢理くっつけたラスト・シークエンスの森林の空撮。これ、実は『シャイニング』のオープニングのアウト・テイクというのは有名な話。その時、急遽キューブリックから送られてきたフィルムはなんと3万フィートもあったそう。実際に撮影したのは第2班だから、キューブリックは全てそれをチェックして、オープニング用に数分間使った事になる・・・。恐るべし、キューブリック。

【トリビア】散髪

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 『フルメタル・ジャケット』のファースト・シークエンスで、散髪をされるアメリカの若者達の映像が流れるが、このシークエンスの重要性はあまり語られていないような気がする。すなわち、これは人間が銃弾に改造される最初の通過儀礼なのだ。失ったのは髪の毛だけではない。名前、人格、個性、愛する恋人、家族や故郷・・・全てはここで刈り取られ、抹殺される。間の抜けたカントリー・ウェスタン『ハロー・ベトナム』が皮肉に聞こえるのはそのためだ。そしてそれはそのままエンドロールに流れる『黒く塗れ!』に直結している。  ここで使用しているバリカンは人間用のそれではなく、フレンチ・プードル用ものだそうだ。しかも、実際もそうであるらしい。それを知ってこのシークエンスを観ると、非常に嫌な気分になる。

【家族】クリスティアーヌ・キューブリック(Christiane Kubrick)

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Christiane Kubrick(IMDb)   キューブリックに最期まで連れ添った3番目の妻。結婚前はスザンネ・クリスチャン(Susanne Christian)の名前で女優として活躍していた。正しくはクリスティアーヌ・スザンヌ・ハーラン(Christiane Susanne Harlan)。『突撃』制作時、TV番組で見かけて一目惚れしたクリスティアーヌを強引にラスト・シーンに出演(兵士の前で歌を歌う少女役)させ、結婚までしようとしたキューブリックに当然周囲は大反対。いくら「自分は無神論者だ」と言っていてもユダヤ人であることは曲げようがなく、パートナーのハリスも「ナチの人間と結婚するなんて!」と大激怒。にもかかわらず、キューは離婚までしてクリスティアーヌと結婚、以降40年間連れ添う事になった。(後にハリスは「間違っていたのは自分だった」と笑いながらインタビューに答えている)  『2001年…』の撮影中にはあまりにも身なりに構わなすぎるキューブリックに業を煮やし、イギリスの有名デパート「ハロッズ」にオーダーメードの服の予約の手はずを整えておいたのに、キューブリックは、その売り場に行き着く前の既製服売場で足を止め、青いスーツに袖を通した後「いいね、これを4着くれ」といってすぐ車に戻り、撮影を再開したという。そんなキューブリックの服装を、クリスティアーヌは「風船売りのおじさん」と呼んでいた。  その後、キューブリックの映画製作に深く掛かわるようになり、キューブリック流ポルノ映画『ブルー・ムービー』を鶴の一声で止めさせたり、また、ナチによるユダヤ人迫害 を描いた『アーリアン・ペーパーズ』にも反対した(題材が題材だけに、この反対は当然だろう。キューブリックはユダヤ人なのだし)。『時計…』や『アイズ…』では、彫刻や絵画の作者としてクレジットされている。  プロデューサーのヤン・ハーランは実弟、ナチの宣伝映画監督だったファイト・ハーランは叔父に当たる。前夫ヴェルナー・ブルーンズとは1952年に結婚、1957年に離婚したが、前夫の間にカタリーナ(1953年12月25日)を授かっている。1958年結婚(キューブリック30歳、クリスティアーヌ26歳)との事だがクリスティアーヌは日付を明らかにしていない。実はこの頃キューブリックは妻ルース・ソヴォトカと別居状態ではあったが、...

【名曲】黒く塗れ!(Paint it, Black)/ザ・ローリング・ストーンズ(The Rolling Stones)

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   イギリス出身の世界最強のロックバンド、ローリング・ストーンズが'66年に発表した大ヒット・ナンバー。 ベトナム戦争映画に、当時のロックナンバーを使うのは『地獄の黙示録』以降、定番となっていたが、これほど暗喩的、象徴的に使用されたのは、この曲とドアーズの『ジ・エンド』だけではないだろうか。  キューブリックはこの曲の使用について 「ストーリーをまとめたいと思うなら、あの歌を使うよ。また、ローリング・ストーンズはあの頃のシンボルのようなもので、あの曲はちょうどいい時期に世に出てきた。だから、あの時代はローリング・ストーンズ抜きでは語れないんだ。」(『キネマ旬報』1988年3月上旬号より) とインタビューで語っている。  人格や個性や感情といったものを、完膚なきまでに塗りつぶされた兵士を象徴するかのように、『フルメタル・ジャケット』のタイトルバックで、まさしく「黒く」鳴り響いている。

【トリビア】ニンフェット(Nymphet)

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 少妖精の意。転じて、10代前半の美少女を差す。小説『ロリータ』で、ハンバートはロリータを始めとして彼の感性に添う美少女をこう呼んでいるが、年齢制限を9~14歳までとし、しかもそのニンフェットの呪縛を受けるには30~40歳の年齢差が必要とまでしている。ニンフェットの定義も非常にシビアで、「一般人が女学生の中から美少女を選んだとしても、その中にニンフェットは含まれていない」とまで言い切っている・・・というか、もう「しなやかな骨組み」とか「かん高い耳障りな声」とか「逆立つうぶ毛」とか「汗でべたつく首」とか「ふくらはぎの傷あと」とか「脇腹のほくろ」とか「足首でぴくぴく動く骨」とか、常に妄想炸裂。特にロリータを妄想の中で独占し、コトを成就させる(実際のロリータはただ普通にじゃれてるだけ)くだりに至っては変態以外の何ものでもありません。でも笑えます。

【関連書籍】失われた宇宙の旅2001/アーサー・C・クラーク著 伊藤 典夫 訳

  1972年に出版された、クラーク自身の筆による『2001年…』のアウトテイク集。これも早くから邦訳が望まれていたが、なんと38年も経ってからの出版となった。内容は、クラーク節全開のエンターテーメントSF然とした『2001年…』が満載で、もしこのままキューブリックが映像化したら、陳腐になること請け合いといった内容だ。クラークを「SFロマンの虜」として批判したキューブリックの気持ちが良くわかるような気もするが、小説版『2001年…』の、クラークらしからぬ筆致に少なからず違和感を覚えていたのも事実。クラークの本音は明らかにこちら側だ。 【クラークとキューブリックの共同作業の流れ】 1964年4月、クラークとキューブリックはニューヨークのレストラン、トレイダー・ヴィックスで初めて顔をあわせる。 1964年5月、原案として『前哨』を使うことに合意。製作期間を約2年と見積もる。(実際は4年) 1964年12月、スターゲート到着までの全体のおおまかな筋書きが完成する。 1965年2月、MGMにより、仮題『星々の彼方への旅(Journey Beyond the Stars)』のとして製作を発表する。 1965年春、一度は決定稿と思われていたセクションを次から次へと没にして、再度物語を練り直す。 1965年4月、タイトルをキューブリックが考えた、『2001年宇宙の旅』に決定する。 1965年5月、宇宙人をどう描けば良いのか悩むキューブリックは、クラークの『幼年期の終わり』の悪魔イメージを取り込みたい、と言い出す。 1965年8月、ロンドンのMGM撮影所でセットの立込みが始まり、クラークはそのアドバイスのためにロンドンに向かう。 1965年10月、物語の終わらせ方として、「ボーマンが子供に逆行し、赤ん坊となって地球軌道上に浮かぶ」という案を出し、キューブリックはそれに賛成する。また、キューブリックの判断で、ボーマン以外のディスカバリーのクルーは、皆殺しと決定する。 1965年11月、オリオン号のコクピットのセットを見学した時、思わず「中華レストランに似ている」と口走ってしまい、それを聞いたキューブリックはセットの改装をスタッフに命じる。 1965年12月、月のモノリス発掘現場から撮影が開始される。 1966年1月、「スター・ゲートのありかは土星の衛星ヤペタス以外に考えられな...

【俳優】ニコール・キッドマン(Nicole Kidman)

 『アイズ…』で、主人公ビル(トム・クルーズ)の妻、アリス・ハーフォードを演じた。14歳で映画デビュー後、後に夫となるトム・クルーズと『デイズ・オブ・サンダー』(1990)で共演。その後『誘う女』(1995)、『バットマン・フォーエバー』(1995)、『ピースメーカー』(1997)、『ムーラン・ルージュ』(2001)、『めぐりあう時間たち』(2002)、『奥さまは魔女』(2005)などに出演。大量にテイクを撮るので俳優に嫌われていたキューブリックに「もう一度」とリテイクを要求したため、「もう一度、なんて言った俳優は君がはじめてだよ」と言わしめた珍しい人。クルーズとは90年結婚、01年離婚。一部では『アイズ…』が原因では?と囁かれたが、真偽は不明。  1967年6月20日アメリカ・ハワイ生まれのオーストラリア人。

【スタッフ】ソール・バス(Saul Bass)

 世界的に有名なグラフィック・デザイナー。映画界ではタイトルデザイナーとして有名で、手掛けた作品は『カルメン』('54)、『七年目の浮気』('55)、『80日間世界一周』('56)、『暴力波止場』('57)、『めまい』('58)、『北北西に進路を取れ』('59)、『栄光への脱出』('60)、『ウエスト・サイド物語』('61)、『グラン・プリ』('66)と、どれも名作ばかり。『スパルタカス』ではタイトルデザインとデザイン監修も担当。理解者の少なかった現場でキューブリックが頼れた唯一の存在で、バスの描くコンテにずいぶん助けられたようだ。その縁で『シャイニング』ではポスターのデザインを担当している。  生涯で唯一『フェイズ IV/戦慄!昆虫パニック』('73)で監督もしているが、12チャンのお昼に放映するのにピッタリなB級パニック映画で、なんでこんなもの撮ってしまったのか理解に苦しむ出来。まあ、その後監督としての声は掛からなかったのもしょうがないでしょう。  1920年5月8日アメリカ・ニューヨーク出身、1996年4月25日死去、享年75歳。

【俳優】キア・デュリア(Keir Dullea)

  『2001年宇宙の旅』のデビッド・ボーマン船長役。それ以外では『リサの瞳の中で』(1962)が有名らしいけど、 印象深いのはやっぱり 『2010年』(1984)のボーマン役。しょうがないけど。  1936年5月30日アメリカ・オハイオ州生まれ。

【登場人物】デヴィッド・ボーマン(David Bowman)

  『2001年宇宙の旅』のディスカバリー号の船長。ただ一人の生き残りで全人類の総代表。ラスト・シーンで次々に年老いて行き、死に、やがて胎児の姿になって再生し、地球圏に帰還する。草案段階では「アレックス・ボーマン」となっていたが、もちろん『時計…』のアレックスとは無関係です、念のため。

【家族】ルース・ソボトカ(Ruth Sobotka)

  キューブリック2番目の妻。バレリーナ出身で、その踊りを『非情…』のヒロインの回想のシークエンスで見せている。また『現金…』ではアート・ディレクターを担当した。キューブリックのヨーロッパ趣味は彼女の影響が大きいと言われていて、『アイズ…』の原作『夢がたり』は、彼女の紹介という説も。  1925年8月4日ウィーン出身。1955年1月11日結婚(キューブリック26歳、ルース29歳)、1957年頃には別居状態となり、1961年に正式に離婚、1967年6月17日死去、享年41歳。

【パロディ】『インデペンデンス・デイ』

  脳みその一片も使わせない映画を撮りつづける、偉大なる「バカ映画職人」ローランド・エメリッヒ。同じバカ映画監督のマイケル・ベイよりも、すがすがしいまでにバカに徹するので、個人的にはこの人嫌いじゃないです。  元ネタを古今東西のSFや、タブロイドのUFO記事から引っ張ってきて、壮大なヨタ話にまとめるなんて、よっぽどの才能がないとできません。ましてや、それを事もあろうに「アメリカ独立記念日」と結びつけてしまうなんて・・・。7月4日には全く関係のない我々日本人も喜んで戦闘に参加させて頂きます!!  ネタといえば、主人公「デイブ」のPowerBookで起動する「HAL」。もう、100人いたら100人思いつきそうなアイデアを堂々とやる監督に大拍手!そういえばもう一本の『2001年…』ネタ、『スターゲイト』もこの人でした。観てないけど。

【インスパイア】『アポロ13』

  映画でも触れられていた通り、このアポロ13号ミッションと『2001年宇宙の旅』とは驚くほど共通点が多いのです。まず、司令船が「オデッセイ」と名付けられていたこと。事故の第一声が「ヒューストン、問題が起こった」だったこと。(小説版『2001年』のHALのアンテナ故障予報の第一声が「お祝いの邪魔をして申し訳ないが、問題が起こった」)事故の直前、中継のBGMで「ツァラトゥストラ」をかけていたこと。キューブリックファン的には興味深い話ですが、当時はそれ以上に「13時13分に打ち上げたアポロ13号が、4月13日に事故を起こした」と話題になったそうです。  因にアポロ計画の宇宙飛行士に「フランク・ボーマン」という人がいます。ジェミニ計画の頃からの宇宙飛行士なので、当然クラークはその名前を知っていたはず。もしかして「デビット・ボーマン」と「フランク・プール」はこの人からの引用だったのでしょうか?それともただの偶然?

【登場人物】ジャック・トランス(Jack Torrence)

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  『シャイニング』で、ホテルに巣くう幽霊達によって狂気に駆り立てられるしまう、元教師で作家。小説版では主人公としてみっちりその心理を描写され、キャラクター造形もしっかりしているのだが、映画ではばっさり切り捨てられ、単なる狂気に駆られてしまう父親として描かれてしまっている。キングは物語の中心をジャックの心理に据え、著しく自己投影していたのに対し、キューブリックはホテルの呪われた過去と超常現象を中心に据えていたのだから、当然と言えば当然なのだが。

【台詞・言葉】O.P.E

  『博士の異常な愛情』で、B-52の帰還命令を伝えるCRM回路を開くための暗号。リッパー将軍が好んで口にした言葉である「Peace on Earth(地上の平和)」、「Purity of Essence(エッセンスの喪失)」の頭文字になっている。また、「オペ(手術)」とも読める。

【考察・検証】『アイズ ワイド シャット』でトム・クルーズとニコール・キッドマンをキャスティングした理由

  キューブリックは70年代初めの企画段階から夫婦の俳優をキャスティングする事を考えていたようで、アレックス・ボールドウィンとキム・ベイシンガー、スティーヴ・マーチンとヴィクトリア・テナントなどの候補が挙がっていた。結局トム・クルーズとニコール・キッドマンに決定するのだが、これは「夫婦共演」という話題性を狙ったというだけでなく、他にもっと大きな理由があるように思われる。  通常、夫婦の俳優を同じ映画で起用しても、夫婦役や恋人役にはキャスティングしないものだ。夫婦の俳優を夫婦役でキャスティングしてしまうと、観客にその俳優の私生活を覗き見るかのような錯覚を与える事になる。そうなると俳優がいくら役になりきっていても、観客はその俳優個人としてしか観れなくなるし、映画という虚構の世界に没入できなくなってしまう。これでは映画として成り立たない。  だが、キューブリックはあえてそこを狙った。ビル&アリスではなく、トム&ニコールとして観て欲しかったからだ。では何故そんな通常ありえないキャスティングをしたのか?  答えは全てラストシーンにある。下世話なイエロージャーナリズムで低俗な好奇心を満たして喜ぶ大衆が、トムとニコールのどんなプライベートが覗けるのかと期待して映画館に足を運んだ所に、2時間窮屈な座席に座らせた揚げ句あの一言を突き付け、「この映画に不快感を示す人間は、すなわちその存在自体が不快な人間に成れ果てている!」と断罪するキューブリック。ルック社時代に猿の檻の内側から客の痴呆的な姿を写すという、冷淡で皮肉に満ちた写真を撮っているキューブリックは、この頃から何ひとつ変わってはいなかった。いや、更に深化、先鋭化していたのだ。  本作をどう受け取るかそれは観客の自由だ。だが『博士…』や『時計…』の頃のキューブリックを評価しつつ、「あのキューブリックも老いてしまった」とか、「冷笑な監督が最期にして愛や性の喜びを肯定的に表現した」という評がはびこるのは一体どうした事だろう?「老いた」のは他でもない、こんな駄文しか書けない自分自身だというのに。  映画界をとりまく環境や、大衆の嗜好は時代によって大きく変化した。その変化は、大いにキューブリックを失望させたのかも知れない。だが、いつの時代もキューブリックはキューブリックだったのだ。彼の心臓が動きを止めるその瞬間まで。...

【オマージュ】『カプリコン・1』

  この頃には、この後まさか『2010年』を監督する事になろうとは思いもしなかっただろう、ピーター・ハイアムズ監督のポリティカル・フィクション。「月面着陸がアメリカ政府の仕組んだヤラセだったら・・・」というプロットを軸に、隠蔽しようとする政府側、陰謀に加担させられた宇宙飛行士、それを暴こうとするジャーナリストとの攻防をスリリングに描いた傑作・・・というのが当時の評価だったけど、今観るとさすがにショボイ。国家的陰謀のはずなんだけど、隠蔽側も暴露側もなんだか牧歌的で緊張感があまり感じられないし。当時は手に汗握って観た記憶があったんだけどなぁ。  で、オマージュシーンですが、逃げ出した宇宙飛行士が廃屋のガソリンスタンドでコーラの自動販売機を壊す、というもの。まあ、それだけと言えばそれまでですが。

【セット】無重力トイレ(Zero Gravity Toilet)

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  『2001年…』で、アリエス1B宇宙船に備え付けてあるトイレ。 フロイドが便意を催しトイレに行ったはいいが、あまりの操作の複雑さに困惑してしまう…というオチ。クラークによると、キューブリックは最初から冗談のつもりでこのシーンを作ったらしい。以下はその操作マニュアル。 ●無重力トイレ〈使用の前に指示書をよく読んでください〉 1)トイレは標準ゼロGタイプです。 必要に応じて 「システムA」又は「システムB」を選ぶことができます。 表示はトイレ内にあります。「システムA」の場合はレバーを押し下げてください。 するとダルクロン除去器が下の溝にセットされます。 粘着性の縁を締め、大文字の 「X」 と書かれた接合部に排出ホースをしっかりと固定してください。 接続部の1インチ下の銀色の輪が しっかりと接続されるまでひねってください。 2)トイレの準備ができました。ソノヴァッククレンザーは口の上の小さいスイッチよって作動します。安全のため、二つのオレンジ色の線が合うように、最初の位置まで後方に輪を戻し、外してください。後部の真空容器にダンクロン除去器を置き、青いボタンを押して作動させます。 3)「システムB」の操作盤は壁の反対にあります。赤いスイッチを押して、尿吸引器をセットします。これは青い手動ボタンを押せば、手動で上下に調整することができます。口は自動的に開きます。使用後は緑のボタンを押してください。蒸発器が作動し、尿吸引器が収納されます。 4)ドアの上にある緑の出口ライトが点灯したら、トイレを出てください。もし赤いライトが点灯している場合は、洗面所の装置が正しい位置でなく、安全ではありません。ドアの右手の「スチュワーデス呼び出しボタン」を押してください。スチュワーデスは外側のコントロールパネルから、すべての装置を正しい位置に戻します。緑の出口ライトが点灯したら、トイレを出てください。ドアはきちんと閉じてください。 5)超音波シャワーを使う場合は、最初に服を脱いで、服ラックにすべての服を置いてください。すぐ下のキャビネットにあるマジックテープ室内履きを履きます。シャワー室に入り、コントロールパネル右上の「シャワーシール」ボタンを押すと、下の青いライトが点灯します。調節ダイヤルでお好みの水量を選び、超音波シャワー作動レバーを押し下げて、通常のようにシャワーを浴びてくだ...

【登場人物】(レイモンド)・バリー・リンドン((Leymond)Barry Lyndon)

  『バリー…』の主人公。 アイルランドの没落した家系出身で、貴族に成り上がろうとしてヨーロッパを旅し、やがてイングランドの伯爵夫人と結婚するが、結局貴族の称号は得られないまま家を追い出され、アイルランドに戻ることになる。いい奴でもないが、そんなに悪い奴でもないという微妙な描き方加減がキューブリックらしい。

【小説家】フレデリック・ラファエル(Frederick Raphael)

  『アイズ…』で、キューブリックと共同で脚本を担当した作家兼脚本家。自著『アイズ ワイド オープン』には、キューブリックの強い要望で、ストーリーを膨らむに膨らませた揚げ句、最後に物語の骨子部分だけを抜き出し、残りを全部棄られてしまった一部始終が綴られてる。キューブリックにとって、脚本は文字通り映画の骨子でしかなく、物語は映像で語るものだったのだろう。他の作品は『いつも2人で』('67)、『デイジー・ミラー』('74)、『マスカレード/仮面の愛』('90)など。『ダーリング』('65)でアカデミー脚本賞を受賞。  1931年8月14日アメリカ・イリノイ州生まれ。

【俳優】ライアン・オニール(Ryan O'Neal)

  『バリー…』のバリー・リンドン(レイモンド・バリー)役。当時役者としては「下手」とされていたオニールがキャスティングされた理由の一つに、キューブリックの娘達の強力な推薦があったからだそう。さしものキューブリックも娘達の圧力には屈せざるを得なかったという事か。  主な出演作は『ある愛の詩』(1970)、『ペーパー・ムーン』(1973)、『遠すぎた橋』(1977)、『ザ・ドライバー』(1978)、『続・ある愛の詩』(1978)、『ペーパー・ファミリー』(1984)、『ニューヨーク 最後の日々』(2002)など。  1941年8月20日アメリカ・カリフォルニア州生まれ。

【プロップ】オリオン3号(Orion III)

  『2001年宇宙の旅』に登場する、 パン・アメリカン航空のスペース・シャトルの名称。元々「オリオン」とは、惑星間宇宙船の推進システムの計画名で、宇宙船の後部で小規模な核爆発を起こし、それを弛緩板を装備した宇宙船で受け止め、その反動で推進力を得よう、というもの。ディスカバリー号の推進システムとして検討されていたが、結局ボツになったため、その名称だけがスペースシャトルに付けられた。小説版によると、打ち上げ方法は現在のスペースシャトルと異なり、射出カタパルト式になっている。

【オマージュ】ブラー/ザ・ユニヴァーサル(Blur - The Universal)

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  イギリスのブリットポップバンド「ブラー」の95年に発表されたアルバム『ザ・グレート・エスケープ』からのシングルカット曲。  まあ、オープニングのタイトルバックからアレですし、観ての通りプロモは完全にナニしてますから、説明不要でしょう。この時期、イギリスではまだ『時計じかけのオレンジ』の公開は禁止されていて、元ネタがあまり広く知られていないだろうとの読みもあるのか、割とそのまんまやってます。ただ同じ近未来を舞台にしているとはいえ、若者の暴力と権力者の圧制で荒廃したディストピアが舞台の『時計…』と、理想であるはずの平穏なユートピア世界に「無気力」や「無関心」が蔓延する様を歌った『ザ・ユニヴァーサル』では世界観がまるで正反対。どちらかというとルーカスの『THX1138』や、『2300年未来への旅』(ひどい邦題で、原題は『2001年…』とは全く関係ない『Logan's Run(ローガンの脱出)』)の方がぴったりくると思うのだが。

【関連書籍】2001年宇宙の旅/アーサー・C・クラーク 著

  通常キューブリック作品は、ちゃんとした原作があり、それを脚色、映画化するというスタンスを取っているのだが、この『2001年宇宙の旅』に限っては多少事情が異なり、「原作」としては『前哨』を含む何編かのクラークの短編小説がそれに当たるだろう。では、この小説『2001年…』は何かといえば、キューブリックと共同で生みだした全く新しい物語を、クラークが小説に書き下ろしたもの、と言うことができる。現に、クラークは「映画と小説は相互にフィードバックが行われ」、「ラッシュフィルムを観てから小説を書くという、少々贅沢な創作方法をとっている」と言っている。  だが、前代未聞のこの映画を創るに当たっての、クラークの苦労は並大抵の物ではなく、圧倒的な支配力でダメ出しをし続ける、キューブリックの飽くなき追求に疲労困ぱいだったらしく、完成した(クラークにとって)小説の小説の出版を、キューブリックが「まだ読むヒマがない」として差し止めるに至り、相当なプレッシャー(クラークはこの時点でかなりの借金をし、また、「ポリオ症候群」という原因不明の病気にも蝕まれていた)を抱え込んでいた。結果的には映画も小説も大成功・・・となるわけだが、これ以降、クラークは決してキューブリックと一緒に仕事しようとしなかった。  そんなキューブリックの強大な干渉の影響もあってか、クラークの他の著作に比べて、この『2001年…』は、明らかに肌合いが異なっており、通常なら人間味タップリに魅力的に描写される筈の登場人物が、妙にサバサバした印象を与えるものになっていたり、出来事を淡々と描写するそのドライな筆致など、キューブリックのフレーバーがそこここに感じられるものになっている。  どちらにしても、この二人のコラボレーションなくしては、この傑作は産まれることはなかった訳であるし、映画の謎をクラーク側から解説する書としても重要なので、必読に値するのは間違いないだろう。

【小説家】スティーブン・キング(Stephen King)

  『シャイニング』の原作者。'74年に『キャリー』を処女出版後次々に傑作を発表、「モダン・ホラーの旗手」と呼ばれるベストセラー作家に。映画化された主な作品だけ挙げてみても、『クリープショー』(1982)、『クリスティーン』(1983)、『スタンド・バイ・ミー』(1986)、『ペット・セメタリー』(1989)、『ミザリー』(1990)、『ショーシャンクの空に』(1994)、『グリーン・マイル』(1999)、『アトランティスのこころ』(2001)、『ドリームキャッチャー』(2003)、『シークレット ウインドウ』(2004)などめちゃくちゃ多数。1997年には、よほどキューブリック版が気に入らなかったのか、『シャイニング』のリメイク権をワーナーから買い戻し、TVシリーズとして製作・監督している。  1947年12月21日アメリカ・マイアミ出身。

【プロップ】アルファ・エコー・35・ユニット(AE-35 Unit)

  『2001年宇宙の旅』の宇宙船ディスカバリー号のアンテナの背面にある装置の名前。 アンテナを正確に地球のある方向に向ける働きをしている。この装置の故障を HAL が「わざと」誤って予報した事から、HALの狂気が始まった。

【家族】トーバ・メッツ(Toba Metz(Kubrick))

  キューブリックの最初の妻。1944年、当時キューブリック一家が住んでいたアパートにメッツ一家が引っ越してきたのがキューブリックと知り合うきっかけだった。タフト高校では同級生となり、学校では目立った美人だったそうだ。1948年5月29日、ニューヨークのマウント・ヴァーノンで結婚式を挙げ(キューブリック19歳、トーバ18歳)、グリニッジ・ビレッジに新居を構えた。その頃は秘書の仕事をしていたそうだ。後に『恐怖…』で台本監督を務めている。キューブリックとは1953年に離婚し、その後1955年9月11日にジャック・アドラーと再婚した。  1930年1月24日ニューヨーク出身。現在生死不明。

【俳優】ヴィンセント・ドノフリオ(Vincent D'Onofrio)

  『フルメタル・ジャケット』で、デブの新兵レナードを演じた。この時点では新人俳優だったが、『 JFK 』(1991)、『マルコムX』(1992)、『エド・ウッド』(1994)、『ストレンジ・デイズ』(1995)、『メン・イン・ブラック』(1997)、『ザ・セル』(2000)、『クローン』(2001)など、その後話題作に多数出演している。  1959年6月30日ニューヨーク・ブルックリン生まれ。

【プロップ】デュランゴ95(Durango 95)

  『時計じかけ…』で、アレックスが乗り回すスポーツカー。実在した車で本当の名称は「アダムスプローブ16(1969 Adams Probe 16)」。この作品は正式に年月を特定していないけど、「95」ってことは1995年なのかも。

【インスパイア】デヴィット・ボウイ/スペース・オディティ(David Bowie - Space Oddity)

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  1969年にイギリスのミュージシャン、デヴィット・ボウイが発表した曲。歌詞は「トム少佐」がドラッグを飲んで宇宙に行き「僕に出来る事はなにもない」と気持ち良くなっている・・・という他愛もない内容。アコースティックギターの微妙なコード弾きと相まって、浮遊感のあるトリップ・ソングになっている。当時『2001年…』が「究極のトリップ映画」と解釈されていたのが想像できる、まさに『宇宙の珍品』の名に相応しい曲。でも名曲です。